インタビュー
【フォトキナ】現行マウントに加え新システムも模索――キヤノン
イメージコミュニケーション事業本部長 眞榮田雅也氏
Reported by 本田雅一(2014/9/18 20:26)
言うまでもないが、カメラ業界においてキヤノンはマーケットリーダーであり、レンズ交換式カメラのトップカンパニーだ。EFレンズ群を中心としたEOSシステムはデジタル一眼レフカメラの隆盛と共に伸びてきた。
しかし、一方で伸張が続いてきたレンズ交換式カメラ市場も、ミラーレス機には伸びがあるものの、一眼レフカメラにはブレーキがかかってきた。この2年、年率2割のペースで落ち始めているコンパクトデジタルカメラ市場とともに、どう市場変化に追従しようとしているかは、今回のフォトキナにおける裏テーマの1つと言えるかもしれない。
これまでも、クイックリターン式ミラーを備える一眼レフが基礎となるEFレンズ群とそのユーザーコミュニティと“将来のカメラ像”の両方に対し、キヤノンがどのように接しようとしているのか、インタビューを通じて発信してきたキヤノン イメージコミュニケーション事業本部長の眞榮田雅也専務に、今回のフォトキナでその考えについて改めて話していただいた。
EFマウントと異なるシステムも模索中
――今回は待望のEOS 7D Mark IIに加え、交換レンズ、それに高級コンパクトカメラのPowerShot G7Xと豊富な新製品を用意しました。しかし、市場環境の変化に対して従来路線の延長で“より良い後継機種”を続けている印象もあります。レンズ交換式カメラの将来ビジョンや、それに伴う製品展開についてどう考えていますか?
EFレンズ、EF-Mレンズを中心としたラインナップで、より良い製品を開発、提供して、その時々に最高の製品を提供することで攻めていく姿勢はこれからも変えません。この数年、我々はEFレンズを常に最新のトレンドに添ったシステムとなるようアップデートしながら、カメラボディの性能向上に取り組んできました。
“より良い後継機種”は今後も出し続けていますが、一方でニーズの多様化、変化に対応するための研究開発や商品企画に対しても取り組んでいます。その中には、EFシステムとは異なる新しいマウントシステムの研究開発もあります。
――新マウントシステムというと、EFマウントの次と捉えられてしまう場合もあると思いますが、今の話からすると“EFマウントとは別に、EFマウントではカバーできない領域に提供する新マウントシステム”ということでしょうか?
現時点では“模索を続けているところ”ですが、レンズとカメラボディの通信インターフェイス、光学設計、センサー設計などあらゆる面で“未来にはどうなるか”を想定しながら、次世代のプラットフォームを検討しています。
このような研究開発を行っている理由は、カメラに対するニーズのひとつにダウンサイジングがあるためです。EFレンズを中心としたEOSシステムでは、常に最高の画質を提供しようと努力していますが、そうした方向とは別に小型化を求める声があるのも事実です。
――これまでシステムカメラの小型化ニーズに対しては、EF-M(EOS Mシリーズ)で対応していくと仰っていました。
もちろん、EF-Mは一生懸命やっていきます。EOSシステムと同等の画質を維持しながら、その中で携帯性を最大限に高めているのがEOS Mのシステムです。今年もEF-Mレンズのラインナップを強化しましたが、これは引き続き行っていきますし、ボディの新製品もそう遠くないうちに提供できます。EOS Mシステムの携帯性は、まだまだ改善できますので、そこはどんどん攻めていきます。
――ではEF、EF-Mに対する注力は変わらないということですね。
はい。EFもEF-Mもコンパクト化に関しては、それぞれのフォーマットにおいて、最大限に努力はしていきます。その上で“これからのシステムカメラ”の研究開発を行っているということです。
――それはより小さなセンサーフォーマットの新マウントを検討するということでしょうか?
単一面積で取り込めるフォトンの量は限られていますから、小さなフォーマットで高画質はとても難しくなります。将来、光電変換の効率(センサー性能、光学設計、映像処理)のスペック向上を考慮した上で、どのぐらいのサイズのセンサー、システムが最適なのか。その最適解が大きなテーマになります。
――光電変換効率の向上に伴う小型センサーの画質向上という面で言うならば、たとえばマイクロフォーサーズは、ちょうど良いシステムサイズに収まっていませんか?
