インタビュー
キヤノン「EOS 7D Mark II」の大進化に迫る
5年ぶりに登場した“APS-Cフラッグシップ機”の姿
Reported by 杉本利彦(2014/9/30 11:54)
前機種から5年を経て登場した「EOS 7D Mark II」は、ミドルクラスながらフラグシップ機に迫る(一部超える)性能を持った一眼レフカメラだ。実際にどれほどの進化を遂げたのか開発陣に話を聞いた。(聞き手:杉本利彦、本文中敬称略)
先代の7Dを大きく超えるための5年間
――まず最初に、前モデルEOS 7Dの総括と申しますか、これまでの市場での評価はどうだったのか教えて頂けますか?
大中:キヤノンとしましては、おかげさまでお客様からは非常に高い評価を頂いたと考えています。発売以来5年ほどになりますが、いまだに第一線でお使いのお客様もたくさんいらっしゃいますし、発売当初からライバル機よりも高い市場シェアを獲得することができていました。
――EOS 7Dは2009年10月の発売ですから、約5年間も販売されたのですが、これほど長期間モデルチェンジがなかった理由は?
大中:これはいろいろな理由がありますが、後継機に関してEOS 7Dユーザー含め皆様からの要望を頂いており、基本性能の向上、全体の完成度について今まで以上に妥協できなかったから、と言うのが大きな理由になります。特に連写、AFと言った個別の性能の向上だけで無く、それらを高いレベルで連携させ、EOS 7D同等のボディーサイズに凝縮するということを目指した結果、このタイミングのリリースになりました。
また、EOS 7Dのスペックが長期間通用するものであったことも要因の1つに挙げられると思います。2012年8月には、大幅な機能強化を実現するファームアップを行うことで、寄せられていたご要望の一部にお答えすることができましたし、より長く使い続けて頂く環境を整えました。
――確かに8コマ/秒のコマ速や1,800万画素の画質、19点測距のAFシステムなど、撮影の基本機能は現時点でも十分通用するスペックなので、これを上回るとなるとフラグシップ機並のスペックになり、そうやすやすとモデルチェンジはできませんね。
大中:このクラスの機種になりますと、短いサイクルでのモデルチェンジは既存ユーザーの満足度をそぐことにもなりますし、EOS 7Dでご満足頂いていますお客様に、さらに上のクラスの撮影能力をご体感頂くには、品質や機能面をかなり煮詰める必要がありました。
――最近はAPS-C機の位置付けは、各社とも初中級機に設定されることが多いとおもいますが、APS-C機の最上位機種というポジションについて、市場性はどの程度あると分析されていますか?
大中:ハイアマチュア層の中で、APS-Cフォーマットのイメージセンサーを採用したフラグシップ機クラスのカメラをお求めになる層は十分にいらっしゃると考えています。
プロのサブ機としても
――いよいよ本題ですが、今回のEOS 7D Mark IIの開発のねらいをお願いします。
大中:35mmフルサイズ機は、どちらかと言えば風景などを細密に描写する用途に向いているとおもいますが、APS-C機は疑似的な望遠効果がありますし、ボディも小型のまま高速連写できるように作りやすく、どちらかと言えば動体撮影など機動力の必要な撮影用途に向いていると言えます。
そこでEOS 7D Mark IIは、こういったAPS-C機ならではの特徴を活かしつつも、EOS 7Dが得意としていた、優れたAF性能やフラグシップ機に迫る高速連続撮影などをさらに強化しました。動く被写体の決定的瞬間をより手軽に撮影可能なAPS-Cフォーマットのフラグシップ機を目指すといったコンセプトで作りました。
――そうしますと、想定されるターゲットユーザーはどうなりますか?
大中:主にハイアマチュア層と呼ばれるお客様になると思いますが、その中でも野鳥や鉄道、モータースポーツなどあらゆる動体撮影に興味のあるお客様が中心になると思います。もちろん、プロユーザーもターゲットとして考えています。
――従来のEOS-1D系は、APS-Hフォーマット(レンズの焦点距離換算1.3倍)を採用していましたが、EOS-1D Xでフルサイズに統合されました。ユーザーの中にはもう少し望遠効果のあるフラグシップ機を求める層もいると思いますが、そういったユーザーををカバーする意図もありましたか?
