Canon EFレンズ 写真家インタビュー

普段使わない焦点域に挑戦
ズームレンズならではの撮影法とは?

スポーツ写真:能登直 with EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM

クリスマスオンアイス2015での髙橋大輔。上からのスポット光を少し入れつつ、全身が入るように135mmにズーミングして撮影した。
キヤノン EOS-1D X / EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM /135mm / マニュアル露出(F5.6、1/640秒) / ISO 6400
アイスショーならではの幻想的な光の演出の中でのスピン。広角側の135mmにして、会場の雰囲気を感じさせるように切り取った。
キヤノン EOS-1D X / EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM /135mm / マニュアル露出(F5.6、1/640秒) / ISO 6400
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EFレンズを使いこなすプロに、その魅力を聞く「Canon EFレンズ 写真家インタビュー」。今回はフィギュアスケートを舞台に数々の作品を送り出す写真家・能登直さんに、「EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM」の実力を聞いてみました。

作品・キャプション:能登直
聞き手:青木宏行
人物写真:加藤丈博

EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM

ひょんなことからスポーツ写真の道に

--写真を始めたきっかけについて教えてください。

大学の就職活動のときに広告代理店やCM制作会社を回ってまして、CM制作に携わる仕事をしたいと思っていたのですが、どこにも採用してもらえなかったんです。そんなとき、テレビのビジュアルをポスターにしたものを偶然目にして「写真でもこういう仕事ができるんだ」と気がついたんです。その勢いで地元の広告スタジオにアシスタントとして入りました。

独立したのは28歳のときで、それまではモデルなど人物撮影が中心でした。フィギュアスケートを撮るきっかけになったのは、2006年のトリノ五輪で荒川静香さんが金メダルを獲った際の仙台での凱旋公演です。荒川さんとアメリカの選手の対談を撮る仕事が入ったのですが、対談がキャンセルになってしまったのです。そのとき、アイスショーが撮影できるプレスパスをもらっていたので、そこで初めてスポーツ写真らしい撮影をさせてもらいました。そのとき、テレビで観るのとはまったく違う世界に魅了されました。

翌2007年、イタリアで浅田真央さんや高橋大輔さんといった日本代表選手が合宿を行なうので「同行して撮影してみませんか?」というオファーをいただきました。これはおもしろそうだと合宿の取材に向けてスポーツ撮影ができる機材を一式そろえたんです。この取材で一気にスポーツ撮影にハマってしまいました。

能登直(のと・すなお)1976年生まれ・宮城県仙台市出身。1999年に大学を卒業後、仙台のスタジオでのアシスタントを経て、2005年に独立。主にモデル撮影を中心とした広告等の撮影を行いながら、2007年より本格的にスポーツ撮影を始める。日本スポーツプレス協会及び国際スポーツプレス協会会員。

--機材は最初からキヤノンだったのでしょうか?

アシスタント時代からいまに至るまで、35mmフォーマットのカメラはキヤノンですね。一時期、他社の機材も広告写真用に並行して使っていましたが、メインはキヤノンを使い続けています。

--基本的に被写体がすべて「動くもの」ですが、そういった撮影の場合にカメラ、レンズに求める性能というのは、どういったものでしょうか?

僕の場合は、いつも極力感度を上げないように撮影しています。もちろん暗い会場のときはシャッター速度を稼ぐために感度を上げざるを得ない状況もありますが、できれば大きめに伸ばしてもノイズが目立たない写真にしたい。ですので、勢いレンズに求めるものは「開放F値が明るいこと」になります。カメラのほうは、高感度ノイズが少なくきれいに撮れるもので、かつAFが速くて動体への追従性が高く、ピントが正確なものが望ましいですね。

--ふだん撮影時に使用するのはどんな機材でしょうか。

メインボディはEOS-1D Xを2台、サブとしてEOS 5D Mark IIIを持っていきます。レンズはEF400mm F2.8L IS USMにEF70-200mm F2.8L USM、それから単焦点もEF35mm F1.4L USMやEF50mm F1.2L USMあたりを使います。

フィギュアの場合は、2台のメイン機にEF400mm F2.8L IS USMとEF70-200mm F2.8L USMを付けることが多いですね。場合によってはEF24-105mm F4L IS USMですとか、あるいはTS-E45mm F2.8といったティルト・シフト機能を備えたレンズを付けることもあります。

