インタビュー

【フォトキナ】内製技術を活用、斜め上への進化を目指す――ソニー

業務執行役員 デジタルイメージング本部長 石塚茂樹氏

デジカメ Watchが創刊されたのは2002年9月のこと。この年に開催されたフォトキナレポートでローンチされたのだが、当時から恒例となってきたのが、フォトキナ開催期間中に各社のキーマンに登場いただき、業界トレンドおよびそれを背景にした自社製品について、そして将来ビジョンについて語っていただくインタビューである。

ソニー業務執行役員でデジタルイメージング本部長の石塚茂樹氏

当時は売上げ伸張はごく当たり前のことで、テーマはいかに“銀塩カメラとの差を縮めるか”、“銀塩をデジタルで置き換えることができるのか”。その目的を達成するために、どんな新技術を導入し、どのように上下へのラインナップ展開を拡げていくのかが話の軸になっていた。

しかしご存知のように2007年の世界金融危機以降、世の中の様子が変化してきてきた。単純な契機の善し悪しだけでなく、スマートフォンの登場と内蔵カメラの高画質化、SNSによるライフスタイルとデジタルワールドの一体化など、社会的な背景が大きく変わっていく中で、カメラの使われ方も変わったからだ。

このところ、毎年20%程度という凄まじいペースでコンパクトカメラ市場は小さくなっている。

その中でメーカーが何を考えて“現在の製品”を生みだし、未来のビジョンへとつなげていこうとしているのか。新製品へのコダワリはもちろん、各メーカーがどのようの物事を考え、カメラファンに対してどのような価値を提供しようとしているのか。システム全体をどのようなものに仕上げていきたいのか。

単調な高画質化、高性能化という流れも続いている中で、フォトキナという節目に各社が何を考えているのか。まずはソニー業務執行役員でデジタルイメージング本部長の石塚茂樹氏からインタビューを始めたい。

2012年からプレミアム製品にシフト

――前回のフォトキナでは、ライカ判フルフレーム(35mmフルサイズ)のセンサーを備えた単焦点レンズ搭載コンパクトカメラのサイバーショットDSC-RX1の発表で市場を驚かしましたが、それ以降もサイバーショットRX100シリーズは、ポケットに入るプレミアム画質のデジタルカメラという新ジャンルを開拓した製品にもなっています。

 フルフレーム・ミラーレス機のα7シリーズも他社にないラインナップとしてトレンドをリードしています。とりわけ“プレミアム・コンパクト”路線では先行していました。なぜ先んじることができたのでしょう?

サイバーショットDSC-RX1
α7

私(石塚氏)は2007年〜2009年途中までデジタルカメラ事業を担当していましたが、その後の3年ぐらいはデバイス事業を担当。デジタルカメラに戻ったのは2012年です。その間のことはわかりません。金融危機のときにブレーキを踏むのは当然なのですが、2012年6月に事業部に戻ったとき、明らかな市場の変調を感じてすぐに事業計画、商品ポートフォリオの見直しを指示しました。それが、その後の一連の製品へと繋がっています。

――2012年9月のフォトキナでは、どこも市場の変調は訴えながらも、一時的な景気動向によるものだというメーカーが多かったように思います。もちろん、メーカーの淘汰は進みつつありましたが、フルラインで展開する大手メーカーは明確なブレーキをかけることをためらっていたように思います。その中でかなり大胆に変えていったということですか?

はい。着任早々にコンパクトデジタルカメラの売上げが一時的に下がっているのではなく、この先の需要動向が悪くなっていることがわかりました。その前に2011年の東日本大震災やタイの大洪水で生産数が落ち込み、バックオーダーを大量に抱えていたんです。

 こういう時には需要を高く読み過ぎるもので、常に品不足の状況から生産強化しやすいものなのですが、これは市場そのものの先行きが変わってきていると判断しました。右肩上がりの成長戦略ですべての物事を決めていたのを見直し、販売台数が増え続ける時代が終わったことを前提に製品ラインナップの見直しをかけています。

――そこでプレミアム製品へのシフトを始めたのですね?

