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インタビュー:「Nikon 1」の秘密に迫る(前編)

〜“ベストバランス”を目指した構想5年の新システム

 ニコンが20日に発売したレンズ交換式デジタルカメラ「Nikon 1」シリーズは、同社で初めてとなるミラーレスカメラ(ニコンでは“レンズ交換式アドバンストカメラ”と呼称)。Fマウント以来、52年ぶりの新マウントを採用し小型化などを実現した。今回は、企画の経緯や開発で苦労した点などの話を伺った。(本文中敬称略)

今回話を伺ったメンバー。左から野島章氏(全体のデザインディレクションを担当)、内山重之氏(AFを担当)、野崎弘剛氏(商品企画を担当)、鈴木政央氏(開発全体のとりまとめを担当)、守山啓二氏(レンズ関係全般を担当)、井村好男氏(ボディの設計および開発を担当)。

 話を伺ったのは、ニコン映像カンパニー マーケティング本部 第一マーケティング部 第三マーケティング課マネジャーの野崎弘剛氏(商品企画を担当)、同開発本部 開発推進部 第二設計課 副主幹の井村好男氏(ボディの設計および開発を担当)、同開発本部 第二設計部 主幹の守山啓二氏(レンズ関係全般を担当)、同開発本部 開発推進部 ゼネラルマネジャーの鈴木政央氏(開発全体のとりまとめを担当)、同開発本部 第一開発部 第四開発課 マネジャーの内山重之氏(AFを担当)、同デザイン部 プロダクトデザイン課 主幹研究員の野島章氏(全体のデザインディレクションを担当)。

ボディのラインナップは電子ビューファインダー(EVF)搭載のの「Nikon 1 V1」(左、以下V1)とレンズもボディーカラーに合わせた5色の「Nikon 1 J1」(右、以下J1)の2機種

構想5年の新システム

――まず、“1”というネーミングの由来はなんでしょう?

野崎:ニコンでは、デジタル一眼レフカメラ「D」とコンパクトデジタルカメラ「COOLPIX」シリーズがあるわけですが、今回新しいカテゴリーとしてNikon 1を立ち上げました。デジタル時代になって、新しくどんなものがお客様に求められているのかということを一回全てゼロから考えたものです。ゼロベースで新設計したものとして、ゼロから1を生み出しデジタル時代を牽引するという意味合いを込めて、1をブランド名としています。

――ラインナップと市場における位置づけはどうなっていますか?

野崎:Nikon 1の最初のモデルとしてV1とJ1の2機種を投入しました。まずこの2機種から始めて、これからお客様の意見を聞きながらどんどん拡大していこうと思っています。今までになかった新世代のカメラとして、全く新しい市場を作っていこうと考えています。

V1とレンズおよびアクセサリー

――Nikon 1の構想はいつ頃からあったのでしょうか?

野崎:実は、相当前から新しい価値を提案しようという話はずっとしていました。Nikon 1の構想というと5年ほど前(2006年)ですね。

鈴木:実際に基礎検討が始まったのが4年前(2007年)になります。その後は、基礎検討2年、設計2年ということになります。現在のチームができたのも4年前でした。ちょうどデジタル一眼レフカメラ「D200」を出した後くらいでしたね。

――当初の基礎検討の時からミラーは省くという考えがあったのでしょうか?

鈴木:“新しいジャンルの製品を作ろう”となったときに、たまたまミラーレスになったと言うことです。はじめからミラーレスありきだったわけではありません。

野崎:タイミングとしてはマイクロフォーサーズが発表される前にスタートしていますね。

――では、レンズ交換式という考えは最初からのものでしょうか?

野崎:新しい価値を提供するときに、レンズ交換式、レンズ交換式ではないものも含めてすべてを検討していました。最初は何がいいのかは決めていませんでした。

――構想が始まった当時、デジタル一眼レフカメラとコンパクトデジタルカメラだけではこの先だめなのではないか、という思いがあったのでしょうか?

