メーカー直撃インタビュー:伊達淳一の技術のフカボリ!
パナソニック LUMIX GX8
レンズとボディの両方でブレを補正する「Dual I.S.」のメリット
Reported by 伊達淳一(2015/10/20 09:00)
レンジファインダーカメラ的なフラットデザイン採用のストリートフォトのフラッグシップモデル。マイクロフォーサーズ機としては初となる2,030万画素のLiveMOSセンサーを採用し、空間認識AFや、4K動画/4Kフォトにも対応。
レンズ内手ブレ補正とボディ内手ブレ補正を協調動作させる世界初の「6コントロールのDUAL I.S.」も搭載し、手ブレ補正非搭載のレンズでも手ブレ補正が効くほか、より大きなブレも補正できるのが特徴だ。
また、大きく見やすいチルト式EVFやバリアングル液晶モニター、ダイヤルによる直感操作など、見やすさと使いやすさにとことんこだわったモデルだ。
インタビューの注目トピック
◇ ◇
機能や操作系をブラッシュアップ GH4と並ぶツートップ体制に
――まず、はじめに、LUMIX GX8のコンセプトについてお伺いしたいと思います。これまでのGXシリーズよりも、かなり上を狙ってきたように見えますが……。
角:LUMIX Gシリーズには、シューティングスタイルのGH4やG7がありますが、そちらは“ハイブリッドフォトグラフィ”ということで、静止画と動画の融合を重視したシリーズです。
一方、フラットタイプのGXシリーズは、静止画、特にストリートフォト的な使い方を想定したモデルで、従来のGX7も、サイズ感やデザイン、ファインダーのチルト機構など高い評価をいただきましたが、他社のフラッグシップと比較すると、操作感やグリップ感にもの足りなさを感じる方もいらっしゃいました。そこで、ストリートフォトのフラッグシップとして、従来のGX7よりも1段上の風格や操作性を追求したのがGX8です。
――従来のGXシリーズはGFの上位機種という位置付けでしたが、フラッグシップという位置付けなのですね。
角:シューティングスタイルのフラッグシップがGH4、ストリートフォト(フラットタイプ)のフラッグシップがGX8です。いわゆる“ツートップ”体制です。従来のGX7は、一眼レフのサブカメラ的存在でしたが、このGX8はメインカメラとしてお使いいただけることを目指しています。
――フラッグシップとしてこだわったのはどのような部分ですか?
角:まず“画質”です。マイクロフォーサーズ規格では初となる20メガピクセルセンサーを採用し、より高精細な描写を実現しています。
また、GX7でチルト式ファインダーを採用し、評価をいただきましたが、一方でファインダー像がちょっと小さいのでは、というご意見もいただいておりました。今回のGX8では、好評のチルト機構を踏襲しつつ、ファインダー倍率を0.7倍から0.77倍へとアップし、ファインダー像が大きく、しかも周辺までクッキリ見えるようファインダー光学系にも非常にこだわっています。
次に、操作性とグリップ感ですね。カメラというのは、持った瞬間にしっくりこないと、撮影者のモチベーションも下がってしまいますし、末永くご愛用いただけません。露出補正ダイヤルをはじめ、カスタマイズ可能なボタンやダイヤルを増やし、その一方で、フラットタイプの特徴である天面の直線的な美しさにもこだわったデザインと操作性を採用しています。
また、フラットタイプとしては少しグリップが出っ張りすぎじゃないか、という意見も開発中にはあったのですが、やはりそこは、大きめのレンズを装着したときでも長時間カメラを構えやすいということを重視し、しっかりとしたグリップを設けました。
さらに、フラッグシップならではの信頼性も重要と考え、GH4同様、防塵・防滴構造を採用し、多少の雨や雪が降っても安心して撮影できるよう配慮しています。
――フォーサーズ規格のLUMIX L1と雰囲気というかたたずまいが似ていますね? LUMIX当初の原点に立ち返るというか、L1に対するオマージュのようなものはあったのですか?
