【伊達淳一のレンズが欲しいッ!】ニコン「AF-S NIKKOR 16-35mm F4 G ED VR」
AF-S NIKKOR 16-35mm F4 G ED VR(2月26日発売、16万1,700円) |
これまでボクは、ニコン「D700」用の超広角ズームとして、「AF-S DX Zoom-Nikkor ED 12-24mm F4 G(IF)」を使用してきた。このレンズはDXフォーマット用の超広角ズームながら、18mm以上にズームすればFXフォーマットでも四隅がケラれないし、1段ほど絞って使えば周辺画質もまずまずなので、DX/FXフォーマット兼用の超広角ズームとして便利な存在だ。
もちろん、画角や画質を考えると、「AF-S NIKKOR 14-24mm F2.8 G ED」をチョイスしたほうがベストなのはわかっているが、AF-S NIKKOR 14-24mm F2.8 G EDは前玉が半球状にグッと出っ張っていて、保護フィルターやPLフィルターが装着できないし、レンズ重量も約1,000gとヘビー級。価格も決して安くはない(28万5,600円)。描写性能を考えると、決して高い買い物ではないのはわかっているが、1,200万画素のニコンD700と組み合わせるには、いささかオーバースペックに感じてしまうのだ。
そんなとき、「AF-S NIKKOR 16-35mm F4 G ED VR」の発売がアナウンスされた。開放F値はF4とはいえ、超広角ズームとしては世界初の手ブレ補正機能(VR)搭載で、ゴーストやフレアを低減する“ナノクリスタルコート”も採用されている。実売価格も思ったよりも高くないし、AF-S NIKKOR 14-24mm F2.8 G EDと違って、PLフィルターも使用できる。超広角ズームの割にはレンズ全長が長いのがちょっと気になるが、レンズ重量は約680gと見かけほど重くない。そろそろD700の高画素バージョンが登場してもおかしくはない頃なので、ちゃんとした(?)FXフォーマット用超広角ズームが1本あってもいいんじゃないかということで、現物も見ずに衝動的にポチってしまったのだった。
そして、発売日。予約していた販売店からレンズを受け取り、箱からレンズを取り出してみると、想像以上にレンズ全長があってビックリ。AF-S NIKKOR 14-24mm F2.8 G EDといい勝負の大きさだが、見かけほど重量はなく、D700に装着したときのバランスも悪くない。それに、AF-S DX Zoom-Nikkor ED 12-24mm F4 G(IF)をD700で使うときは、ライブビューでケラレが出ていないかどうか、ズーム位置に注意しながら撮影しないといけないので、そうした煩わしさから解放されるのがうれしかったりする。
さっそくD700に装着し試写してみると、噂どおり、ワイド側で歪曲収差が目立つが、不自然な陣笠ではなく素直なタル型に近く、どうしても歪みが気になる場合は、ソフトウェアでレンズ補正しやすそうだ。また、このレンズ最大の特徴のVRの効きも良く、シャッタースピードが1/4秒程度なら手ブレする率もかなり少なく、D700の優れた高感度特性と組み合わせれば、街の夜景なら十分手持ち撮影が行なえる。ちなみに、今回の実写作例はすべて手持ちで、三脚はまったく使用していない(画質比較を除く)。
画質については、AF-S NIKKOR 14-24mm F2.8 G EDやAF-S NIKKOR 24-70mm F2.8 G EDを初めてD700で使ったときほどの衝撃はなく、絞り開放では周辺部でちょっと緩めの描写になる。ただ、超広角ズームにありがちな周辺部でのあからさまな流れやにじみはほとんどなく、画像処理エンジンで倍率色収差もほぼ完璧に補正されているので、ピクセル等倍でも安定した描写だ。
■AF-S DX Zoom-Nikkor ED 12-24mm F4 G(IF)との比較
個人的に気になるのが、これまでD700の超広角ズームとして使用してきたAF-S DX Zoom-Nikkor ED 12-24mm F4 G(IF)との比較だ。FXフォーマットでカバーする画角が若干狭いとはいえ、12-24mmズームの描写には特に不満はなく、1本でFXフォーマットとDXフォーマットの両方で18mmの画角をカバーできる超広角ズームとして実に重宝する存在。正直、今回の16-35mmズームにVRが搭載されていなかったら、そのままAF-S DX Zoom-Nikkor ED 12-24mm F4 G(IF)をチョイスし続けていたほどだ。
