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サンタ・クルーズ島へ日帰りの旅


シグマDP1 / F8/ 1/100秒 / ISO100
朝の港は曇り空だった

※すべてRAWで撮影してからJPEGに現像し、幅1,320ピクセルに縮小しています。
※写真下のデータはカメラ/絞り/シャッター速度/感度です。SD14のみレンズと実焦点距離を付記します。


 雲空の朝の港、真赤に日焼けした船長らしき男が、笑顔を浮かべながら船のデッキで乗員と話をしている。その笑顔には、これから海へ出る男の自信が満ち溢れている。私はコーヒーをすすりながら、その光景を頼もしく眺めていた。

 母の日の朝、ロサンゼルス空港から約110kmの北に位置するベンチュラ港で、船会社アイランド・パッカーのオフィスでチックインを済ませた私は、チャンネル・アイランズ・ナショナル・パークのサンタ・クルーズ島へ向かう船の乗客となった。

 母の日の日曜日なので、前日に予約を入れていたが、船の座席は半分程しか埋まらないように見えた。乗客の数はざっと数えて35人前後。149人の乗客を運べるとホームページにあったが、どこにそれだけの人間が乗れるのだろうか、よほど詰め込まないと無理ではと思う。船には屋根のない2階席があり、船の後方のデッキに出てから2階に上がる。私は1階の1番前の席に1人で座る。

 船はベンチュラ港内をゆっくりと進み、港から大海に出る。霧につつまれた海は穏やかで、船酔いの心配など無縁だと思った直後「さあ、海に出ました。今から出発です。レッツ・ゴー」との船長のアナウンスと同時に、船のエンジン音は大きくなり、速度も上がった。さほど高くない波に当たる度に、船はバーンと音を立て波の上をジャンプする。上下に揺れる船内を歩くのは思った以上に難しい。小さなレジャー用のモーターボートに乗っているような揺れに思えてくる。それでも少しすると、その揺れにも馴れて、デッキに出て霧の海を眺める余裕も出てきたが、この揺れがあともう少し続くと本当に船酔いになりそうだった。


シグマDP1 / F5/ 1/125秒 / ISO100
港から出ると霧に包まれていた
シグマSD14 / F4.5 / 1/500秒 / ISO100 / APO 50-150mm F2.8 EX DC HSM / 95mm
サンタ・クルーズ島の岸壁に沢山の海鳥を見る

 ベンチュラ港を朝8時に出港した船は、1時間と15分の船旅でサンタ・クルーズ島、スコーピオン・アンカレッジの桟橋に到着した。「日帰りの方は、3時半までには桟橋に戻って来て下さい。遅れたら、今晩この島で過ごすことになりますよ」と船長がアナウンスする。帰りの舟の出港予定時間は、午後4時である。桟橋には、ラテン系の男性とアジア系の女性、2人のパーク・レンジャーが、日焼けした大きな笑顔を浮べ出迎えに来ていた。

 その笑顔からこぼれる白い歯と、舟からの荷物をすばやく桟橋に運び上げるたくましく腕に、自然の中で体を使って働く人間の健康なエネルギーを感じる。デッキのステップから桟橋までは1.5mほどの高さの違いがあり、はしごを使って上がる。太った人や子どもは、はしごを上るのを船の乗員が親切に助けてくれる。短い桟橋を渡り島に上陸すると、60歳前後のボランテアと書いてあるサインを付けた白人男性が「ここには手付かずの自然が残されています。多分アメリカの国立公園の中でも、いや世界で1、2を争うくらいきれいな場所かもしれませんよ。ですから、持ってきたものは全て持ち帰って下さい。そして、島にあるものは何も持ち帰らないで下さい」と船から降り立ったばかりの私達に告げた。桟橋を振り返ると、私たちをこの島に運んで来た船の姿はもうそこにはなかった。

 サンタ・クルーズ島はカリフォルニア州最大の島で、チャンネル・アイランズ・ナショナル・パークに指定されているほかの島と共に無人島である。東西の幅は約38km、南北の最大の幅は約9.5km、二ューヨークのマンハッタン島の約3倍の大きさだ。

 島に上陸した約35人は、すぐ目の前の海岸に腰を下ろして海を眺めだした人もいたが、ほとんどの人はすぐに島の中に入って行った。それぞれに前もって立てた計画があるようだった。この日、海岸から800mぐらい入ったキャンプ場に宿泊するキャンパーは10人程だった。大きなバッグを背負い、小さな台車を持参してキャンプ道具を運ぶ彼らのはつらつとした歩きは、島での楽しい時間を確信しているようだった。

 私は片道5.6kmのトレイルを歩き、スマグラーズ・コウブと呼ばれる入り江まで歩くことした。船のデッキの上をちょろちょろとして、海に落ちたら大変だと思っていた2人の子ども連れのグループと2人の若者が私の前を歩く。ゆっくりと歩く私から、彼らはどんどん遠くに離れて行き、途中から彼らの姿は見えなくなった。なだらかな丘を上り歩き、トレイルが下りはじめてしばらく歩くと、海は見えないが草原の向こうから、入り江に打ち付ける波の音が聞こえてくる。その波の音に懐かしさと安堵感を感じる。海を渡ってこの島に上陸して少し前まで波の音も聞いていたのに、この懐かしさはどこから来るのだろうか。

