フォトアプリガイド

Adobe Photoshop新機能「コンテンツに応じた切り抜き」を試す

Lightroomの「ガイド付きUplight」とあわせて強力なツール

アドビシステムズ社のプロ向け画像処理ソフト、Adobe Photoshop CCが「2015.5」にアップデートされた。例によって、いろいろな新機能が追加されているので、その中から気になるものをいくつか紹介していこう。

また、少し前にはRAW現像・写真管理ソフトのAdobe Photoshop Lightroom CCも「2015.6」にアップデートされており、その際に新しく搭載された「ガイド付きUpright」についてもレポートする。

Photoshop CC新機能

コンテンツに応じた切り抜き

撮影時にカメラが傾いているのに気づかずに撮ってしまう、という失敗は誰もが経験しているだろうし、写真の傾きをトリミングで修正するのもわりとあたりまえの行為だと思う。が、傾きの度合いが大きいと、切り取られる部分が大きくなって画角が狭くなり、元の写真とは印象が大きく違ってしまうことも多い。

それをどうにかしてくれるのが、新機能「コンテンツに応じた切り抜き」。画像を回転させたときに生じる余白を、画面の内容に応じた補間処理を行なうことで埋めてくれる機能だ。

これまでは「切り抜きツール」で画像を回転させたときは、画像の範囲内でトリミングするしかなかったが、「コンテンツに応じる」オプションを利用することで画角が狭くなるのを防ぐことができるのだ。

正直なところ、空などの簡単な背景でないと使えないんじゃないかと思っていたが、ためしてみると案外に、というか、予想以上に強力かつお利口さんだった。

なにしろ、こちらがやることは、オプションバーの「コンテンツに応じる」オプションにチェックを入れるだけ。あとは普通に画像を回転させてダブルクリックすればOKという手軽さなのに、できあがりは上々だ。

傾きの度合いや画面の複雑さによってはうまくいかないこともあるが、そこはPhotoshopという強い味方がいるのだから、どうにかできるケースも多いはずだ。

建物を中心に見ると普通っぽく見えるかもしれないが、この写真、実は右下がりに傾いている(本来は、画面中央の縦線が垂直になるのが正しい)。一応書いておくが、これはわざと4度ほど傾けて撮っている。

Photoshopで開いて「切り抜きツール」を選択した状態。

画像の外側の部分でマウスをプレスすると、画面にグリッド(格子線)が表示される。

その状態でマウスをドラッグして回転。画像をダブルクリックすると外側が切り取られる。

従来方式だと、切り抜く範囲は画像内に制限されるので、こんなふうに建物の一部がカットされてしまう。これはちょっといただけない。

新機能の「コンテンツに応じた切り抜き」を使うには、オプションバーの「コンテンツに応じる」にチェックを入れる。ほんとにこれだけ。

同じように、画面を4度回転させる。切り抜かれる範囲がさっきよりも広くなっていることに注目してほしい。ここで生じた余白部分を、Photoshopが埋めてくれるという。