大中:まさにおっしゃる通りで、EOS-1D系がフルサイズに統合された関係で、より望遠効果をお求めになるプロユーザーが、APS-Cフォーマットのフラグシップ機をサブ機としてお使い頂くというニーズも想定しています。そのため、今回のEOS 7D Mark IIは、EOS 7Dよりやや上の位置付けになるように機能を設定しています。
EOS 70Dよりも高感度に優れる撮像素子
――それでは中身についておうかがいします。まずはイメージセンサーですが、EOS 7Dからの進化点を教えてください。
西沢:画素数がまずEOS 7Dの1,800万画素から、2,020万画素に上がっています。あとは高感度化が進んでいまして、EOS 7Dでは常用最高感度がISO6400であったものがEOS 7D Mark IIでは、ISO16000まで上がっています。
また、感度の拡張はEOS 7DがISO12800までであったのに対し、ISO51200まで上がっています。その他の機能としましては「デュアルピクセルCMOS AF」の採用、10コマ/秒に対応する高速読み出し、フルHD画質で60fpsに対応したことなどがあげられます。
――EOS 70Dのイメージセンサーとの違いは?
西沢:高感度特性の向上のために、半導体製造工程で新プロセスを採用しています。
大中:また、詳細はお答えできないのですが、画素数は同じでもセンサー内部の構造を改良して感度を向上させています。
――EOS 70Dは、デュアルピクセルCMOS AFを採用した最初のモデルでしたが、具体的な改善点はデュアルピクセルの構造を工夫したということですか?
西沢:デュアルピクセルCMOSの構造は変えていませんので、その部分はEOS 70Dのものと同じですが、集光効率を高めるための構造上の工夫をしています。
――マイクロレンズを改良したということでしょうか?
西沢:いいえ。マイクロレンズもEOS 70Dと同じギャップレス構造を採用していますが、特に変更点はありません。
――常用感度がISO6400(7D、70DはISO12800)からISO16000と、飛躍的に向上していますが、これはすべてセンサー性能が上がった分ととらえてよろしいですか?
西沢:いいえ。イメージセンサーだけの進化ではなく新映像エンジン「DIGIC 6」との合わせ技で高感度画質を改善しています。
――画素数が微増の2,020万画素(70Dと同じ)になった理由は? もっと高画素化することもできたと思います。
西沢:高感度画質の改善と解像感のバランスを考慮してこの画素数に落ち着きました。また、同じ画素数にしたことにより、EOS 70Dで培った技術を展開することができました。デュアルピクセルCMOSの構造を導入してまだ間もない技術であることもあり、光学設計を大きく変えたくないという意図もありました。
――キヤノンの最近の一眼レフカメラは、1,800~2,230万画素の範囲にあり、だいたい2,000万画素付近にとどまっていますが、これは何か理由がありますか?
大中:画素数は単に高画素化だけが目標であれば増やすことができますが、キヤノンでは高感度性能も非常に重要と考えており、現時点の技術で我々の目標値をクリアできる最高感度と解像感のバランスを考慮して画素数を決定しています。この機種の場合は、2,020万画素で常用最高ISO16000というスペックが最適と判断しました。
――最近他社では光学ローパスフィルターレスのカメラも多くなっていますが、本機でローパスフィルターを搭載し続ける理由を教えてください。
服部:ローパスレス構造にしますと偽色やモアレが発生しやすくなってしまうというのが、やはり最大の理由です。究極には偽色の発生と解像感のどちらをとるかということになると思いますが、バランスを重視して、今のところはまだローパスフィルターは必要と判断しています。
ローパスフィルターの効果は機種ごとに異なりますが、偽色やモアレの発生と解像感のバランスが最適になるように設計しています。
――ローパスフィルターがあっても偽色は出ますよね。
服部:偽色は発生しますが、ローパスフィルターの有無では、その発生の度合いが全く異なります。
――ローパスフィルターは、偽色とモアレのどちらにより効果的なのですか?
服部:両方に効果がありますが、より不快に感じるのは偽色のほうですので、偽色のほうがより効果があるように見えると思います。
――ローパスレスの要望はありませんか? またその可能性についてのキヤノンの考え方は?
大中:そういったご要望があることは認識しています。ただ、偽色やモアレは一旦発生すると後処理で取り除くのは非常に困難ですので、最初から除去したほうが結果的にユーザーメリットが大きいと判断しています。また画素数に関しては、APS-Cフォーマットにおいて2,000~3,000万画素の範囲ではまだ偽色やモアレの発生が見込まれますので、少なくともその範囲ではローパスフィルターは必要と考えています。
新画像処理エンジンで歪曲収差の補正も可能に
――搭載している画像処理エンジン「DIGIC 6」の進化点を教えてください。(注:DIGIC 6は、コンパクトデジタルカメラ「PowerShot SX700 HS」で初搭載している)
服部:画像処理の観点から申しますと、まずノイズリダクションの処理効果を大幅に改善しました。先ほどもありましたEOS 70Dとの常用最高感度の違いは約1/3段分となりますが、実際に使用して頂きますとそれ以上の改善効果を実感して頂けると思います。
また、撮影時の歪曲収差補正ができるようになりました。このほかにも、顔認識の検出精度も向上しているところですとか、あとは動画の圧縮効率が向上しているところなどが主な改善点となります。
――ノイズリダクションでは具体的にどのような改善を行っていますか?
