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連載開始記念【拡大版】デジカメアイテム丼

〜伝説的カメラバッグ「Domke」秘話

Domke F-2 for BEAMS+
(写真はビームスとのコラボレーションモデル。すでに完売している)
 いきなり裏話になるが、「デジカメアイテム丼」の第1回は「Domke」(ドンケ)のカメラバッグにするつもりだった。第1回目を飾るにふさわしい歴史と人気を誇る、まさに伝説的アイテムだからだ。そう構想している時期に、Domkeの日本総代理店である銀一株式会社の小倉新人氏(海外商品部 係長)が米国のDomkeの状況を視察してこられたことを知った。

 せっかくなのでDomkeの現状をお話いただき、Domkeのバッグの紹介を補強していただこうとインタビューを申し込んだのだが、その内容はあまりに濃厚で、通常のデジカメアイテム丼には収まりきらないほど充実したものとなった。

 そこで拡大版として、小倉氏が語る「Domkeブランドの歴史、現状、未来」をお届けする。以下は、小倉氏にお話いただいた内容を、編集部で再構成したものである。


ガレージで生まれたDomke

 Domkeは、全米大手5誌にも数えられる新聞「The Philadelphia Inquirer」の報道カメラマンであったJim Domke氏によって'70年代初頭に作られたバッグである。

 その頃のカメラバッグといえばアルミ製の四角い箱しかなかった。アルミケースは報道の現場での場所取りや、高さを稼ぐための台としても使える。が、モータードライブ付きのニコンF2を2〜3台と、プロ用の大型三脚などと一緒に持ち歩くには、大きすぎ、重すぎる。

 そんなアルミケースに不満を抱いていたDomke氏は、自宅のガレージにミシンを備え、帆布を買い込み、自分のための理想のカメラバッグを仕事の傍ら自ら縫い始めた。欲しいバッグの形は決まっていたものの、バッグの製法に詳しいわけではないDomke氏は、縫製方法や止め具などのパーツ選びについてプロの製造業者に教えを請い、トライ&エラーを繰り返してついに完成。実際に自分で使い始めた。

 報道の現場でDomke氏のバッグは話題を呼び、ほかのカメラマンのために同じものを作ってあげるようになった。口コミでその評判が広がり、注文が月に50個を超えるようになると、さすがに個人で縫っていたのでは追いつかない。そこで'76年、「Domke」ブランドを立ち上げ、本格的にカメラバッグ生産と販売を開始した。

 なお、現在のDomkeのラインナップ中、“The Original”と呼ばれる「F-2」は、Jim Domke自身がガレージで縫っていたモデルそのもので、誕生当時からその寸法、デザイン等はほとんど変化していない。変わったところは外ポケットの縫い付け方くらいだそうだ。それほどまでにF-2の完成度は高く、Domke氏以外の人間には手の加えようがないデザインだった。


縫製ラインの様子。バッグ各部を分業して縫い合わせる
F-5XBバッグのフロントフラップが、本体への縫いつけを待っている

 報道業界で定評を得たDomkeバッグの注文は増える一方だったが、Domke氏はInquirer誌のカメラマンも続けていたため、供給体制の強化もままならない。そこでDomke氏は'80年代中盤に、イーゼル(暗室で写真を引き伸ばすときに印画紙を押さえるための道具)のメーカーであるSaundersにブランドと生産を移譲。Domke氏が相談役となり、縫製のノウハウをSaundersに伝え、Saundersは工場を自社敷地内に設立。「Domke by Saunders」として供給体制を整えた。


Domkeの挫折と再生

 '90年代後半、映画用の特殊効果フィルターのメーカーであるThe Tiffen Company LLCが、Saundersを買収。DomkeもTiffen傘下となる。この頃のTiffenは積極的な拡大政策をとり、中小の特色あるカメラ関連ブランドをいくつも買収していたのだが、急拡大に資金が追いつかず、2001年には米連邦破産法第11章(いわゆるチャプター11)を申請、事実上破産した。

 が、TiffenとTiffenが保有するブランドに商品力があったこと、またこれらのブランドの製品が無くなることで困る人が多数いたことなどから、再生の見込みありとして銀行の強力な支援を得られた。宣伝を控え、新製品の開発を棚上げし、よく売れる商品を重点的に生産する「傾斜生産」などのリストラを行なった。


