エプソンに聞くEVF用液晶パネル「アルティミクロン」の秘密

~独自の微細化技術でトップクラスの見え味を実現
Reported by 小倉雄一

左からセイコーエプソンTFT事業部TFT事業企画部の安田昌弘課長、同川田浩孝主事(ともに商品企画を担当)、同原恒主任(TFT事業の広報を担当)

 ライブビュー専用のレンズ(ユニット)交換式デジタルカメラが活況だ。このうち、EVF(電子ビューファインダー)を内蔵していない機種だと基本的に背面の液晶モニターで構図などを確認するが、オプションの外付けEVFも人気アイテムという。

 今回は、現行のデジタルカメラ用EVFでもトップクラスの性能といわれるオリンパス製外部EVF「VF-2」に採用されたエプソン製の高温ポリシリコン液晶パネル(HTPS)「ULTIMICRON」(アルティミクロン)についてインタビューした。VF-2は、オリンパスのマイクロフォーサーズ機「E-P2」および「E-PL1」用のオプションとして用意されている。

 話をうかがったのは、セイコーエプソンTFT事業部TFT事業企画部の安田昌弘課長、同川田浩孝主事(ともに商品企画を担当)、同原恒主任(TFT事業の広報)の3名。(聞き手:小倉雄一)

EVF用液晶を世界で始めて作ったエプソン

――まず最初にEVF用液晶パネルの業界トレンドを教えていただけますか。

安田:私たちが手がけているようなSVGA(144万画素、800×RGB×600ピクセル)やVGA(92万画素、640×RGB×480ピクセル)という高解像度の品種と、従来からある20万画素クラスのもので二極分化しているといえますね。

――おもに20倍、30倍という高倍率ズームレンズを搭載したレンズ一体型デジタルカメラが20万画素クラスのEVFを搭載し、多くのミラーレス機がSVGAやVGAであるという認識でよろしいでしょうか。

川田:はい。また別の観点でみると、技術方式の違いが挙げられます。エプソンが採用するカラーフィルター方式と他社のフィールドシーケンシャル方式があります。解像度では上と下、カラーの表示方法としては2つの方式が存在しているのが現状です。

――EVF用の液晶パネルの開発は以前から取り組んでこられたのでしょうか。

原:エプソンは1988年にビデオカメラ用のEVFモジュールを世界で初めて量産したメーカーなんです。

エプソンTFT事業の歴史LCDの分類

安田:最初のEVFは解像度220×320ピクセル(7万400ドット)のフルカラーでした。それまで家庭用ビデオカメラのEVFはモノクロCRTベースのものでした。

原:弊社のEVF用液晶パネルについては最初の製品を手がけた後、RGBで3つのLCDを使うプロジェクター向け液晶パネルのほうに軸足を移していき、この10年くらいはプロジェクター用がメインだったのです。

――一度事業をシフトしたのは、EVFそのもののパイがそれほど大きくなかったということなのでしょうか。

安田:当時は、マイクロディスプレイで大画面というニーズが当然あるだろうという予測のもとに事業をシフトしていきました。しかし、プロジェクターの大画面・高精細化の技術がEVFの市場を活性化できるのではないかと考えたため、今回あらためてEVFに取り組んだわけです。

――先ほどの二極分化の話にあった20万クラスのEVFは手がけていないのですか。

安田:はい、私たちの製品では、SVGAとQuarterHD(960×RGB×540、デジタルビデオカメラ用)がいちばん解像度が低いものです。

――あまり低価格の製品は手がけないのですね。

安田:私たちは微細化や高画質をポイントとして価値を訴求していきたいと思っています。今後もやはり解像度を上げて画質を高めていく方向性を考えています。

微細化と高細密化に適した高温ポリシリコン

――アルティミクロンの技術概略を教えていただけますか。

原:使用目的に応じてさまざまな液晶パネルが存在しますが、アルティミクロンに使われているのは、HTPS(高温ポリシリコンTFT)というタイプです。HTPSは超小型サイズで2,500dpi以上の高解像度を実現できる特長があります。いままでプロジェクターに利用してきたものをEVF向けに使っています。今回、オリンパスさんのEVFに採用されている製品は0.47型のSVGAで、業界トップクラスの高精細を実現しました。

 エプソンでは、これまで腕時計などさまざまな製品開発を通じて培った精密加工技術をHTPSの高精細化にも応用しています。回路の微細化により高開口率も実現し、より多くの光を透過させやすい明るいパネルを開発しました。もう1つの我々の強みは、キーとなるプロセス製造装置を内製していることです。必要とされる性能をもったHTPSを速やかに製造ラインに載せることが可能になります。

2009年10月に発表し、オリンパスの外付けEVF「VF-2」に採用されたHTPS液晶ユニット(左)とドライブIC(右)。0.47型のSVGA(144万画素、800×RGB×600ピクセル)だアルティミクロンの特長。ヘッドマウントディスプレイなどへの搭載も想定している

――HTPSの微細化は半導体プロセスの微細化と同じなのでしょうか?