ちょっと意地悪してトリミングの枠を左右幅いっぱいまで広げてみた。埋めなくてはいけない余白部分が増えるわけだから、Photoshopにはつらいはず。

画面内をダブルクリック。コンテンツに応じた塗りつぶし作業が行なわれる。

仕上がり画像。右上の出窓の陰になっている部分の処理がちょっとへんてこだが、暗くて目立たないし、いざとなれば手動での修正もいけそうだ。

「コンテンツに応じた切り抜き」を使った完成版。最初の画像から、画角があまり変わっていない。

もっと大きく傾いた画像でもやってみる。

今度は8度の傾き。埋めるべき余白も広くなる。なお、上下が少しカットされているのは、仕上がり画像の縦横比を「元の縦横比」に設定しているため。

できあがった画像。屋根の一部が幽体離脱しているし、画面右下にも謎な影ができてしまっている。

トリミング枠を広げずに再チャレンジ。屋根が欠けなければいいや、という判断で、余白部分を狭くしている。

仕上がり画像。やはり右上の出窓が少し変だが、それ以外は問題ない感じだ。

違うパターンもためしてみた。回転角は4度。

空になんか飛んでるし、建物の右側のラインが膨れているのが問題点。左側の建物の窓の位置関係もあやしいけど、こちらはそんなに気にならないと思う。

気になるところだけ手動で修正してみた。Photoshopだから、この程度は楽勝だ。

選択とマスク

画像の一部分だけを調整したりエフェクトを加えたりしたいときのための選択とマスクの機能が強化され、専用のワークスペース(画面)が搭載された。

従来も、さまざまな選択ツール(自動選択や長方形選択、楕円形選択、なげなわ、多角形選択など)があって、それとは別に、選択範囲のエッジ部分の微調整などを行なう「境界線を調整」機能が独立していたが、「2015.5」では、ある程度だが、ひとまとめにされたかっこうだ。

「選択とマスク」ワークスペースでは、「クイック選択ツール」「境界線調整ブラシツール」「ブラシツール」「なげなわツール」を使って範囲の選択を行ない、右側のパネルで「エッジの検出設定」「グローバル調整設定」「出力設定」といった、従来の「境界線を調整」にあたる設定を行なうようになっている。

個人的によく使う「自動選択ツール」や「多角形選択ツール」が含まれていないのは物足りないが、このワークスペース内で選択範囲やマスクをつくりつつ、同時に細かなエッジの調整も行なえるので便利はいい。ツール類の使い方も特に変更はないので、従来からのユーザーにとっても慣れるのに時間はかからないだろう。

バラ園で撮ったカット。背景がちょっとごちゃごちゃしているので整理してみる。

Photoshopで開いて、

「選択範囲」メニューから「選択とマスク」を選ぶと、

「選択とマスク」ワークスペースに切り替わる。

画面左側のツールパレット。「クイック選択ツール」「境界線調整ブラシツール」「ブラシツール」「なげなわツール」のほか、スクロールのための「手のひらツール」、画面の拡大・縮小のための「ズームツール」がある。

画面右側には、選択範囲の境界の調整を行なうパラメーターなどがある。

オプションバーにはツールのオプションがあって、ブラシのサイズなどを設定できる。おおまかな範囲選択は大きめのブラシでやると効率がいい。

「自動選択ツール」で手前のバラを選択していく。画面をクリックするだけで同じような色と明るさの部分を選択してくれる。

はみ出してしまった部分は、クリックした部分を選択範囲から削除する「-」のブラシ(MacではOptionキー、WindowsならAltキーで一時的に「-」に切り替えられる)で調整する。

「自動選択ツール」ではうまくいかない部分は「なげなわツール」を使って、選択範囲の追加、削除を行なうといい。

バラの色だけというのもあまりおもしろくないので空とゴーストも選択範囲に入れてみた。

選択範囲のエッジを「5.0ピクセル」ぼかして、「20%」だけ拡張している。

「選択範囲」メニューから「選択範囲を反転」を選んで、背景だけを選択した状態に。

「レイヤー」メニューの「新規調整レイヤー」から「色相・彩度」を選び、彩度と明度を落とす。

選択範囲を読み込んで反転させて、バラと空、ゴーストの彩度を少し上げた。

仕上がり画像。この程度の作業なら、慣れれば10分ほどで完成する。

顔立ちを調整

文字どおり、人物の顔立ちを変化させるもので、わかりやすく言えば、デスクトップにプリクラがやってきたような状況だ。こういった作業を日常業務としてやっているカメラマンやレタッチャーの方々にとっては有用かつ大きなアップデートだろう。

変化できる箇所は、「目の大きさ」「目の高さ」「目の幅」「目の傾き」「目の間隔」、「鼻の高さ」「鼻の幅」、口まわりが「笑顔」「上唇」「下唇」と「口の幅」「口の高さ」、顔まわりの「額」「顎の高さ」「顎の輪郭」「顔の幅」と、多岐にわたる。

操作はそれぞれのスライダーを左右に動かすだけという簡単さ。目、鼻、口という顔の構成要素を、それぞれ別々に大きくしたり幅を変えたりできる。マウスのドラッグ操作で、目、鼻、口の位置を変えることもできる。

また、複数の人物に対しても個別に調整できるようになっているので、記念写真などで特定の人物だけ調整することもできる。

操作はとても簡単だし、仕上がりも自然で違和感がない(顔の幅などを調整すると、背景が部分的に歪むので注意は必要だ)。これまでなら経験を積んだレタッチャーが時間をかけてやっていたような作業が、ものの数分でできているのではと思う。