野崎:当時、デジタル一眼レフカメラもコンパクトデジタルカメラも急成長している頃で、それがだめだという意識は全くありませんでした。デジタルカメラの時代になって、デジタル一眼レフカメラは実際にはフィルムをCCDに置き換える所からスタートして、ある意味その流れで、カメラとしてはあまり変わらなかった。一方、当時、徐々に動画をデジタルカメラで撮るようになってきた。時代はこれから変わっていくんだろうなと。そこで、ユーザーはどんなものがあると使いやすくていろんな事ができるんだろう? という思いが出始めていて、それに最適なものはどのようなものかというのを考え始めていたということですね。ですから、デジタル一眼レフカメラやコンパクトデジタルカメラが将来どうなるかということよりも、新しいことを提案したいという形で始まりました。

インタビューを行なったニコン大井ウエストビル(東京都品川区)。開発の拠点で、ニコン大井製作所に隣接する

――Nikon 1はDシリーズとCOOLPIXのどちらの担当者が企画したのですか?

野崎:企画やマーケティング、設計、設計もそうなのですが、今回Nikon 1のために新しいチームを作っています。新チームはCOOLPIXを担当していた人もデジタル一眼レフカメラを担当していた人もいます。そこで、新たなものを作ろうという形でスタートしています。結構な規模になっています。

――では、DシリーズやCOOLPIXの人員が足りなくなることは無かったのでしょうか。

鈴木:Nikon1は、Dシリーズ、COOLPIXシリーズに続く新しいカテゴリーのデジタルカメラであり、DシリーズやCOOLPIXの開発を止めるとか、機種を減らすだとかそういうことはもちろんありません。

開発全体をとりまとめた鈴木政央氏。「ぜひ新しいNikon 1を体験して、この良さをわかってもらえればと思います」

――デジタル一眼レフカメラからNikon 1に入っている技術はどれくらいあるのでしょうか?

野崎:仕組み自体は全く新しくしていますけれども、まずAF。後はAEやオートホワイトバランスなどですね。そういうものは、デジタル一眼レフカメラの最高の技術をそのまま搭載しています。それにプラスして、新しい表現のための技術を追加したということです。

――COOLPIXからの技術はどのようなものが採用されていますか?

野崎:小型化などはCOOLPIXの技術が入っています。

構想設計段階が一番大変

――Nikon 1の開発は難航したのでしょうか?

野崎:既存の製品を作るよりは難航しましたね。特に今回、Nikon 1に搭載した撮像面位相差AFは全く新しく開発しています。それと、非常に高速の処理ですね。簡単にできたカメラではないです。

――開発で一番大変だったところはどこでしょうか?

守山:レンズから言いますと、今まではボディがあってそれに合わせてレンズを作っていました。またボディ側から言えば、レンズがあってそれに合わせてボディを作っていたという所があります。今回の新しい技術を盛り込まなければならないところに、ボディとレンズを同時に開発していました。そこで、どの機能をどちら側でやるのかということを話し合いながら進めていかなければなりません。タイミングを合わせてそれを評価する必要があります。開発の時間の中でどう合わせていくか、スケジュール管理では非常に苦労しました。

レンズ関係全般を担当した守山啓二氏。「想いだけではなく技術も含めてかなり詰め込みましたので、まず使っていただければ違いがわかっていただけると思います」

野崎:ニコンではずっとFマウントを継承していて、ニコンはずっとこのマウントで行くんだと思っている方もいらっしゃいますし、社内でもそう思っている人もいたのですが、レンズ交換式にすることが決まって、全く新しいマウントを作りましょうとなってからは、このマウントを将来動画にも発展できるようにするにはどのようなものがいいのだろうか? という部分が一番時間をかけたところですね。

Fマウント(左)より一回り小さなNikon 1マウント(右)

鈴木:今までは、一眼レフカメラを後継機という形でずっとやってきました。今回は、ボディ、マウント、レンズなど新しいものをゼロから作る、ということで最初の構想設計の段階が一番苦労しましたね。それがある程度決まると、後はそれにむけて技術開発やデザインを行なうことができますから。

野島:はじめの2年というのは社内的にみんなのイメージがばらばらだったんですね。まず、それがどういうものなのか。いろんな部署の思いというものを共有していかなければならない。メンバーみんなが納得するものに固まるまでに2年掛かりました。これは、デザインだけではなく全てにおいてですね。

全体のデザインディレクションを担当した野島章氏。「ボディとレンズという全体で見ると非常に完成度の高いサイズに仕上がっています。是非使ってバランスの良さを実感してください」

――発売は10月20日でしたが、もう少し早く発売することもできたのでしょうか?

野崎:半年くらい前だったら、出す気になれば出せた状況ですね。

――東日本大震災の影響はありましたか?