川田:そうですね。ただ半導体と少々違うところもあります。半導体の場合、集積度を高め性能を上げることが進化の方向です。液晶パネルの場合は光を通しますので、各画素を構成しているトランジスタに光が当たってしまうと画像を保持できなくなってしまうという問題があります。そのために、トランジスタに光を当てないようにしつつ、データ保持部分の容量を大きくする。なおかつ、開口率を上げながら微細化していく。そういった努力を続けています。

従来型に比べて、ピントの山が掴めるほどの見えを実現したプロジェクター用液晶パネルの技術を応用して微細化を進めた
液晶をアナログ駆動することで、より滑らかな表示が可能になった

――液晶表示をアナログ駆動で行っているために自然な階調表現が可能とありますが、それはなぜなのでしょうか。

川田:アナログで駆動する場合、それぞれの画素のトランジスタに異なる電圧を書き込むことで階調表現を行ないます。その電圧1つに対して階調のレベルは1つ、1対1で決まっています。液晶パネルの特性として、ハイライト部とシャドウ部は電圧と階調の間がわりと緩やかなんですね。たとえば256の階調で刻んだときに、0と1の間、254と255の電圧差がけっこう大きめなので、滑らかな階調表現を行ないやすく、階調の豊かさにつながるわけです。逆に難しいところは、中間の階調では微妙な電圧制御が必要になってくる点ですね。

――液晶のデジタル制御というのもあるのでしょうか。

川田:あります。デジタル制御の場合、基本的には白と黒だけを使って階調表現を行ないます。1画面を表示する時間は決まっているので、そのなかで黒を表示する時間を調節することで階調表現を行ないます。

――そこでは時分割式が登場するんですね。

川田:はい。液晶のデジタル駆動にもメリットはあるのですが、シャドウ部の階調表現が若干苦手なのです。カメラのEVFではアナログ駆動が向いているとわれわれは考えています。

カラーフィルター式はカラーブレークアップが発生しない

――他社で採用されている「フィールドシーケンシャル方式」に比べて、エプソンが採用している「カラーフィルター方式」のメリットは何でしょう?

原:フィールドシーケンシャル方式は色順次駆動方式ともいい、時間によってRGBの3色を切り替えています。そのため、カメラを素早く振ったり動きの速い被写体を撮ったりすると色の残像が残ることがあります。これは「カラーブレークアップ」(色割れ)と呼ばれ、撮影時の大きなストレスにつながります。しかし、アルティミクロンのカラーフィルター方式であれば、RGBの3色を常に表示しているため、原理的にそのような現象は起きません。

アルティミクロンはカラーフィルター式を採用フィールドシーケンシャル式に比べてカラーブレークアップが発生しないのがメリット

安田:ここが一番の特長です。カメラのファインダー内にはAF測距点が表示されます。このポイントが表示された状態で、ファインダーのなかで視点をずらしたりすると、カラーブレークアップはかなり顕著に見えてしまうと思います。

――では、カラーフィルター方式にデメリットはないのでしょうか。

川田:表示の面でデメリットはほとんど無いと思います。ただ、フィールドシーケンシャル方式では1つの色を表現する画素が1個あればいいのですが、カラーフィルター方式の場合は、1つの色を表現するのにRGBで3個の画素を用意しなければならず、当然画素が多くなります。画素が増えることによって配線も必要になりますので、製造が難しくなります。ですが、われわれの生産技術で歩留まり、生産性が十分確保できており、そうしたデメリットを克服しています。

オリンパスのVF-2VF-2を装着したマイクロフォーサーズ機「E-PL1」

――フィールドシーケンシャル方式に比べて、コスト面ではどうでしょう。

安田:われわれの製品はプロジェクター分野でかなりの実績がありますので、十分な価格競争力をもっていると認識しています。

――今回、2つの方式のEVFをずいぶん見比べてみたのですが、フィールドシーケンシャル方式でもそれほどカラーブレークアップの違和感を感じませんでした。

川田:それは人にもよるんですね。プロジェクターの開発でいろいろな大学の先生が研究しているのですが、人によって見える人はかなり見えます。

――フィールドシーケンシャル方式とカラーフィルター方式は、同じ画素数で比較すると解像感というのはまったく一緒なのですか。

川田:同じ画素数での比較は難しいですね。色の表現方法が異なりますから。同じ解像度で比較した場合、解像感というといろいろな要素が入ってくるのですが、アルティミクロンは解像感も優れていると思います。