しかし、こうしてAF-S DX Zoom-Nikkor ED 12-24mm F4 G(IF)とAF-S NIKKOR 16-35mm F4 G ED VRを比較してみると、やはりAF-S DX Zoom-Nikkor ED 12-24mm F4 G(IF)は分が悪く、ワイド側で周辺光量低下が目立つし、周辺部でコントラストや解像力が不足するなど周辺画質の低下も気になってしまう。今回、D700の「ビネットコントロール」(周辺光量補正)はOFFにして撮影しているが、AF-S NIKKOR 16-35mm F4 G ED VRは(このクラスの超広角ズームとしては)周辺光量低下は少なめで、ごく周辺部を除けば絞り開放からコントラストも高く、カリカリにエッジ立つような描写ではないが、そこそこキレの良い描写を得ることができる。1~2段絞って撮影すれば、ごく四隅を除いて周辺画質もグッと向上する。また、AF-S DX Zoom-Nikkor ED 12-24mm F4 G(IF)もF8まで絞って撮影すれば、ワイド側でもまずまずの画質が得られるので、DXフォーマットからFXフォーマットに移行、もしくは両者を併用する場合には、18mmの画角をカバーするFX/DX兼用の超広角ズームとして、今後も捨てがたい存在だ。
※サムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像を別ウインドウで表示します。●解像力&周辺画質
※共通設定:D700 / 4,256×2,832 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:オート
・AF-S NIKKOR 16-35mm F4 G ED VR
【16mm】
F4 | F5.6 |
F8 | F11 |
【18mm】
F4 | F5.6 |
F8 | F11 |
【24mm】
F4 | F5.6 |
F8 | F11 |
【35mm】
F4 | F5.6 |
F8 | F11 |
・AF-S DX Zoom-Nikkor ED 12-24mm F4 G(IF)
【12mm】
F4 | F5.6 |
F8 | F11 |
【18mm】
F4 | F5.6 |
F8 | F11 |
【24mm】
F4 | F5.6 |
F8 | F11 |
●歪曲収差&周辺減光
※共通設定:D700 / 4,256×2,832 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:オート
・AF-S NIKKOR 16-35mm F4 G ED VR
【16mm】
F4(CaptureNXでビネットコントロールを適用) |
F4 | F5.6 |
F8 | F11 |
【18mm】
F4 | F5.6 |
F8 | F11 |
【24mm】
F4 | F5.6 |
F8 | F11 |
【35mm】
F4 | F5.6 |
F8 | F11 |
・AF-S DX Zoom-Nikkor ED 12-24mm F4 G(IF)
【12mm】
F4 | F5.6 |
F8 | F11 |
【18mm】
F4 | F5.6 |
F8 | F11 |
【24mm】
F4 | F5.6 |
F8 | F11 |
■EF 17-40mm F4 L USMとの比較
では、もっと画素数が増えた場合には、このAF-S NIKKOR 16-35mm F4 G ED VRの描写力はどうなるのだろうか? ニコンには2,450万画素の「D3X」があるが、残念ながらボクはニコンD3Xを持っていないので、代わりに2,110万画素のキヤノン「EOS 5D Mark II」にマウントアダプター経由で装着し、簡単に画質をチェックしてみた。また、せっかくEOS 5D Mark IIを使うなら、ほぼ同スペックのレンズとして、「EF 17-40mm F4 L USM」との比較も行なってみた。
撮影時にEOS 5D Mark IIの「周辺光量補正」を「しない」にし忘れてしまったので、同時記録していたRAWをレンズ補正を行なわない設定で現像し直しているが、他の画質調整パラメータは基本的に標準のまま。撮影に当たってはライブビューを使って画面中央にピントを合わせ、ライブビュー状態で絞り優先AE(ニコンのレンズは実絞りAE)を行なっている。また、マウントアダプターでは絞り値を正確に知ることができないので、実絞りAEのシャッタースピードを見ながら、ちょうど1段ステップになるように絞りを調整して撮影している。