服部:体感的にわかりやすいのは、色ノイズが大幅に低減されている部分だと思います。EOS 70Dと同じISO感度で比較して頂きますと、輝度ノイズもやや改善しているのですが、特に色ノイズの低減効果が大きいことがおわかり頂けると思います。
――実際に撮影してみたところ、色ノイズはほぼ取り除かれていて、輝度ノイズはやや残す方向の処理でシャープな描写に感じられました。
服部:輝度ノイズを取り除いてしまうと、解像感が犠牲になってしまいますので、輝度ノイズを適度に残しつつ解像感も維持できるようにバランスをとっています。
――画像補正に関してはEOS 7Dは周辺光量補正のみ、EOS 5D Mark IIIは周辺光量補正と色収差補正のみでしたが、今回、歪曲収差補正を実現できた理由は?
服部:DIGIC 6で処理が高速化したことが大きいですね。EOS 60D以降はカメラ内RAW現像機能で歪曲収差補正に対応していましたが、撮影時の処理には対応していませんでした。DIGIC 6では処理能力が向上していますので、撮影時の歪曲収差補正に対応できるようになりました。
――歪曲収差補正適用時でも10コマ/秒のコマ速は維持できますか?
服部:10コマ/秒の高速連写時でも、コマ速を落とすことなく歪曲収差補正が可能です。ただし、連続撮影可能枚数は若干少なくなります。
――レンズデータは何本分くらい内蔵しているのですか?
服部:初期設定では約30本分のレンズデータを内蔵していて、最大40本分のデータを登録可能です。
――40本を超えて登録したい場合はどうなりますか?
服部:最大で40本分ですので、追加本数分のデータを削除すれば入れ替えが可能になります。
オートホワイトバランスの精度も向上
――絵作りで具体的に変更した部分はありますか?
服部:ピクチャースタイルの考え方や方向性は従来と変更はありません。ただ、測光センサーに赤外線を感知できる画素が組み込まれた関係で、オートホワイトバランスの精度が以前より向上していると言えます。
――DIGIC 6をデュアル構成にした理由を教えてください。
西沢:端的には、10コマ/秒を実現するためです。つまり、読み出しから画像処理に至る一連の処理を、より高速に行うために導入しました。
――2つのプロセッサーの分担について、1つの画像を分割したり処理のパートを分けたりして処理するのですか? または、パソコンのように1つの処理の計算能力を上げるイメージでしょうか?
西沢:詳細はお伝えできませんが、2つのプロセッサーが最大限活かせるように処理しています。
――EOS-1D Xの「デュアルDIGIC 5+」とどちらが処理能力が高いですか?
西沢:仕様が異なりますのでどちらの処理能力が高いかはお答えしにくいのですが、単純に計算能力を比較した場合は仕様の新しいDIGIC 6のほうが処理能力が上だと思います。
西沢:「DIGIC 5+」は一眼レフ専用に開発されたプロセッサーで、「DIGIC 6」はコンパクト機をはじめ幅広い機種に対応できる汎用性を備えていますので、システムとの兼ね合いで一概には処理能力は比較はできないのです。
――イメージセンサーからの読み出しは何チャンネルですか?
西沢:EOS 70D同様、8チャンネル。14bitで読み出しています。
――「デジタルレンズオプティマイザ」を内蔵してほしいという要望が多いと思いますが、今回搭載していない理由と今後の可能性をお聞かせください。
服部:デジタルレンズオプティマイザの処理はかなり重い処理になりますので、今後の課題とさせて頂きます。
10コマ/秒実現に寄与した「マスダンパー」とは?
