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ハービー・山口写真展「Wetzlar」トークショーレポート

ライカ銀座店2階のライカギャラリー東京で、ハービー・山口氏の写真展「Wetzlar」が開催されている。会期は4月12日(日)まで(月曜休館)。

今回の写真展では、2014年にドイツのウェッツラー(Wetzlar)を初めて訪れたハービーさんが、2度の渡航で出会った街並みや人々をライカで撮り、14点の作品で紹介している。

ライカギャラリー東京

ウェッツラーとは、約100年前にライカの原形となる小型カメラが発明された場所であり、現在でもライカファンにとっては「聖地」である。ハービーさんが初めてウェッツラーを訪れた2014年5月には、ライカカメラ社のウェッツラー新社屋がスタートし、そこに世界から集まった約2,000人がライカの誕生100年を祝した。

3月28日には、会場でハービーさんのトークショーが行われた。用意された約30席は予約ですぐに埋まってしまったとのことで、参加できなかった方にもその場の雰囲気をお伝えしたく、本稿でレポートする(写真:藤井智弘)。

トークショーの進行役は、アナウンサーの渡辺真理さん。ハービーさんは、かつて番組で共演した際に感じた渡辺さんの“人格の高さ”にまつわるエピソードを紹介し、自身が教鞭をとる九州産業大学においても「作品を見せながら、自分が写真家としてどう過ごしてきたか」をベースに、人間性の大事さを伝えているという。

アナウンサーの渡辺真理さん

人間性、というキーワードで話題にのぼったのは、ライカカメラ社のオーナーであるアンドレアス・カウフマン氏だった。“成績より人間性を重んじる学校”で歴史の先生をしていた方だとハービーさんは紹介した。以前ハービーさんがカウフマン氏と同席し、「カメラはやがて世界を平和にする、世界で一番平和な道具だと思っている」と話した際に、カウフマン氏はその言葉を深く受け止めたそうだ。

また、「そんなカウフマンさんだからこそ、『東日本大震災で大きな被害のあった東北に、写真を志しライカを買うと決めた女子高生がいる』と私がお伝えしたときには、心動かされ、自費でライカMモノクロームを贈るという決断をなさったのでしょう」と、当時新聞でも取り上げられた出来事についてハービーさんは語り、会場から感嘆が漏れた。

ハービー・山口氏

今回の作品は、ライカの聖地ウェッツラーがテーマ。2014年5月には、本誌でもお伝えしたようにライカ誕生100年を祝って様々なイベントが催された。ハービーさんはそこでジョセフ・クーデルカやエリオット・アーウィットといった写真家と再会し、その時の写真も「Wetzlar」の展示作品には含まれている。トークショーでは、バロック音楽をBGMに、展示作品も交えた現地のスライドショーを上映した。

ここで、ハービーさんがトークショーの舞台に招き入れたのは、ヴォーカリスト&フリューゲルホルンプレーヤーのTOKUさん。シンディ・ローパーと共演し、スティーヴィー・ワンダーのカバーアルバムもリリースしているミュージシャンだ。

ヴォーカリスト&フリューゲルホルンプレーヤーのTOKUさん

TOKUさん自身、かつて写真部に所属していたほどの写真好き。現在も日々ライカを持ち歩いている。その日はライカIIIf(M型ライカ以前の、バルナック型と呼ばれるフィルムライカ)を持参していた。

ハービーさんは東北の写真のスライドショーを投影し、それにTOKUさんが即興で音と歌を合わせた。打ち合わせは「このスライドショーは4分ぐらい」の一言だけ。ハービーさんのトークショーは、それ自体が現場の空気に触発されたインプロビゼーションだった。

上映が始まって数枚の写真が映し出されたところで、全体のトーンを感じ取ったのか、おもむろにフリューゲルホルンを吹き始めるTOKUさん。即興演奏から続けて、場のイメージで選んだ楽曲を歌い上げた。

スライドショーが終わり、東北に関するエピソードとして紹介されたのも、再びライカだった。2014年に行われた、ライカの100年を記念する写真展の開催にあたり、ライカがハービーさんに求めたのは、“ロンドン時代”にパンクロックムーブメントを撮ったハービー・山口というより、「日本人の写真家」としてのハービー・山口だったのだという。

その時、撮影に訪れた東北の人々と交わしていた「皆様の復興にかけるお姿を、世界に届けます」という約束も果たせたと語る。

トークショーはさながらラジオ番組のような雰囲気で進行。パーソナリティーのハービーさんが、TOKUさんや渡辺真理さんからも、写真に限らず幅広い話を聞いていた。その場に居合わせた出演者も観客も関係なく、お互い名も知らぬ人々にも不思議な親しみや連帯感が生まれるような感覚があり、これがハービーさんについてよく語られる“マジック”だと再認識した。

TOKUさんが即興演奏の心境について問われ、「同じ演奏は二度とないから、録音していなかったら『瞬間が消えてしまう』と思う」と語った際には、ハービーさんが写真家として強く同意。写真もまた、その美しい瞬間をとどめておくためにシャッターを切るのだと、写真家の原動力について我々に明かしてくれた。

ハービー・山口氏と、ウェッツラーにも持参したライカMモノクローム

(本誌:鈴木誠)