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モノ・レイク(後編)
[2008/07/30]

モノ・レイク(前編)
[2008/07/09]

雪が降った5月のセコイア
[2008/06/25]

5月、霧のキングス・キャニオン
[2008/06/11]

サンタ・クルーズ島へ日帰りの旅
[2008/05/21]

春のデスバレー(後半)
[2008/05/07]

春のデスバレー(前半)
[2008/04/23]

パソ・ロブレスの冬
[2008/04/09]

モハヴェ砂漠の冬(後半)
[2008/03/26]

モハヴェ砂漠の冬(前半)
[2008/03/12]

砂漠のルート66
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[2008/02/14]

冬のカーピンテリア
[2008/01/30]

12月のニューヨーク(後半)
[2008/01/16]


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ザイオン国立公園(前半)


F11 / 1/80秒 / 10mm / 10-20mm F4-5.6 DC HSM / ISO50

使用したSD14とレンズ
※カメラはSD14を使用。すべてRAWで撮影してからJPEGに現像し、幅1,028ピクセルに縮小しています。
※写真下のデータは絞り/シャッター速度/実焦点距離/レンズ/感度です。


 ロサンゼルスは10月に入り、あれほど暑かった今年の夏がうそのように、朝晩は秋を感じるようになっていた。そんな10月初旬の早朝、私は車の床から冷たい空気を感じるので、暖房を下からだけ出るようにつけ、ロサンゼルスからラスベガスへ行く途中に多くの人が休憩地として立寄る、国道15号線沿いの街バストー付近を走っていた。

 南から来ると、このあたりの15号線は真東を向いて走ることになる。ちょうど日の出の時刻だったので、それまで暗闇の中を走っていた車のフロントガラスに、強烈な太陽の光が一気に差し込んでくる。眩しくて運転も慎重になったが、朝日を浴びると今日1日分の必要なエネルギーを瞬時にして十分に与えられた気がした。

 私はロサンゼルスから約720km離れたユタ州の南西部に位置し、1919年に国立公園に指定された面積593平方kmのザイオン国立公園に向かっていた。まだ拡張の勢いが止まらないネバタ州ラスベガスの街を通り抜け、少しだけアリゾナ州を走るとユタ州に入る。そして、ユタ州で最も人気の高いザイオン国立公園に到着したのは正午過ぎだった。

 ザイオン(シオン)とは、ヘブライ語で「安全」または「神聖な土地」という意味で、1860年代にモルモン教徒の先駆者によって名付けられたそうだ。公園はザイオン・キャニオンと1956年に統合されたコロブ・キャニオンの2つにわかれているが、私は人気のザイオン・キャニオンを訪れた。

 国立公園内にはキャンプ場が3つあり、その中のトイレが完備された2つがザイオン・ビジターセンター付近に位置している。私は予約を取らず、サウスと呼ばれているキャンプ場に、景色がいいサイトを確保した。この日は日差しが強く気温は思ったより上がり、テントを張り終えると額から大粒の汗が流れ落ちた。


F8 / 1/125秒 / 21mm / 18-200mm F3.5-6.3 DC OS / ISO50
国道15号を降りた後、ザイオンを目指す

F7.1 / 1/250秒 / 18mm / 18-200mm F3.5-6.3 DC OS / ISO50
ザイオン国立公園(ザイオン・キャニオン)の入り口
F9 / 1/125秒 / 18mm / 18-200mm F3.5-6.3 DC OS / ISO50
今回泊った標高約1,200mのキャンプ場は、RVも含めて127サイトもある大きなもの。小さなテントは、人間ひとり寝るに快適だった

 私はキャンプ場から歩いて10分ほどのビジターセンターまで車で行き、そこからシャトルバスに乗った。最初のバスストップで降りてみたが、車の方が速いので、ビジターセンターに戻って自分の車で移動することにした。車を走らせてすぐにわかったが、ザイオン・キャニオンには、東側の入り口に繋がるザイオンマウント・カーメルハイウェイとの交差地点の先からは、特別な許可がないと車ではそれ以上は入れなかったのだ。