オリジナルの画像は少し暗かったので、レベル補正で顔を明るめに補正している。

「フィルター」メニューから「ゆがみ」を選ぶと、

「ゆがみ」のワークスペースが表示される。人物の顔を認識すると、自動的に「顔ツール」が選択される。画像上でマウスをドラッグしてもいいし、右側のパネルでスライダーを動かしてもいい。ただし、目、鼻、口の移動だけはドラッグ操作のみとなる。

目をめいっぱい大きくするとこんな感じ。

「OK」して編集を完了した状態。「顔の幅」などを変えたせいで窓枠が歪んでしまっている。

歪んだ窓枠部分をごまかす小細工もやってみた。

横顔に近い斜め顔とかだと認識してくれない。このあたりは今後の課題なのだろう。

Lightroom CC新機能

Lightroomも「2015.6」アップデートされている。対応カメラやレンズの追加のほか、パースペクティブによる台形歪み(おおざっぱには、建物が上すぼまりに写る現象)を補正する「Upright」の機能強化などがはかられている。

ガイド付きUplight

これまで「レンズ補正」パネルに同居していた「Upright」が「変形」パネルとして独立。新しく「ガイド付き」オプションが追加された。

これは、画面上に水平、垂直の基準となるべきガイドラインを何本か引くことで、自動的に台形歪みを補正できるというもの。建物の輪郭線や柱、屋根などの垂直または水平にしたい部分に沿ってマウスをドラッグするだけの簡単さが見どころと言える。

建物を正面から撮るときにきちんと正対できていなかった場合などは、水平となるべき線が水平になってくれないため、従来は「水平方向」や「回転」なども使って微調整を繰り返さないといけなかったが、「ガイド付きUpright」なら、屋根の輪郭に沿うようにガイドラインを引くだけで水平に補正してくれる。建物をよく撮る人なら、そのありがたみはご理解いただけると思う。

建物を仰ぎ見るアングルで撮ると上すぼまりに写る。Lightroomの「Upright」機能を使うと、遠近感によって生じる変形(台形歪み)を簡単に補正できる。

建物の右側にガイドラインを引く。

左側も同様。

垂直線が補正された状態。で、グリッドを表示する。

撮影時に建物に対して完全に正対できていなかったため、屋根が少し左下がりになっている。

屋根のエッジに沿わせてガイドラインを引く。

屋根のエッジが水平になった。

もう1本。水平のガイドラインを引く。

4本目のガイドラインを引き終わったところ。

余白部分をカットするためにトリミングする。

水平も垂直も完全に補正できた。

仕上がり画像。

まとめ

PhotoshopやLightroomに機能が増えるたびに、写真に対して嘘っぽさを感じる機会も増えることになるわけだが(最近はどんなにすごい写真を見ても、まずいちばんに合成じゃないか、加工じゃないかと疑ってかかるのが習慣化している野田)、どの機能もなんらかの、そして切実なニーズがあって開発されたものでもあるのだろうから、否定してしまってはなにも生まれない。

個人的には、「顔立ちを調整」は使いたいとは思わないが、機能としてはおもしろいし、「コンテンツに応じた切り抜き」や「ガイド付きUpright」にしても、元の画像を加工したり変形したりしているのだから、「顔立ちを調整」にだけケチをつけるのも不公平だろうし、こうした技術の進歩を自分の写真をよりよくする方向でうまく使っていければいいと思う。

それにしても、こんなにパワフルで便利なソフトが、月々980円(税別。Creative Cloud フォトグラフィプランの場合)で使えるのだから、これはやっぱり素晴らしいことだ。それは間違いない。

北村智史

北村智史(きたむら さとし)1962年、滋賀県生まれ。国立某大学中退後、上京。某カメラ量販店に勤めるもバブル崩壊でリストラ。道端で途方に暮れているところを某カメラ誌の編集長に拾われ、編集業と並行してメカ記事等の執筆に携わる。1997年からはライター専業。2011年、東京の夏の暑さに負けて涼しい地方に移住。地味に再開したブログはこちら