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高画素は正義だった──ニコン Z8の新機能ピクセルシフト×フォーカスシフトで見えた新次元

高画素はやはり正義なのではないか、と常日頃から思っています。私が現在メインで使用しているカメラボディはニコンD850。発売したてで購入して、気に入って徐々に買い足し、現在8台所有しています。

そんな私が今回、最新ファームウェアVer3.00を搭載したZ8を試用させていただき、フォーカスシフトとピクセルシフト、そしてその合わせ技で、まさに「高画素&ガチピン」での撮影を楽しませていただきました。

ピクセルシフトが実現する超高画質の世界

私は小物の商品撮影などを生業にしており、雑誌の表紙や広告、パンフレットなどの印刷物を手がけることが多くあります。Z8では、最大記録解像度である8,256×5,504pxが、ピクセルシフトで1万6,512×1万1,008pxとなります。これはニコンボディで得られる画素数としては最大です。

写真はノートリミングで使われることはあまりなく、デザイン作業上、トリミングや文字とのレイアウトに余裕が生まれる大画像は、たいへん有利にはたらきます。

ピクセルシフト撮影のメリットは、モアレや偽色、ノイズの軽減、解像度・解像感の向上、細部の色再現性の向上に効果があります。どうしてもモアレが出てしまう商品撮影などに威力を発揮します。撮影は32枚を選択し、RAWで同じ露出とピントで撮影。その後はニコンのNX Studioでの合成になります。

ニコン Z8/NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S/105mm/(1/60秒、F16)/ピクセルシフト合成32枚

ドイツのファーバーカステルの万年筆とペンシルを被写体に、通常撮影とピクセルシフト撮影を比較。手前のペン先部分を拡大すると、ピクセルシフトによる解像感の向上が明確に確認できました。

ピクセルシフト合成したものを等倍で切り出し
こちらは合成前のカットを等倍で切り出したもの

通常撮影でも十分に見えていたペン先の細部が、ピクセルシフトでは別次元の精細さで記録されています。特に金属表面の質感や微細な刻印の再現性は、1万6,512×1万1,008pxの真価を物語っています。

フォーカスシフトで物理的限界を突破

フォーカスシフト機能は、絞りをあまり絞らず、浅めの被写界深度の写真を、ピントを少しずつずらして何枚も撮影して、ピントが合っている領域を合成し、深い被写界深度の写真を得る機能です。

レンズは一般的に、ある程度絞りを絞っていくと、回折現象によって解像力が下がって甘くなっていきます。F2.8のレンズをF5.6とF22で撮影したら、被写界深度はF22が深くなりますが、ピントがきているところはF5.6の写真のほうがシャープです。

実際の撮影風景。レンズからボディまで奥行きがあるので普通に撮影すると、前後どちらかがボケてしまう

フォーカスシフト撮影においては、レンズを開放から2絞りほど絞った解像力が高い状態で、複数枚を合成することになりますから、理論上はF22で撮影したものと被写界深度が同じだったとしても、写真としてはシャープになります。

小さな被写体を撮影するときには、マクロレンズを最小絞りに絞っても、被写体すべてにピントがきている写真を撮影するのは難しいケースもあります。そのようなときにも、フォーカスシフト撮影は、必要とされる箇所にピントを「もっていく」ことができるために、有効なテクニックになるわけです。

ニコン Z8/NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S/105mm/(1/60秒、F8)/撮影枚数30枚

ニコンF3P+モータードライブMD-4を被写体に、被写体のレンズ先端から背面まで完璧にピントの合った画像を実現。F8の高い解像力を保ちながら、F22相当の深い被写界深度を得ることができました。

業界初の革新:フォーカスシフト×ピクセルシフト同時撮影

そして今回発表されたZ8のファームver3.00の最大の目玉が、フォーカスシフト撮影のオプションで、ピクセルシフト撮影ができるようになったことです。つまりフォーカスシフトでピント面をコントロールした写真を、ピクセルシフトで画素数を増大して大きな画像にできるという、夢のような合わせ技の機能です。

ピクセルシフト撮影で32枚を選択した場合、フォーカスシフトで設定した枚数×32枚という撮影枚数になります。フォーカスシフトで20枚設定の場合、20×32=640枚撮影となります。

