インタビュー

LTE内蔵デジカメ「LUMIX CM1」開発者インタビュー

あくまでも“カメラ”にこだわる 日本での発売は?

パナソニックが海外で発売したLUMIX DMC-CM1。一見するとスマートフォン。それでいて1インチセンサーや、Leica銘入り28mm F2.8相当の単焦点レンズを搭載するマニアックな製品だ。

パナソニックのAndroid搭載デジタルカメラ「LUMIX DMC-CM1」が11月にドイツとフランスで販売が開始された。フランスでは、同時期にパリフォト、Salon de la Photoといった写真関連のイベントも開催されており、CM1の開発者担当が訪仏していた。

今回、パナソニックシステムネットワークス社ネクストモバイル商品開発推進室商品統括の津村敏行氏とパナソニックAVCネットワークス社イメージングネットワーク事業部マーチャンダイジンググループコンシューマ企画チームシニアプランナーの坂本維賢氏に話を聞いた(以下、敬称略)。

パナソニックの津村敏行氏(右)と坂本維賢氏(左)。中央は両事業部のトップであり、AVCネットワークス社副社長の杉田卓也氏

スマホではなく「カメラ」を開発

――CM1開発の経緯を教えて下さい。

津村:1年前まではスマートフォンの開発を担当していました。日本のコンシューマ市場向けスマートフォン事業の一時休止が決まり、(2013年)秋ごろに正式に今回の製品をやろうということになりました。

通信の技術をいろいろな機器に搭載する流れは間違っていないという社の判断で、スマートフォンの通信技術の生きる新たな道を探していました。そこで事業部トップの杉田(卓也・AVCネットワークス社副社長兼イメージングネットワーク事業部長兼ネクストモバイル商品開発推進室 参与)が、「誰もやらないことをやろう」ということで、本格的なカメラを作るという話になったのです。

もともと、パナソニックモバイルコミュニケーションズでは「LUMIXフォン」としてフィーチャーフォン2機種、スマートフォン1機種を出していました。その時は、LUMIXのブランドポリシーや質の作り込みは一生懸命勉強して、できた製品も「カメラの画質がキレイになった」と思っていました。

ただ、それはあくまで「ケータイをチューニングして他社よりレベルを上げる」というアプローチで、今回は逆のアプローチとして、「カメラ愛好家の人が納得するようなものを作ろう」ということになりました。

スマートフォンで撮った写真をネットにアップする時代になっていますが、いろいろな人にインタビューすると、スマートフォンの写真に不満を持っている人が潜在的に多く、「画質的にクオリティの高いものを出していけば必ずニーズがある」という仮説からスタートしました。

坂本:LUMIXフォンを3機種出した結果、スマートフォンの部隊だけでは画質的には限界が見えました。そのため、スマートフォンとしての開発ではなく、カメラの開発をしなければならなかったのです。

津村:カメラのエンジンであるヴィーナスエンジンのノウハウでチューニングをするだけではなく、本格的なセンサーとエンジン、それを想定したレンズ開発までは我々(スマートフォン部隊)ではとうていできませんでした。

開発プロセスもすべてスマートフォンではなくカメラのプロセスで行い、「LUMIXの開発に我々が参画」という形で開発をしました。

当初は、これが携帯なのかカメラなのか、という議論を行っていました。年末ごろには、スマートフォンがコモディティ化が進む中、スマートフォンの延長ではなく、高画質カメラと通信が融合することによる新たな価値を創出しようと考え、高画質を求めるカメラ好きのお客さまのために、「カメラ」としてやっていこうと決めました。

初めの頃のデザインはもっと携帯チックでした。それをLUMIX部隊に見せたところ、結果としてほぼ9割方は見直しになりました。スマートフォンとカメラは全くジャンルが違う製品で、我々スマートフォン開発の技術陣は、スマートフォン開発の視点で作ってしまっていたので、抜本的に見直しました。

坂本:デザインはだいぶカメラライクになりました。スマートフォンのカメラをよくするのではなく、「カメラ」として作っているので、最初に1インチセンサーの搭載を決め、1インチで最小サイズを目指しました。

――Android搭載カメラとしてはもっとカメラライクなデザインの製品もありますが、スマートフォンにも近いデザインですね。

津村:今回、「コミニュケーションのためのカメラ」がコンセプトでした。常にポケットに入れてサッと出して撮れるというのが最重要で、(スマートフォンのような)薄型の方向を選びました。撮影後にネットに送信するという操作も片手操作ができるようにして、突き詰めていくと「スマートフォンでもカメラでもない」コミニュケーションに最適なカメラとしての新たなフォルムになりました。

――スマートフォンとしてもう少し薄型化する方向はありませんでしたか。

津村:LUMIX部隊からは「必要以上に薄くしないように」といわれました。事前調査では、この厚さはスマートフォンとしては分厚いという声もありましたが、カメラ業界からはグリップ感としてはギリギリと評価され、1インチセンサー搭載カメラと考えれば「驚きの薄さ」という捉え方もされています。