角:直接、L1をモチーフにしているわけではありませんが、L1で良かった部分は積極的に採り入れていますので、意識している部分はありますね。
――マイクロフォーサーズ規格のLUMIXで、空間認識AFや4K動画/フォトに対応しているのは、GH4、G7に続き、今回のGX8を加えて3機種あります。動体も追える速いAFと、4Kフォトに魅力を感じて、従来機種から買い替え、買い足しを考えているユーザーにとっては、選択に迷ってしまいます。まさに、今の僕がその状況に陥っているのですが(笑)、どの機種がどう優れていて、どの部分は同等なのか、教えていただけませんか?
角:GH4は、単に4K動画が撮れるというだけでなく、動画のプロにも使っていただけるような機能を備えているのが特徴です。例えば、カメラで動画を録画しながらHDMIスルー表示が可能なので、外部レコーダーとカメラ本体で同時記録が行えますし、用途に応じてフレームレートを可変することができるのもGH4だけの機能です。
また、有償オプションとなりますが、より滑らかな階調の映像表現を可能にするLog撮影機能「V-Log L」にも対応しています。一方、静止画は、20メガピクセルCMOSセンサーを搭載しているGX8が有利です。
――GH4とG7は、どちらも16メガピクセルセンサーを搭載していますが、静止画の画質は同じですか?
岡本:基本的にはほぼ同等ですが、長秒露光時に差があります。GH4の方がより長秒露光に強くなっています。
――空間認識AFの性能は3機種とも同じですか?
福川:空間認識AFの速さは3機種とも同等の性能です。ただ、G7とGX8には、新たに星空AFが搭載され、追尾AFについても、被写体判別の技術進化と被写体の動きを予測する機能を追加し、比較的動きの速い被写体であっても被写体をロストしにくく、タイミングがずれることなく、被写体を追尾できるようになりました。
また、GX8は、画素数が20メガピクセルに増えたことで、より高いAF精度が求められますが、専用のチューニングを行うことで20メガピクセルに耐える精度を確保しています。
――星空AFというのは?
福川:従来のローライトAFを進化させたもので、低照度でもライブビューが見やすくなるよう、フレームレートを落とし、AFのエリアを工夫して小さな星に特化したAFのパラメーターを設定することで、星空にもAFでピントを合わせられるのが特徴です。
Dual I.S.はボディ側とレンズ側の補正度合いを高速処理して実現
――ますますG7も選択肢として捨てがたくなってきました(笑)。フラッグシップのGH4とGX8は予算的に厳しいけど、G7だったらなんとか手が届くのに、と思っている人は、僕を含め多いと思いますが、フラッグシップの2機種と比べ、機能的にG7が及ばないのはどのような部分ですか?
角:まず、防塵・防滴はGH4とGX8だけです。次に、ファインダーの倍率は、GX8が0.77倍、G7は0.7倍、GH4は0.67倍と、GX8がファインダー像がもっとも大きく見やすくなっています。
さらにGX8は、レンズ内手ブレ補正(O.I.S.)とボディ内手ブレ補正(B.I.S.)を同時に動かす6コントロールの「Dual I.S.」を搭載していますので、手ブレ補正を搭載していないレンズでも、手ブレ補正が効くのが大きな特徴です。
――静止画重視の人にとっては、ボディ内手ブレ補正の有無は大きな違いですよね。ところで、“6コントロール”というのはどういう意味ですか? 他社で採用されている5軸のボディ内手ブレ補正とどこが違うのでしょう?