Tiffenが手がけるカメラ関連事業は幅広い。意外なところではKodakのプロフェッショナルアクセサリー群もTiffenが生産している 「Made in U.S.A. by The Tiffen Company」と記されたKodak製品 ニューヨーク州ハパーグのTiffen本社

 この間、Domke製品の生産量も大幅に減ったが、再建努力の甲斐あって、2003年には通常の70%程度までに回復。この9月に独で開催されたPhotokina 2004にはTiffenとしてブースを出展、10月には新製品をリリースするなど、順調な再建を進めている。さらに、後述するような小ロットの特注商品の生産も行なえるほどに体力は回復している。

 10月に小倉氏がDomkeブランドを擁するTiffenの社長らと会談したところ「日本のお客様にご迷惑をおかけしてきて申し訳ありませんでした。我々は少しずつ元に戻りつつあるので、見守ってください」とのメッセージを得られたそうだ。


Photokina 2004でのTiffen/DOMKEブースの様子
Photokina 2004のTiffen/Domkeブース。スポットを調整しているのはTiffenのSteve Tiffen CEO
10月末に行われたTiffen社と銀一の夕食会の様子。手前左側がHilary Araujo氏(DOMKEブランド製品企画部長)、右手がRuss Abelein氏(Tiffenの輸出担当部長)、手だけ出ているのがSteve Tiffen氏(TiffenのCEO)

日本でのDomke

 銀一は'80年代はじめから早くもDomkeと提携、日本での代理店としてDomke製品を紹介し続けてきた。

 サミット(先進国首脳会議)などの国際イベントがあるたびに、Domkeは世界の報道関係者に広がっていったが、日本でも'80年代から90年代にかけて支持者が増え、毎日新聞、共同通信、朝日新聞といった名だたる報道機関のカメラマンがこぞってDomkeを手にするようになった。こうした報道機関のカメラマンの中には、Domkeに惚れ込んだあまり、Domkeのコレクターになった人さえもいるという。

 Tiffenが破産し、Domke製品の生産量が減った頃は、9.11テロなどの国際的大事件が相次いだために報道機関向けに優先的にまわされたこともあり、日本からの発注量の1/10も入ってこないような状況が続いたという。が、Domkeファンは根強く回復を待ち続けた。


ビームスとのコラボレーションモデル(すでに完売)にはオリジナルの携帯電話ホルダーが付いていた。2005年にも新たなコラボレーションモデルが予定されているそうだ
 日本独自の展開もある。海外でのDomkeは基本的にプロの報道カメラマンのための製品で、一般のカメラ店などでは販売されていない。報道機関が支給したり、プロショップで買うしかないのだが、日本では銀一の努力により、ヨドバシカメラ、ビックカメラ、カメラのキタムラをはじめ、全国の販売店で取り寄せることができる。今やDomkeの生産量の半分近くが日本に出荷されているという、大市場となった。

 また、アパレルブランドとのコラボレーションで特注モデルを限定販売したのも、日本だけだ。海外でのDomkeはあくまでプロのための実用的なツールであって、ファッションとして取り入れられた例はない。日本での成功を見て、海外でも同様な展開を図ろうという動きがあるそうだ。


DomkeとTenba

 Jim Domkeと同じ頃に、アルミケースに見切りをつけたRobert Weinrebという山岳写真家がいた。Weinrebは素材として帆布でなく、コーデュラナイロンを選択。'77に「Tenba」ブランドのカメラバッグを販売し始めた。素材に金属でなく繊維を使用した、ソフトタイプのカメラバッグの嚆矢はこの2つのブランドだといえる。

 銀一はTenbaも発足当時から扱っているが、DomkeとTenbaは同じソフトタイプのバッグのようでいて、実に対照的な製品だと小倉氏は言う。

 Domkeの特徴は徹底的に報道機関のカメラマン向けに作られていること。報道機関に属していれば、機材が壊れてもすぐ社費で修理できるし、代替機も用意されている。だからDomkeではカメラの保護や防水性よりも、機動性や軽量さが重視されている。通常、カメラバッグの底には、地面に置いたときの衝撃を和らげる「石突」と呼ばれる突起があるが、Domkeにはなにも付いていない。肩から下ろすことを考慮していないバッグなのだ。