――10コマ/秒を達成した仕組みを教えてください。
大中:AIサーボAF(動体追従AF)を行いながら10コマ/秒のコマ速を実現するには、ミラーダウン時にいかに素早くミラーバウンドを抑えて安定させるかが課題になります。単に10コマ/秒のコマ速を実現するだけなら比較的に簡単にできるのですが、これくらいのコマ速になるとコマ間にきちんとミラーを停止させてAFの測距を行うというのが難しくなるのです。
そこでEOS 7D Mark IIでは、シャッターとミラーの駆動機構を一新しました。具体的な改善点の1つは、従来はバネの力で制御していたミラーをモーター駆動に変更した点です。バネ駆動の場合はシャッターを一旦リリースするとミラーは一定速度で一気に動作するため、停止時の衝撃によるミラーバウンドがどうしても大きくなりがちです。
しかしこれをモーター駆動に置き換えると、ミラーが停止する直前にミラーの速度を落とすことができるので、衝突時のエネルギーを低減し、ミラーバウンドも低減させることができます。
もう1つの工夫は、ミラーバウンドを防止する機構です。EOS 7D Mark IIのメインミラーとサブミラーにはEOS 5D Mark IIIと同様のミラーバウンド防止機構がついているのですが、これに加えてサブミラーに「マスダンパー」と呼ばれる一種の振り子状のおもりのような部材を取り付けています。
これによってミラーの振動とは異なる周波数の振動が生じ、互いの振動を相殺し合って、ミラーの振動をより早く収束させることができます。
――シャッターの工夫点はありますか?
大中:シャッターでは、駆動部分にボールベアリングを配置して摩擦を減らし、より高速でスムーズな動作ができるようにしています。
――レリーズ耐久20万回(EOS 7Dは15万回)を達成できた理由を教えてください。レリーズ耐久を向上させるには、どういった部分が課題になりますか?
大中:レリーズ耐久を向上させるには、1つはミラーの駆動部分に伝わる衝撃を低減することが効果的ですが、ミラーバウンドを抑える機構がそのままミラーの衝撃を和らげる効果を兼ねています。
もう1つ、シャッターの耐久性を上げるには稼働部分の摩擦を低減することが効果的ですが、これも先ほどのボールベアリングの採用によって、コマ速を上げると同時に耐久性の向上にも役立っているのです。
さらに、このレリーズ耐久というのはSミラー/シャッターだけでなくカメラとして何回レリーズできるかということなので、レリーズボタンなどの操作部材の耐久性も向上させています。
具体的には、レリーズボタンの軸をEOS-1D Xと同じ金属部品で構成(EOS 7Dは樹脂)したり、AF-ON/AEロック/AF選択ボタンに使用しているゴムの材質をEOS-1D Xと同じ高耐久のグレード品に変更しています。さらに、マルチロックレバーとLV切り替えレバーの内部素材に高弾性素材を使用したりしています。
――低振動化の工夫点はありますか?
大中:これもミラーバウンドの低減が、そのまま低振動化に効果がありますが、これに加えてミラー駆動用モーターの台座部分に振動吸収効果のある制震材を使用しています。また、他の機種でも行っていますが、ミラーボックスと駆動系ユニットの取り付け部分の間にゴムを介して「浮遊支持」とすることで、カメラの低振動化を実現しています。
――EOS-1D Xと同じ12コマ/秒は難しいのでしょうか? どの部分がボトルネックになっていますか?
大中:技術的には、35mmフルサイズのボディで12コマ/秒が達成できているのですから、よりコンパクトなAPS-C機で12コマ/秒ができないことはないです。
ただし、本当に実現するとなると、まずより大きな駆動電力が必要になり、今のバッテリーで安定した駆動が可能かどうかわかりませんし、耐久性を上げるため現在のサイズが維持できず大型化してしまう可能性もあると思います。
また、先ほどのミラーバウンド吸収機構などもさらに上のランクのチューニングが必要になると思いますので、でき上がってみればEOS-1D系並の値段になってしまう可能性もあります。
そうなってしまっては、ハイアマチュアのお客様にお届けすると言う当初の目標が達成できなくなってしまいますので、このクラスのカメラで使用可能な技術要素を突き詰めた上で、達成可能な最大の性能を追求して今回のスペックに落ち着きました。
原田:今のサイズで12コマ/秒が達成できるかというと、いろいろな技術的課題がありますね。電源の点から見ましても、EOS-1D系のバッテリーは3セルで、EOS 7D Mark IIクラスのバッテリーは2セルになります。取り出せる電力は当然限られるため、メカ駆動シーケンスといった技術的な課題もあると思います。
――JPEGのバースト枚数(連続撮影可能枚数)がEOS 7Dの130枚から1,090枚と大幅に増えていますね。
大中:実はJPEG撮影の公称値である1,090枚は、8GBのメモリーカードがいっぱいになる時の数値ですから、より大容量のメモリーカードを使用して頂きますと容量いっぱいまで撮影可能です。つまり、事実上の無限連写が可能になりました。
――バッファメモリはどれくらい増えていますか?
大中:EOS 7Dよりは増やしていますが、詳細は公表していません。
増えたAFポイントを切り替える「測距点選択レバー」
――測距点が65点になって全点クロスになりましたが、そのメリットは?