天野:GX7のボディ内手ブレ補正は、レンズ内手ブレ補正搭載のレンズを装着したときは、ボディ内手ブレ補正は一切動かない仕様になっています。
これに対して、GX8では、せっかく2つも手ブレ補正があるなら片方しか使わないのはもったいないよね、ということで、レンズ内とボディ内の手ブレ補正を両方活用することはできないかと考えその技術を開発しました。レンズ内手ブレ補正2軸、ボディ内手ブレ補正4軸を、協調動作させて、より大きなブレにも対応できるようにしたのが、GX8のDual I.S.です。
以前はカメラをしっかり構えて撮影するのが当たり前でしたが、デジタルになって写真撮影を楽しむ人が増え、ラフなスタイルで撮影したり、チルト式やバリアングル液晶モニターの普及でハイアングルやローアングルなどやや不安定な構えで撮影することも多くなってきました。また、長時間露出のように手ブレそのものが大きくなるような撮影シーンでは、より大きな補正能力が必要です。
それらを解決するために開発したのがDual I.S.で、レンズ内手ブレ補正搭載レンズを装着した際には、レンズ側で角度ブレ、ボディ側で角度ブレとシフトブレの補正を行い、手ブレ補正を搭載していないレンズを装着した場合は、ボディ側のみで角度ブレとシフトブレの補正を行う仕様です。
――レンズ内とボディ内を両方動かせるなんて、これまで考えたことはあってもとても実現できるとは思わなかったので驚きました。
天野:ボディ側とレンズ側の制御をどうやって同期するのかが非常に難しかったのですが、ボディとレンズの通信の高速化を図り、ボディとレンズの情報のやり取りを速くすることで実現できました。
現在はDual I.S.で制御を行うのは撮影時のみですが、撮影時にボディとレンズで手ブレ情報のやり取りを行い、レンズ側とボディ側の手ブレ補正も両方動かすことで、より大きな手ブレまで補正できるようになりました。
――ボディ側とレンズ側にそれぞれ手ブレを検知するセンサーが搭載されているわけですが、これだけセンサーの位置が違っていて、正しくブレを検知できるのですか?
天野:シフトブレはボディのセンサーで検出した情報を使い、角度ブレについては、レンズ側のセンサーで検出した情報を使います。レンズとボディでそれぞれどれだけ補正を行うのかを計算し、その結果をボディ側と高速でやり取りし、ボディ側の手ブレ補正も同時に動かす、ということをやっています。
ちなみに、手ブレ補正を搭載していないレンズは、角度ブレもシフトブレもボディ側のセンサーで検出した情報を使い、ボディ内手ブレ補正で、角度ブレ、シフトブレを補正します。ボディ内手ブレ補正の効果もGX7より向上しており、焦点距離の短いレンズであれば、レンズ内手ブレ補正のPOWER O.I.S.に近い補正効果が得られます。
――Dual I.S.対応レンズを装着時は、常にレンズとボディの両方で手ブレ補正を行っているのでしょうか?
天野:レンズだけでなくボディ側の手ブレ補正も動かさなければ、有効にブレを補正できないと判断したときだけ両方動かし、レンズ内手ブレ補正だけでも十分と判断したときはレンズ内手ブレ補正のみを行っています。
また、シフトブレに関しては、レンズ側にシフトブレを検出するセンサーがないので、これはボディ側でシフトブレ補正を行います。
――ボディでシフトブレを検出できるのであれば、それをレンズ側に伝えて、レンズ内手ブレ補正でシフトブレも補正できないのでしょうか?
天野:原理的には可能ですが、現状はボディでシフトブレを検出し、ボディ内手ブレ補正でシフトブレを補正しています。
――回転ブレに対応していないのはなぜですか?
天野:GX8のボディ内手ブレ補正ユニットは、X-Y軸に動くガイドレール方式を採用しているので、センサーを回転させることができません。回転ブレに対応できる手ブレ補正も検討はしたのですが、今よりもユニットが大きくなってしまうため、今回は回転ブレの補正は見送りました。
――三脚撮影や流し撮りには対応していますか?
天野:対応しています。ただ、三脚撮影時には、念のため手ブレ補正オフを推奨しています。
――カメラを縦位置に構えて横方向に流し撮りしたり、斜め方向に流し撮りしても、有効に制御されますか?
天野:横方向(長辺方向)の流し撮り時に短辺方向のブレを抑える制御のみの対応です。
――ところで、ボディ内手ブレ補正を採用すると、熱を逃がす導線が限られてくるので、4K動画や4Kフォトを実現するのが難しかったと思うのですが、4K動画の連続撮影時間は短くなっていないのでしょうか?
