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気鋭の新ブランド「Summit Creative」が目指すカメラバッグの姿とは

現地工場で見た品質へのこだわりと変革の意識

株式会社ワイドトレードが2025年から取り扱いを始めたカメラバッグの新ブランドが「Summit Creative(サミットクリエイティブ)」だ。映像用品の展示会であるCP+2025で国内初お披露目となり、日本でも少しずつ認知が増えている。

とはいえ、日本上陸からまだ1年も経っておらずどのようなブランドなのかよく知らない方も多いはず。

そこで、Summit Creativeを製造する中国Dulepro社の工場見学を通して、彼らがどのようなものづくりをしているのかをレポートする。

42歳の若き社長が率いる新しい会社

Summit Creativeを手がけるのは、広東省中山市にある「Dulepro」という会社だ。香港国際空港から車で2時間ほどの場所にある。

本社兼工場のある珠海近くのこのエリア一帯は、「カメラ用品の基地」と言われるほど関連企業が集積している。サプライチェーンが充実しているため、カメラバッグのほか、三脚などのメーカーが多く立地している場所だ。

工場見学に先立って、Duleproの創業者であり社長のJack氏に話を聞いた。

Duleproの社長を務めるJack氏

Jack氏は湖南省出身で、42歳と比較的若い。深センのメガネ製造会社に勤めた後、台湾系のカメラバッグ会社に就職。そこの開発部門で活躍し、26歳でマネージャーに抜てきされる。その後、別の中国企業でカメラバッグ事業をゼロから立ち上げ、部門責任者まで務めるというキャリアを歩んだ。

しかし、どうしても自分の会社を興したいという夢があり、2020年にDuleproを設立したそうだ。そして、翌2021年に初めてカメラバッグを市場に投入した。

Duleproの本社と工場が入っているビル

「起業は決して容易なものではありません。幸い、志を同じくする仲間たちが私を信頼し、共に加わってくれたことが大きな支えとなりました。さらに、長年にわたりこの業界で培ってきた知見と製品への深い理解が、多くのお客様から高く評価され、そこからご注文へとつながっていきました。これこそが、Dulepro社設立の出発点となりました」(Jack氏)

現在の社員は約150人。少し離れた場所にはOEM専用の工場もあり、技術力を買われてよく知られたブランドのOEMバッグも多く手がけている。社員の男女比は3:7ということで、女性が多く活躍しているそうだ。

アウトドアのプロ向けバッグに特化

Summit Creativeという名前の由来は、「最高峰の製品を新たに作り出す」という意味だそう。「自分達しかできない、プロが認める製品を手がけています」(Jack氏)と、一貫して本格志向のブランドになっている。

ロゴには「限界を超えて探検しよう」と書かれている

若い会社でこれだけの製品を作れる秘密は何なのだろうか? 「会社の歴史は5年ほどですが、スタッフはほかの有名ブランドのカメラバッグ開発で20年以上の経験を持っています。このベテランのチームが我が社の大きな強み。その上で、品質第一にこだわって開発と製造をしています」(Jack氏)と話してくれた。

中国ではプロのほか、アマチュアの撮影ツアーなどでSummit Creativeの使用率が多くなっているという。すでに中国ではかなり注目度の高いブランドになっているとのことだ。

あるアマチュアの撮影ツアーでは、皆がSummit Creativeを使っていたそうだ

Summit Creativeの主力モデルは、バックパックの「TENZING(テンジン)」シリーズだ。エドモンド・ヒラリーのエベレスト初登頂を支えたシェルパ、テンジン・ノルゲイの名を冠するバッグだ。本格的な山歩きを想定したシリーズで、最大のタイプは50リットルという大容量になっている。

テンジンシリーズ(30リットル)

また、高い機能性も持ちつつもファッション性も重視しているとのこと。カラフルなデザインやアクセサリーもそうした考えによるものだ。「デザイン面でも皆様に良い評価をもらっています。例えばオレンジ色は人気で、何かあったときに目立つので安心感があり、気分よく使えるという声をいただいています」とJack氏。

