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冬のカーピンテリア
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冬のカーピンテリア


F8 / 1/400秒 / ISO50 / 18-200mm F3.5-6.3 DC OS / 134mm
動かずしばらく海を見ていた人

※カメラは特記したもの以外はシグマSD14を使用。レンズはすべてシグマ製です。
※すべてRAWで撮影してからJPEGに現像し、幅1,028ピクセルに縮小しています。
※写真下のデータは絞り/シャッター速度/感度/レンズ/実焦点距離です。


 ロサンゼルス国際空港に近い自宅から、北に150km弱、車で1時間半のドライブの距離、サンタバーバラの少し南に位置するカーピンテリアという小さな海岸の街を訪れ、その街に2泊した。

 私は自宅から車で2時間以内の距離に宿泊することは普通しないし、この街に特別な用事があるわけでもなかった。それなのに、この人口1万4千人の小さな街に足を伸ばしたのは、世間で言う“日常生活から逃れるウイークエンド・ゲッタウェイ”、気分転換の2泊のショート・トリップのためだった。疲れ気味だった私には、その翌週、数人を乗せて2,000km近く走るロングドライブが待ち受けていたので、そのロングドライブ前に短時間でたどり着け、人が少なく静かな街ときれいな海山があるどこかに行き、体調を整えておきたかったのだ。

 そして、その条件を満たしてくれそうな街が、冬のカーピンテリアだった。このあたりの海岸は冬がシーズン・オフとなり、ホテルはリーズナブルだったことも、私としてはちょっと贅沢なこのショート・トリップをあと押したのだった。

 快晴に恵まれていたサザン・カリフォルニアの空の下、午前11時に家を出てハイウェイ101を気ままに北上する。ベンチュラ・カウンティーに入り、しばらくすると左手に太平洋が見えてくる。その海沿いには、ほかの州からやって来た何十台ものキャンピング・カーが駐車している。この時期、雪に覆われている州もある。海のない州もある。そんな州から来ている人にとって、温暖な海岸で寝泊りするのは憧れかもしれない。キャンピング・カーと海を見下ろせる高台に上ってみると、その高台のさらに遠くの向こうには、イチゴ畑で働く労働者の姿が見える。豊かな太陽は、豊かな実りをサザン・カリフォルニアの大地にもたらしているのだ。


F8 / 1/250秒 / ISO50 / 18-200mm F3.5-6.3 DC OS / 24mm
海沿いにはキャンピング・カーで泊まる多くの人がいた
F8 / 1/320秒 / ISO50 / 18-200mm F3.5-6.3 DC OS / 200mm
木に掲げられたアメリカン・フラッグの横を海鳥が飛んでいく

 穏やかな冬の日のドライブは平和そのものだったが、カーピンテリアのホテルに着くと強い風が吹き荒れ、まるで嵐の中にいるようだった。「この数日、雲ひとつない快晴で風もない穏やかな日が続いていましたよ、急に風が吹いて来たのです。いったいどうなっているのかしら?」とホテルのフロント嬢が笑いながら話す。目が大きく小太りの若いメキシコ系アメリカ人のフロント嬢から、プラスチックのキーを受け取った私は、少ない荷物を部屋に運び終わると、強風のビーチがどんな表情をしているのか見たくなり、ホテルから車をビーチに走らせた。

 日中温かかったはずのビーチに到着すると、冷たい風が私に向かってビーチの砂を容赦なく吹きかけてきた。口の中に砂が進入してきてジャリジャリと音がする。ビーチには人影がまったくない。少数ながら駐車場までは来る人はいたが、砂嵐にびっくりし数分で車に戻り、皆ビーチから去っていく。まさに砂嵐、風下では砂が飛んで来てとても目を開けていられない。海は荒れ、空は砂煙で異様な色をしている。

 私は車の中で風が少しでも収まるのを待つことにした。強風で時おり車が大きく揺れる。そんな砂嵐の中、遠い大海原の向こうには、大きな太陽がゆっくり堂々と沈んでいく。壮大な日没を締め切った車の窓から見ていると、1匹の犬と、その飼い主と思われる女性がビーチに歩いて行く。私はカメラを握り持ち、すばやく車から出て小高い砂丘にはい上がり、沈み行く太陽を背景に犬と女性にカメラを向けた。

 「この砂嵐の中、ビーチにサンセットを見に来るなんて、ちょっとしたアドベンチャーね」と厚いウインター・コートを着た女性は、笑いながら私に言い残し、犬と共に去って行った。そのわずか数分の出来事の間、なぜか風は弱まり砂嵐は息をひそめていた。犬と女性が去ってすぐ、ビーチにはまた砂嵐が吹き荒れた。


F8 / 1/250秒 / ISO50 / 18-200mm F3.5-6.3 DC OS / 200mm
荒れている海
F7.1 / 1/60秒 / ISO100 / 18-200mm F3.5-6.3 DC OS / 78mm
サンセットに犬と人間が現れた僅かな間、風は少し収まっていた

 ホテルに戻り短パンとTシャツに着替え、ロビーの横にある3、4人までなら同時に運動ができそうな小さなジムで1人汗を流した。部屋に戻ってシャワーを浴び、自宅から持参したスナックをつまみに赤ワインを飲む簡単な夕食後、肩の凝らない本を読み、その夜は早く寝てしまった。ホテルには客も少なく、その夜は物音ひとつせず静かで快適だった。

 翌日は昨日の風がうそのように止んで、穏やかな冬の日に戻っていた。私は朝の9時にホテルを出て、カーピンテリアから15分あまり南にドライブし、このあたりではサーファーに人気があるリンコン・ビーチに行ってみた。