天野:GX8のボディ内手ブレ補正は、動画や4Kフォト撮影中には動かさない仕組みにしていますので、ボディ内手ブレ補正が4Kに対して悪影響を及ぼすことはありません。
――手ブレ補正が働いてなくても、センサーが固定されている機種に比べ、センサーから発生した熱を逃がしにくい、ということはないのでしょうか? それとも、主に発熱が問題となるのは画像処理エンジンの方ですか?
山本:センサーと画像処理エンジンの両方です。熱の問題については開発当初から課題で、動画の撮影時間を制限付きにしようかと考えた時期もありました。ただ、外装筐体にマグネシウム合金を採用し、その外装筐体に効率良く熱を逃がせるような構造設計を行うことで、4K動画撮影時でも30分を超える連続撮影を実現しました。
また、GX7よりも容積が大きくなっているのも放熱性を高めるのにプラスに働いています。もちろん、電気担当のがんばりもありました。
宮崎:電気の方も電力削減ということで、本当に1mA、2mAというわずかな電力削減を各所で積み重ねた結果、動画の記録時間の制約をなくすことができました。
――具体的には、どのくらい4K動画を連続記録できるのでしょうか?
宮崎:外気温や使用条件にもよりますが、SDカード容量がなくなるまでもしくは内蔵バッテリーがなくなるまで4K動画を連続撮影できます。
――それはすごいですね。GH4は動画にこだわっているということで、30分を超える動画記録ができるというのは知っていましたが、GX8もかなり長時間の4K動画が記録できるんですね。ちなみに、G7も同様ですか?
宮崎:G7は、29分59秒の時間制限があります。
――それはEUのビデオカメラ関税対策のためですか?
宮崎:いいえ、G7は外装にエンジニアプラスチック素材を用いているぶん、熱を逃がしにくく、30分あたりでカメラ内部の温度が規定値を超えてしまうので、欧州モデルだけでなく、国内モデルも29分59秒という時間制限を設けさせていただいています。
――外装がマグネシウム合金かエンジニアプラスチック素材かで、だいぶ熱に対する影響が違うんですね。より長時間の4K動画も撮影したいのであれば、G7よりもGX8が適しているということですね。参考になります。ところで、容積が大きい方が放熱に有利、ということでしたが、それにしてもGX1からGX7、GX7からGX8と、同じシリーズとは思えないほど、ボディが肥大化してきましたね。今回、GX8でボディが大きくなった要因はどこにあるでしょうか?
山本:大きく3つの要因があります。1点目は、GX8のファインダーです。のぞいてみるとお分かりいただけると思いますが、ファインダーを見やすくするには、デバイス(有機ELパネル)を大きくし、アイピースも大きくして、高倍率でありながら、周辺までケラレなくクッキリ見えるように、非常にファインダーにはこだわっています。そのぶん、横幅が大きくなっています。
2点目は、液晶モニターを横開きの2軸バリアングルにしていますので、ヒンジを取り付けるスペースが増えています。
3点目は、撮影時間を長くするために、GX7より大容量のバッテリーパック(DWC-BLC12)を採用したこともボディが大きくなった要因です。結果的には、ボディが大きくなった理由の大半は外装設計にありますが、サイズが大きくなったぶん、使う楽しさも大きくなったと思います(笑)。
右手親指と人差し指だけで使える新設計のダイヤル操作系
――開発当初からバリアングル液晶モニターの採用は決まっていたのですか? それともファインダーにこだわった結果、ボディがここまで大きくなったのなら、チルトではなくバリアングルにしよう、という流れですか?