EF 17-40mm F4 L USMはフルサイズでそれほど評価されているレンズではなく、EF-Sレンズが登場する以前に、APS-Cフォーマットのカメラと組み合わせるのにちょうどいいとされてきたレンズだ。EOS 5D Mark IIの周辺光量補正を「する」にして撮影すると、絞り開放でも周辺光量低下はかなり目立たなくなるが、DPP(Digital Photo Professional)でレンズ補正を行なわないようにすると、思っていたよりも周辺光量低下が大きいことがわかる。ニコンのAF-S NIKKOR 16-35mm F4 G ED VRもそれなりに周辺光量低下はあるものの、それよりもEF 17-40mm F4 L USMのほうが周辺光量低下と周辺解像力の低下は大きいようだ。
さすがに、2,110万画素ともなると、周辺部での解像力不足により描写が甘くなっているのがハッキリとわかり、ニコンもキヤノンも絞り開放の周辺画質に不満が残る。周辺画質を気にするのなら、ニコン、キヤノンともにワイド端でF8まで絞る必要がありそうだ。そういう意味では、同じ開放F値F4の超広角ズームながら、シャッタースピード4段分の手ぶれ補正効果が期待できるVRを搭載しているニコンのAF-S NIKKOR 16-35mm F4 G ED VRは光量が少ない場所でも積極的に絞って手持ち撮影できるのがアドバンテージだ。
ただ、ニコンのAF-S NIKKOR 16-35mm F4 G ED VRは、ワイド端の歪曲収差がかなり目立ち、周辺だけでなく、画面中央から壁が手前に膨らんでいるような錯覚を起こすほどで、建築物や室内の撮影にはちょっと許せないレベルだろう。しかしながら、陣笠タイプの歪曲収差と違って、ソフトウェアでレンズ収差補正しやすい単純なタル型に近く、Capture NX2のゆがみ補正でもかなり歪曲収差を目立たなくすることができた。歪曲収差を補正すると実撮影画角は狭くなるので、16mm本来の画角ではなくなるが、どうしても歪曲収差が気になる場合は、ソフトウェア補正という手段もあるということだ。
※共通設定:EOS 5D Mark II / 5,616×3,744 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート
・AF-S NIKKOR 16-35mm F4 G ED VR
【16mm】
F4 | F5.6 |
F8 | F11 |
【24mm】
F4 | F5.6 |
F8 | F11 |
【35mm】
F4 | F5.6 |
F8 | F11 |
・EF 17-40mm F4 L USM
【17mm】
F4 | F5.6 |
F8 | F11 |
【24mm】
F4 | F5.6 |
F8 | F11 |
【40mm】
F4 | F5.6 |
F8 | F11 |
■まとめ
かつては、超広角が得られるレンズが少ないのがDX(APS-C)フォーマットの弱点だったが、最近はFX(フルサイズ)フォーマットと同等以上の広い画角をカバーでき、しかも価格も手ごろなレンズが増えてきている。むしろ、FXフォーマットのほうが超広角ズームの選択肢が少なく、手ごろな価格、大きさで高性能な描写が得られるレンズは限られているのが現状だ。
そんな中、ニコンのAF-S NIKKOR 16-35mm F4 G ED VRは、実売で12万円弱とフルサイズの超広角ズームとしてはまずまずの価格で、しかも光学式手ブレ補正という付加価値もあるのが魅力。AF-S NIKKOR 14-24mm F2.8 G EDやAF-S NIKKOR 24-70mm F2.8 G EDといったナノクリスタルコート採用のF2.8ズームと画質を比較されると、ちょっと見劣りしてしまう部分があるものの、このクラスの超広角ズームとしては水準以上の安定した画質。D700とのマッチングも良く、D700の高感度と16-35mmのVRを組み合わせは、これまで三脚がなければ撮れなかったような状況での手持ち撮影を可能にしてくれる。また、AF-S NIKKOR 14-24mm F2.8 G EDズームでは使えないPLフィルターやNDフィルターも使用できるので、青空をより青く写したり、スローシャッターを使って水の流れを表現することも簡単に行える。利便性の高い超広角ズームだ。
■実写サンプル
2010/3/19 00:00