写真展

東京写真月間2014
いのちの伝承−日本の世界遺産をめぐる いとなみ
寺沢孝毅「知床 万物共生の半島」

(コニカミノルタプラザ)

©Takaki Terasawa

初めて知床を訪ねたのは学生時代だった。流氷とそこに舞うオオワシやオジロワシに魅了され、それ以来私の心をつかんで離さない。

大学卒業後、私は旭川から、世界的な海鳥繁殖地である道北の天売島に移り住んだ。ある年、冬場を中心に島へ上陸するアザラシの本づくりのため、出産場所とされる知床の流氷へ通い詰めた。

そのとき、希少なクラカケアザラシの赤ちゃんに何度も出会う奇跡に恵まれた。これに乗じて知床を徹底取材しようと勢いづいたのが10年ほど前だ。「怖いので絶対しないと決めていたヒグマの撮影を避けて通れなくなった。

そんなとき一人の漁師に出会う。海に流氷がない春から初冬まで、知床半島の先の方にある番屋を拠点に、仲間たちとサケ・マスを獲っていた。ヒグマ生息地のど真ん中で暮らす彼の経験は、「本当なのか」と耳を疑うほど並外れで新鮮だった。無理を言って番屋にお邪魔し、そこで目の当たりにしたのは、ヒグマと漁師が一線を画したルールのなかで共生する暮らしぶりと、自然に謙虚に順応しながら漁をする姿だった。人と自然の在り方、知床の真価を見たような気がし、心に深い感銘を覚えずにはいられなかった。

海からそびえ立つ山岳地帯と、それを囲む海からなる知床。そこには流氷を源とする植物プランクトンの大発生や、ヒグマやクジラを頂点とする生態系がある。それらが多様に織りなす生命の連鎖はダイナミックであっても凝縮されていて、陸続きの半島なのに、ひとつの島にも見えてくるから不思議だ。

(写真展情報より)

©Takaki Terasawa

  • ・会場:コニカミノルタプラザ(ギャラリーC)
  • ・住所:東京都新宿区新宿3-26-11 新宿高野ビル4階(フルーツの高野4階)
  • ・会期:2014年5月20日火曜日〜2014年5月29日木曜日
  • ・時間:10時30分〜19時(最終日15時まで)
  • ・休館:会期中無休
  • ・入場:無料

(本誌:折本幸治)