山本:バリアングル液晶モニターの採用を決断したのは、実は一番最後です。バリアングルの使い勝手の良さとチルト式のスリム感のどちらを取るか、最後まで意見が割れました。
チルト式にすればボディの厚みをもう少し薄くできますが、使い勝手を考えるとやはりバリアングルの方が活用シーンは増えます。順番としては、ファインダーの大型化、大容量バッテリーパックの採用、バッテリーを縦置きにして握りやすいグリップにすることにして、最後の最後まで迷ったのが、液晶モニターをバリアングルにするか、チルトにするかでした。
角:GX7では縦位置でのハイ/ローアングル撮影の要望が非常に多かったですし、今回、Dual I.S.を搭載したことで、より大きなブレも補正できるようになりましたので、最終的にはフレーミングの自由度がより高いバリアングルモニターを採用することにしました。
――電源レバーはちょっと意識しないと操作できない位置にありますが、これは誤動作、誤操作を防ぐために意図的にこの位置、この形状にしたのですか?
山本:従来は背面側に電源レバーを設けた機種が多いのですが、背面側だと露出補正ダイヤルの操作と干渉して、使いにくくなってしまう恐れがありましたので、電源レバーの位置を変え、レバーの高さも試作を繰り返し、使いやすい形にしました。
また、天面にフロントとリアの電子ダイヤル、撮影モードダイヤル、露出補正ダイヤルの4つのダイヤルを配置していますが、カメラを構えた状態でこの4つのダイヤルを右手親指と人差し指だけで操作できるよう、最適な場所を選ぶのに苦労しました。なにしろ、社内にはこうした感触や見映えに非常にこだわるメンバーがそろっていて、ダイヤルの天面をもう少し削れ、とか、非常に細かい注文が何度もありました。
例えば、ファインダーのチルト機構も、収納時の隙間を密にして精緻感を出すため、ヒンジの機構を工夫しています。GX7仕様では1軸で動く単純なヒンジで、収納時に天面に少し隙間ができてしまいますが、GX8ではチルト・スライドロック式といって、ファインダーを水平に戻した後、少し前方にスライドして、隙間を埋めるような機構を新規に開発しました。
角:あとデザイン面のこだわりとして、ファインダーが大きく見やすくなったことで、液晶モニターを閉じて使うシーンの見ためも考え、液晶モニターの背面にもシボのある革を貼っています。また、メンテナンス性は落ちるのですが、ネジ止めしている部分も上から革を貼って、外からネジが見えないようにしています。これはLUMIXとしては初の試みです。
――親指AF(AF動作をシャッターボタンではなくAE/AFロックボタンに割り当てた撮影スタイル)で使う場合、AE/AFロックボタンの位置がちょっとグリップの外側に寄りすぎてしまったのが残念です。
山本:今回、露出補正ダイヤルの操作に非常にこだわっています。カメラを持ったときのハンドリングを考え、背面部に右手親指を置く指がかりを設けていますが、この指がかりから露出補正ダイヤルまでの動線上に、指の動きを妨げるボタンやダイヤル類を設置しないようにしています。
この結果、現状の位置にAE/AFロックボタンを設けることにしました。撮影時の操作で露出補正の頻度は非常に多いだろうと考え、露出補正ダイヤルの操作性を優先させました。
――その露出補正ダイヤルですが、マニュアル露出+ISOオート時に、露出補正が無効になるのは不便です。開放だと描写が甘いので絞りを2/3段絞って、被写体ブレや手ブレしにくいシャッター速度まで上げて撮影したいといったとき、シャッター優先オートでは開放絞りでの撮影になってしまうので、マニュアル露出+ISOオートにして露出をISO感度で調整する撮影方法が有効です。
ただ、GX8は、マニュアル露出+ISOオート時に露出補正が効かないので、露出レベルを微調整したいときに困ります。これだけ露出補正にこだわっているカメラだけにもったいないと思います。なんとかなりませんか?
岡本:確かにそのとおりだと思います。今の仕様は技術的な制約によるものではないので、お客さまのご意見、ご要望をうかがい、検討したいと思います。
――次機種でとはいわず、フラッグシップを名乗る以上、ぜひファームウェアアップデートで対応していただけたら、と強く希望します。ところで、GX7のレンズキットにはLUMIX G 20mm/F1.7 II ASPH.が設定されていましたが、GX8のレンズキットとして LUMIX G VARIO 14-140mm/F3.5-5.6 ASPH./POWER O.I.S.を組み合わせたのは、どういう意図からですか?
