キヤノン、4K動画撮影可能なデジタル一眼レフカメラを2012年に発売
キヤノンは4日、デジタル一眼レフカメラ「EOS-1D X」をベースに動画撮影機能を強化したデジタル一眼レフカメラを開発中だと発表した。2012年に発売する。名称や価格などは未定。
開発中の「4K動画記録を実現するデジタル一眼レフカメラ」(名称未定)。外観はEOS-1D Xに似ている |
4,096×2,160画素のいわゆる「4K解像度」による動画撮影機能を備えたデジタル一眼レフカメラ。新開発の35mmフルサイズCMOSセンサーを搭載する。記録フォーマットは24pのMotion JPEG。4K記録の場合は、APS-Hサイズ相当にクロップされる。
静止画の撮影機能も有しており、動画と静止画の両方に対応するカメラだという。ただ、同社によれば動画撮影に重きを置いたカメラだという。
■スーパー35mmセンサー使用のデジタルシネマカメラ
キヤノンでは同日、EFマウントに対応したデジタルシネマカメラも発表した。2012年1月から順次発売する。同時にラインナップする「EFシネマレンズ」などと合わせて「CINEMA EOS SYSYTEM」として映像制作市場に本格参入する。
EOS C300。同梱の液晶モニター、ハンドル、グリップを装着したところ |
新製品のデジタルシネマカメラは「EOS C300」(EFマウント仕様、2012年1月下旬発売)および「EOS C300 PL」(PLマウント仕様、2012年3月下旬発売)。マウントの精度を保証するため2モデルを用意した。マウント以外の仕様はほぼ共通。いずれも価格はオープンプライスで、店頭予想価格は150万円前後の見込み。両機種を合わせて、初年度は国内で300台の販売を目指す。型番の「C」は“CINEMA”を表す。16日に幕張メッセで開幕するInter BEE 2011で展示する。
撮像素子は、ハイエンドデジタルシネマカメラで採用されている「スーパー35mm相当」のCMOSセンサーを搭載する。サイズは24.6×13.8mm。画素数は有効829万画素。単板センサーながら、レッド、グリーン、ブルーの色ごとにフルHDと同じ画素数を読み出すことが可能で、3板式と同じ画像処理を行ない高画質を実現したとする。また従来のセンサーに比べてスキャンスピードを2倍にすることで、ローリング歪みを半分に抑えたとしている。
EOS C300はEFマウントを採用した | 搭載するスーパー35mm相当のCMOSセンサー |
RGB別にフルHDのデータを読み込み、3板式カメラと同じ信号処理を施す | 3つのキーテクノロジーを独自に持つことが優位点だとした |
画像処理エンジンは「DIGIC DV III」。記録は最大1,920×1,080ピクセル(59.94i、29.97p、23.98p、24.00p)。1,280×720ピクセルでは59.94pの撮影も可能。59.94iを選択した場合、フレームレートを1~60fpsの範囲で1fps単位で設定できる。シャッター速度は、フレームレート以下の速度にも設定できるとしている。
ファイルフォーマットは、同社の業務用デジタルビデオカメラでも採用している「MXF」方式。既存のノンリニア編集ワークフローに対応できるよう考慮した。圧縮方式はMPEG-2 Long GOP。最大ピットレートは50Mbps。色サンプリングは4:2:2(422P@HL)で、ジャギーを抑えた映像を記録できるとする。音声は48kHz、16bitのリニアPCM。内蔵マイクは非搭載。
一般的な動画記録よりも広いダイナミックレンジを記録できる「Canon Logガンマ」も搭載した。Log収録は編集時の処理を前提とした記録方式で、編集段階での明るさ調整などがより柔軟に行なえる。Canon Logガンマでは、通常の8倍のダイナミックレンジで記録できるとする。
前から見たところ | 背面には液晶パネル、記録メディアスロット、バッテリー室などを備える。端子類も豊富に揃える |
グリップは、デジタル一眼レフカメラに近いデザインを採用した。本体に対して回転できる | パッケージ内容 |
露出制御はマニュアルのみで、、AFやAE機能は搭載していない。3濃度(2/4/6段)の電動NDフィルターも利用できる。EFマウントモデルは周辺光量補正に対応する(一部レンズ除く)。感度はISO320~20000。
液晶モニターは着脱式タイプが付属する。サイズは4型で約123万ドット。EVFは0.52型の約155.5万ドット。フォーカシングのアシストとして「エッジモニター機能」も装備した。奥行方向のピントの山が直感的に把握できるという。また、波形モニターやベクトルスコープの表示機能も有する。