 「大勢の観光客がアメリカ国内のみならず世界中から訪れるのに、観光客の車を受け入れるのには、この大きな渓谷も狭すぎるのです」と、その後乗ったシャトルバスのドライバーが言っていた。年間の観光客は240万人に達し、渓谷内の狭い道は混雑し、駐車場も足りなくなっていた1997年、ガソリンと比べると汚染物が98%も少ないと言われているプロパン・ガスを燃料とするシャトルバスが投入された。この渓谷内でシャトルバス21台を投入することは、車5,000台分の働きに匹敵すると考えられている。

 このシャトルバスは、公園外のスプリング・デールからのシャトルバスとも連絡しているから、公園内への車の乗り入れが大きく制限されている。ビジターセンターを入れると9カ所のバスストップがあり、90分で往復するこのシャトルバスは乗り降り自由で無料。今年は4月1日から10月29日まで運行され、30分間隔から始まり、利用客の多い昼間は6~8分間隔までその頻度を増し、早朝から夜まで運行されている。


F9 / 1/125秒 / 24mm / 18-200mm F3.5-6.3 DC OS / ISO50
短い方のトンネル
 私は渓谷から離れて、ザイオンマウント・カーメルハイウェイを少し走った。曲がりくねった道を上り、1930年の開通当時はアメリカで最長のトンネルだった1.7kmのザイオントンネルを通り過ぎ、2つ目の短いトンネルまで行った後、ビジターセンターに戻り、再びシャトルバスに乗った。そして折り返し地点のバスストップ、テンプル・オブ・シナワラで降りた。

 リバー・ウォ―クというザイオン・キャニオンを流れるバージン・リバー(北の支流)沿いを歩くハイキングコースを少し歩き始めたが、午後5時過ぎの渓谷は空の明るさからは信じられないぐらい暗くなっていた。実は7年前の夏、このリバー・ウォ―クを訪れたことがあったが、その時も「暗い渓谷だな」との記憶がある。その時は旅の通過地点としてこの公園に立寄り、トレイルも少し歩いただけで引き返し、大した行動はできなかった。


F13 / 1/8秒 / 10mm / 10-20mm F4-5.6 DC HSM / ISO50 三脚使用。
太陽の光が回りの岩壁にさえぎられた暗い渓谷とバージン・リバー(北の支流)

 朝早くから行動して寝不足気味の私は、ハイキングは途中で引き返し、シャトルバスでビジターセンターに向かった。夕方のこの時間、シャトルバスの各バスストップでは、乗り込んで来る人の方が降りる人より少し多かった。途中のバスストップで、ヘルメットをかぶり、丈夫そうなロープを持ったロック・クライマー達が乗り込んで来た。彼らの道具を見ていると、ここでの岩登りは本格的な上級者用なのだと確信させられた。

 ビジターセンターに戻るとそこには夕陽で赤く染まった巨大な岩壁が、私を迎えてくれた。キャンプ場に戻り、ひとりで簡単な夕食を済ませた私は、寝袋にもぐるとその夜はすぐに寝てしまった。

 翌朝、テントから出て空を見上げてみるとこれ以上ない快晴に恵まれていたが、渓谷にあるキャンプ場にはまだ太陽の光は届いてはいなかった。私はジャケットを着込んで1杯の珈琲のためにお湯を沸かした。少し肌寒い渓谷の朝、ひとりで珈琲を飲んだ後、歩いてビジターセンターに行きシャトルバスに乗った。


F5.6 / 1/30秒 / 35mm / 18-200mm F3.5-6.3 DC OS / ISO50
ビジターセンターからよく見える、The Watchman(見張り人)と呼ばれる大きな岩壁
F5 / 1/125秒 / 51mm / 18-200mm F3.5-6.3 DC OS / ISO50
朝起きると、テントのそばに白い花が咲いていた

 早朝はまだ人が少なくバスは私の貸切り状態だった。3つ目のバスストップ、Court of the Patriarchs(司教の宮殿)に立寄り、展望台から巨大な砂岩の山を眺め、またシャトルバスに乗り、公園内で唯一のロッジがあるバスストップ、ザイオン・ロッジで降りた。エメラルド・プールと呼ばれるトレイルを30分ほど登って行くと太陽の光が私を直撃し、5分もすると少し前まで肌寒さを感じていた私の体は汗ばみ始め、ジャケットを脱いだ。渓谷では太陽の光が届くか届かないかで世界が変わる。陽が当たる場所と当たらない場所の温度差が激しいのだ。