はい。2012年に始を始めたラインナップは、軸足が完全にプレミアム製品へとシフトしていました。プレミアム性を高めるという方向に向かう必要性はコンパクト製品だけに感じていたわけではありません。αに関してもAマウントの販売台数は一定量は確保できても伸び悩んでいましたし、NEXは成功しましたがシェアは伸び悩みました。

その中で上位のキヤノン、ニコンとどう戦うべきかを考えた時、彼らが事業として本気で取り組みにくく、自分たちにとって自由度の高い戦略はなにかを考え、フルフレームセンサーのミラーレス機を作ることにしたのもこの頃です。ボディやレンズの企画すべてをプレミアム方向へと向かわせました。

RX100の斜め上を目指す

――他社へのインタビューも振り返りますと、プレミアム系コンパクトへとアクセルを踏み始めるのが少なくとも1年は速かった印象です。しかし、他社もこの流れに対応してきていますね。今回のフォトキナではRX100シリーズを狙い撃ちにした製品がいくつか出てきています。ソニーも予想はしていましたよね?

もちろん、これだけRX100が好調ならば他社が対応してくることは予想しています。“新しい何か”は仕込んでいまよ。何とは言えませんが、RX100で先んじることができたのですから、さらに前に進みます。

サイバーショットRX100

――新しい何かとは“より良いRX100”なのでしょうか? それとも、競争軸を変える取り組みでしょうか?

他社がきっとやらないだろう、あるいはやりにくいだろう、といったことを考えてロードマップで描いています。確かにスペック面でRX100よりも良いカメラを他社が用意してきています。より良いRX100も取り組まねばなりませんが、そのまま真上に性能を伸ばすのではなく、斜め上に進化していけるといいと思います。

それはたとえば、いままでは撮影できなかった(あるいは撮影しにくかった)写真が簡単に撮影できるために機能を加えるなど地道な改善もあるでしょう。あるところまで進化が進むと、重箱の隅をつつくようなところで差異化するような開発が行われるものですが、あえて競争軸を変えることを考えています。

ではどのような方向でとなりますが、ソニー内製の技術を活用します。ソニーのイメージング製品は世界ナンバーワンのイメージセンサー、レンズ、プロセッサ設計ノウハウにあります。この3つのコアテクノロジーを進化させ、組み合わせることで自分たちにしかできないことを提案するつもりです。

まだどこもやっていない、一歩も二歩も先に行ける仕掛けを今、仕込みんでいるところです。実際に発表すれば、“この手があったか、こんな技術がソニーにあったのか”と驚いていただけるものになります。

Androidのデジカメは今後議論

――単純に“上に行く”モデルではないということですね。そうした意味では、パナソニックが発表したLUMIX DMC-CM1がスマートフォンとカメラの融合を果たして注目されています。こうした通信機能との一体化という方向への取り組みはどうお考えですか?

デジタル写真の使い途としてSNSへの投稿はもっとも多いもののひとつです。もちろん、興味はあります。我々もWi-Fiでの接続性を高めるよう開発を積み重ね、ユーザーからも評価していただいています。

さらに、ソニーグループにはソニー・モバイルコミュニケーションがありますから、彼らと一緒になってスマートフォンとの連動性を高めることもできます。

――ソニー・モバイルとの協業という意味では、デジタルカメラで撮影した後の連動において、まだまだストレスフリーとは言えない状況だと思います。この分野での可能性を別の方法で、といったことは考えてはいませんか?