中川:EOS 7Dの19点に対して、今回は65点と大幅に測距点が増え、ファインダーのより広い範囲を測距点がカバーしていますので、より自由な構図でAFが可能になっています。また測距点の全点がクロス測距ができるようになっていますので高精度なピント合わせが可能です。
――測距点が65点もあると、かえって使いづらくなることはありませんか?
中川:そう感じられるお客様に対応するため、測距点を絞って少なくするモードも用意しました。
――EOS-1D XやEOS 5D Mark IIIの61点のAFセンサーより,一部スペックが上回っていますね。
中川:測距点数はEOS 7D Mark IIがやや上回っていますが、AFユニットの基本性能の部分はいくつか異なる部分があります。
例えばEOS-1D XのAFユニットは、すべての測距点がデュアルライン化による千鳥配置の構造になっているのに対して、EOS 7D Mark IIのAFユニットのデュアルラインは中央5点の縦視野および、F2.8対応視野のみですので、細かな模様やコントラストの低い被写体では、EOS-1D XのAFユニットのほうが合焦能力の点で有利です。
またEOS 7D Mark IIのAFユニットは,中央1点のみF2.8対応で、それ以外は全てF5.6対応になるのに対して、EOS-1D XのAFユニットは、全点クロス測距ではありませんが、中央の5点がF2.8に対応するほか、F4対応のセンサーが周辺付近まで20点配置されていて明るいレンズではより有利になっています。
――総合的にはどちらの合焦能力が上ですか?
中川:それぞれに優位点はありますが、総合的な合焦能力ではEOS-1D XのAFユニットのほうが性能は上です。EOS 7D Mark IIのAFユニットが有利な点は、ファインダーの面積に対して測距エリアが大きい点ですとか、7種類に及ぶ多彩な測距エリアモードがある点、「EOS iTR AF」の追尾能力が上がっている点、低照度限界が中央F2.8対応測距点にて-3EVまで対応できるようになっている点などです。
――レンズによって測距点数が異なるのはどうしてですか?
中川:レンズの光学的な特性上、周辺部の測距点に光が届かないレンズが出て来てしまうからです。全てのレンズで測距点数が変わらないようにするには測距エリアを測距光束が最も狭いレンズに合わせて制限する必要があります。
しかし多くのレンズで、より広い範囲で測距光束が得られるのであれば、それを最大限に活かせるようにしたほうが測距エリアを広くとることができ、ユーザーの利益にかなうと判断しました。設計の古いレンズで測距点が少なくなる傾向があります。
――測距エリア選択レバーの採用理由を教えてください。
大中:今回のEOS 7D Mark IIでは、できるだけファインダーをのぞいたままで、操作が素早くできるようにしたいという思いがありました。
その一貫で、7種類に増えた測距エリアモードを素早く選択するために専用の操作部材を設けました。そこで、測距点の選択に使うマルチコントローラーの周囲に測距エリア選択レバーを新設し、ワンクリックごとに測距エリアを切換えできるようにしました。
連写に欠かせないAIサーボAFはどう変わったか?
――「AIサーボAF III」も進化しました。どんなAF技術ですか?
鈴木:AIサーボAFの設定を被写体や撮影シーンに合わせて、より細かく設定できるようにした技術です。また、AFカスタム設定ガイドで、ケース1~6の設定を選ぶだけで、被写体や撮影シーンに最適な設定を素早くセットすることができます。
アルゴリズムはEOS-1D Xを踏襲していますが、速度変化に対する追従性のパラメーター[-1][-2]、サーボAF連続撮影中のレリーズのパラメーター[+2][-2]の設定は、EOS 7D Mark IIには搭載していません。
――「EOS iTR(intelligent Tracking and Recognition)AF」の仕組みと進化点について教えてください。
鈴木:簡単に申しますと、約15万画素のRGB+IR測光センサーを用いて、被写体の顔や色を認識して測距点の選択や追尾に応用する技術です。
EOS-1D Xに搭載したものと比べますと、顔認識の精度が増しています。また、追尾性能につきましても探査範囲の拡張やアルゴリズムの改善によって、測距点自動選択時の人物の追尾能力が向上しています。
――色を認識する際の仕組みはどうなっていますか?
鈴木:色の認識は、AF開始時に測距点にある被写体の色が基準になります。
徳永:AIサーボAFで、AFを開始する測距点を指定している場合は、AF開始時の測距点の色を記憶して追尾する仕組みになっています。
――AIサーボAF開始測距点を「自動」に設定している場合はどうなりますか?