F11 / 1/125秒 / 16mm / 18-200mm F3.5-6.3 DC OS / ISO50
ナバホ砂岩からできる岩壁。左の岩山はエイブラハム、真ん中はイサック、右奥に見えるのはヤコブ。メソジスト教徒の牧師フレデリック・フィッシャーが、1916年に名付けたと、展望台に書かれていた

 そしてその太陽の強い光が巨大な岩壁を照らし、非常にコントラストが強いダイナミックな風景を創り出している。この強烈な風景の中に囲まれていると、全ての五感が刺激を受け、直観が磨かれ、中途半端な思考を持つことが不可能に思えてくる。


F5.6 / 1/30秒 / 21mm / 18-200mm F3.5-6.3 DC OS / ISO50
ザイオン渓谷とそこを流れるバージン・リバー(北の支流)
F8 / 1/100秒 / 18mm / 18-200mm F3.5-6.3 DC OS / ISO50
コントラストの強い景色の中を歩く
F8 / 1/100秒 / 18mm / 18-200mm F3.5-6.3 DC OS / ISO50
岩山から太陽が出ると眩しい。サングラスは必需品

F11 / 1/125秒 / 18mm / 18-200mm F3.5-6.3 DC OS / ISO50
一歩間違えば渓谷に転落し大怪我なる可能性があるトレイル。4歳ぐらいの女の子の手を引き、赤ん坊を背負って歩くたくましい母親

F11 / 1/100秒 / 10mm / 10-20mm F4-5.6 DC HSM / ISO50
登りきると岩壁から湧き落ちてきた水でできた浅い池が、砂の中にあった
F10 / 1/125秒 / 42mm / 18-200mm F3.5-6.3 DC OS / ISO50
岩壁のアップ。水が染み出て流れ落ちている
F5.6 / 1/30秒 / 18mm / 18-200mm F3.5-6.3 DC OS / ISO50
砂岩の間を歩く

F8 / 1/80秒 / 78mm / 18-200mm F3.5-6.3 DC OS / ISO50
岩山から湧き出た水が岩を濡らし、太陽光の反射を強める
F11 / 1/60秒 / 24mm / 18-200mm F3.5-6.3 DC OS / ISO50
モハベ砂漠の一部でもあり、サボテンも生息している

 エメラルド・プール・トレイルを終えた私は、木陰で休憩をしながらランチ用に持参したドーナツを食べた後、再びシャトルバスに乗り込んだのだった。バスドライバーが「右の上の岩壁を見てください。ロック・クライミングをしている人達が見えますよ」と、車内にアナウンスし、しばらくの間バスの窓から彼らが見える様にゆっくりと走行してくれた。私は次のバスストップで降り、彼らがよく見えるところまで歩いて戻ってみた。そこには険しい岩壁を勇敢に登っているロック・クライマーの姿があった。


F10 / 1/125秒 / 42mm / 18-200mm F3.5-6.3 DC OS / ISO50
岩壁の近くまで行って、クライマーを見上げる
F8 / 1/200秒 / 200mm / 18-200mm F3.5-6.3 DC OS / ISO50
かなりの荷をぶら下げて登っている。高い岩壁は1日では登りきれず、1夜を越すのだそうだ。2晩過ごすロック・クライマーもいるという


URL
  バックナンバー
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/dialy_backnumber/



押本 龍一
(おしもとりゅういち)東京品川生まれ。英語習得目的のため2年間の予定で1982年に渡米する。1984年、ニューヨークで広告写真に出会い、予定変更。大手クライアントを持つコマ―シャルスタジオで働き始める。1988年にPhotographerで永住権取得。1991年よりフリー、1995年LAに移動。現在はLAを拠点にショービジネス関係の撮影が主。日本からの仕事も開拓中。

2007/10/24 00:18
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