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モノ・レイク(後編)
[2008/07/30]

モノ・レイク(前編)
[2008/07/09]

雪が降った5月のセコイア
[2008/06/25]

5月、霧のキングス・キャニオン
[2008/06/11]

サンタ・クルーズ島へ日帰りの旅
[2008/05/21]

春のデスバレー(後半)
[2008/05/07]

春のデスバレー(前半)
[2008/04/23]

パソ・ロブレスの冬
[2008/04/09]

モハヴェ砂漠の冬(後半)
[2008/03/26]

モハヴェ砂漠の冬(前半)
[2008/03/12]

砂漠のルート66
[2008/02/27]

サークル・Xランチ、サンタモニカ・マウンテンズ
[2008/02/14]

冬のカーピンテリア
[2008/01/30]

12月のニューヨーク(後半)
[2008/01/16]


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美人バレリーナ


F13 / 1/125 / 70mm
※画像をクリックすると等倍の画像を別ウィンドウで開きます。
※すべてカメラはキヤノン EOS 5D、レンズはシグマ 24-70mm F2.8 EX DG Macro、ホワイトバランスは昼光色、感度はISO100です。
※RAWで撮影した画像をJPEGに変換しています。モノクロ画像は、カラー撮影後、現像時に変換しました。
※画像下のデータは絞り/シャッター速度/実焦点距離です。


 最近、アメリカのダンススタジオはヒップホップが人気で、タイツ姿のバレエダンサーをイメージするバレエダンススタジオは少ないように思う。それでも女の子にバレエを習わせる親はアメリカではまだまだ多いから、バレエダンススタジオは小さな町にもひとつくらいはある。

 撮影したサラも、4歳からバレエレッスンを始めた。現在21歳の彼女は、大学に通いながら週に最低2回はバレエダンスのクラスを取っていて、通っているダンススタジオのリサイタルでは毎年必ず踊っている。

 今年も春のリサイタルで踊るため少し体重を減らさないといけないので、毎日エキストラの練習を始めたばかりだ。175cmとダンサーとしては長身の彼女、手足も長くステージでは一際目を引くに違いないが、背の高い分だけ体重を軽めにしないと踊りにくいのだろう。

 サラには撮影当日まで会ったことはなく、「どんな人かなあ」と想像していたが、会ってみると思った以上の長身で、美人だった。今のアメリカでは残念だけどなかなか出会えない、物質的な豊かさと精神的な豊かさからくる優雅な性格も嬉しい。きっと彼女の踊りも優雅であろうと思う。踊りにはその人柄が出るとよく聞く。

 僕には昔から、ダンサーの友人が多い。生徒が少ないクラスを盛り上げるため、友人達のダンスレッスンを何度か受けたことがある。体力勝負で生きてきた僕は、いつも決まって熊か柔道選手が踊っていると言われた。それでも男性が少ない社交ダンスのクラスでは、女性に貢献したと思っている。

 撮影は典型的なタイツはやめて、まず練習着から始めた。バーをスタジオの中心に移動するが、これが結構重いのだ。人間何をするにも体力が必要、と実感する瞬間だった。

 そしてストレッチ運動を撮影。この日、ディレクター役のお母さんから「あごを上げて、背筋を伸ばして」と、優しい声が飛ぶ(写真1)。親が子どもに熱心に何かを指導する時は、熱が入りすぎて親も子も感情的になりやすいが、この親子に関してはそれがなさそうだ。母親のアドバイスを笑顔で聞いていて、同意できない時も決して感情的にならず、楽しそうに受け答えしている娘の姿に、すがすがしい感動を覚える。その横でビデオカメラを撮っているお父さんも実に微笑ましい。


写真1
F11 / 1/125 / 70mm
ライトは、左右から
写真2
F11 / 1/125 / 70mm
少し悪ぶった表情にしたかったが

 幼い子どもに物事を教える時、その子どもの人間性まで否定するような罵声に近い言葉を浴びせる先生も多いが、子どもにとって、いや人間にとってその人間性を否定するまで大事なレッスンがあるのだろうか。例えその子どもがその道でプロを目指していたとしても、人としての自信を奪う権利は誰にもないはずだと、この親子を見ていて教えられた気がした。

 心に余裕があるサラとの撮影は、踊っていない写真もアソビ感覚で撮った(写真2)。

 次にサラの持っているニューヨークのダンスシーンのイメージで、撮影した。まず黒いドレス(写真3、4)。


写真3
F11 / 1/125 / 60mm
右後方からライトをあてた
写真4
F14 / 1/125 / 70mm

写真5
F11 / 1/125 / 70mm
シャッターを押すのが遅すぎた
 赤のドレスでは、跳んで撮影した。なかなか思うように決まらない。しかしカメラマンとしては、踊りの撮影に「跳び」は欠かしたくない魅力がある(写真5、冒頭の写真)。

 僕は、10年以上ニューヨークに住んだが、ニューヨークのイメージを具体的には説明はできない。ただ「このままで終わらない」と、何かに向かって強く訴える若い挑戦的なエネルギーがニューヨークなのかなと、ぼんやりと思う。撮影後サラも同じイメージを持っていると言っていた。

 そもそもLAで、ニューヨークのエネルギーを撮るのは無理があるのかもしれない。撮影の後、LAの恵まれた気候に緊張感をなくしている僕は、久しぶりに若さと刺激を求めてニューヨークの街へ行きたくなった。


F13 / 1/125 / 52mm
椅子に乗って、通常の目線より高い位置から撮影
 最後は、サラのアレンジした黒のトップとテカテカしたロングドレスで、サラが尊敬するモダンダンスの母、マーサ・グラハムをイメージして撮影(写真6)。

 約2時間のサラとの楽しい撮影後、ダンススタジオのスタッフと話していると、結構疲れていて空腹の自分に気が付いた。いつもの事だが、撮影中、知らず知らずのうちに話しながらかなり動いていた。それにこの日は、朝から何も食べていなかったのだから当たり前の話だ。写真撮影は、かなりのエネルギーを使う仕事だから、撮影前はしっかりと栄養補給をしておきたいものだ。


休憩中の1コマ
撮影したダンススタジオ


URL
  バックナンバー
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/dialy_backnumber/



押本 龍一
(おしもとりゅういち)東京品川生まれ。英語習得目的のため2年間の予定で1982年に渡米する。1984年、ニューヨークで広告写真に出会い、予定変更。大手クライアントを持つコマ―シャルスタジオで働き始める。1988年にPhotographerで永住権取得。1991年よりフリー、1995年LAに移動。現在はLAを拠点にショービジネス関係の撮影が主。日本からの仕事も開拓中。 http://oshimoto.net

2007/02/14 01:22
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