野崎:ありましたが、それによる遅れはあまり大きくありません。

静止画、動画、音楽をミックスした新しい表現を提供

――木村眞琴社長の「大切な瞬間だけでなく、記憶まで残すことができる特別な製品」の示すところはなんでしょう?

野崎:今まで撮れなかったものを撮る、というコンセプトで開発してきました。撮ろうと思っても撮り逃がしてしまう一瞬が撮れるようにしたかったのです。非常に高速な処理が色々入っています。単純にAFも速いですが、人間はシャッターを押すまで撮りたいと思ってから時間が掛かりますから、シャッターを押す前から記録が始まっていて、シャッターを押したら、シャッターを押した前後の写真を残す。その中からカメラが自動的に写真を選ぶ機能「スマートフォトセレクター」も入っています。

スマートフォトセレクターのイメージ。高速連写した20枚から、カメラがベストショットを選ぶ

 そして、新しい表現として、静止画、動画、音楽をミックスした「モーションスナップショット」という機能も入れました。このとき動画をスローモーションに変換して、新しい表現を提案しています。それが、記憶に残るようなシーンを記録できるということです。

モーションスナップショットのイメージ。静止画の前後を動画で記録できる

――ニコンでは、ミラーレスカメラと呼ばずに「レンズ交換式アドバンストカメラ」と呼んでいます。

野崎:デジタル一眼レフカメラから単純にミラーを取って、レンズとセンサーの距離を近づけて小型化したものが我々としてはミラーレスカメラという認識です。ニコンの考える新世代カメラというのは、構造的にはミラーレスカメラに近いことになりますが、小型化だけではなくて、モーションスナップショットやスマートフォトセレクター、超高速連写といった新たな価値を提案するものと考えています。そういう意味でレンズ交換式アドバンストカメラと呼んでいます。

鈴木:コンセプトから始まって結果的にミラーがないだけであって、はじめからミラーレスにするつもりだったわけではありません。

野崎:既存のミラーレスカメラとはちょっと違うという意識が非常にあります。それから、ミラーレスという言葉も日本では一般的になってきていますが、世界的に見るとそうではないんですね。地域によっていろんな言い方があります。そういう意味でも、我々が世界中で使う言葉としてはミラーレスではなく、新しい呼び方を使っています。

商品企画を担当した野崎弘剛氏。「今回新しい提案をさせていただきましたが、カタログを見ていてもそれがパッとわかるものではありません。是非一度店頭で触ってもらえれば、本当にこのカメラのサイズも含めた価値を実感できると思います」

――V1とJ1それぞれのターゲットユーザーは?

野崎:それぞれのターゲットユーザーは基本的に同じです。コンパクトデジタルカメラを使っているが、高画やレスポンスに満足されていない方です。ただ、大きさ、重さからデジタル一眼レフカメラは買えないな、という方に是非使っていただきたいと思っています。その中でもV1のほうは、EVFを内蔵していて、ファインダーを覗いて構えたいという人向けになります。J1は極力小型にして、いつでも持ち歩ける事を大事にしたカメラです。

――他社のミラーレス機に対するアドバンテージは何でしょう?

野崎:スピード、新しい表現、システムサイズの3点ですね。まず非常に高速な処理、フル画素で60コマ/秒の記録ができる機能、AFも新開発の像面位相差AFを搭載しています。そして、ニコン独自の機能として、先ほどのモーションスナップショットも提供できます。サイズですが、一番特長的なのはレンズのサイズです。システムのサイズをいかに小型化するかを考えまして、結果として、ボディも小さくレンズも非常に小さいものになっています。

光学的に背景をぼかせる大きさのセンサー

――Nikon 1のフォーマットは「CXフォーマット」ですが、改めて、FX、DX、CXは何の略なのでしょうか?

野崎:実は、これの略ですといったものはないのです。FX、DXも“F”や“D”が何の略かというものはありません。今回のCXも、特に“C”に意味を持たせてはいません。

――センサーサイズはどのように決まったのですか?

鈴木:画質、スピード、携帯性の3つを鑑みて、CXフォーマットが一番ベストだと判断しました。特にレンズはセンサーサイズが一番ポイントになります。

守山:センサーは単に小さければ良いという話しではなくて、どれくらい大きくなければならないということも当然あります。被写界深度が深くなってしまうと、コンパクトデジタルカメラのように立体感のない写真しか撮れなくなる。その辺りも含めて、どこまで表現力と使い勝手を残せるかという部分はかなり意識してこのサイズに絞り込んでいます。

有効1,010万画素の1インチCMOSセンサーを採用

――1インチセンサーとのことですが、どの部分が1インチなのでしょうか?