――カラーフィルター方式で、画素が縦に並んでいる点は、とくにデメリットにはならないのでしょうか。

川田:もう少し粗くなってきてしまうと気になるかもしれませんが、アルティミクロンは非常に微細な画素ですので、まったく問題ないですね。

EVFに色域はどのくらい必要なのか

――コントラストを高める工夫については、いかがでしょうか。

川田:基本的には使用する液晶の方式によって決まってくる部分があります。この方式の使い方だと、このくらいの値が確保できるということですね。これもプロジェクターの技術の応用ではあるのですが、様々な検討をしております。

現行のタイプはsRGBカバー率92%

――色域はいかがでしょうか。

川田:非常に難しいところですね。まず、今の製品に対してsRGB以上の色域は必要だろうと考えています。

安田:EVFに求められる色域というのは、今後カメラメーカーと話しながら詰めていくべきだろうと思っています。

川田:当初われわれは、色域は広いほどよいと考えていました。ただ、カメラメーカーの話を聞いたり、実際にカメラを使われている方々の意見をカメラメーカーを介して聞いたところでは、単に色域が広ければ広いほどいいというものでもなさそうなんですね。液晶ディスプレイがAdobe RGBの何パーセント表示できるという時代だからEVFも、と単純なものでもないようです。

安田:そうですね。EVFに求められるものと映像を鑑賞するものは、やはり違うんじゃないかと思うんですね。そもそもEVFというのは“ビューファインダー”、つまりターゲットを認識して撮るためのものです。もちろん撮ったあとに見るというのもあるとは思うのですが……。ですから、映像を大画面モニターで見るときの品質とは若干異なるところを要求される、優先順位が高くなるところは別なのではないかと思います。

――今のところ、デジタルカメラの背面液晶モニターもさほど色域は広くないですね。

安田:EVFで撮って背面液晶モニターで確認したら、EVFのほうがキレイに見えたということも十分にありえます。

――技術的にはAdobe RGBを表示できるEVFは作れそうですか。

川田:開発は当然進めています。今すぐできるという話ではないのですが、カラーフィルターの設計、液晶パネルのバックライトに工夫を入れる、そのあたりの組み合わせでどこまでできるか、というところを検討はしています。

――OVF(光学ビューファインダー)に比べてEVFの解像度は、だんだん追いついてきていると思うのですが、カメラを振ったときなどに、どうしても表示がワンテンポ遅れる、それが最後に残る違和感なのではという気がするのですが、液晶パネルのフレームレートを上げていくことによってゼロに近づけていくことができるのですか。

安田:フレームレートだけではないですね。撮像素子から画像データを送られた画像処理回路の性能にも関わってくるので、それはトータルとして考える必要があるのと思います。

セイコーエプソンTFT事業部の川田浩孝主事。「低消費電力の実現など、液晶パネルに合わせたドライブICが提供できる強みもあります」

――液晶パネルだけ速くしても、あまり効果はないということですか。

安田:液晶パネル側にもやるべきことはあると思っていますが……。

川田:液晶パネルのフレームレートを上げていくことは必要な技術だとは思っていますが、そこだけを上げても表示の遅れというのはドラスチックに改善するわけではないということですね。

――液晶パネルのドライブICもエプソンが提供していると聞きましたが、ドライブICの工夫について教えてください。

川田:われわれの液晶パネルも独特な特性をもっています。そういう特性に合わせて表示を美しくする回路のほかに、消費電力をいかに抑えるかという工夫が入っています。当社の半導体部門では携帯電話用液晶のドライブICを作っており、非常に低消費電力に優れた技術を持っています。それを今回のドライブICにも盛り込んでいます。

カラーフィルターは自分たちで一から作った

――アルティミクロンの製造工程でもっとも苦労したのはどこでしょうか

川田:TFT基板やHTPS技術は液晶プロジェクターの延長でしたが、カラーフィルター方式を採用したので、カラーフィルターをどうにか作らなくてはいけない。自分たちで作ると決めて、カラーフィルターの製造ラインを一から立ち上げました。カラーフィルターの知識もまったくないメンバーだったのですが、カラーフィルターの材料メーカーから情報をもらいながら、われわれのパネルに最適なカラーフィルターを作っていきました。一般的な情報を仕入れながら、非常に微細なカラーフィルターをいかに作っていくか議論を重ね、実際にモノを作りながら進めていったところがいちばん苦労したところですね。