併設のショールームにはカラフルなバッグが並ぶ
交換用フロントベルトも色とりどりだ
カメラメーカーのイメージカラーに合わせて付け替えるユーザーもいるという

山に行くなら目立つ色、街中で使うなら落ち着いた色といった具合に選べることも大切だという。Jack氏は、「三脚なら2、3本持てばそれで満足できるでしょう。でも、カメラバッグはもっと必要になると思います。実際、行き先によって色やサイズを変えるなど、4つも5つも持っている人を知っています」と話す。

遠くに行く場合は多くの荷物が要るので、それなりの容量のバッグが必要だろう。一方で、街中ならコンパクトなバッグが適しているかもしれない。「好みで使うバッグを選べることも重要だと考えています」(Jack氏)。

そのため、街中用のバックパックである「Metropolis(メトロポリス)」シリーズや、小型のショルダーバッグなどもラインナップしている。

小型のバッグやポーチなども揃えている

過酷な環境で使うプロから意見をもらう

このようにアイデア満載のバッグだが、その発想はどこから出てくるのだろうか? その点をJack氏に聞いてみた。

「まず各国で出展している展示会が重要です。自分自身、来場者と直接話すようにしています。これは我々が非常に大切にしていることで、その意見を開発に繋げています。また、懇意にしている写真家からのアイデアも積極的に取り入れるようにしています」(Jack氏)。

こちらはイギリスの展示会での様子

中国の写真家はチベット高原によく撮影に行くという。寒い上に風も強いという過酷な場所だそうで、そういった環境で使った写真家の改良案が貴重なアイデアになるとのこと。

ちなみに、Jack氏自身も「山登りとキャンプが大好き」という。スタッフも含めて自社製品を持ち歩き、どこが良いのか、どこがダメなのかをチェックしているそうだ。そうした中からも改善点を見つけていくそうだ。

空気を入れてクッションになるレンズケースもある。開くと座布団のようにも使えるとのこと

「影響力の大きい日本市場は1番大事」

日本市場をどう見ているのかもJack氏に尋ねた。「日本は主なカメラメーカーが集まっています。日本人は写真が好きで、機材の分野でも影響力が大きい。ですから、我々は日本市場が一番大事だと思っています」と日本をかなり重視しているとのことだ。

本社のオフィスフロア

実は、Duleproのスタッフが以前勤めていた工場は日本企業向けにOEMでカメラバッグも作っていたそうだ。その経験から、日本における市場の大きさから必要な品質のレベルまで把握しているという。「世界一厳しい」とも言われる日本の消費者からすると、その言葉はある種の安心感をもたらしてくれるものだ。

CP+2025の展示については、「小さなブースでしたが、とても多くの方に注目いただいたことに驚きました」とJack氏。早くも日本での手応えを感じているようだった。

CP+2025の展示も盛況だった

さまざまな工夫が満載のカメラバッグ

Summit Creativeで一番のヒット商品を聞くと、TENZINGのロールトップタイプ(30リットル)とのこと。

「ロールトップは中身に応じて容量が拡張できるのがメリットです。写真家は朝と夜に撮影することが多く、寒いので服をたくさん着なければなりません。でも、日中は暑くなるので脱ぎます。それをロールトップを拡張して収納できるわけです。それが人気の理由ですね」(Jack氏)。

ロールトップ型は巻き方で容量を変えられる

素材の多くは中国製だが、中国の素材メーカーも海外との協業などで最近は品質がかなり向上しているとのこと。その中から品質の良いものを選ぶことで、完成品の品質を高めているそうだ。

一方、ファスナーやバックルといったパーツは有名ブランドを使用する。ファスナーはすべてYKK製。また金属バックルはデュラフレックス製を採用している。そしてバッグは生地も重要だが、素材や編み方にもこだわり、防塵・防水・耐摩擦性を高めているそうだ。

ファスナーはYKK製
バックルもYKKになっていた
余ったストラップを簡単にまとめるためのバックルも
バックルにはホイッスルも付いている
金属のバックルも使われている
金属バックルはDuraflex製だ

