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インタビュー:ミラーレスの「今」と「これから」【キヤノン編】

〜常務取締役 イメージコミュニケーション事業本部長 眞榮田雅也氏に訊く

 2011年はEFレンズの強化を徹底的に行ないたい――フォトキナ2010で、力強く宣言していたキヤノン常務でイメージコミュニケーション事業本部長の眞榮田雅也氏。レンズの新モデル、リニューアルのラッシュだけでなく、EFレンズとカメラの通信手順までを含めて進化させ、カメラの機能を前進させるための基盤作りが、2011年のキヤノンの大きなテーマだった。

キヤノン常務取締役 イメージコミュニケーション事業本部長 眞榮田雅也氏

 そんな次の新しい時代に向けたキヤノンの新しいスタートに向け、新レンズ発表を皮切りに順調に始まったと思われた2011年だが、3月11日の東日本大震災をはじめ、次々に計画変更を迫られる事態に陥っているという。

 特にEFレンズのシステム強化に対しては、栃木県宇都宮市の工場が大きな被害を受けた。ここはキヤノンの中でも、高付加価値のLレンズを生産するとともに、新しい技術を使った最新の製品を生み出す基礎技術とその応用を行なっている光学研究所も併設されている。

 この工業団地は全体が大きな被害を受けており、キヤノンの場合は天井、壁などが崩壊し、渡り廊下が落下するなど、ビルそのものの損害が大きく、その復旧に手間取ったという。完全復旧が6月上旬だが、生産だけでなく研究開発のスケジュール遅れも余儀なくされ、スケジュール全体が後ろにスライドしたそうだが、それもなんとか元通りのスケジュールへと近づける算段を付けつつあったという。

 ところが、今度はタイの洪水が発生。震災時は被害状況の把握を素早く行ない、その後の復旧に力を注ぐことができたが、タイの洪水はカメラに関連するサプライチェーンの隅々に影響が及び、最初の想定をはるかに越えた計画変更があった。

 キヤノンはカメラ関連製品の組立工場をタイには持っていなかった(プリンター工場はアユタヤにある)が、多層フレキシブル基板や半導体製品などを製造するパートナーの多くがタイに進出しており、その影響がどこまで及ぶかは想像できなかった。

 しかし、現時点では生産拠点の転換などが進み、サプライヤーからの部品供給も復旧。12月上旬には平常通りの生産体制に戻ったと眞榮田氏は話す。

「サプライヤーは、まだ引き続き大変な状況に置かれていますが、部品供給が確保できたことで、キヤノンに関しては年内には元通りに戻ります」(眞榮田氏)

 では2012年、製品開発と供給の体制が整ったキヤノンは、どのような道を進むのか。(聞き手:本田雅一)


2012年中にミラーレス機を投入か

 2011年末の時点において、レフレックスミラーのないレンズ交換式デジタルカメラのシステムを発表していない日本のメーカーはキヤノンだけとなった。カメラ業界の中では、キヤノンもミラーレス機の開発を2010年末には開始。2012年春の発表を少しでも前倒しにして1月にある米国での展示会、CES/PMAでお披露目ではないか。そんな噂が飛び交っていたほどだ。

 真偽のほどはというと、もちろん経緯についてはノーコメント。しかし「2012年、キヤノンも基本的にミラーレス機投入の方向で考えている」(眞榮田氏、以下同)と明言した。

――完成されたEFレンズのシステムを持つキヤノンが、ミラーレス機向けのシステムを開発するとしたら、どのようなコンセプトになるのでしょう?

「カメラに要求される性能は、第一が高画質です。そして、その次に来るのが小型化。レンズ交換式でもコンパクト機でも、このニーズの優先順位は不変です。これはビデオカメラでも同じ。どんな撮影機材でも、小さければ身に付けることができ、いつでも携帯してあらゆるシーンで撮影できる。すべてのカメラに、一様に小型化のニーズがあります」

――つまりキヤノンのミラーレス機は小型化と画質のバランス点をどこに持ってくるかがひとつのテーマということですね?