徳永:EOS iTR AFの手順としましては、まず最初に顔があるかないかの判断をします。顔がある場合は人物が主被写体と判断して顔を追尾しますが、顔がない場合は、AF開始時の測距点の色を検知します。特徴ある色が検知できた場合は、色を基準に被写体を追尾します。
顔も色も検知できなかった場合は、従来の測距点自動選択と同じアルゴリズムとなり、全測距点のうち最も近い被写体にピントが合います。
なお、AIサーボAF開始測距点を「自動」に設定していない場合は、選択された測距点から追尾が始まります。
――顔認識では、瞳にピントを合わせることはできますか?
徳永:顔認識では瞳の位置がだいたいわかりますので、その位置に近い測距点を自動選択するようになっています。
――瞳の左右は指定できますか?
鈴木:指定はできませんがワンショットAFの場合は、瞳のうちできるだけ距離の近い瞳にピントが合うように設定しています。AIサーボAFの場合は追尾を優先しますので、状況によって目ではなくほかの部分を選ぶ場合もあります。
――では、その「15万画素RGB+IR/252分割センサー」とは、どんなセンサーですか?
徳永:ひとことで言えば、通常のイメージセンサーを小型化したようなセンサーです。RGB+IRとしていますのは、通常のRGB画素に加え4色目として赤外線検出用のIR画素が組み込まれていてR、G、B、IRの4色で1組の構造になっているからです。15万画素というのはR、G、B、IR画素の合計が15万画素ということです。
――IR画素の働きは?
服部:木々の緑や芝生など自然界の緑は赤外線を多く反射する特徴があります。この赤外線成分を検知することで自然界の緑を検出し、その情報から光源を推定することでオートホワイトバランスの精度向上に役立てています。
徳永:それ以外にも、光源ごとのAFの補正などにも利用しています。
――顔認識ができるということですが、ライブビュー画像で行う顔認識とどちらの精度が高いですか?
徳永:処理のアルゴリズムは同じですが、ライブビュー画像のほうが画素数が大きいですし、光学性能も測光センサーのほうが劣りますので、ライブビュー画像からのほうが精度は出ます。
被写体別のお薦めAF設定は?
――AFカスタム設定で「被写体追従特性」「速度変化に対する追従性」「測距点乗り移り特性」のパラメータがありますが、各パラメータの特徴と使い方を教えてください。
鈴木:「被写体追従特性」は、障害物がAFフレームを横切った時や、被写体がAFフレームをはずれてしまったときでも、注目している被写体にピントを合わせ続けやすくする機能です。例えば、手前を横切る被写体の速度が遅く、通常ならピントが手前の被写体に移行してしまうような場合でも、もともと注目していた被写体にピントを合わせ続けたい場合は「粘る」の設定にして頂くのがよいと思います。
「速度変化に対する追従性」は、被写体が急激に動き出したり停止したりと、速度が瞬時に大きく変化するする場合に設定する項目です。例えば、サッカーやモータースポーツなど急停止や急減速、急加速のある被写体はその度合いに応じて+1、+2を選択して頂ければ最適です。
「測距点乗り移り特性」は被写体が、上下左右に大きく移動する際にAFフレームの乗り移りに対する設定項目です。この項目は、領域拡大AF、ゾーンAF、ラージゾーンAF、65点自動選択AFの各測距エリア設定時に効果を発揮しますが、例えば新体操のように、被写体が画面内を飛び回るような場合に+1や+2に設定して頂くと良いと思います。
――AFカスタム設定ガイドは6つのケースについてプリセットされていますが。ちょっとわかりにくい部分もあります。鉄道、飛行機、モータースポーツ、サッカー、野鳥での各々最適な設定を教えて頂けますか?
鈴木:鉄道や飛行機はおおむね一定速度で進みますので同様の被写体と考えられますが、遠方から被写体がまっすぐこちらに向かってくるような場合は標準的な設定の「ケース1」が最適です。同じ鉄道や飛行機でも、被写体が横に移動する場合は「測距点乗り移り特性」が+1や+2になる「ケース5」をお勧めします。
モータースポーツとサッカーも急加速や急減速がありますので同様の被写体と考えてよいと思いますが、「速度変化に対する追従性」を+1や+2にする「ケース4」がおすすめです。
野鳥については条件によって大きく変わると思います。例えば近くに巣があって、飛来した野鳥が巣にぴたっと止まるような場合は「ケース3」が良いと思います。同じ野鳥でも空を飛ぶ野鳥は追いづらいと思いますので、「測距点乗り移り特性」を+1や+2に設定する「ケース5」を選択頂くと良いと思います。
――デュアルピクセルCMOS AFの性能は向上していますか?