我々デジタルイメージング部門は、Xperia Zシリーズのカメラを設計・開発していますから、スマートフォンで何ができるのか、スマートフォンとの連携で何ができるのかは続けています。

LTE通信機能内蔵にも興味はありますが、Androidは頻繁にアップデートがありますし、発売地域ごとに法律や使える周波数帯なども異なります。地域を絞っての発売でなければ、通信機能を盛り込んでのビジネスは難しい面もあります。いずれにしろ、今後の議論はしていきたい分野です。

Aマウントも大切にしていく

――α7システムの発表時、EマウントとAマウントを総称してαマウントシステムと表記していましたが、今回のプレゼンではさらにボディを紹介する際にも、フルフレームセンサー搭載の上位製品と、APS-Cサイズセンサーと4Dオートフォーカス(ファストハイブリッドAFの新名称)機能を搭載するカジュアルな製品ライン、それぞれでEマウントとAマウントの製品を1枚のスライドで示していました。

さらにレンズシステム全体の写真も1枚に収めています。フランジバックが違いますので、ミラーレス機と一眼レフはシステムを区別するのが通例と思いますが、これは意図したメッセージと受け取っていいのでしょうか?

はい、どちらもαマウントシステムであり、ひとつのシステム、世界観に基づくものであると考えています。ただ、伝えているつもりでも伝わっておらず、今回はプレゼンの中でも強く意識していました。

NEXというαとは区別されたブランドを使わず、αに統一した上でシステム化していくことは2年前から考えてきました。アダプタを介することでAマウントをEマウントとしても使える、という意味で互換性は従来からありましたが、さらにαマウントシステムでは映画やドラマを撮影するためのプロフェッショナルムービーカメラも包含させたり、サードパーティ製レンズへのマウント規格ライセンスを行ってきました。

アダプターを介しては大手2社のレンズも使うこともできますし、“αマウントシステム”で多様なシステムを構築していきたいと思っていました。今回はスーパー35対応ムービーカメラの本体も発表した後ですし、これまでよりコンセプトを明快に発表できたのだと思います。

――AでもEでもなくαマウントシステムであるというメッセージは、このところAマウント対応のカメラボディやレンズの新製品が手薄なこともあって、Aマウントをフェードアウトするのではないか? と受け取る消費者もいるのではないでしょうか。

AとE、2つのフランジバックがあり、さらにセンサーフォーマットとしてはライカ判フルフレーム、APS-C、それにムービー用にはスーパー35もある。ひとつのシステムというには、少々わかりにくいと思うのですが、1つにする意図とはなんでしょう?

まずセンサーフォーマットですが、“大は小を兼ねる”面もありますよね。これから(すでにAマウントレンズは多数あるため)フルフレーム対応のFEマウントレンズを多数投入していく計画ですが、それらはすべてのαマウントシステムのカメラボディで使うことができます。

極端な話、αマウントシステムのボディにマイクロフォーサーズのセンサーを入れてもいいんですよ。そうした意図もあって、フルフレームセンサー対応レンズを強化していきます。また別の側面として、フルフレームセンサー対応のミラーレス機が伸びていますから、そこにプレミアム性の高いレンズを投入してきます。

Aマウントが顧みられていないのではという話ですが、Aマウントには一定のニーズがあり、日本では未発売のAマウントカメラもあります。現時点ではFEレンズが不足しているため、ここに引き続き力を入れているということです。

――今年はα77 IIも発売しましたし、Aマウントシステムも定期的にアップデートしていくということですね。

α77 II

2年前まではAマウントボディも出荷が伸びていましたが、それだけでは事業を拡大することが難しくなっていました。それとは別にEマウントが伸び始め、さらにフルフレームセンサーのα7でさらにもう一伸びがありました。α6000ではさらにオートフォーカスを革新することで伸ばしています。

α6000

一方でキヤノンやニコンのシステムから、フルフレームセンサーでもコンパクトなα7に移行しているお客様もいますので、トランスルーセントミラーシステムと必要に応じて選んでいただきたい。Aマウントは多くのファンもいらっしゃいますから、ソニーとして大切にしていきます。

コンパクトは縮小も、ミラーレスビジネスに自信

――欧米はミラーレス機がなかなか育たないと言われてきましたが、最近は欧州でミラーレス機が伸びています。α7の投入後、欧米市場の状況はいかがでしょう?

