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撮影の自由度にびっくり! 超個性派レンズ「AstrHori 28mm F13 Macro 2:1 ペリスコープレンズ」
手元に寄る・俯瞰で収める…“お店紹介”風の動画で試してみました
2024年8月30日 07:00
AstrHori(アストロリ)28mm F13 Macro 2:1 ペリスコープレンズ スタンダードと、同Pro ペリスコープレンズは、既存のレンズの中でも異彩を放つレンズといえる。
今回はこの2本のレンズを使い、料理店を取材して紹介動画を作ってみた。
ちなみに両レンズは、照明や機材がしっかりと揃えられるスタジオで本領を発揮するタイプ。今回のような手持ち&地明かりの撮影となると不利な条件でもある。
それにもかかわらず、なぜこのレンズを一般的な料理店の中で撮るのか?
案の定、失敗も苦労もあったけれど、その辺りも含めて楽しんでいただければと思う。(TEXT・動画撮影:桐生彩希)
0.8cmまで寄れる驚異的なマクロ性能
AstrHori 28mm F13 Macro 2:1 ペリスコープレンズ スタンダード(以下、AstrHori 28mm)は、いわゆる「虫の目レンズ」と呼ばれるタイプのレンズだ。
細長い筒の先にある小さな広角レンズを被写体に近付けることで、まるで虫になって眺めるように、小さな世界を大きくダイナミックに写すことができる。
レンズは分割構造になっていて、メインユニットと筒状のペリスコープで構成されている。
メインユニットにペリスコープを接続すると虫の目レンズとして、メインユニットだけなら90mm F13の2倍マクロレンズとして撮影することが可能。
メインユニットとペリスコープを組み合わせた全長は452mm(マウント部を除く)。重さは705g(ソニーEマウントタイプ)あり、今どきのレンズに比べるとズッシリとした手応えだ。
レンズの焦点距離は28mmで、最短撮影距離は0.481m。
「0.481m」という数値だけを見るとあまり寄れないレンズに思えるが、これは撮像面から被写体までの距離になる。すなわち、メインユニットおよびペリスコープの長さもここに含まれる。レンズ先端から被写体までの距離、つまりワーキングディスタンスはわずか0.8cmであり、その場合、ペリスコープの先端は被写体にほとんどくっつきそうな距離となる。
ちなみに最大撮影倍率は2倍あり、これは一般的な等倍のマクロレンズの倍の大きさで接写できる性能になる。
今回はスタンダードタイプのほか、AstrHori 28mm F13 Macro 2:1 Pro ペリスコープレンズ(以下、AstrHori Pro)も同時に使用してみた。
こちらはレンズ先端が90°横を向き、さらに360°回転できるというタイプだ。潜水艦の潜望鏡をイメージすると分かりやすいかもしれない。
壁際の引きのない場所から撮影したり、俯瞰で撮影したりと、撮影アングルの自由度が飛躍的に向上するレンズでもある。
MFはフォーカスピーキングで乗り切る
AstrHori 28mmで撮影するにあたり、懸念したのがMF(マニュアルフォーカス)レンズという点。
今回は調理シーンの撮影がメインなので、動きを追うことが多い。しかも、レンズの特性を活かした近接撮影となると、マニュアル操作でピントが合わせられるか不安だ。
本番前にテスト撮影を繰り返した結果、せわしなく動く被写体に対して、カメラの小さなモニターでピントを合わせ続けることは難しいと判断。
そこで、拡大表示かフォーカスピーキング機能を活用することにしたのだが、動いている被写体を追うので、全体の構図とフォーカス位置が素早く判断できる後者を選択。静物を撮るなら、拡大表示でじっくりとピントを合わせたと思う。
撮影に用いたカメラはソニーα7S III。AstrHori 28mmは開放F値がF13と暗めのため、高感度撮影に強いα7S IIIは相性のよい組み合わせだ。
ちなみに最大F値はF40と大きく、近接撮影でも被写体の形状が捉えられるほどの被写界深度をかせげる。35mmフルサイズセンサーでのマクロ撮影というと、極薄の被写界深度で大きなボケをイメージするかもしれないが、広角28mmで絞り値がF13スタートということもあり、ボケ過ぎて困るようなことはなかった。