 そんな自問をしながらさらにトレイルを下ると、薄く霧が掛かったスマグラーズ・コウブが見えてくる。海岸に近づくにつれトレイルの下りは急になり、疲れだしている足に力を入れなくても、体は自然に前に落ちるように進んで行き、海岸にたどり着く。持参したランチを紙袋から取り出し、短いランチブレイクを取る。


シグマDP1 / F8/ 1/100秒 / ISO100
海岸からトレイルを歩くとすぐに上りになり、スコーピオン・アンカレッジが一望でき
る丘に立つ
シグマDP1 / F8/ 1/80秒 / ISO100
柵もない岸壁から落ちる人もいるという

シグマDP1 / F8/ 1/80秒 / ISO100
トレイルはわかりやすく間違いようがない
シグマSD14 / F5.6 / 1/500秒 / ISO100 / APO 50-150mm F2.8 EX DC HSM / 95mm
海岸まで、急な下り坂を降りて行く

シグマDP1 / F9/ 1/80秒 / ISO100
海岸に咲いていた花

 海岸には長居はせず、来たトレイルを上りながら引き返す。帰り道は、途中でキャンプ場に繋がるトレイルから戻ることにした。天気予報では、晴れ時々曇りだったが、お日様は一向に顔を出す気配はない。それどころか、深い霧が辺りを包み込んできて、首からぶら提げているカメラのレンズが曇り出す。緩やかに見えた島の尾根を行くトレイルは、少しきつく感じはじめ、下り坂でも出す足に元気がなくなる。トレイルがやっと平坦になり、キャンプ場を通り過ぎ、スコーピオン・アンカレッジに戻る。


シグマDP1 / F8/ 1/80秒 / ISO100
緩やかに見えるが、結構勾配はきつい
シグマDP1 / F11/ 1/100秒 / ISO100
雨が降ると海に向かって川ができそうだ
シグマSD14 / F5 / 1/125秒 / ISO100 / 18-50mm F2.8 EX DC MACRO HSM / 46mm
特徴ある形と色から、ミルクアザミだと思う

シグマSD14 / F5.6 / 1/125秒 / ISO100 / APO 50-150mm F2.8 EX DC HSM / 62mm
木に囲まれた島でのキャンプ場は、静寂に包まれていた

 海岸には、シーカヤックが並べられていた。迎えの船はまだ来ていない。出港時間まであと1時間ほどあるので、海岸を探索することにする。大小様々な石の海岸を歩くと、座るのにちょうど良さそうな岩を見つけそこに座る。そして、何も考えず島から海を眺める。

 島に吹き付ける海風に潤い、規則正しく安定した波の音に落ち着き、素朴な海鳥の鳴き声に癒される。いつまでいても飽きない風景だったが、船がそろそろ迎えに来る時間となり桟橋に向かう。桟橋にはすでにこの週末からのキャンパーが、大きな荷物と共に船を待っていた。キャンプ道具を先に船に積み込むのだ。彼らの後ろに並ぶと、若い白人女性の乗員が、乗客リストを見ながら、乗り遅れる人がいないか1人1人の名前を慎重に確認していた。今朝、島に上陸した日帰りの人と週末からのキャンパーでこの船で戻る予定の人全員が、桟橋に集まったことを確認し終わると、彼女は安心した笑顔を浮べた。

 パーク・レンジャーと船の乗員が、手際よく荷を船に運び込み、船が桟橋からゆっくりと離れると、船はエンジンの音を大きくし速度上げる。見る見るうちに島は小さくなり、船から見えなくなった。週末からのキャンパーが乗り込んだ帰りの船内は、にぎやかだった。持参したワインを飲む人やトランプで遊ぶ人、各自がそれぞれの1時間と少しの船旅を楽しんでいた。デッキに出て海を眺めていると、船を追いかけて泳ぐ愛嬌のあるイルカの群れを見た。

 イルカを兄弟姉妹と呼び、必要以上の恵を陸からも海からも得ようとせず、レッド・ウッド・ツリー(アメリカ杉)でつくったカヌーで、時間をかけて島々と陸との間を自由に行き来したチュマシュ・インディアンの目には、この大海はどのように映っていたのだろうか。


シグマSD14 / F5.6 / 1/500秒 / ISO100 / APO 50-150mm F2.8 EX DC HSM / 150mm
シーカヤックが、島からの出港時間の少し前に戻ってきた
シグマDP1 / F10/ 1/60秒 / ISO100
海岸の石

シグマDP1 / F8/ 1/80秒 / ISO100
島にあったシーカヤックが並べてあった
シグマDP1 / F8/ 1/100秒 / ISO100
シーカヤックを船に積む

シグマSD14 / F5 / 1/640秒 / ISO100 / APO 50-150mm F2.8 EX DC HSM / 50mm
イルカが、船を見送りに来た


URL
  バックナンバー
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/dialy_backnumber/



押本 龍一
(おしもとりゅういち)東京品川生まれ。英語習得目的のため2年間の予定で1982年に渡米する。1984年、ニューヨークで広告写真に出会い、予定変更。大手クライアントを持つコマ―シャルスタジオで働き始める。1988年にPhotographerで永住権取得。1991年よりフリー、1995年LAに移動。現在はLAを拠点にショービジネス関係の撮影が主。

2008/05/21 01:46
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