矢野:まず、ワンショットAFの合焦速度が向上しています。また従来、苦手としていたローコントラストな被写体に対しても滑らかに合焦させることができるようになりました。
あとは、動画モードでの動画サーボAFですが、「AF速度」「被写体追従特性」の設定項目を追加しています。「AF速度」は被写体にピントを合わせる際の合焦速度を設定できます。また「被写体追従特性」は、手前を別被写体が横切ったり、カメラをパンした際にすぐに反応しないとか、逆にすぐに反応できるようにするといった特性を設定できるようになっています。
――動画撮影で60fps時に動画サーボAFができないのはどうしてですか?
矢野:システムの都合上、フルHDの60fps時には動画サーボAFができない仕様になっています。ただ、デュアルピクセルCMOS AFによる動画サーボAFの性能には高い評価を頂いておりますので、今後の検討課題とさせて頂きます。
蛍光灯下で威力を発揮するフリッカーレス撮影機能
――EOSで初めて搭載した「フリッカーレス撮影機能」とはどんな機能ですか?
徳永:フリッカーとは蛍光灯などの人工照明の明るさがちらつく現象で、東日本では100Hz、西日本では120Hzの周期で点滅を繰り返しています。体育館などのそういった照明下においてスポーツシーンを撮影するとき、高感度/高速シャッターで撮影したいのですが、シャッタースピードやシャッターのタイミングによって画面が暗くなってしまう場合があります。
そこでEOS 7D Mark IIでは、測光センサーで光源の点滅周期を検知し、照明が暗くなっているタイミングではシャッターが切れないようにするフリッカーレス撮影機能を導入しました。
――どのくらいの周波数のフリッカーまで対応できるのですか?
徳永:100Hzと120Hzのみです。インバーター付きの照明の場合はフリッカーレス撮影は必要ありません。
――デメリットはありますか?
徳永:フリッカー検知のシーケンスが入りますので、レリーズタイムラグが多少長くなるのと、コマ速が若干落ちます。
――フリッカーレス撮影機能は連写時のみ働くのですか?
徳永:機能をONにして頂ければ、1枚撮影でも連続撮影でもフリッカーによる光量低下のタイミングをずらして撮影できます。
――それはいいですね。蛍光灯下で撮影して暗めに写ってしまうことは結構多いので、それがなくなるのは助かります。
ファインダーも大きく進化
――ファインダー光学系の改善点、進化点を教えてください。
大中:見え方はEOS 7Dと同じですが、新開発のガラスペンタプリズムを採用し、ファインダー右側に十分な表示領域を確保できるようにしました。これによりEOS-1D X同様、ファインダー右側に測光値が表示できるようになりました。
また、新開発の透過型液晶デバイスを組み込み、ファンダーの画面内に表示できる内容を大幅に増やし、「インテリジェントビューファインダーII」としています。
――「インテリジェントビューファインダーII」とはどんなファインダーですか?
大中:従来は、カメラ設定の際はファインダーからいったん目を離して、上面の表示パネルなどで設定を確認する必要がありましたが、EOS 7D Mark IIでは新開発の透過型液晶デバイスにより、表示画面内に撮影モード、ホワイトバランス、ドライブモード、AF動作、測光モード、記録形式、フリッカー検知などのほか、電子水準器も表示できるようになっています。
これと、操作ボタンのカスタマイズ機能などを組み合わせて頂ければ、ファインダーをのぞいたままで、さまざまな撮影設定の切換えが可能になります。
――ファインダー内表示はON/OFF可能ですか?
大中:初期設定では表示はOFFの設定になっていますが、表示情報は各項目ごとに個別にON/OFFできるようになっています。
――ファインダースクリーンが交換式とのことですが、どのようなスクリーンがありますか?
大中:F2.8より明るいレンズを装着したときにピントの山がつかみやすい、スーパープレシジョンマットタイプのスクリーンに変更可能です。交換スクリーンはこの1種類だけです。
防塵防滴性能を先代よりも強化
――防塵防滴性能の強化とはどのように行われているのでしょうか?
大中:EOS 7Dの防塵防滴機能で弱さが指摘されていた、メディアドアやバッテリードア、メイン/サブ電子ダイヤルなどを中心に、EOS 7Dの約4倍にものぼる点数の防塵防滴部材を使用し、EOS 5D Mark III以上の防塵防滴機能を実現しました。
さらに外装パーツシーリングは、従来はパーツに対して後から防塵防滴部材を貼付けるような手法をとっていましたが、EOS 7D Mark IIでは各パーツと防塵防滴部材を一体成形できるように工夫し、ボディとパーツ間の密着精度を上げることで、防塵防滴性を強化しています。
――GUI(グラフィカルユーザーインターフェース)などで進化している部分はありますか?