角:単焦点は単焦点の魅力があると思いますが、カバーできる撮影シーンは限られてきます。特にGX8は、Dual I.S.や防塵・防滴、4K動画や4Kフォトにも対応していますので、さまざまなシーンを撮影して楽しんでいただきたいという想いで、広角から望遠まで1本でカバーする14-140mm/F3.5-5.6をレンズキットとして設定しております。
――これまで発売したマイクロフォーサーズ規格のLUMIX G O.I.S.搭載レンズは、すべてDual I.S.に対応させていく予定なのでしょうか?
天野:基本的には、優先順位を考え、順次ファームウェアのアップデートを行ってDual I.S.に対応させていく計画をしています。ただ、一番最初に発売したLUMIX G VARIO 14-45mm/F3.5-5.6 ASPH./MEGA O.I.S.とLUMIX G VARIO 45-200mm/F4.0-5.6/MEGA O.I.S.はシステムの制約上、Dual I.S.には対応させることができませんでした。
あと、LUMIX G VARIO 100-300mm/F4.0-5.6/MEGA O.I.S.もなんとかDual I.S.に対応させる方法はないのか、社内でもさまざまな検討を行ったのですが、現時点でDual I.S.には対応できないという判断です。
――100-300mmが非対応というのは、正直ショックですね。Dual I.S.の効果を一番感じられるのではないかと、ファームウェアの更新を期待していたのですが……。
角:開発発表段階ですが、LEICA DG 100-400mm F4-6.3の発売を楽しみにしていてください。
――でも、お高いんでしょう?(笑)。最近発売したレンズでは、LUMIX G 42.5mm/F1.7 ASPH./POWER O.I.S. よりも先に、LUMIX G MACRO 30mm/F2.8 ASPH./MEGA O.I.S. の方がDual I.S.に対応しましたが、これはどういう判断からですか?
天野:近接撮影時ほど、ボディ内手ブレ補正によるシフトブレ補正が有効になるからです。
――LUMIX G7はUHS-II対応ですが、GX8はUHS-IIに対応していますか?
宮崎:対応していません。G7は、SDカードスロットがメイン基板に直付けされているのですが、GX8は、SDカードスロットが別基板上に配置されていて、メイン基板からB to B(ボード・ツー・ボード)コネクタを介して接続されています。
なぜ、このような構成を採用したのかというと、別基板をグリップに対して垂直に配置することで、ボディの幅を縮められるからです。しかし、UHS-IIは非常に通信が高速なので、B to Bコネクタでの接続ではシミュレーションをパスすることができませんでした。
ただ、G7にUHS-II対応のSDXCカードを使った際の優位性は、RAW+JPEG記録でバッファフルになったときにリサイクリングタイムが速いことですが、GX8はバッファメモリの容量も増やしていますので、RAW+JPEGの連続撮影枚数もG7よりも多くなっています。そういう意味では、GX8での機能向上の側面から言えば、高価なUHS-IIカードを使っただけの効果が望めるのは、ごくわずかなシーンに限られる、と言えると考えております。
新しいセンサーとエンジンで20メガピクセルの高感度画質を維持
――LUMIX GH2以降、画素数を16メガピクセルに抑えてきましたが、GX8で20メガピクセルに増やしたのはなぜですか?
岡本:画素数が増えれば、それだけ写真は高精細な仕上がりになるので、被写体のディテールであるとか質感を表現しやすくなります。進化の方向性としては自然な流れだと考えています。その一方で、画素数が増えるということは、セルサイズが小さくなるということでもあるので、一番懸念されるのは高感度撮影時のノイズです。
しかし、センサーの特性も向上し、GX8の画像処理エンジンは、GH4にも搭載している最新のもので、ノイズの特性に応じて(ノイズリダクションの)コントロールができますので、20メガピクセルの新センサーと新エンジンの組み合わせであれば、従来の16メガピクセル機と同等以上の高感度画質を達成できると判断しました。
――ローパスフィルターレス仕様ですか?