内山:これは撮像管時代の名残なんですね。ですから、今回のセンサーのどこにも1インチという長さは出てきません。撮像管時代の1インチの径のものと同じ撮像面積ということです。これは、現在使われている1/1.7型や1/2.3型といったセンサーでも同じです。

野崎:センサーのサイズは8.8×13.2mm(縦×横)なので、単純計算ですと対角は15.86mmになります。

――つまり、ボケの表現も楽しめるなかでの最小のサイズということでしょうか?

鈴木:レンズで光学的に作る自然なボケがここまでできる、ということを検証してこのサイズに決めています。

井村:それから、静止画の画質と動画の画質のバランスも併せて検討しました。静止画だけに限った場合、動画だけに限った場合ですと、しれぞれ別のサイズが良いのではと考えることもできますが、それぞれのバランスを図りました。

ボディの設計および開発を担当した井村好男氏。「非常にシンプルな操作で携帯性もあり、静止画も動画も思うように撮れるカメラです。是非使ってみてほしいと思います」

守山:センサーを大きくすれば、レンズの駆動が遅くなるという制約もあります。システムとしてトータルの大きさですね。センサーを小さく、レンズ駆動部を小さく、通信も速くといったことも全部検討した上で決定したセンサーサイズといえます。

――デジタル処理で背景をぼかす機能は搭載していません。

内山:Nikon 1は光学的に背景をボカすことができるということですね。デジタルによるボケ処理は、現段階では画質的に満足できるレベルに達していないと考えています。

AFを担当した内山重之氏。「移動する被写体に“超高速で”AFが合うのはNikon 1だけです」

――1/1.7型やマイクロフォーサーズなど既存のセンサーサイズを使用しなかったのは何故でしょう?

野崎:既存のセンサーには、我々の求めているぴったりものは無かったということですね。それで、専用のセンサーを作るという判断をしました。

――独自のフォーマットだとコスト面で高くなることはありませんか?

鈴木:そのあたりも十分考慮した上で、専用センサーの採用を決定しました。

野崎:今回は、位相差AFのセンサーを撮像素子に組み込んでいます。その時点で専用センサーを作ることが決まりましたので、本当に我々の求めているセンサーを作るということで独自開発としています。

――センサーのアスペクト比は4:3ではなく3:2を採用しました。

鈴木:一眼レフカメラのアスペクト比は3:2、黄金比に近い比率として親しまれています。4:3というのはどちらかというとテレビから来ているアスペクト比です。カメラの文化として、3:2というのは外せないアスペクト比です。そこで3:2を継承しました。

――正方形の撮像素子を積むことは考えませんでしたか?

鈴木:当初そういう話もありましたし、クロップして正方形にする候補もありましたが、最終的には3:2を選びました。

――では、正方形の撮影モードがファームウェアアップデートで可能になるのでしょうか?

野崎:お客様のご要望をお聞きしながら検討していきたいと思っています。

トータルの画質性能で敢えて1,000万画素に

――画素数が1,010万画素に決まった理由はなんでしょう?

鈴木:画素数もセンサーサイズも、動画も含めた画質、スピード、携帯性のバランスで10Mピクセルに決めました。基礎検討の当時に、10Mピクセルがベストということになったのです。画素数で他社のカメラに勝とうという気持ちはありません。ノイズも含めての画質性能がベストバランスになるということです。

――画素ピッチはどれくらいですか?

鈴木:3.4μmです。どの機種と比べるかにもりますが、コンパクトデジタルカメラの画素ピッチは2μmを切っていますから、セルの面積は4倍程といえます。

画素ピッチは3.4μmとコンパクトデジタルカメラに比べて4倍程度の面積を確保した

――今後のNikon 1で画素数は上げていくのでしょうか?

野崎:将来のことはなんともいえません。ただ、我々は数字で決めているのではありません。システムのサイズ、画質、スピードのバランスで考えていますので、将来的に技術が進歩していけばこれらの性能は変わってくるとは思います。

――今回はCMOSセンサーですが、裏面照射型を採用しなかったのは何故でしょう?