スマートフォン視点で開発していたときは、「もっと薄く」という声もありました。絞りを2つの値だけにしたり、構造をシンプルにしたり、メカシャッターを取り除いて薄く、という議論もありました。

坂本:そうするなら、この商品はやめてしまえば、と(笑)。

津村:激怒されました(笑)。カメラとしてのクオリティを妥協しないで、どこまで薄くできるか、という視点に変わりました。その時点まではスマートフォン視点でしたね。

坂本:今までの経緯がありますので、当然スマートフォンの概念はこうだという考えになってしまいます。

津村:(国内事業休止にともなって)この商品に賭けるという状況で、一歩踏み出すことができました。

ヴィーナスエンジンの搭載で画質にこだわり

――ヴィーナスエンジンもハードウェアで搭載していますね。

津村:専用エンジンを使うと、クオリティが違います。(チップセットの)Snapdragonのハイエンドモデルのグラフィックエンジンはけっこういいものを使っているのですが、「カメラの視点」では作られていません。レンズの歪みをこれでチューニングしたり、LUMIXの絵作りのノウハウをすべて入れ込むには限界があります。

坂本:処理スピードとAFのスピードも違います。画質そのもの、AF性能、高感度時のノイズ処理とかが全然違いますね。

津村:レンズのモーターとか絞りも動かしていますし、「レンズとセンサーが完全にマッチングしたエンジン」で初めていい絵ができるので、チューニングだけではせいぜい「使いこなし」というレベルになってしまいます。ヴィーナスエンジンはノウハウのかたまりで、さまざまなタイプのレンズ駆動の制御など、Snapdragonでは各メーカーの独自部分をサポートするのは困難でしょうし。

坂本:カメラは他のどのアプリよりも優先して動作するようにしてあり、カメラが起動するとヴィーナスエンジンが動作します。

――2つのチップを使ったことでの難しさはありますか。

津村:両方のチップをぶん回すと電力を非常に使います。カメラが起動するとヴィーナスエンジンが優先的に動きますが、Snapdragonは最低限必要な部分しか動作しません。電力的なチューニングはかなり行いました。

(機能として)オープンなところはスマートフォンでやり、他社と差別化できる部分はクローズで徹底的に作り込む、というのが基本的な考え方です。Snapdragon上のAndroidで動作するYouTubeやTwitterなどといったアプリを、ヴィーナスエンジン上の独自OSで作ろうとすると不可能に近いので、そうしたオープンな部分はAndroidで対応し、カメラの使い方の部分は自社でやるようにしました。デュアルエンジンというのは、非効率に見えて、割と合理的な作りなんです。

――Snapdragonを使ったことで、ネットワーク部分は有利になりましたか。

津村:ネットワーク部分は極力Androidを活用しています。スマートフォン市場は年間数十億台とあって、汎用部分はエコシステムがあり、投資も行なわれます。こうした標準的な部分はどんどん良くなっていきます。カメラのクオリティの部分はこうはいきません。カメラの部分だけ究極に作り込みました。

――カメラのLUMIXとして、影響はありますか。

坂本:通信では、最近のLUMIXでは無線LANを搭載していますし、CM1によって通信部分のフィードバックが通常のLUMIXカメラにもあると思います。カメラとしてはAndroidを使っていなくても、無線LANをどのように活用するかといった部分ではまたどんどん進化すると思います。

津村:スマートフォンの部隊では、アンテナ開発のメンバーが燃えていて、通常のLUMIXのアンテナを自分たちでやってみたいと言っています(笑)。CM1でも、フレームの部分がアンテナになっていて、省スペースを実現しています。

坂本:デジカメとは空間の利用の仕方が違いますね。

――4KフォトのようなLUMIXの最新機能も取り込んでますね。

津村:4Kフォトアプリは、最初は搭載されていませんでした。機能として4Kの撮影機能があるのに、それだけではダメだと、4Kフォトの切り出しアプリを新規に組み立てました。日常の使い方で4Kフォトを使いやすくするために考え抜いて作ったので、かなり使いやすくなったと思います。

4Kの映像をセンサーから取り込んで、画質を最適化する部分まではヴィーナスエンジンが対応し、4Kの動画としてエンコードをするのはSnapdragonが担当しています。そのため、4KフォトとしてのクオリティはLUMIXと同等です。

――4Kは15fpsでの撮影になりますね。

坂本:15fpsにしたのは電力や熱を考えた上での選択です。この薄さで、高画質カメラ性能と4K・30fpsの両立は難しい。

津村:そのため、4K動画の撮影というより、メインの楽しみ方は4Kフォトで、「時間を戻って切り出す」といった使い方を想定しています。

日本での発売は?