岡本:ローパスフィルターは搭載しています。
――同じマイクロフォーサーズ規格のオリンパスは、16メガピクセルでローパスフィルターレス仕様を採用し、より高い解像感を追求しています。画素数が20メガピクセルになって、より画素ピッチが狭くなっていても、まだローパスフィルターは必要ですか?
岡本:ローパスフィルターを外せば解像感を高めることは可能ですが、当然、偽色やモアレのリスクは高まります。開発段階でもローパスフィルターの有無について検討を重ねましたが、現時点では、ローパスフィルターを外してしまう副作用の方が大きいという結論に至りました。
画素数を16メガから20メガピクセルに増やしたことで、自ずと解像は高まりますし、エンジンも高い解像描写性能を持っていますので、ローパスフィルターを搭載していても高い解像力を実現しています。
――ローパスフィルター搭載にこだわるのは、動画でモアレが発生することを懸念してのことですか?
岡本:もちろん動画も考慮していますが、GX8は静止画重視のモデルですので、主に静止画の視点でローパスフィルターの必要性を判断しています。
――画素数が16メガから20メガピクセルになって、4Kフォトの画質は向上しているのでしょうか?
岡本:G7は16メガピクセル、GX8は20メガピクセルですが、4Kフォトや4K動画を生成するために使っている画素数は同じです。20メガピクセルのGX8の方が、G7よりもセンサーの狭い範囲を読み出していますので、同じ焦点距離で撮影してもGX8の4Kフォトの方が少し撮像範囲(画角)は狭くなります。厳密に言いますと、レンズの解像性能的には、撮像範囲が狭くなるGX8の方が厳しいとは言えますが、十分な解像性能がありますので問題ありません。
なお、FHD、HD撮影時には、16:9に合わせて画面の上下がカットされますが、静止画撮影時と同じ水平画角で撮影できます。ちなみに4Kフォトの3:2設定時の水平画角は、GX7が82%、GX8が73%になります。
――4Kフォトモードで撮影したMP4と、4K動画を切り出した静止画とでは、画質に差はありますか?
岡本:4Kフォトの基本技術は4K動画ですので、ベースの部分での画質は同じです。ただ、動画モードでは輝度レベル設定が16~255などに設定できますが、4Kフォトは静止画ですので、輝度レベルは0~255に固定され、プログラムオートや絞り優先オート時には、シャッター速度がより高速にして被写体の動きを止めるような制御にしています。その2点が大きく違っています。
――圧縮率に違いはないのですか? 4K動画よりも4Kフォトの方がMP4の圧縮率を低くして、画質の劣化を抑えているとか、キーフレームの間隔を短めにしているとか?
岡本:基本的に4K動画も4Kフォトも共通です。H.264の規格に則った設定になっていますが、エンジンの圧縮性能が高く、静止画としても十分な画質を確保しています。
――ファームウェアのアップデートで追加予定の「フォーカスセレクト」はどんな機能ですか?
角:4Kフォトは、30コマ/秒で高速連写し続けられるという特徴を、決定的瞬間を切り出すという形でアピールしてきました。この高速性をもっと別の方向に活用できないかと考え、4Kフォト撮影時にピント位置を動かしながら高速連写することで、撮影後に液晶モニターにタッチした部分にピントが合った写真が選択され、静止画として切り出せるという機能です。
――フォーカスセレクトを利用して、深度合成はできないのでしょうか?