--スポーツ撮影でシフトレンズというのは珍しいと思うのですが、どのように使っているのでしょうか。

独自性を出すために、外光が入る練習用リンクなどではシフト機能を使って奥や手前をぼかした写真を置きピンで撮ったりしています。あとは高い位置からミニチュアのように撮影することもあります。

ジュニアの全日本選手権でのフリーの演技をしている本田真凛。顔がブレないように、顔が動かない瞬間を狙って撮影した。
キヤノン EOS-1D X / EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM /400mm / マニュアル露出(F5.6、1/50秒) / ISO 500

ズームレンズで広がる撮影範囲

--EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMについては、どのような場面で使われましたか?

リンクサイドで撮影する際、「250mmくらいだったらちょうどいいのに」という時に重宝しました。私の持っているレンズにはない焦点域でしたので新鮮でしたね。200mmだと足らない、でも400mmだと寄りすぎるという場面で役に立ったので、うまくそのあたりをカバーしてくれたという印象です。

選手が近くに来たときも、ズームリングを回すだけで100mmにできるので、これがかなりありがたかったです。そこからすぐに400mmでも撮れてしまいます。

じつはフィギュアスケートの撮影では、場所を移動することができないので、単焦点の400mmだと選手が遠くのときは全身を、近くに来たときには表情のアップを、などといろいろ考えながら撮影します。でも、このレンズはズーム領域が広くてこれまで撮れなかった画角の写真が撮れる。これは面白いですよ。

一脚を付けたEF400mm F2.8L IS USMをメインに、サブとしてEF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMを首からぶら下げて手持ちで、という使いかたが多かったですね。

これまではEF400mm F2.8L IS USMとEF70-200mm F2.8L USMの組み合わせだったのですが、使ってみたらこちらのほうが撮影領域は広がるかも、という気になりました。

演技終了後の挨拶のシーン。400mmで構えていたが、スタンドの目の前の観客が立ち上がったところを、100mm にして撮影。400mm単焦点レンズではできない技だ。(樋口新葉選手)
キヤノン EOS-1D X / EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM /100mm / マニュアル露出(F4.5、1/500秒) / ISO 4000
同じシーンを普段使っているEF400mm F2.8L IS USMに近い画角で。ここから上の写真の構図に移れるのは大きなメリットだ。
キヤノン EOS-1D X / EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM /321mm / マニュアル露出(F5.6、1/500秒) / ISO 4000

--最短撮影距離が前モデルに比べ0.98mと大幅に短くなっていますが、メリットは感じられましたか?

リンクサイドで撮っているときはけっこう選手が近くまで滑ってくることがあるので、そんなときはかなり助けられましたね。ズームで100mmまで引けるということもありますが、被写体が寄ってきてもきちんとピントが合って撮れるというのは安心感があります。

絞り開放でもF4.5-5.6ですから被写界深度が深く、ピントが正確という点とも相まって心置きなく使える印象です。描写もズームレンズとは思えないくらいクリアでシャープですね。

--描写についてもう少しくわしくお聞かせください。

感度を上げても予想した以上に髪の毛などのディテールが出ているな、と感じました。

常用しているEF400mm F2.8L IS USMとの比較になってしまいますが、それと比べても遜色ない解像力です。肌の色味や質感も気にならないレベルですね。若干シャドウ側のトーンがもう少し出るといいなとも思いましたが、これは僕がいつもアンダー気味に撮るせいもあって、明るめに撮れば問題ないと思います。

--撮影時の主なカメラ設定は?