実際の撮影スタートは、Z8のフォーカスシフトのメニュー画面から、オプションでピクセルシフト撮影を選択したのちに「撮影スタート」を選択して行います。その前にピントを合わせたい箇所の最短位置にピントをしっかり合わせておくことを忘れないようにしましょう。シャッターボタンで撮影スタートではありませんから、場合によっては設定画面から1度ピント位置をモニター確認して、再度設定画面から撮影スタート、となります。

フォーカスシフト撮影のメニューでオプションを選択すると、同時にピクセルシフト撮影ができるようになりました

こちらの被写体も、ピクセルシフト撮影の作例と同じく、光源にストロボを使用しているため、チャージ時間を考慮して3秒おきにシャッターが切れるように待機時間を設定しています。

撮影スタートしたら設定した撮影枚数が自動で撮影されていきます。

クラシックなニコンFのフィギュアを被写体に合わせ技を実践。細かなディテールから背景まで完璧にピントが合い、かつ超高画質な画像を実現。フィギュアの質感や細部の刻印まで、驚異的な精細さで記録することができました。

ニコン Z8/NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S/105mm/(1/60秒、F8)/ピクセルシフト合成(32枚) + フォーカスシフト合成
こちらはフォーカスシフトもピクセルシフトもしていないカット
実際の撮影風景。被写体が小さいので、ここまで寄る必要がある

RAWデータでそれだけの枚数を撮影するため、大容量のメモリーカードをあらかじめ入れておくか、テザー撮影に切り替えておくと良いでしょう。また撮影途中でバッテリーが消耗してしまう可能性もあるため、作例撮影時はカメラにはACアダプターをつないで対処しました。

撮影終了後の処理は、まずピクセルシフトになります。NX Studioで32枚を1枚にピクセルシフトしてから、次はそれをフォーカスシフトの枚数分の合成を、Photoshopなどで行って完成画像となります。

ピクセルシフトで生成した大きな画像を(作例はJPGに書き出して1枚120MB前後になりました)、フォーカスシフトの枚数分を合成するので、PCのスペックのハードルはやや上がります。MacBookだとおおよそM1プロセッサー以上のスペックでしたら、処理はさほど難しくはないでしょう。

全長約90mmのNゲージ江ノ電モデルを被写体に、究極の合わせ技を実践。車両の細部から背景まで完璧にピントが合い、かつ超高画質な画像を実現しました。この小さな被写体でも、1万6,512×1万1,008pxの巨大な画像で、驚異的なディテールを記録することができました。

ニコン Z8/NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S/105mm/(1/60秒、F8)/ピクセルシフト合成(32枚)+フォーカスシフト合成(20枚)
ピクセルシフト合成(32枚)+フォーカスシフト合成(20枚)
車両後方部を切り出したもの。後方までピントが合い、窓枠も描写されている
こちらは合成処理を行わずに、F36まで絞って撮影。最小まで絞っても後方までピントがあわない
ニコンZ8/NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S/105mm/(1/60秒、F36)
合成処理なし
こちらも車両後方部を切り出した。ピントも合わずEERの文字もぼやけている

フォーカスシフト×ピクセルシフトが可能性を押し上げる

Z8のピクセルシフト撮影は、動かない被写体に限られてしまうけれど、NX Studioの機能性とともに、割とイージーに面積4倍の画像を生成でき、D850ユーザーで商品撮影をしている私からしたら、完全に「アリ」の機能です。

仕事で毎回、長辺1万6,512pxの画像が必要なわけではなく、これ! という画像を大きく撮影できるのは、現時点では有用です。解像感や色再現性も向上するので、初めからトリミングを前提とした撮影では、ピクセルシフト撮影をしておく選択肢もあり、より高画質な画像を生成する手段の1つになります。

そのフォーカスシフト撮影でピクセルシフトもできるようになったというZ8の新ファームは、日頃からフォーカスシフト撮影をしている人にとっては朗報に違いなく、新たな表現の追及に役に立つと思います。

フォーカスシフト×ピクセルシフト同時撮影──この業界初の合わせ技は、商品撮影の可能性を確実に押し広げる革新的な機能です。高画素は、やはり正義です。

撮影協力:スタジオパンダ 香下直樹

北郷仁

(ほんごう じん)1975年東京都生まれ。東京工芸大学芸術学部写真学科卒業後、同大学大学院芸術学研究科メディア・アート専攻修了。雑誌、書籍、webなどで小物の商品撮影や複写など「地味な撮影」を得意とする。プライベートでは鉄道や花を撮影している。カメラとレンズのみならず、ストロボや三脚などの周辺アイテムも大好き。日本写真家協会(JPS)会員。