バックパックにはアルミ製のフレームが入れてある。フレームがあれば型崩れを防ぐことができ、背中側に重心が来るので背負いやすい。

アルミ製のフレーム

ところがフレームが無いと型崩れが起き、機材が背中から離れる方向に動いてしまう。すると非常に重く感じるという問題が起きてしまう。TENZINGシリーズは、20kgの機材を入れても変形しないという。

背中側から機材を出し入れするバックパックの場合、フロント側を地面に置くことになるので傷みやすい。そこで、オプションとして「MOLLEプレート」というカバーを用意している。文字通りMOLLEの増設を目的としたアクセサリーだが、バッグの保護になるほか、ヘルメットなどを挟むこともできる。

MOLLEプレートを付けたところ

内部の仕切りの一部にはアルミの棒が入っており、バッグ側面の穴に差し込むことでコンパートメントの形を保てる仕組みだ。

下部気室を開いたところ
アルミの棒が付いた仕切りが付属する
このように棒を穴に差し込むことでしっかり固定される

また、仕切りを動かすことで上部気室を広げることができる。荷物の量によって柔軟にカスタマイズできるということだ。

上部気室を下に広げたところ
飲料水のパックを入れられるシステムも採用
飲み口のチューブはこのように固定できる
スーツケースなどに付けるためのベルトも装備
面白いオプションとしてはカメラクリップ(右)を快適に携行できるストラップ(左)もある
バックパックのストラップに安定してカメラを取り付けられる。中に金属の板が入っており食い込むことも無いという

工場でしか見られない秘密があった

まず開発部門のオフィスを見せてもらった。明るい室内には設計用のコンピューターや型紙を作るマシンなどが並んでいた。ここでは試作品までを作っており、縫製も行えるようにミシンも並んでいた。

開発部門のオフィス
型紙をカットする装置
コンピューターでこのような型紙の図面を作る
図面のデータに基づいて型紙ができあがる
型紙に合わせて生地をカットするところ
サイズ確認のためのカメラ機材が並んでいた

続いて工場のフロアに移動した。最初に目に入るのはたくさんの生地のロールやパーツがストックされた部屋だ。写真に写っているのはその一部に過ぎず、かなりの量産を行っているであろうことが見て取れた。

大量の生地が並ぶ倉庫

次は生地裁断の工程があった。型を使って数十枚の生地を一気に裁断していく。ここではクッション材も同様にカットされていた。

生地の裁断を行うフロア
抜き型も大量にストックされている
生地のカット工程
こちらはクッション材をカットしているところ

そして縫製のフロアに移動した。ここにはミシンがずらりと並び、分業によってバッグの各部が仕上げられていた。

縫製のフロア
複雑な形を縫っていく
できあがった部材が並ぶ

案内してくれたJack氏が、「品質のこだわりをお見せしましょう」と言って縫製中のバッグを見せてくれた。一例として、特に力のかかるショルダーストラップの付け根は内側を補強して縫製しているそうだ。

ストラップの付け根に秘密がある
取り付け前のストラップ。内側の縫い合わせをさらに補強している
見えない部分までしっかり作られていた

また、ハンドルなど力のかかる部分は2重のミシン掛けを行っている。加えて、ハンドル部分の端は折り返してバッグ本体に縫い付けている。ここも2重に縫うことになるので手間はかかるが、より頑丈になるとのこと。

ハンドルの縫い付け部はミシンを二重掛けしている
裏から見るとわかりやすい
2重縫いを実際に行っているところ

1つのバッグに300個のパーツ

Summit Creativeのバッグは、中国製と聞いてイメージするほど安いものではない。その理由は「材料のこだわりと工程の複雑さによるもの」とJack氏は説明する。

ファスナーなどのパーツは、ライトユーザー向けの一般的なカメラバッグに比べて10倍ほども高価とのこと。また、TENZINGシリーズのような多機能バッグはパーツの数が実に300個にも及び、複雑な工程が必要なことも価格の理由になっているそうだ。

ファスナー置き場にはYKKの箱があった
これはファスナーをカットする装置
ファスナーのタブも手作業で縫い付けている

「例えば、同じ人数で作れる個数は三脚よりもかなり少ないでしょう。50人くらいの人員でがんばっても、1日100個ほどしか作れません。非常に手間がかかり、コストに占める縫製職人の人件費の割合も大きいのです」(Jack氏)。この工程を見ると価格も納得せざるを得ないところだ。

