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ロモグラフィー、一眼レフ用新レンズをクラウドファンディングに出品

初の写真技術、ダゲレオタイプから発想 鏡筒はやっぱり真鍮製

ロモグラフィーは4月7日、クラウドファンディングサイト「MotionGallery」において、交換レンズ「Daguerreotype Achromat 2.9/64 Art Lens」を出品。開発資金の募集を開始した。35mm判対応のマニュアルフォーカスレンズで、キヤノンEFマウント用とニコンFマウント用を開発するという。

最古の光学レンズから発想を得た、最新のソフトレンズ

初の実用式写真撮影法として1839年に発明された、ダゲレオタイプのカメラに搭載されたアクロマート(色消し)レンズ(世界初の光学レンズとされる)に発想を得たという交換レンズ。外観が似ている既存のPetzval 85、Petzval 58 Bokeh Controlとは別ラインの新しいレンズとなる。

焦点距離は64mm。開放F値はF2.9。レンズ構成は1群2枚。最短撮影距離は0.5m。

Petzvalは背景の「ぐるぐるボケ」が特徴だが、Daguerreotypeはいわゆるソフトレンズといった描写。ただし全面がソフトになるのではなく、ピントがあったところはシャープだという。

絞りはPetzvalと同じく、ウォーターハウス方式の絞り板を挿入する方式。光量調整用の絞り板に加え、特殊な形状の穴を開けた絞り板「Lumiere」「Aquarelle」も付属する。

「Lumiere」は、レンズにベールをかぶせたような柔らかな雰囲気の写りやユニークな形をしたボケが生じるという。

一方「Aquarelle」は、ボケ部分にキャンバス地をブラシでなぞったようなテクスチャーが加わるとのことだ。

鏡筒は真鍮製。フィルター径は40.5mm。ブラックとゴールドが用意される。

MotionGalleryでの出資額は3万8,000円から。支援者にはDaguerreotypeを発売日前に渡すとのことだ。

その他、出資額に応じて特典が設けられている。例えばレンズに加えて、銀塩カメラ「LC-Wide」とウィーン旅行が得られるものある。

ロモグラフィー提供の作例

ロモグラフィーならではのコミュニティが製品を育てる

先日来日したLomography Society Internationalの創設者、Sally BibawyさんとMatthias Fieglさんに、クラウドファンディングとロモグラフィーの親和性について聞いてみた。

Lomography Society Internationalの創設者、Sally Bibawyさん(右)とMatthias Fieglさん(左)

曰く、ロモグラフィーにはコアなファンがついており、活発なコミュニティが世界のいくつもあるとのこと。そうした各コミュニティからの意見が反映され、製品開発につながっているそうだ。

例えば、Lomo'Instantの前面についている自分撮りミラーや、ペッツバールの絞り板の形をクラウドファンディングで支援した方に投票で決定し、限定品を作成するなどは、コミュニティから出てきたアイデアとのこと。

コミュニティとのやりとりはWeb上にとどまらず、実際にプロトタイプを先進的なユーザーに渡し、フィードバックをしてもらっているという。

日本にもそうしたコミュニティがもちろんある。Matthias Fieglさん曰く、「レンズへの細かい興味があり、写真を撮ることについて熱心なファンが多い。ロモグラフィーにマッチしている」とのことだ。

地域による違いも面白い。例えばPetzvalが最も売れたのは北米だが、想定外の売れ行きで驚いたのはタイ。とにかく熱狂的な支持を得たという。

初代ロモグラフィーPetzvalレンズ。19世紀に誕生したペッツバール型レンズを現代に蘇らせたというレンズ。

そうした熱いファン層を持つロモグラフィーと、クラウドファンディングの相性は当然良い。出資への参加はもちろん、キャンペーンの間、様々な意見が寄せられる。資金調達だけでなく、そうしたプラットフォームとしての役割をも、クラウドファンディングにも期待できるのだ。

そもそも「ロモグラフィーのミッション」とは何か、とSally Bibawyさんに聞くと、「若い人、クリエイティブな人に向け、アナログの大切さを訴えてるのが使命。ユーザーの性格や魅力を引き出すのが私たちの製品」と返ってきた。今回のDaguerreotypeのウォーターハウス式絞り板も、様々なデザインの絞り板をユーザー自らが制作できる。「究極のオープンシステムだと自負している(笑)」(Matthias Fieglさん)。

Daguerreotypeを含め、ロモグラフィーの交換レンズ製品は、ロシアのZENIT社で制作されている。Matthias Fieglさんによると「品質は良い。ばらつきもない。ただし当初は、量産技術が今ひとつで苦労した」とのこと。

というのも、ロモグラフィーと付き合いが始まった頃、ロシアの工場は社会主義のもと、戦後を軍事用品を造る感覚で過ごしてきた。資本主義をベースとしたマーケティングの考え方にのっとり、民生用品を造るメンタリティはほぼなかったそうだ。例えばLC-Aを製造した際、生産の継続を了承してもらうのに、どういうわけか1年もかかったという(条件は悪くないのに!)。そういった時代から工場にスタッフを派遣するなど関係性を強め、現在の交換レンズ生産に至ったわけだ。

Petzvalで交換レンズ市場に参入したロモグラフィーだが、いまやフィルムカメラに続く大きな製品カテゴリーとして確立。「New Russar+ 20mm F5.6」「New Jupiter 3+」というMマウント互換レンズも投入し、いずれも好評を博している。

とはいえ売上の半数はいまのところPetzvalであり、(キヤノン、ニコンという母数の大きさもあるが)Petzvalのインパクトがいかに強かったがうかがえる。Petzvalの流れを汲みつつ、新たな表現を実現するDaguerreotypeもまた、いかにもロモグラフィーらしい製品ではないだろうか。

(本誌:折本幸治)