「高画質化とボディの小型化という点では、今のEOS Kissを改良していくことで、お客様のニーズに応えていくことができるだろう。そう考えていますが、バックフォーカスを長く取る分、本体の厚みだけでなく広角レンズのサイズという面で限界はあるでしょう。システムとしての小型化を考えるとミラーレス化が一つの解ではあるでしょう。この場合は、あえてシステムを変えるわけですから、現在のEFとは異なる特徴を持つカメラということで、小型化の優先順位が一番になります。レンズを含めたシステム全体の小型化を意識したカメラということです」

――もし新しいマウントを作るのであれば、従来のマウントではできない、異なる特徴をもったマウントに……とは、どのメーカーも同じように考えていると思いますが、キヤノン独自の切り口として頭に入れているポイントはなんでしょう?

「交換レンズ式ミラーレス機はすでに世の中にたくさんあるのですが、交換レンズの装着率は意外なほど低い。具体的に付帯率の調査をしたわけではありませんが、流通しているレンズの量などを考えると、現実に交換レンズを使っている人が少ないと感覚的にわかります。では、どうすれば交換レンズを使ってもらえるのか。それこそがレンズ交換式カメラの魅力を高める上で重要なキーファクターですから、小型化のニーズも含めてシステムの全体像を検討する必要があります」

――昨年、眞榮田さんは「キヤノンはあくまでもEFシステムを守り、大切にしていく」と話していました。仮に新マウントが登場した場合、EFシステムの位置付けが変化することはありませんか?

「EFマウントを使った一眼レフカメラの小型化は、EOS Kissだけでなく全ラインナップで進めている最中です。これから上位モデルを含め、どんどん小型化を進めていきます。その一環として、さらに小型かつ高画質なシステムとして、ミラーレス機があるという形が考えられるでしょう。交換レンズのあり方としては、EFシステムを大切にしつつ、次世代へも歩んでいくという形ですね」

――EFシステムとの互換性を強く意識しているということでしょうか?

「EFレンズそのものも進化させており、本格的な動画対応を含めて拡張していきます。そのEFシステムとの互換性は当然ながら重要です。仮に新マウントとしてもシステムとしての互換性は機能を含めてきちんと取ることが可能になるでしょう」

――35mmフィルムの世界で完成されたレンズシステムを持っているメーカーは、明らかに従来のシステムとは異なるコンセプトにするか、あるいは従来システムとの互換性を徹底的に取るか。既存ユーザーへの配慮もあってか、解りやすいコンセプトで製品を出す傾向が強いと感じています。EFレンズとの互換性重視という切り口で考えると、画角の使いやすさという切り口もあります。ミラーレス機の画角はAPS-Cサイズに近いものになるのでしょうか?

「ミラーレス機向けに新マウントを考える場合の前提として、“一定以上のサイズのイメージセンサー”は必要であろうと考えています。それは画質の良さ、コンパクトデジタルカメラとの違いをハッキリと出すために必要なものです」

――新システム立ち上げから、レンズシステムの完成までのタイムラグを考えると、イメージセンサー性能は向上する可能性があります。システム全体の小型化が最優先ならば、数年後を見据えたサイズとする方がよいとの判断はないでしょうか?

「イメージセンサーの性能は今後も上がり続けるでしょう。しかし、実効感度の改善は現時点でのAPS-Cサイズセンサーをスタート地点として積み上げたいですね。そうするとで、撮影の幅が大きく拡がっていきますから」

「とはいえ、将来はイメージセンサーをダウンサイジングする時代はくるでしょう。フォーマットを大幅に小さくする場合、今度はレンズから来る制約(レンズの解像度や収差基準)が厳しくなってきます。もっと本質的な、総合的な小型システム開発というタイミングが来るかも知れませんが、それはまだずっと先のことだと考えています」


様々な分野で新しい提案を

――ではAPS-Cよりも小さく、マイクロフォーサーズよりも大きい。そんなサイズが想像できますが、キヤノンは映画産業向けにムービーカメラのC300を発表しましたね。ここではEFレンズとボディの通信規格も大幅にアップデートされているようですが、Super35のセンサーを採用している点も興味深い。この横幅を縮めるとフォーサーズ相当になりますし、縦を延ばしていくとAPS-Cになる。センサーの設計を共有しようと思えば、どちらか片方の辺を同じサイズにすると楽ですよね?

