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開発者トーマス・ノールが語る「Photoshop」誕生ストーリー

25周年記念展が開催。次期Camera Rawの新機能プレビューも

Adobe Photoshop共同開発者、アドビ フェローのトーマス・ノール(Thomas Knoll)氏

アドビシステムズは5月21日、東京・原宿のUltraSuperNewギャラリーで5月22日に開幕する「INSIDE PHOTOSHOP -Photoshop 25th Anniversary Exhibition-」の記者説明会を行なった。

INSIDE PHOTOSHOPは、Photoshopの25年を記念したギャラリー展示。会場内に、Photoshopのウィンドウに見立てた壁面や、これまでの歴史を振り返るタイムライン、アカデミー賞授賞式の生放送で流れたCM「Dream On」のムービーアートなどが用意されている。来場者向けにプレゼントが当たるTwitterキャンペーンも行なう。

Photoshopのウィンドウ内に自分が入るような造り
床にツールアイコンなどが散らばっている。これを手に記念撮影を楽しんでほしいとのこと
25年を振り返る展示
Dream On。Aerosmithの同名曲をバックに
“伝道師”ラッセル・ブラウン氏がグレースケールで
こちらはノール兄弟

会場の所在地は東京都渋谷区神宮前1-1-3。会期は5月22日(金)〜6月4日(木)の11時〜18時。入場無料。

会場は原宿のUltraSuperNewギャラリー
Twitterキャンペーンの概要。4月1日に発表したPhotoshop REALも当たる

トーマス・ノール氏、当時を語る

5月21日の記者説明会には、Photoshopの共同開発者であり、現在もLightroomの現像モジュールのベースであるCamera Rawの開発に携わるAdobe Systems Inc.のトーマス・ノール氏が出席。“Photoshop”誕生の経緯や、Photoshop 1.0のデモを披露した。

トーマス・ノール氏

トーマス・ノール氏と写真の出会いは、11歳の誕生日(クリスマス)に父からプレゼントされたアーガスのレンジファインダーカメラ。そのカメラの使い方やモノクロ現像の方法を父に習い、暗室でのプリントも習得した。のちにシバクロームによるカラープリントも行なうようになる。

米アーガスのレンズ交換式レンジファインダーカメラ
13歳の頃にプリントしたモノクロ写真。実家の地下室の壁に並ぶ工具を撮ったもの

Photoshopのストーリーは、氏がミシガン大学でコンピュータービジョンの博士課程に在籍していた頃に始まる。

当時研究していた画像認識において一番難しかったポイントが、重なって写ったもの、隠れているものといった個別の認識。博士論文のテーマも、そのための「輪郭抽出」に関するものだった。

博士研究のためにそうしたプログラムも書いたが、研究の仕上げには「論文を書く」という長いプロセスが存在した。トーマスは“文章を書く”ということが学校生活で最も嫌いだったため、その“現実逃避”としても、ソフトのプログラムを書くことを楽しんでいた。

そのころトーマスの弟のジョンは、映画の特殊効果(SFX)や視覚効果(VFX)を扱い、「スター・ウォーズ」を手がけたことで知られるILM(Industrial Light & Magic)でカメラオペレーターをしていた。そこで「VFXの将来はCGにある」と確信し、自身で勉強を始めた。

そこでトーマスは、「画像を画面に出すだけで、なぜこんなに難しいのか」と悩む弟に大学時代の研究プログラムを渡し、レンダリングだけに集中できるようにした。そのうちプログラムに対する機能リクエストが弟のジョンからも出てきて、1987年頃にはそれらの細かなツールをひとつのアプリケーションにまとめた。これがのちのPhotoshopとなる、ごく初期のバージョンだったという。

以来トーマスは博士論文をさておいて、アプリケーションへの機能追加を続けた。そんな兄の“自分の楽しみのためのプログラム”を「これは売れる!」と感じたのが弟のジョン・ノール氏。2人は小さな会社を作り、それぞれエンジニアリングとマーケティングを担当した。

トーマスは、そんな弟の働きぶりもあって博士課程をドロップアウト。1989年にはアドビがそのアプリケーションに興味を持ち、同年に契約。1990年にPhotoshop 1.0が発売となる。

暗室ワークの経験を反映

トーマス・ノール氏は、Photoshopには自身の暗室経験が反映されていると語る。銀塩モノクロプリントにおける「黒を黒に、白を白に」と「白飛び・黒潰れは避けたい」のバランスが、アナログ作業の暗室でいかに難しいか、というのがそれだ。