――そんなに微細なカラーフィルターを簡単に作れるのですか。カラーフィルターは普通、よそのメーカーから買ってくるものではないのでしょうか。

川田:簡単ではないですよ(笑)。大型の液晶テレビなどに使われているものは、他社から購入しているメーカーと内作しているメーカーがあります。ただ、われわれのアルティミクロンの場合、画素の大きさがまったく違う極小サイズですので作ってくれない。われわれ自身で作るしかないのです。

安田:これがセイコーエプソンの歴史でして、クォーツウォッチを作ったときに、そんな低消費で動くICなんか世の中に存在しない、水晶振動子もない、またデジタルウォッチを作ろうとしたとき、そんな液晶表示パネルはどこも作れないということで、ぜんぶ内作したんです。半導体も水晶振動子も液晶表示体も自分たちで一から作った。全部それが発展していまのセイコーエプソンの電子デバイス事業になってるんですね。だから他社に作ってもらえない、ほかになかったら自分たちで作ろうというのがわれわれのDNAです。

エプソンはInterBEE 2009で、アルティミクロンがVF-2に採用されていることを明らかにした

――オリンパスのVF-2に採用されていると公表していますが、その理由はどのあたりにあるのでしょうか。

安田:私たちが映像機器の展示会「InterBEE 2009」にアルティミクロンを出品するにあたり、搭載カメラを紹介してもいいですかということでオリンパスさんに快諾いただけたのも当然あるのですが、E-P2というカメラがEVFやカメラのこだわりというところにコンセプトを置いていて、私たちの方向性と合っていると強く感じましたので、では是非となりました。

OVFを凌駕する気合いを込めたアルティミクロン

――マイクロディスプレイに“アルティミクロン”というブランド名をつけたのも、アグレッシブな感じですね。

安田:私たちはとにかくOVFを超えたいと、そのくらいの意気込みでやっています。もちろんOVFは残ると思います。どこかで棲み分けがなされると思うのですが、OVFにできないことはたくさんあるんです。例えば動画の確認はOVFでは絶対に無理ですよね。そういうところでトータルでOVFを超える、凌駕することを目指しています。その気持ちも込めて、アルティミクロンという名前を付けました。われわれの気合いの表れです。

開発中のXGA(1,024×RGB×768ドット)タイプ。0.6型で約236万画素とあって、かなり高精細な映像を見ることができる

――オリンパス以外のカメラメーカー、もしくはビデオカメラメーカーからの引き合いはありますか。

安田:InterBEE 2009やCP+2010の出展を多くのメディアでも取り上げていただいたこともあり、さまざまなメーカーから引き合いがきて、注目度は高いです。細かいことはなかなか申し上げられないのですが……。

――現在提案中のカメラメーカーからの反応はどうでしょうか。

安田:高い解像度とキレイな色というところでは、非常に高い評価をいただいています。

――カメラメーカーは、そんなにいくつもないですね。

安田:ほとんどのメーカーからお話があるというふうにご理解いただいてもよいかと思います。

左からSVGA、QHD、XGAの表示ユニット

――いま提案している製品はなんですか?

安田:SVGAとQHDの2つですね。

――QHDというのは、どんなカメラに載っているんですか?

安田:QHDは16:9で業務用ビデオカメラ向けですね。フルHDの1/4という意味で解像度は960×RGB×540。155万画素になります。

――そのQHDパネルはもう採用例はあるのですか。

安田:もう量産出荷していますので、近いうちに搭載製品が出てくると思います。

――ビデオカメラ用のEVFとしてはかなり高精細なモノなのでしょうか。

安田:おそらく一般的なEVFのなかではトップクラスです。従来はWVGA(854×480)クラスが一番多かったと思います。

――アルティミクロンが、今後より小型のコンパクトデジタルカメラに採用される予定はありますか。

取材に伺った東京・新宿のセイコーエプソン本店(新宿NSビル)

安田:当然、要望があれば検討したいと思うのですが、いまは高い解像度を始めとする“高画質”という部分で訴求していきたいと思っています。

――大部分の高倍率レンズ一体型デジタルカメラにはEVFが載っていますね。

安田:コンパクトデジタルカメラは完全に液晶モニターで撮るのが一般化しましたが、ちょっと長いレンズを着けたカメラを持つと、自然にファインダーを覗いて構えたくなりますよね。その辺りがユーザー層によってどう変わっていくのかに興味がありますね。とくに最近の若い人たちはみんな携帯電話で写真を撮っているので、そうした文化がどうカメラに影響してくるのか……。