(注:映画用35mmフィルムの撮像コマに対し、サウンドトラック部を用いて左右を拡げ、上下をトリミングしてワイド画面とした記録方式。正式にはSuperscope 235。キヤノンはサイズの詳細を発表していないが、同様にSuper35相当サイズのセンサーを使うソニーNEXCAMの場合は23.6×13.3mm。フォーサーズ規格は17.3×13mm、APS-C規格は23.4×16.7mm)

キヤノンが2011年11月に解発発表した4K動画記録を実現するデジタル一眼レフカメラ Super35フォーマット採用のC300

「Super35というセンサーサイズは面白いですよね? 映画向けのC300には、いろいろと新マウントを使ったカメラシステムのヒントがあります。昔、我々も動画と静止画の両方を撮りやすいムービーライクなスチルカメラを開発したことがありました。これから先、映画向けのカメラシステムは4K2Kの世界に進んでいきますから、もう一度、そういったカメラに再挑戦なんてこともあるかもしれないですね」

「C300には映画業界の中から得られたフィードバックを多数盛り込んでいます。たとえばCガンマと呼ばれる、映画撮影に欠かせないガンマカーブのカスタマイズ機能ですが、そういったノウハウは、もちろん何らかの形で吸収していきます」

――動画対応レンズに関してはいかがでしょうか? 今年はたくさん投入する予定とのことでした。

「もちろん、大幅に拡充していきます。ズーム操作やオートフォーカスの考え方にしても、動画レンズ独特の機能についても、新しいアイディアを盛り込んだ動画対応レンズを出していきますが、新製品試作のスケジュールが震災によって大幅に遅れたため、発表に至ることができずにいます。すでに発表していた500mm、600mm、200-400mmといったレンズをまずは顧客に届けなければなりません」

「しかし、宇都宮の光学研究所には、今年発売するはずだった試作がごろん、ごろんとたくさん転がっています。来年発売予定だったレンズも、もちろん投入していきますから、あるタイミングで一気に発売できるでしょう。また、上記の3本のレンズ以降、我々のレンズには耐衝撃性が2倍になる新技術を盛り込んでいます」

――具体的に動画対応といっても、さまざまな要素がありますよね。メカ設計で対応できる要素もあれば、カメラとの通信で実現するものもあります。従来から機能的に拡張された部分はどんなところでしょう?

「すべてを公開しているわけではありませんが、一部だけ。まずAFの追従性があります。映画撮影ならばプライムレンズを使って置きピンで撮影でしょうが、誰でも使えるとなると高性能な動画向けAFが必要になります。また、絞りの細かく滑らかな動きにも対応させていますし、オートフォーカスの精度も向上する必要があります」

――AFに関しては動画撮影をしながら、さらにAFも効かせてとなると、ハードルが上がってきます。何かいいアイディアは?

「まだ言えませんが、新しい方法を考えています。位相差検出方式とコントラスト検出方式の組み合わせも、ひとつの方法ではあると思いますが、具体的なことは製品発表まで待ってください」

――お話を聞いていると2012年秋のフォトキナが、ひとつキヤノンにとっての大きな節目になりそうですね。昨年はレンズは固定式だけど、より高画質というカメラも……と話していましたが、来年はどうでしょう?

「期待してください。レンズ交換式はもちろん、固定レンズの高画質カメラ、それにカムコーダの世界でも新しい提案を行なっていきます。今年、製品を予定通りに出せなかった分、来年は積極的に製品を出していきます。また、コンパクトカメラに関しても、さらに良くなっていきますよ。期待してください」



(本田雅一)

2012/1/6 00:00