 駐車場からビーチまで200mくらい下り、歩く。そこにはすでに空高く上がった太陽の光の反射で、眩しい太平洋が広がっている。引き潮で海は穏やかなため波はとても小さかったが、数人のサーファーがこの穏やかな小さな波を最大限に活かし、上手に波乗りをしている。1時間近く居ただろうか、いつまで居ても飽きないこのビーチは、道路から離れた奥まったところにある。世間の騒音から逃れ、海と一体になれそうな気にさせてくれるビーチだった。


F8 / 1/640秒 / ISO50 / 18-200mm F3.5-6.3 DC OS / 51mm
穏やかな朝の海

F8 / 1/250秒 / ISO50 / 10-20 F4-5.6 EX DC / 10mm
昼寝をしたくなる温かい冬の海
F8 / 1/125秒 / ISO50 / 18-200mm F3.5-6.3 DC OS / 200mm
朝の波乗りを終え、素足でパーキング場に戻る女性サーファー

F8 / 1/250秒 / ISO50 / 18-200mm F3.5-6.3 DC OS / 51mm
海岸にヨットのマストがあった

 朝食を食べずにホテルを出た私の胃袋が、午前10時半頃に急に鳴りだす。日頃、朝食をまともに食べない私にとって、朝から久しぶりに聞く体からの健全な欲求だった。リンコン・ビーチから北に走り、カーピンテリアを通り過ぎてサンタバーバラの街まで行き、そこで見つけたレストランで、ケッチャプをたっぷりかけたオムレツと芋、それに大きなカップに注がれた薄いコーヒー、典型的なアメリカの朝食をしっかりと胃袋に詰め込む。

 それから少し南に下って内陸に入り、ロスパドレス国有林地帯に入って軽い山歩きをする。海風が山の斜面まで吹いて来て空気は澄み切り、爽快で気持ちがいい。寒い地域に住む知人たちに分け与えたくなるほど、冬にしては贅沢な温かさだった。


F8 / 1/160秒 / ISO50 / 18-200mm F3.5-6.3 DC OS / 70mm
温かい冬の日にハイキングをしていると、岩の上に裸で休憩している人がいた
F8 / 1/125秒 / ISO50 / F2.8 EX DG Macro / 70mm
ロスパドレス国有林にある岩。張り付いたものは苔であろうか

 晴天の山の中を気持ちよく歩いた私は、カーピンテリアに戻り、昨日砂嵐だった海岸に行ってみる。海岸には昨日とは違い、温かく穏やかなこの日の天候を楽しむ多くの人たちの姿があった。この日、午後3時から街のメインストリートの一部を封鎖して、小さなフリー・マーケットが開催された。店数こそ少なかったがオーガニック野菜からアンティークまで幅広い品が並べられ、私の目を十分に楽しませてくれた。


F13 / 1/125秒 / ISO50 / 18-200mm F3.5-6.3 DC OS / 51mm
ビーチにある木の下で本を読む人
F8 / 1/125秒 / ISO50 / 18-200mm F3.5-6.3 DC OS / 115mm
ピクニック・テーブルに石が置かれていた

F8 / 1/200秒 / ISO50 / 18-200mm F3.5-6.3 DC OS / 115mm
平和なビーチに遊ぶ子ども
F9 / 1/125秒 / ISO50 / 10-20 F4-5.6 EX DC / 12mm
カーピンテリアの駅

F8 / 1/250秒 / ISO50 / 18-200mm F3.5-6.3 DC OS / 51mm
温かい冬のビーチ

F8 / 1/60秒 / ISO50 / 10-20 F4-5.6 EX DC / 11mm
西陽が射す午後のフリー・マーケット
F8 / 1/160秒 / ISO50 / 10-20 F4-5.6 EX DC / 17mm
人が少ない冬のカーピンテリアの街

 この日の夜はベンチェラまで南に下り、海が一望できるレストランで、イカと鱈のフライをつまみに地元の濃いエール・ビールを飲んだ。日が長い夏には、レストランの窓からは夜遅くまで海が見えるのだが、冬のこの日、外はただ暗いだけだった。それでもシーズン・オフで客があまりいないレストランのサービスは期待以上で、満たされた気持ちになった。

 翌日は雲が少し出はじめ、天気予報では雨の可能性もあるというので、どこにも寄らず昼までには帰宅した。2泊の旅の土産は何もなかったが、旅の疲れを家に持ち帰らずに、いい汗をかき、よく眠り、体調が戻っていたことが、唯一の旅の土産だったかもしれない。


F8 / 1/60秒 / ISO100 / 10-20 F4-5.6 EX DC / 10mm / 三脚使用
誰もいない夜の桟橋
F8 / 1/100秒 / ISO50 / 18-200mm F3.5-6.3 DC OS / 78mm
帰る朝、山の向こうの空には雲がかかり始めた

【2009年3月16日】誤ったレンズ名「18-200mm F2.8-6.3 DC OS HSM」を正しいレンズ名の「18-200mm F3.5-6.3 DC OS HSM」に修正しました。



URL
  バックナンバー
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/dialy_backnumber/



押本 龍一
(おしもとりゅういち)東京品川生まれ。英語習得目的のため2年間の予定で1982年に渡米する。1984年、ニューヨークで広告写真に出会い、予定変更。大手クライアントを持つコマ―シャルスタジオで働き始める。1988年にPhotographerで永住権取得。1991年よりフリー、1995年LAに移動。現在はLAを拠点にショービジネス関係の撮影が主。

2008/01/30 00:01
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