大中:細かなところでは液晶モニターの表示フォントを、エッジがより滑らかに表示できるスケーラブルフォントを採用していますので、従来のカクカクした文字と比べ見やすくなっていると思います。
これにより、再生画面の情報表示画面では、従来のヒストグラム画面と撮影情報画面を統合し、新たにオートライティングオプティマイザ情報、レンズ名称、レンズ光学補正データ情報などの表示情報も追加されて、総合的な撮影情報が表示可能になっています。
さらに画面をスクロール可能にして、より大きな画面で情報が確認できるように工夫しています。
――CF/SDのデュアルスロットですが、CFはまだ必要なのでしょうか?
大中:1つはEOS-1D Xのサブ機として考えたとき、CFが使えないというのはマイナスポイントになりますし、信頼性の点ではCFが有利であると考えておられる方もいらっしゃいますので、CFカードスロットは残しました。
下位機種からのアップグレードユーザーはSDカードを中心にお使いかと思いますので、双方のお客様にご満足頂けるようCF/SDのデュアルスロット仕様としました。
――今回Wi-Fi機能を搭載せずに、GPS機能を搭載したのはどうしてですか?
大中:アウトドアで撮影される方やプロのユーザーにはGPS機能を必要とされる方がかなりいらっしゃると考えています。また今回は、GPS機能をEOS 6Dに搭載したものより強化していまして、従来からの撮影位置情報に加え、電子コンパスにより撮影した方角も記録できるようになっています。
Wi-Fi機能につきましては、マグネシウム外装(電波を遮る)や内蔵することによる無線性能の安定性との兼ね合い、ボディーサイズへの影響、機能の優先度と価格のバランスを考えた結果、今回は搭載を見送りました。
無線通信をお望みの場合は「ワイヤレストランスミッターWFT-E7」をお使い頂けますので(11月上旬公開予定のWFT-E7のファームウェアVer.1.1.0以上が必要。また、EOS 7D Mark IIとの接続にはインターフェースケーブルが必要)、これらさまざまな要素を総合的に判断して、Wi-Fi機能の搭載を見送ることにしました。
――今回、専用バッテリーグリップ「BG-E16」をボディと同じマグネシウム製にしました。
大中:プロユースを考慮しますと、縦位置での操作性や望遠レンズ使用時のボディバランスを確保する上で、バッテリーグリップの重要性はかなり高いと考えられます。
そこで今回のバッテリーグリップは、本体と同様の堅牢性や防塵防滴機能を確保した上で、本体との一体感を演出する意味でも、グリップのボディをマグネシウム化するのが最適と考えました。バッテリードアの位置も、従来後方にあったものを側面に移動させることで、縦位置でのグリップ感と操作感が、本体の正位置に近い感覚になるようにしています。
――純正のRAW現像ソフト「Digital Photo Professional 4.0」(DPP 4.0)に対応しますか?
大中:対応します。カメラ本体に同梱されるDPPのバージョンは3.14ですが、発売と同時期にWEBサイトからダウンロード可能になります。
◇ ◇
―インタビューを終えて―
EOS 7DやニコンD300Sなど、いわゆるAPS-Cフォーマットのフラグシップ機の発売からいずれも約5年もの歳月が流れ、誰しもがもうこのクラスの後継機は出ないものとあきらめかけていたと思う。ラインナップ上は、初中級機がAPS-Cフォーマット機、中級機以上は35mmフルサイズフォーマット機と、すでに役割分担が進んでいたからだ。そのため、筆者も最初にEOS 7D Mark IIの情報に触れた時は少々驚いた。しかし、冷静に考えてみると、現状でEOS 7Dを使い後継機を待つユーザーはたくさんいると思うし、フラグシップ機のフルサイズ化で取り残された望遠効果に価値を見いだしていたユーザー層や、APS-Cフォーマット用レンズを揃えていたユーザー層などの間で、プロの使用にも耐えるフラグシップ機クラスの性能を持ったAPS-Cフォーマットの高級機に対する需要は、実はかなりあるのではないかと思えて来た。
インタビューで明らかになった通り、EOS 7D MarkIIには、5年の歳月を取り戻すかのように、あらゆる部分で最新技術が惜しみなく投入され、高スペックであったEOS 7Dをはるかに凌駕する性能が与えられている。
実際にEOS 7D Mark IIを操作してみると、AF機能が予想以上に強化され、10コマ/秒の高速連写にも対応し、優れた高感度画質が実現されている。つまり、従来どこか中途半端に感じていたAPS-Cフォーマット機の気になる部分が全て払拭されていて、体感的には限りなくフラグシップ機に近い性能が得られていることを実感できる。一般ユーザーのためのフラグシップ機、EOS 7D Mark IIによって、そんな新しい基準が切り開かれた気がした。(杉本利彦)