動画の記録はCFで、デュアルスロットを備える。CFは、リレー記録や同時記録に対応する。静止画やカメラの設定情報はSDメモリーカードに記録できる。
映像制作用カメラとしては小型のボディだとする。大きなカメラでは撮影できない狭い場所やローアングルなどの撮影が可能だとする。本体は防塵、防滴仕様。冷却システムも備え、長時間の撮影が可能だという。
社外品のマットボックスやフォローフォーカスを装備した展示もあった |
EOS用ワイヤレストランスミッター「WTF-E6B」(オプション)を装着すると、スマートフォンやタブレット端末から遠隔操作ができる。
入力端子はHD-HDI、GENLOCK、TIME CODE、マイク、リモート、XLR×2(音声)など。出力端子はHDMI、ヘッドホン、HD-SDI、SYNC OUT、TIME CODEなど。そのほかモニターユニット接続端子が2系統と、無線ユニット接続用のWFT端子を装備する。バッテリーは「BP-955」または「CA-940」。
着脱式の回転グリップとハンドルユニットも付属する。EOS C300のサイズと重量は約133×179×171mm、約1,430g(本体のみ)、約2,700g(グリップ、モニターユニット、ハンドルユニット装着時)。
■映画用レンズも新たにラインナップ
EOS C300およびEOS C300 PLでの使用を想定した「EFシネマレンズ」も5本投入する。第1弾は「トップエンドズームレンズシリーズ」が2本、「単焦点レンズシリーズ」が3本となっている。いずれも4K解像度に対応した光学性能を備えるほか、絞り込んでも円形に近くなるという11枚羽根の絞りなどを備える。今後は、順次ラインナップを拡充していくとしている。
既存のEFレンズに対して、動画撮影を考慮した設計にしたという。映画などで好まれるという暖かい色味が出せるほか、ボケ味も従来レンズ以上にこだわったとする。また、ブリージングと呼ばれるフォーカシング時の画角変化も「かなり抑えた」(キヤノン)としている。
全てのレンズで、フォローフォーカスのためのギア付リングを利用できる。ズームやフォーカスリングの回転角を大きく設定して、微妙な操作も行なえるようにした。マットボックスなど映画業界で広く普及している他社製アクセサリーの装着も可能となっている。
トップエンドズームレンズシリーズは、「CN-E 14.5-60mm T2.6 L」(2012年1月下旬発売、409万5,000円)と「CN-E 30-300mm F2.95-3.7 L」(2012年3月下旬発売、430万5,000円)の2本。これまで3本のズームレンズが必要だったという14.5-300mmのレンジを2本のレンズでカバーできるようになったとしている。なお、いずれも同じ仕様のPLマウント版(発売時期と価格は同一)も用意する。
CN-E 14.5-60mm T2.6 L | CN-E 30-300mm F2.95-3.7 L |
単焦点レンズシリーズは、「CN-E24mm T1.5 L F」(2012年7月下旬発売)、「CN-E 50mm T1.3 L F」(同)、「CN-E 85mm F1.3 L F」(2012年8月下旬発売)。価格はいずれも61万9,500円。現場での使用頻度が高いという3種類を先行投入する。
左からCN-E24mm T1.5 L F、CN-E 85mm F1.3 L F、CN-E 50mm T1.3 L F | EFシネレンズはケース内のモックアップ展示だったが、Inter BEE 2012では動作するモデルを展示するという |
価格については、「回転角などの関係でメカニカル機構を使っているため、コストがかかっている」(キヤノン)とした。
これらEFシネマレンズは、既存のデジタル一眼レフカメラ「EOS」シリーズでもMFや実絞り撮影という制限があるものの利用可能。ただし、トップエンドズームレンズシリーズはスーパー35mm相当のイメージサークルのため、APS-Cサイズのセンサーを備えたEOSでのみ使用可能。一方単焦点レンズシリーズは、35mmフルサイズのイメージーサークルをカバーしており全てのEOSで使用可能。
■2009年にCINEMA EOS SYSTEMのプロジェクトを発足