今では当たり前となった「レベル」ダイアログは、そうした暗室ワークから生まれた発明だった。これにより、独立したツマミで白と黒を調整できるようになった。

「レベル」ダイアログの用途

ここでトーマス・ノール氏は「このMacを(当時のMacである)Macintosh IIに戻す」と言い、エミュレーターを起動。Photoshop 1.0を起動した。

エミュレーターを起動
Photoshop 1.0.7。クレジットされている名前もまだ少人数
表示されている写真は弟のジョン・ノール氏が撮ったもので、Photoshopを売り込む際に使ったデモ写真であり、Adobeが契約を決めたデモでも使った思い出の写真だという。

初代Photoshopのデモは「マジックワンド」から始まった。自動で範囲選択を行なうツールであり、トーマス・ノール氏が大学時代に研究した画像処理の輪郭抽出に繋がる。

当時はまだレイヤー機能がなく、「フローティング選択範囲」の使い方を工夫して様々な表現を行なった。これは1度に1つのオブジェクトしか扱えないが、氏いわく「初期のレイヤー機能とも言える」とのこと。

マジックワンドでフローティング選択範囲をつくり、レベル補正を適用
初代Photoshopのデモを行なう表情には、心なしか笑顔が多く見えた

また、少しマニアックな使い方として、マジックワンドでの輪郭抽出が難しいオブジェクトの複製方法を紹介。RGBの各チャンネルの中からコントラストが高いチャンネルの画像を利用し、レベル補正やブラシツールで白黒の選択しやすいオブジェクトを作り、その選択範囲を利用して元画像のオブジェクトを複製してみせた。

人物を切り抜くため、コントラストのあるBチャンネルを利用
水着の白もブラシで塗りつぶし、レベル補正で人物部分をハッキリさせる
選択範囲の適用を元のカラー画像に移す
自然な範囲選択による複製ができた

Photoshopが月額980円の時代

氏は、先に語った自身の写真経験からPhotoshopを開発しながらも、「1.0はそこまでフォトグラファーのためのツールではなかった」と語る。

当時はまだPhotoshopを活かすハードウェア自体が整っておらず、画像を取り込むには高価なスキャナーが必要で、出力には1枚1,000ドルをかけてプリントするしかなかったからだという。

1990年のPhotoshop事情

現在のワークフローでは、高画質のデジタル一眼レフカメラ、手頃になったコンピューター、安価で高品質なインクジェットプリンターで手頃に入出力環境が揃う。さらに肝心のPhotoshopは「フォトグラフィプラン」で月額980円とのアピールも忘れない。

2014年のPhotoshop事情

トーマス・ノール氏が初めてデジタルカメラを買ったのは2002年。Camera Rawを開発するためだった。その時に“自分の写真”も再びやってみたいと思うようになり、写真を撮りながら開発を進めてきたという。続けて、氏が世界各地で撮影してきた写真の数々を10分弱のスライドショーで披露した。

説明会後の質疑応答で「一番お気に入りのツールは?」と聞かれ、氏はコピースタンプツールを選択。現在のスポット修復ツールのようなものだが、「コピースタンプツールは1.0にもあって便利だから」と理由を述べた。

お気に入りのツールを手に

Camera Rawの新機能を初披露

説明会では、続いてLightroomとCamera Rawの担当者であるエリック・チャン氏が登壇。「DeHaze」という新機能を紹介した。

新機能をデモしたエリック・チャン氏

DeHaze(仮の日本語名:霞を除去)は、霞がかった写真のディテールやコントラストを強調できる機能。強度をスライダーで調整でき、スライダーを反対に動かせば、元の画像以上に霞を増やすこともできる。

元画像
霞の除去効果を最大にしたところ
逆に、霞を増やしたところ
DeHazeのスライダー
画面内の一部に霞がかった画像
霞を除去
逆に、都市が霧の中に消えたような効果

DeHazeは次期LightroomおよびCamera Rawに搭載予定で、この記者説明会における紹介が「世界初のスニーク・ピーク」だとしていた。

5月22日11時40分追記:記事初出時、新機能名称を「Dehaze」と記載していましたが、正しくは「DeHaZe」であると広報担当者より連絡を受けたため、該当部分を修正しました。

5月22日18時50分追記:上記修正後、「DeHaze」が正しい表記と再度連絡を受けたため、該当部分を修正しました。