フィギュア撮影のときは、ドライブを超高速連続撮影にしています。と言ってもずっと連写しているわけではなくて、要所要所で目にピントが来ていることをファインダーで確認しながら2、3コマずつシャッターを切る感じですね。

AFカスタムはプリセットのCase 5(被写体の上下左右の動きが大きいときの設定)にしていることが多いです。この設定でさらに被写体追従特性をあえてマイナス1にしています。個人的な感覚なのですが、AFの追従速度と僕のシャッターを押すタイミングがいちばんしっくり来るんですよ。

あとはスローシャッターのカスタムセッティングを作っておいて、シャッターボタンの脇にあるカスタムファンクションボタンに割り振っています。

--能登さんの写真は、選手の表情が印象的なものが多く、動きのあるシーンのなかに、静かな情熱を感じられます。

僕はいつも目にピントを合わせていますが、親指でフォーカスエリアを常時動かしながら撮っています。領域拡大AF(任意選択上下左右)の6点を使うことが多いですね。

横位置ですとだいたい真ん中より上にあらかじめフォーカスエリアを設定しておいて、あとは構図として被写体を寄せたいときに、撮りながら左右に調整するといった具合です。縦位置のときも上側にあらかじめ設定して、その位置に目が来るようにしていますね。

やはりフィギュアは左右だけでなく上下にも動く競技ですので、撮影するこちらもたいへんです。羽生選手の演技を撮り終わったあとは、彼も疲れているでしょうけれど僕もグッタリになっています(笑)

カメラ側に向かって同じ態勢で滑ってくるシーン。スケーターの動きに合わせてカメラを動かした。(白岩優奈)
キヤノン EOS-1D X / EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM /400mm / マニュアル露出(F5.6、1/50秒) / ISO 500

--ちなみに、1回の演技でどれくらいの枚数を撮られますか?

たとえば羽生選手のフリーの演技ですと、多いときで400〜500枚くらいになっているかと思います。

フリーの演技時間が4分半ちょっとくらいなのですが、演技前にコーチと話をしているときだったり、誰かと握手している場面なども撮影しています。演技開始直前の動きや表情、終わったあとの姿を追うこともありますね。

--撮影時は、RAW+JPEGでデータを残していますか?

通常はJPEGのみです。ただ、羽生選手の写真だけは広告でも使われたりしますので、RAWのみで撮影しています。

これはファイル管理の量が膨大になることを防ぐためなのですが、500枚撮っても使えるようなカットは50〜60枚程度なんです。そこからさらに厳選した「本当に使えるカット」を2〜30枚、別に保管するような形を採っています。

--画質の設定はどのように設定されていますか?

上限感度はISO3200くらいまでで留めたいですね。でも、それだとシャッター速度が1/640秒や1/500秒になってしまう場合もあるので、そのときはやむを得ず感度を上げています。

フィギュア撮影の場合、ブラさずに撮れるシャッター速度は、だいたい1/1600秒くらいなんですよ。最低でも1/1,000秒は欲しい。そこを基準にISO感度を決めています。露出はいつもマニュアルですね。ホワイトバランスも会場ごとにマニュアルで調整しています。基本的にJPEGで撮影するので、事前にしっかり追い込んで決めたうえで撮影しないと、RAWのように後から調整は利きにくいですから。

数多くの写真を見て、競技場にも足を運ぶ

--これからスポーツや動きの多い被写体の撮影をしてみたいという人のために、撮影方法も含め、スポーツ撮影の基本となること、守った方がいいポイントがありましたら教えてください。

僕も初めて撮影する競技ではそうなのですが、そのスポーツのかっこいい場面などの写真を調べて事前に観ておくといいのではないかと思います。どの位置から何mmくらいのレンズで撮られているかまで調べられたら、それを真似てみるのが、とっかかりとしてはアリじゃないですかね。

ソチオリンピックでは、フィギュア以外のスポーツもすべて撮っていたのですが、取材に行く1シーズンくらい前からスピードスケートやカーリング、ジャンプなどの写真をネットや本などで探して調べて、あとは競技場に足を運んで練習するということを繰り返していました。まずは真似てみて、そこから自分なりのアレンジを加えていくといいのではないかと思います。

月刊誌「デジタルカメラマガジン」でも連動企画「Canon EF LENS 写真家7人のSEVEN SENSES」が連載中です。能登さんをはじめ、EFレンズを知り尽くした写真家によるレンズテクニックと作品が収録されています。

デジタルカメラマガジン
2016年5月号

青木宏行

元出版社勤務。現在はたまにライター業に携わりながら自由な生活を謳歌している。写真は10年ほど前から始め、30台以上のカメラとレンズを所有。2013年より横木安良夫氏が主宰するアマチュア写真家グループ"AYPC(Alao Yokogi Photo Club)"に参加。