欧州は確実に伸びてきています。欧州全体ではまだ25%ぐらいですが、特定の大手写真専門店では半分がミラーレス機といったところもあり、理解が進むとともにミラーレスは伸び始めています。特にドイツは3割がミラーレス機になってきました。

北米市場も徐々にですが変化はしてきているという状況です。レンズシステムが揃ってくるのを待っている方が少なくないので、今回、レンズを充実させたことで今後は北米での伸びも期待できると思います。

――デジタルカメラ業界の退潮傾向が昨今言われていますが、今後はどこに成長軸を見いだせるとお考えでしょう?

ソニーのカメラ事業という観点でみると、ミラーレス機に関しては事業を着実に伸ばしていく自信があります。しかし、コンパクトデジタルカメラの事業は縮小せざるを得ないでしょう。

 プレミアム性の高いコンパクトデジタルカメラはRX100シリーズに代表されるように存在しますが、まったく同じ路線で製品スペックを強化しているだけではダメだと思います。

――それは世界的に大成功を収めているRX100シリーズ3製品も、そのまま進化させるだけの製品作りはしないということですね?

今成功しているからといって、それにしがみついていてはいけません。成功しているから良いのではなく、成功しているからこそ、ある意味自己否定しながら新しい領域を開拓しなければやっていけません。

あるいは、カメラ業界という枠の中では、それでも(ある程度の期間は)通用するかも知れませんが、他の産業カテゴリのイノベーションが起きると、とたんに市場全体がやられてしまう。スマートフォンの登場も、さまざまな市場がなくなった理由ですが、“デジタルイメージング技術”を愉しさにつなげていき、新しい事業領域を作って行く必要があります。

業務用にも使われるレンズスタイルカメラ

――レンズスタイルカメラのQXシリーズに新製品が追加されました。新製品にはAPS-Cサイズセンサー搭載でEマウントレンズが装着できるQX1もありますが、このシリーズに力を入れている理由はなんでしょう?

QX1

QXはコンシューマだけでなく、意外に業務用としても使っていただいたり、想定外の使い方をいろいろなユーザーにしていただけました。ある一定量は一気に売れて、時に品切れを起こしたこともありましたが、現在の出荷数は落ち着いています。

しかし、QXユーザーの想定外の使い方からアイディアをもらっている部分もあり、レンズ交換式にすることでまた新しい気付きが得られると思っています。たとえば、天体写真を撮影する方には、小型の本体を望遠鏡用のアダプターに装着し、スマートフォンやタブレットを使って撮影できる便利さから欲しいという声を頂いています。

また、プロのカメラマンでもサブ機として常にカバンに忍ばせておいたり、小さくて軽いため大型レンズのリアキャップ代わりに装着しておきたいという方もいました。

年5本以上のレンズを投入予定

――こうした新しいスタイルのカメラから、ソニーのカメラが向かう新しい軸を見つけていくということでしょうか。ソニーのカメラ事業は、真正面から正攻法で攻めるが故に、やや遊びが足りないという印象もありますが。

“電機屋のカメラ”とは言われたくありません。そのために必要以上に正面からレンズ交換式カメラに取り組んできました。カメラメーカーとして、“一流”になりたい。そのために何をすべきかを考えて事業を進めてきたので、そういう側面もあるかもしれません。しかし、今後も正攻法で正面から取り組みます。

レンズ交換式カメラのメーカーという意味では、やはりレンズがひとつの切り口になります。光学技術、メカトロ技術、半導体設計技術。これらを駆使して高品質のカメラメーカーになりたいと考えてきました。

今回、たくさんのFEレンズを発表できたのも、正面からカメラメーカー/レンズメーカーとして取り組んできたからです。

レンズに関しては2015年度以降もたくさん出していきます。毎年5本以上の予定があります。Eマウントレンズが不足しているので割合としては多いのですが、Aマウントも織り交ぜて提供していきます。

(本田雅一)