角:そういったご要望もいただいていますが、レンズによっては、ピント位置が変化すると像倍率が大きく変化するものもあり、カメラ内で深度合成を行うのは、技術的に難しいのが現状です。
今後の高解像度化を考慮すると空間認識AF+コントラストAFが最良
――そうですか。せめて、フォーカスセレクトで撮影されたカットを全部静止画として保存できれば、市販のソフトで深度合成ができるのに、と思います。
ところで、今回、GX8をお借りして、空間認識AFなるものをようやく体験することができたのですが、確かに動く被写体を連写してもしっかりピントが合い続けることに驚きました。レンズが14-140mmなので、駅のホームから通過する電車を連写する、という単純な動体テストしかできませんでしたが、それでも電車の運転手がアップになるまで、ほぼピントを外さないのは見事だと思います。高速連写に強い一眼レフでも、これほど至近に被写体が迫ってくると、フォーカスレンズの動きが追いつかず、ピンボケになってしまうのが当たり前のシーンでも、しっかりフォーカスが追いついてくれました。
ただ、ペットやマクロ撮影など比較的動きが少ないシーンをAF-Cで狙っていると、やはりウォブリングによるピントの微動が気になります。像面位相差画素を搭載したミラーレスカメラであれば、AF-Cでも被写体の動きがなければフォーカスもピタリと止まってくれます。なぜ、パナソニックは像面位相差AFの採用に否定的なのでしょうか?
福川:弊社が像面位相差AFではなく、空間認識AF+コントラストAFを採用するのは、コントラストAFの方がピントの精度が高いと考えているからです。それと、像面位相差AFは、像面位相差画素の画素補間が必要になりますので、補間処理を行っているとはいえ、画質への影響は皆無ではありません。
さらに、像面位相差画素の補間処理も、これから先の高解像度化、高フレームレート化を考えますと、時間的に処理が厳しくなってくる可能性が考えられるので、次の世代を見据えると、コントラストAFの弱点を空間認識AFで補う、という形がベストだと考えています。
また、空間認識AFの利点として、センサーを選ばないので、フルサイズのセンサーでもより小サイズのセンサーにも、空間認識AFの技術を適用できます。
――ただし、レンズの特性が分かっていないと空間認識AFは使えませんよね?
福川:そうですね。弊社の空間認識AFも、レンズごとにボケの特性の膨大なデータがボディやレンズに格納されていて、そのデータを用いて、空間認識AFの制御を行っています。マイクロフォーサーズ規格のLUMIXレンズであれば、空間認識AFにほとんどのレンズが対応しています。また、G7からですが、空間認識AFの技術を応用して、他社製のマイクロフォーサーズレンズ使用時でも、よりスムーズで高速なAFを実現しています。
◇ ◇
【実写ミニレビュー】高精度に測距してくれる空間認識AFと4Kフォトの性能に驚く
お恥ずかしい話だが、パナソニックの空間認識AFや4Kフォトを体験するのは、実は今回が初めてだ。というのも、GH1/GH2の売りだったマルチアスペクト(ひと回り大きなセンサーを搭載することでアスペクト比を変えても対角線画角が変わらない機能)が好きだったので、GH3以降のGHシリーズに買い替えることができずにいた。
しかし、LUMIX G7やGX8にも、空間認識AFや4Kフォトが搭載され、GM1以来、久々に物欲を掻き立てられるLUMIXの登場で、遅ればせながらようやく空間認識AFや4Kフォトを試してみることにした。
通過する特急電車を高速連写するという、動体としては動きが単純で難易度が低いシーンではあるが、運転手がアップになるまで、大きくピントを外すことなく追従してくれた。一眼レフと望遠ズームの組み合わせでも、至近まで近づいてくると、ピントの追従が追いつかなくなってピンボケになることが多いだけに、想像以上の性能だ。
4Kフォトは、4K動画の1コマを切り出すことで、約800万画素で30コマ/秒の超高速連写を実現する機能だ。そのため、写真というよりビデオキャプチャーという意識が働いてしまうが、使ってみるとなかなか楽しい。
惜しむらくは、通常は240fpsでコントラストAFを行うのに対し、4Kフォト時は30fpsになるので、そのぶんAFの動きは通常よりもやや緩慢になる。そのため、向かってくる被写体を超高速連写するのには適さないが、横方向に動く被写体や位置が決まっている被写体を狙うには非常に重宝する。