完成した製品は1つ1つ検査される
次いで除湿機のある部屋に置いて乾燥作業が行われる
その後、仕切りを取り付けてパッキングされる
仕切りもずらりと並んでいた
倉庫で出荷を待つ完成品

試験も念入りに行われる

製品の試験を行うために専用の部屋が用意されていた。ここでパーツレベルや完成品レベルでテストが行われる。

ファスナーはYKK製ではあるが、独自に相当回数の開閉テストを行うそうだ。

ファスナーの開閉テストを行っているところ
両側にテンションをかけながら装置を動かす

そして生地や縫製部分の引張強度を測るテストもある。実際にデモンストレーションを見せてもらったが、破れたのは約150kgの力が加わった時点だった。試験片は幅が数cmくらいのものなので、かなりしっかりした生地や縫製といえそうだ。

引っ張り強度の計測
破れたときの力は150kg以上だった

そのほか、耐摩擦性やこすれた際の色落ち具合を確認したり、生地の防水性をチェックするテストもあった。

耐摩擦性のテスト
色落ちの試験
生地の防水テスト。大雨に相当する水量を掛けるという
生地の裏側には全く水は浸透していなかった

カメラバッグは重い荷物を入れるということで、やはりストラップやハンドルの強度は大切になってくる。そのために、バーが上下に動いて負荷をかけられる装置があり、重りを入れた状態で数百回のテストが行われる。

重りを入れたバッグを動かしての強度試験
テンジンシリーズでは、重りは20kg以上入れるという
片側だけのストラップでもテストする
ハンドルも同様にテストを行う
サンプルの正確な色をチェックするための光源を備えた装置もあった

プロ向けカメラバッグで世界No.1を目指す

ご存じの通り、中国のカメラ用品メーカーは新規性のあるアイテムを武器に、世界市場で存在感を増している。

その理由を尋ねると、「中国人は変化への対応が早いからではないでしょうか。中国のものづくりは昔とは変わって、品質もデザインも良くなり世界で通用するレベルになりました。それを支えているのは、次から次へと新製品を開発する能力です」とJack氏は分析する。

Duleproのスローガン。「平凡なことに集中して非凡な事を成す」「存在するものはすべて改善の余地がある」「ウィンウィンが長期的な成功を達成する」

こうしたスピード感が中国企業躍進の原動力なのは間違いなさそうだ。実際、Duleproも設立から5年ほどで世界30カ国以上で展開するブランドになった。その点はJack氏も「ゼロから立ち上げて短い時間でこれだけの数を売ることができました」と満足げだ。

Jack氏に今後の目標を聞くと、「プロ向けカメラバッグで世界No.1になること」と直球の答えが返ってきた。「市場には昔からあまり変わっていないカメラバッグもありますが、われわれは時代の変化に合わせてイノベーションを起こしていきたいのです」と、この先も期待できる決意を聞くことができた。

「新しい挑戦があなたの意思と人格を作る」と、チャレンジ精神を鼓舞するポスターが工場の壁に掲げられていた

今後も引き続き、カメラバッグをメインにアウトドアアイテムに特化する戦略を進めるという。2025年からは手袋や帽子といったアイテムもラインナップに加えた。また、キャンプなどと関連する撮影用品も考えているそうだ。「具体的な計画はありませんが、工場ももっと大きくしていきたいですね」との野心も覗かせるJack氏だ。

今回、Summit Creativeの取材を通して感じたのは、「見えないところまで真面目に作る」という姿勢だった。バッグは完成してしまえば、内側の作りや縫製は見えない。だが、そうした部分まで手間暇かけて作るのは、ブランドとしての矜持があるからだろう。

国内ではカメラ量販店でも扱われているほか、総代理店を務めるワイドトレードのショールームにも展示がある。こだわり抜いた製品を、まずは実際に体験してみてほしい。

1981年生まれ。2006年からインプレスのニュースサイト「デジカメ Watch」の編集者として、カメラ・写真業界の取材や機材レビューの執筆などを行う。2018年からフリー。