未来を見すえた上で、それが本当に最適解なのであれば、マイクロフォーサーズを採用しても構わないと思います。顧客に最大限の価値を提供するという観点で良いシステムとなればいいんです。
しかし、現時点で我々がEOS 5D Mark IIIやEOS 6DとEFレンズ群で出せている“絵の品質”は、将来のダウンサイジング新システムでも提供できなければならないとも思います。“一眼だからあの画質”ではなく、“写真”を撮影する装置として必要だと考えているからです。
その品位レベルを出せるギリギリのサイズはどのぐらいなのか。また、そのサイズでシステム全体のサイズをどこまで小さく出来るのか。今のところ新マウントシステムとして立ち上げられるという判断には至っておらず、よって模索を続けています。
ミラーレスに求められるニーズをコンパクトで満たせるか?
――“ダウンサイジングニーズへの対応”という意味では、4年前のフォトキナでレンズ交換の必要性も含めて検討すべきとおっしゃっていましたね。そこでPowerShot G1Xなどが投入されたのだと思います。1.5型センサーは写真らしい絵を出せているように思えます。
ただ、一方で高級コンパクト機としては、ソニーのRX100シリーズが1型センサーで金脈を当てました。今回発表のPowerShot G7Xは、そのRX100を意識した商品企画に見えます。
それはありません。高級コンパクトの市場はこれまで継続的に取り組んでいました。これは4年前のフォトキナで予告していた“実験”の継続です。実験とはミラーレス機に求められているニーズをレンズ交換なしで満たせるか否か。
PowerShot G1X Mark II、G7Xはいずれもミラーレス機の領域をカバーするコンパクトデジタルカメラとして企画しました。今後もコンパクトなシステムカメラが必要か、それともレンズ交換はなくとも高画質ならば良いのか。どのぐらいの高画質が求められるのかなど、我々自身の製品ラインナップの中で模索します。
――Wi-Fi連動機能に関して、使い勝手はかなり上がってきましたが、それでもまだ改善の余地はあると思います。たとえばLTEなどの高速な携帯電話向け通信網を使うなどの可能性は?
Wi-Fi連動はNFC搭載機種に関しては、かなり良くなってきたと思います。その次の段階として、LTEへのダイレクトな接続などのテーマにも取り組んでみたいとは思います。しかし、まだスピードは遅い。将来に向けての研究開発テーマにはなると思います。しかし、“5G時代”には確実に変化しているでしょうね。カメラで撮影した写真がクラウドに直接つながっていくでしょう。
我々は海外中心にアイリスタという画像共有・管理サービスを展開しており、今回はそのサービス拡充を発表しています。ブラウザベースでもアプリを通じても、接続機器や必要に応じて最適なサイズで画像を取り出せます。
――パナソニックのLUMIX DMC-CM1がスマートフォンとデジタルカメラの融合において、これまでのAndroid搭載カメラとは異なる手法を試そうとしています。キヤノンも将来はそうした方向に向かうのでしょうか?
実は試作品ですが、キヤノンも本格的なデジタルカメラプラットフォームとスマートフォンを融合させた試作機を作った事があります。ただし、現時点で製品化の予定はなく、研究開発の一環としての試作です。
――眞榮田さんはデザインや質感といった部分に、より一層力を入れたいと以前に話していましたが、具体的な取り組みとして進めていることはあるでしょうか?
現在のEOS 6Dなどはデザイン的にかなり洗練されたものに仕上がっていると思います。しかしキヤノンのカメラ全体には、もう少しソリッド感が欲しい面はありますね。現在、EOSだけでなく、PowerShotやIXYを含め、キヤノン製カメラに共通する新しいデザインコンセプトを検討しているところです。なかなかコレと言えるものが、まだ見つかっていないのですが、デザイン強化に向けて努力しているところです。
年内に“面白いレンズ”をリリース
――今回のフォトキナでは「クロスメディアステーション(仮称)」の試作を発表しました。詳細がまだ紹介されていないようですが、どのような製品になるのでしょう?
大容量ストレージを内蔵し、テレビに接続して写真撮影できるとともに、Wi-FiとNFCを搭載しています。NFC対応のキヤノン製カメラやカムコーダなどを置くと自動的にWiFiダイレクトで接続し、内蔵ストレージに吸い上げます。内蔵ストレージに保存するだけでなく、クラウド側のストレージとも同期を取ります。
――対応するサービスなどは決まっているのでしょうか?
そこはまだ検討しているところですが、たとえば弊社が展開するアイリスタとのバックグラウンド同期などは検討を進めています。ここを中心にプリントサービスに接続したり、自宅プリンタからの写真出力なども行えるようになりますし、静止画だけではなく動画にも対応しています。まずはキヤノン製品をつなげる機器として出しますが、将来は対応の幅を拡げていきたいですね。
――すでに9月ですが、年内にまだ新しい製品が投入される予定はありますか?
昨年のインタビューで、来年は“面白いレンズ”を出すよと話していたと思いますが、実はまだ出せていません。それが年内には投入されます。交換レンズシステムとして新しい面白さを演出する製品になるので、楽しみにしておいてください。