 あるいは、大統領選の取材などで全米を飛び回る報道カメラマンは、いつも使っているDomkeのほかに、予備のDomkeをスーツケースの底に忍ばせていくそうだ。保護クッションを抜いてバッグ本体を上から踏みつければ、平らに折りたたむことができるDomkeならではの使い方だろう。ちなみに保護クッションの中の保護材は、容易に抜き出すことができる。抜き出せば、さらに「ぺったんこ」にすることができるのだ。


Domke F-2の底面。石突が無い
Domkeの保護クッション。中の保護材を取り出せばぺったんこに

 一方、Tenbaは防水性とカメラの保護、耐久性を重視し、個人のフリーカメラマンらに愛用されている。大組織に属さないカメラマンにとって、商売道具のカメラが壊れてしまうのは致命的だ。Domkeが報道関係者の支持を受けるのに対し、Tenbaは広告などのカメラマンに支持されているそうだ。

 日本でも米国でも、一般的にカメラバッグとしてよく売れるのは7〜8千円の製品だという。Domke F-2の2万2千円という定価は安くはないが、それでも支持され続けているのは「報道機関向けに機動性を重視したバッグ」というユニークな着眼点ゆえだ。


Domkeの価値は品質よりも、変わらないこと

Domke F-2のMade in U.S.A.タグ
 Domkeは現在、米国内に5つの工場を有する。各工場ではポケットやフラップなどのパーツを生産し、それらを1箇所に集めて組み立て、完成品とする。各工場は小さいところで3人程度、大きいところでも6〜10人と、小規模だ。生産は工場内だけでなく、周囲の住人が下請けしている場合もあり、実に家内工業的である。

 意外に小規模な供給体制だが、報道機関向けのカメラバッグというニッチな製品であることを考えれば、これは適正なのだという。

 ユーザーの間では、アジア製よりも「Made in U.S.A」のほうが品質が高い、という話がしばしば交わされる。が、Domkeが今でも米国で生産され、製造工程を人件費の安いアジア地域に委託しないのは、品質保持のためではない。規模が小さすぎてメリットがないからだ(保護クッションは韓国などで生産されているが)。ちゃんとしたミシンと良い行員さえいれば、Domkeはどんなところで生産しても、品質を維持できるという。

 Domkeの“売り”は品質や縫製のよさにあるのではないという。Domkeは、報道機関向けとして30年間変わらないままでいることに価値がある。だから、今後のDomkeの戦略は「拡大より安定」なのだそうだ。プロ向け製品は今後も一定の需要が見込まれる。市場を無理に拡大して不安定な要因を増やすよりも、今ある市場に安定して供給することを重視していくという。


Domke改造のススメ

 日本のユーザーは、純正パーツにこだわる傾向が強いという。日本市場のこうした特性にあわせ、銀一では補修パーツを揃え、補修体制も整えている。が、小倉氏はDomkeの魅力のひとつとして「Do It Yourselfしやすい」ことをあげる。


銀一では補修パーツを常に確保している
限定品のタグのような希少なものも、補修用に用意している

 たとえば保護クッションの中はナイロンの布で4つに仕切られているが、この布の中央部は簡単に切り離せる。大口径ズームや予備のボディを入れたければ、仕切りを切って好きな大きさの区画を作ればいい。先述の、保護クッションのウレタンを抜いて薄くする“技”もユーザーが考えたもの。たいていのカメラバッグの保護クッションは、ウレタンの入り口を縫ってしまうが、Domkeはこうしたユーザーの声をもとに、縫わないことにしているそうだ。


指で指している部分は簡単に切り離せるので、大口径ズームなどを入れたいときにも簡単に対応できる お話を伺った小倉氏と、Domke製品の在庫。銀一の流通センターにて

 このほか、ショルダーベルトを他社のものに付け替えたり、底板を自作したりといった改造もあるそうだ。

 小倉氏は、米国で「見たこともないDomke」をたくさん見たそうだ。純正でないショルダーベルトが付いていたり、金具が変わっていたりするDomkeが、補修のために工場に送り返されてくるのだ。銀一でも、たまにユーザーが自分なりに工夫したDomkeが修理に持ち込まれることがあるそうだ。「自分だけのDomke」作りを楽しんでみてはいかがだろうか。



URL
  銀一
  http://www.ginichi.com/
  Domke
  http://www.saundersphoto.com/html/domkest.htm
  Tiffen
  http://www.tiffen.com/


( 田中 真一郎 )
2004/11/30 01:07
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