鈴木:今回のセンサーの画素ピッチ(3.4μm)の場合、裏面照射型のメリットはほとんどありません。裏面照射型が有効なのは、画素ピッチが2μm以下の場合です。

――ローパスフィルターの光学的強度は従来のデジタル一眼レフカメラと同じでしょうか?

鈴木:基本的に既存のデジタル一眼レフカメラと同じ考え方で設計しています。デジタル画像処理でモアレなどを取り除くことはしていません。

――センサーのメーカーはどこでしょうか?

鈴木:センサーメーカーは公表していません。

野崎:弊社の仕様で協力会社に生産を委託しています。

――1インチセンサーは、何か別の製品で使用されていた規格なのでしょうか?

鈴木:1インチセンサーを使用しているデジタルカメラはおそらく無かったと思います。ニコンの別分野の製品で使っているということもありません。放送用カメラでは、アスペクト比は違いますが聞いたことがあります。

――フランジバックはどれくらいですか

内山:約17mmです。

フランジバックは約17mm。ソニーEマウントの約18mmより短く、PENTAX Qの約9.2mmより長い

――斜めの入射光に対して、周辺部の光量を補償するような仕組みはあるのでしょうか。

守山:光量は周辺もかなり多く入れるようにして、ビネッティングが起こらない条件に設計しています。明るいレンズを付けても、周辺が急激に暗くなることは起こりません。射出瞳の位置や入ってくる光速の幅が最適になるように意識してレンズを設計しています。

――オンチップマイクロレンズの周辺部でのオフセットも行なっていますか?

鈴木:詳しくはいえませんが、最適化はしています。

――CMOSセンサーのローリング歪みも改善しているのでしょうか?

鈴木:センサーのスキャンレートが1/80秒なので既存製品より速くなっています。ローリング歪みはゼロにはなりませんが、デジタル一眼レフカメラに比べても減少しています。

――撮像素子以外で新しいデバイスはどんなものを使っていますか?

鈴木:V1ですとシャッターもデジタル一眼レフカメラとは違うノーマルオープンのものを搭載しています。画像処理エンジンやV1のEVFも新デバイスといえます。

――では、新開発の画像処理エンジン「EXPEED 3」のメリットは何でしょうか?

鈴木:まず、60fpsで読み出したデータを2ラインで高速に処理できることです。AFも含めて、全体のパフォーマンスを1個のチップで実現しているところですね。

Expeed 3のチップを搭載するメイン基板

52年ぶりの新マウントは明るいレンズも考慮

――今回のNikon 1マウントはどのように決定したのでしょうか?

守山:マウントはシステムの中心部分にあるものですね。マウントのコンセプトとして、小型化、高速化であるとか、明るいレンズまでカバーできるか? といったいくつかの課題を挙げて、どういう径のマウントがよいのか、どういう通信をするのかといったことを考慮して、トータルのシステムとしてのバランスで今回のマウントが決まりました。

トータルバランスで決定したというNikon 1マウント

――マウントの規格は公開するのでしょうか?

野崎:その予定はありません。

――今回のマウントはニコンとして何年ぶりのものですか?

野崎:Fマウント以来ですから、52年ぶりになります。

――マウントのイメージサークルは現在のセンサーでギリギリの大きさなでしょうか?

野崎:余裕がどれくらいあるのかということに関してはお答えできません。

――Nikon 1をFマウントで作ることは考えていませんでしたか?

内山:新しいものを作り上げるというのが今回のミッションでしたので、Fマウントは採用していません。

――では、ニコンのレンジファインダー機が採用していたSマウントを電子化したようなマウントはどうだったでしょうか?

野崎:既存のマウントをベースにすることは全く考えていませんでしたね。新しいものを作るということです。

――マイクロフォーサーズやPENTAX Qのマウントを採用することもありませんでした。

野崎:Nikon 1を企画、検討していた段階でそれらのマウントはまだありませんでしたので、採用はしていません。

――電子接点がFマウントから増えています。

鈴木:Fマウントよりも多くのデータのやり取りを行なっているためです。将来的な発展性を考えて、高速性や拡張性を考えてピンを増やしています。

――マウントの材質は何ですか?

