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パナソニック、有機薄膜CMOSイメージセンサーを開発発表
従来比100倍のダイナミックレンジ 高機能グローバルシャッターも
Reported by 本誌:折本幸治(2016/2/3 12:52)
パナソニック株式会社は2月3日、有機薄膜を用いたCMOSイメージセンサーに関する技術発表を行った。グローバルシャッターや広ダイナミックレンジ技術を開発。監視・車載用カメラ、業務放送用カメラ、産業検査用カメラ、デジタルカメラなどの用途に提案する。
従来のイメージセンサーは、受光部のシリコンフォトダイオード、金属配線、カラーフィルター、オンチップマイクロレンズで構成。シリコンフォトダイオードで光電変換と電荷蓄積を行っていた。
このシリコンフォトダイオードを有機薄膜に代えたものを有機CMOSイメージセンサーと呼ぶ。有機薄膜は光吸収係数が大きいことから、2〜3μm程度の深さが必要だったシリコンフォトダイオードを0.5μmまで薄膜化できるという。
パナソニックが採用する有機薄膜は富士フイルム株式会社のもの。
受光効率の向上で広ダイナミックレンジ
この薄膜化によるメリットのひとつが、光線入射角の広角化だ。従来型で30〜40度のところを60度まで広げられるので、斜めからの光を効率よく取り込めるようになる。それにより、混色のない忠実な色再現性が可能という。レンズの設計自由度が増し、カメラの高性能化・小型化にもつながる。
また従来型CMOSイメージセンサーでは、シリコンフォトダイオード以外の回路部に光が入らないよう、各画素に遮光膜を形成する必要があった。これが受光面積を狭める一因になっており、高感度画質やダイナミックレンジの性能に影響することが知られている。
パナソニックの有機CMOSイメージセンサーでは、有機薄膜は全面に形成され、回路部はその下に配置される。受光面積は画素の全面に広がっており、センサー面上で受ける光をすべて受光できるとする。これにより、従来比1.2倍の感度を実現。暗いところでもクリアな映像を得ることができるという。
さらに有機CMOSイメージセンサーの特性としては、光電変換時の特性を自由に設定できることも挙げられる。これは従来型CMOSセンサーより回路面積の制限が少ないためで、シリコン基板上により高機能な回路を搭載できるためだ。例えばイメージセンサー内の蓄積ノードを大容量化することで、光から変換した信号電荷を蓄積、広ダイナミックレンジを実現するという。
また、「明暗同時撮像構造」と呼ぶ技術は、1画素内に明暗2つの感度検出セルを備えた1画素2セル構成によるもの。1画素内に、2つの感度、感度の違う2つの信号電荷蓄積量、2種類のノイズキャンセル構造を実装することで、1回の撮像で従来のイメージセンサー比100倍のダイナミックレンジ128dBを実現したとする。
グローバルシャッターも実用に
有機薄膜を使用したことで、撮像素子によるいわゆる電子シャッターも進化。電子シャッターにはグローバルシャッター(全画素一括読み出し)とローリングシャッター(部分読み出し)があるが、従来型CMOSイメージセンサーはローリングシャッターが基本。CCDのようなグローバルシャッターを実現するには、画素内にメモリを追加し、部分読み出しによるローリング歪みを回避する必要があった。そのメモリ回路が受光面積を圧迫し、飽和信号量の減少につながっていた。
パナソニックが開発した「光電変換制御シャッタ技術」は、有機薄膜に印加する電圧を調整することで、シャッター機能を実現するもの。新たな素子を追加をする必要がないため、飽和信号量が減少しないという特徴を持つ。さらに画素ゲイン切替え回路を使った「高飽和画素技術」と組み合わせることで、従来のグローバルシャッター付きCMOSイメージセンサーの約10倍の飽和信号量を実現するという。フラッシュバンドやLEDフリッカー(LEDの点灯周波数によりLEDの発光が画像に写らない)の問題が解消するとする。
また有機薄膜は、印加する電圧や印加時間を変化させることで、感度を変えることも可能。これにより、多重露光時に感度を変えて撮影する「感度可変多重露光技術」も実現する。動体速度に合わせた露光が可能になり、パナソニックでは、動体検知や動き方向のセンシングの可能性を述べている。
なお有機CMOSイメージセンサーには、蓄積電荷を完全に読み出せないという課題がある。そのため、画素リセット時のリセットノイズの影響を受ける。そこでパナソニックでは、発生したリセットノイズをキャンセルする「容量結合型ノイズキャンセル回路」を開発。列毎に設けた負帰還ループを用いることで、画素毎にリセットノイズを抑制する。加えて容量結合型とし、負帰還制御のロバスト性を向上。リセットノイズを1.6電子までに抑制したという。