キヤノンでは、今回のCINEMA EOS SYSTEMを「歴史的な意味を持つもの」と位置づける。国内より6時間前に行なわれたハリウッドでの発表会(パラマウントシアター)には、キヤノン代表取締役会長兼CEOの御手洗富士夫氏が出席。都内の発表会場でその映像を上映した。
御手洗氏は、「ハリウッドのコミュニティへの仲間入りをお願いするために、日本から特別なものを持ってきた。皆さんの映像表現の領域を格段に広げる」とCINEMA EOS SYSTEMを紹介した。
ハリウッドの発表会場でスピーチするキヤノン代表取締役会長兼CEOの御手洗富士夫氏(左)。同会場には映画監督のマーティン・スコセッシ氏も応援に駆けつけた(右) |
都内の発表会場では、全編EOS C300で撮影したサム・ニコルソン氏による短編映画「XXIT」とそのメイキング映像を上映した。
サム・ニコルソン氏 |
本編の一部 |
メイキング映像の一部 |
製品概要を説明したのは、キヤノンイメージコミュニケーション事業本部 電子映像事業部 事業部長の枝窪弘雄氏。EOSシリーズで初めて動画記録機能を搭載した「EOS 5D Mark II」が動画製作分野で受け入れられたことをきっかけに、2009年にCINEMA EOS SYSTEMのプロジェクトを発足。ハリウッドを中心に徹底したリサーチで、EOS 5D Mark IIを受け入れたニーズと不満を拾い上げフィードバックしたという。
キヤノンイメージコミュニケーション事業本部 電子映像事業部 事業部長の枝窪弘雄氏(右)とキヤノンマーケティングジャパン代表取締役社長の川崎正己氏(左) | キヤノンは、1973年にシネレンズがアカデミー賞を受賞している。そのため今回のCINEMA EOS SYSTEMを映画分野への“再参入”だとしている |
ライバル機は、スーパー35mm相当センサーやPLマウントを採用したソニーのデジタルシネマカメラ「PMW-F3」(152万2,500円)だとする。一方、米レッドデジタルシネマが展開しているデジタルシネマカメラについては、「キヤノンとレッドではずいぶん立場が違うと思う。CMOSからの絵を引き出す技術では競合メーカーとは違った事ができると考えている」(枝窪氏)とコメントした。
EOS 5D Mark II以来EOSムービーが活躍していることから、2009年にCINEMA EOS SYSTEMプロジェクトを立ち上げたという |
キヤノンエキスポ2010で展示した4K収録可能なコンセプトカメラとEOS C300との関係については、「キヤノンエキスポで展示したものは“マルチパーパスカメラ”で、動画と静止画の両立を図ったカメラ。今回のEOS C300は、大判センサーを搭載した映像制作向けのカメラという点で使われ方が違ってくる」(枝窪氏)とした。
キヤノンエキスポ2010で展示した「マルチパーパスカメラ」(コンセプトモデルだが実働する)。2/3型CMOSセンサーセンサーを搭載している |
マーケティング戦略を説明したのは、キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)代表取締役社長の川崎正己氏。今回の製品群を同社が掲げる事業の多角化の1つだとする。「コスト面で有利なデジタルシネマカメラが急速に普及するだろう」(川崎氏)。CINEMA EOS SYSTEMは直販を中心とした販売体制を取り、専門の部署も社内に新設する。2015年にはデジタルシネマカメラ市場で40%以上のシェアを採るとした。
CINEMA EOS SYSTEMは、キヤノンMJの「長期経営構想フェーズII」にある“事業の多角化”に合致する製品だという | キヤノンにおけるカメラの製品ポジション |
これらの現況から、デジタルシネマカメラが今後さらに普及するとしている | 実写の邦画は2006年以降年400本越えが続いている |
デジタルシネマスクリーンも増加傾向にあるという | CMの製作本数は横ばいだが、制作費は減る傾向にあるとする |
デジタル撮影の比率が高いCM撮影はもとより、CINEMA EOS SYSTEMで映画分野でもシェア拡大を目指す | CINEMA EOS SYSTEMが加わり、業務用映像機器を広くカバーするという |
キヤノンMJ内にCINEMA EOS SYSTEMを扱う新部署を作り、販売とサポートを強化する | キヤノンMJでは、2015年には売上を4倍にする目標を掲げた |
CINEMA EOS SYSTEMはInter BEE 2012に出展する。なお、同展では2012年3月発売予定のEOS-1D Xも展示する | 会場の様子 |
2011/11/4 21:26