井村:ボディ側は、デジタル一眼レフカメラと同じく特殊加工をした強度の高い真鍮製です。

守山:レンズ側は金属製と、プラスチックに金属薄膜を蒸着したものの2通りあります。レンズの重量やグレードで使い分けています。プラスチックのマウントも、Fマウントレンズで実績のあるものなので強度的には全く問題はありません。見た目には区別が付かないほどです。

Nikon 1のマウント部分は真鍮製

――ボディ側マウントの強度はどれくらいでしょうか?

野崎:マウントアダプターでFマウントレンズを装着しても、基本的に大丈夫な強度を持っています。

井村:1 NIKKORを使っている条件で、一眼レフカメラと同等の強度で設計しています。Fマウントレンズは重い物が多いので、三脚座の付いているレンズはレンズ側の三脚座を使用していただきたいです。

NIKKOR基準を満たしながら小型化したレンズ

――1 NIKKORを作る上で一番注力したことは何でしょうか?

守山:まずNIKKORという名前を付けるので、それなりの絵が撮れなければならなりません。このシステムでは明るいレンズまでカバーするので、その中では高速化と静音化に特に力を入れています。静かになおかつ速く動くということです。NIKKORの基準を満たす中で、これだけの大きさにまとめるのが苦労したところです。

Nikon 1では4本のレンズをラインナップする。左から「1 NIKKOR 10mm F2.8」、「1 NIKKOR VR 10-30mm F3.5-5.6」
左から「1 NIKKOR VR 30-110mm F3.8-5.6」、「1 NIKKOR VR 10-100mm F4.5-5.6 PD-ZOOM」

――現行の1 NIKKORではピントリングを省略しています。

守山:オートで撮影する方にとって使い勝手がよいと考えたためです。Nikon 1は、チャンスを逃さないようにオート撮影を重視して作っています。この大きさに収めた段階で、最初の目標としてはフルオートを重視しようというのが答えですね。

野崎:ちなみに、マニュアルでのフォーカスは、ピントリングではなく背面のホイールで行なえるようになっています。

メニューから「MF」を選択すれば、背面ダイヤルでマニュアルフォーカスが可能

――歪曲収差や色収差は本体で補正しているのでしょうか?

守山:レンズ単体である程度使えるレベルまで収差を補正しています。色収差のみ本体で補正しています。

――「1 NIKKOR VR 10-100mm F4.5-5.6 PD-ZOOM」にはパワーズームを搭載しています。

守山:やはり動画というものをかなり意識してこのシステムを作ってきたので、どのレンズでも同じように動画は撮れます。ただ、動画撮影中に手でズームすれば当然ブレたりします。そうした中で、動画撮影によりフィットするレンズを1つ出そうじゃないかと考えた答えがこのレンズです。レンズをホールドした状態で僅かな指の操作だけでズームできて撮影が続けられるので、パワーズーム無しのレンズとは違った動画の写り方を楽しめます。動作音も静かになるように一番気を遣いました。

1 NIKKOR VR 10-100mm F4.5-5.6 PD-ZOOMには、パワーズーム用のスライドレバーがある

純正マウントアダプターはVRも使用可能

――マウントアダプター「FT1」に対応したレンズはどのようなものでしょうか?

井村:IX用レンズ、F3AF用レンズ、非Aiレンズ、テレコンバーター、オート接写リングは使用できません。また、AFはAF-Sレンズのみで可能です。FT1で使えるレンズのリストを今後公開する予定ですので、詳しくはそちらで確認していただければと思います。

Fマウント用のマウントアダプター「FT1」。12月の発売。価格は2万3,310円
V1にFT1を装着したところ FT1を介して「AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8 G ED」を装着したところ

――FT1を使用した場合でもVRは使用できますか?

井村:使えます。マウントアダプターを介しても、補正の精度が落ちることはありません。

――CPU非内蔵レンズを装着した場合はどうなりますか?

井村:MFだけになりますが、露出は絞り優先AEで撮影できます。測光は中央重点とスポットのみで、マルチパターン測光は使用できません。

CPU非内蔵レンズの1つ「Ai-S Nikkor 50mm F1.4 S」を装着したところ

――MF時にフォーカスエイドも使えるのでしょうか?

井村:位相差AFですので、フォーカスエイドも使えます。

――超音波モーター非内蔵のレンズでもAF駆動が可能になるマウントアダプターは登場しますか?

野崎:現状のFT1では対応していません。今後の予定についてはお話しできません。

後編に続きます)




(本誌:武石修)

2011/11/9 00:00