――確かに携帯電話は無視できない存在だと思います。

安田:ミラーレス機でもEVF非対応のモデルが出てきていますが、ユーザーの方々はEVFを必要としているのか、それともすでに液晶モニターを見ながら撮るというスタイルがすっかり定着しているのか? レンズ交換型ミラーレス機やEVF内蔵高倍率レンズ一体型デジカメについても、背面液晶モニターだけになるのか、やはりEVFは残るのか。私たちも注目しています。

 しかしながらしっかり写真を撮るというときには、ホールディングの問題もありますし、液晶モニターを見て撮ると、まわりが気になって撮影画面に集中できないですよね。私たちはファインダーは残ってほしいと思っていますし、残るのではないかと思っています。

EVF市場の4割から5割をとりたい

――サイズと性能のバランスについて。SVGA(0.47型)とXGA(0.6型)の製品は画素ピッチは変えずに全体のサイズを大きくすることで高精細化を実現していますが、このくらいのサイズの違いはセットメーカー側で吸収できると理解してよろしいのでしょうか。

安田:これはセットメーカーさんの側のお考えにもよると思いますが、割とシビアなのではないかと思います。

安田昌弘課長。「当然、今提案しているもの以外にもいろいろ仕込んでいます」

――エプソンのSVGA品はサイズ面ではカメラ内蔵にも対応できるのでしょうか。

川田:十分可能だと思います。

――ちなみに、XGAの製品は、すぐにでもカメラに載せられそうなところまできているのですか。

安田:あくまでも開発品として展示したもので、大きさの問題などもありますので、お客さまのご意見をいろいろ聞きながら、というふうに考えています。

――エプソンのEVF用パネル市場における現在のポジションと将来の目標、シェアなどを教えてください。

安田:われわれは高解像度と見映えのよさというところでは、市場から一定の評価をいただいていると思っていまして、今後はこの方向を極めていくことを考えています。シェアについては、2009年10月に記者発表したときに申し上げている「4~5割くらいはとっていきたい」、という考えは変わっていません。

――200万ドットを超えると人間の目の分解能を超えるという説もあるようですが……。

安田:われわれはまだまだ人間の目の分解能には達していないのではないかと考えています。そこはまだ正直よくわからないんです。私たちが視力1.0くらいでXGAのパネルを覗いても、もうドットはわからないですよね。そこから先はもう味の世界になってしまう。

――たしかに、立体感がなどと言い始めたらキリがない。

安田:そこはちょっとやってみないとわからないところで。方向性としてはXGAのあとはSXGA(1,280×1024)、sRGBを超える色域、コントラストは500:1以上を目指したいと考えています。

――一部報道によると、ロームが有機ELを使ったマイクロディスプレイを開発中であるといいます。これは強力なライバルになってくるのかと思うのですが、いかがでしょうか。

川田:CEATEC 2009で出されていましたね。技術的に非常にポテンシャルを秘めた方式ですので、無視できない存在であると考えています。ただ、私もまだ現物を見ていないので何とも言えませんね。

今後EVFとOVFの棲み分けはどうなるのか

セイコーエプソンTFT事業部の原恒主任。「アルティミクロンをどんどん採用していただけると非常にうれしいですね」

――今後、OVFとEVFがどのくらいの比率になるのか、OVFが駆逐されてしまうのかにとても興味があります。その一方で、OVFを求めるユーザーは、今後しばらくはゼロにはならないのではないかと思います。

安田:OVFにはOVFの味がありますし、今後も残っていきますよね。OVFの味とEVFのメリットとっていうところで、うまく棲み分けがされていくんじゃないかと思います。最近デジタル一眼レフカメラなどでは、撮影できる感度が非常に向上しています。極端な話、ほとんど真っ暗闇の公園でも撮れるくらいです。その場合、OVFで像を確認するのは難しい。そういったシーンでもEVFは存在価値が出てくるでしょう。

――これはOVF派としては悲しいのですが、ミラーレス機にマウントアダプターで古いレンズをつけて撮影できますが、EVFだと部分拡大できるので、ピント合わせがしやすくなりますよね。

安田:そうですね。マウントアダプターは楽しいですよね。

――今年はフォトキナもありますし、EVFをめぐる状況は一変しますよね。

安田:ミラーレス機がこんなに立て続けに出てくるということは、市場のニーズも大きいと捉えています。私たちは期待に応えられる製品を提供していけるよう努力していきたいと考えています。






小倉雄一
(おぐらゆういち)フリーランスの編集者&ライター&カメラマン+塾講師。デジカメ関連の媒体を中心に活動中。新聞社の写真記者、雑誌編集者を経てフリーに。1967年、東京・築地生まれ。血液型B型。http://jagabata.net/

2010/7/9 00:00