――コンパクトデジカメ市場が縮小して、スマートフォンが伸びている状況です。

津村:コンパクトデジカメ市場がシュリンクし、あたかもカメラの好きな人が減ったように見えますが、スマートフォンで撮影する人が増え、「写真を撮る人の数」は史上最大級になっています。

その中で、クオリティを求める人は必ずいるはずで、普通のスマートフォンで満足できない人がミラーレスカメラに移行しています。満足いくスマートフォンがないと、一気にそういう時代が来ると思います。

坂本:スマートフォンの画質を上げて裾野を広げてもらわないと、写真に対してステップアップする人の数が減ってしまいます。スマートフォンの画質が上がることはカメラにとってもいいことでだと思います。スマートフォンに何倍もの光学ズームとか超広角レンズを搭載するのはなかなかできないので、そのスペックを載せるためにはどうすればいいかを考えました。

津村:スマートフォンでは大画面化が進んでいますが、一度大画面を体験すると、なかなか小さい画面サイズには戻れません。同じように、一度いい写真を見てしまうと、スマートフォンの写真では満足できなくなり、そういう人はきっと増えてくると考えています。

坂本:そのために、レンズも専用設計で新たに作りました。スマートフォン用の汎用レンズでは「Leica」の名は冠せません。

――端末を見ると、端子がありますね。

底面に金属端子が見える

津村:どんどん楽しみを広げる想定のものをいくつか仕込んでいます。端子はチャージャー用です。レンズには37mm径のフィルターが装着できるようになっており、コンバージョンレンズを用意するといったことを考えています。アダプターをどういう形でやっていくかとか、試行しながらやっていきたいと思います。

Leica DC Elmaritレンズを搭載。37mm径のフィルターも装着できるとのこと

――個人的にはストラップホールが欲しかったです。

津村:もともとの考え方は、ポケットに入れて日常的に使ってもらうというものでした。カバーとかケースを考えていく中で、今後両吊り、片吊り、いろいろと考えています。

――販売地域がまずドイツ、フランスでした。

坂本:カメラのクオリティの価値をしっかりと考えていただけ、LUMIXのブランドが浸透している国を考えました。アンケートを採って、このカメラのクオリティにどれだけ価値を感じていただけるか、カメラとして通信との融合にどれだけポテンシャルがあるか、1インチセンサー搭載カメラが700ユーロ前後からという状況で、899ユーロの付加価値を認めていただけるかを調査しました。

津村:SIMフリーが一般的な国というのも考えました。

坂本:今回は本当にテストマーケティングです。

津村:(ドイツで9月に開催された写真関連展示会)フォトキナの会場でもアンケートを採りましたが、「普段からいい写真を撮りたい」というニーズは非常に高く、ネットにアップするスマートフォンライクな使い方でも高いクオリティが欲しいという声は大きくなっています。

坂本:大型センサーの方が写りがいいというのが知れ渡り、その意味では今回の商品はちょうどいいタイミングかもしれません。

――販売国は今後増やしますか(インタビュー後、12月から英国でも発売することが発表されている)。

津村:グローバルにやっていけるように、設計面では最初から配慮しています。そのため、Google標準の部分を極力活用して、グローバルで使えるようにしました。Androidのいいところは、言語設定で言語の切替が容易で、基本的にはどの国でも行けます。クアルコムも通信部分のエンジンはグローバルで展開が容易になっています。

――日本ではどうですか。タイミング的には(2015年2月開催の写真関連展示会)CP+での発表がベストに思えますが。

坂本:絶対に欧州だけでしかやらない、というわけではありません。とはいえ、世論が大事です。お客さまの要望次第で動きが変わると思います。

――今後、LUMIXと通信の融合はどうなりますか。

坂本:カメラはコミュニケーションのツールでもあるので、これからどんどん極めていこうと思っています。カメラの基本画質や基本性能+コミニュケーションという考え方です。

津村:コミュニケーションのトレンドは、音声通話がテキストメッセージになり、写メールになり、(LINEなどの)スタンプになり、どんどん自己表現を簡単にする方向に行っています。写真は最高の自己表現ツールなので、スタンプよりも、簡単に、しかもキレイに撮った気持ちのこもった写真の方がいい、というようになると思っています。

坂本:「カメラはコミュニケーション」というLUMIXの方向性もありますので、スマートフォンの部隊とは今後もがっつりと一緒にやっていく領域ではあると思います。今回のCM1が先兵となり、LUMIXにそうしたものが自然と取り込んでいかれる、波及していく、という発想です。

小山安博

某インターネット媒体の編集者からライターに転身。無節操な興味に従ってデジカメ、ケータイ、音楽プレーヤー、コンピュータセキュリティなどといったジャンルをつまみ食い。軽くて小さいものにむやみに愛情を感じるタイプ。デジカメ、音楽プレーヤー、PC……たいてい何か新しいものを欲しがっている。