新宿ニコンサロン、鷲尾倫夫写真展「望郷・エトセトラ」


 新宿ニコンサロンは、鷲尾倫夫写真展「望郷・エトセトラ」を8月31日から開催する。

(c)鷲尾倫夫

 人の生きてきた時間の歴史は奥深い。人を傷つけ、自分にも重い傷みを背負いながら、時の流れに逆らいもせず、栄光時代を支えに静かに生きている人達。

 刻み込まれた影の部分を光の中に晒し、失った大切なものをとり戻すかのように、望郷の念を織りまぜ、彼は柔らかな口調で語り始める。話が進むに従って、作者は想像もできない世界の渦に巻き込まれて聞き続けた。「クニ」に帰りたい。が、帰れない。ふるさとは遠いよ。といって言葉を結んだ。

 後日、その彼にスーツ姿の写真を頼まれた。出来上がった数枚を持って訪ねた。ノックをしたが返事はない。ドアに手を掛け、引くと開いた。すると煙が立ち揺らぎ、一気に流れでてきた。彼は正座していた。灰皿に二本のタバコを立て、背を丸め、手を合わせていた。作者に気付くと、作者の顔をじっと見て、つまった声でオフクロが死んだといった。いつと聞くと先月。兄貴は知らせてくれなかった。と震え声でいった。その目に涙がたまっていた。作者は何も云えず、万年床に写真を置いて立ち去るしかなかった。

 それから数日して彼は突然、誰にも看取られず三畳の部屋で死んでいたと、彼らのふるさとを歩いている旅先に知らせがあった。モノクロ46点。(写真展情報から)

  • 名称:鷲尾倫夫写真展「望郷・エトセトラ」
  • 会場:新宿ニコンサロン
  • 住所:東京都新宿区西新宿1-6-1新宿エルタワー28階
  • 期間:2010年8月31日~2010年9月13日
  • 時間:10時~19時(最終日は16時)
  • 休館日:会期中無休

(本誌:武石修)

2010/8/17 00:00