ピントリングには重めのトルクがあり、ラフな操作でもピント面がガサツに移り変わることはない。
絞りリングも同様の手応えで、クリック感のないタイプとなっている。動画撮影時に絞りを変化しても音が出ず、ボケや光量を変えながらの撮影が可能だ。
どちらのリングもロータリーエンコーダーなどを介さない完全なアナログタイプで、ジンワリと微調整できる。この心地よい手応えは、MFレンズならではといえるだろう。
気軽に水中撮影できる魅力
AstrHori 28mmとAstrHori Proの付加機能についても紹介しておきたい。まずは、レンズ先端のLEDライトから。
マクロ撮影ではレンズ自体の影が写り込みやすいため、それを消すためにもレンズと同面にある照明はほしい機能だ。
また、ペリスコープレンズは狭い場所に差し込んで撮影することも多く、それらの場所は外光が届きにくい。そこで、レンズ先端LEDライトの出番となる。
今回のロケでもこのLEDライトを活用しようと考えていたのだが、USBケーブルやモバイルバッテリーの装着が必要なため見送ることにした。キッチン内の撮影は、機材類が不用意に食材や食器などに触れると困るので、その予防策だ。本音をいうなら、現場は薄暗い状況ということもあり、レンズ先端LEDや外部の照明を使いたかったが……。
マクロ撮影におけるレンズ先端LED照明の効果は、下の比較写真を見てもらうと明らかだ。
今回の撮影で活躍した機能として、防水機能がある。
AstrHori 28mmとAstrHori Proはレンズ先端から20cmまで防水仕様になっているため、水を扱うシーンでも躊躇なく近接撮影が可能だ。
調理場では食材を洗ったり、流水の中で調理する場面も多いが、そんなシーンでも水しぶきを浴びながら撮影できるので映像のバリエーションを増やすことができる。
調理シーンの構図はマンネリ化しやすいので、特殊なシーンが撮れるレンズは大助かりだ。
下の映像は、その場の思い付きで撮影したモノ。食材を洗うシーンを水中から撮ったらどう見えるか、という好奇心から撮影してみたのだが、面白い映像が撮れたのではないかと思う。
水中撮影というとハードルが高いけれど、AstrHori 28mmとAstrHori Proはレンズの先端を沈めるだけなので手軽さがある。カメラ本体は離れた位置にあるので、水中撮影でも安心感が高い点もありがたい。
これなら、スナップやネイチャーシーンでも、フットワーク軽く水中撮影が楽しめるだろう。
現場で気付く取り回しのよさ
今回取材させていただいたのは、横浜野菜と日本酒の店「七草」。
カウンター席+4人掛けテーブル×2という、こじんまりとした隠れ家的なお店だ。
主な撮影場所となる調理場は、1人が立って作業できる程度の広さとなる。調理台の奥行きが40cm程度で、上には棚がある。スタンドを組んでの俯瞰撮影や、奥からの撮影は無理そう。
照明は手元灯だけで心もとないが、左手の奥の窓からは外光が射している。ということは、左側から撮影すると、自分の影が落ちて暗くなるため好ましくはない。
このように、撮影アングルが制限される現場ではあるが、幸運なのは左手側から外光が射している点。右利きの料理人の場合、調理シーンは右側から撮影することが多いので、その位置で外光による撮影者の影が出ないのはありがたい。
それに、逆光気味の撮影は画面の奥が暗くならず、陰鬱な描写になりにくい点も料理の撮影にはメリットだ。
どちらにしても、“普通のレンズ”では撮影アングルに苦労しそうな現場であることは確かだ。だからこそ、アングルの自由度が高いAstrHori 28mmとAstrHori Proをチョイスしたわけだが。
坂本さんには料理を3品作っていただいたのだが、ペリスコープレンズをはじめて実戦に投入したということもあり、手探り状態での撮影となる。
とはいうものの、AstrHori 28mmの細長いレンズは想像以上に取り回しがよく、“普通のカメラシステム”とは比較にならないほど自由なアングルで被写体と対峙することができた。
たとえば食材をカットするシーンの場合、食材に寄ってシズル感を出したり、動く刃先に迫ってダイナミックな映像にしたり、少し引いて状況を見せたり、角度をつけて俯瞰的に撮ったりと、同じ立ち位置からでも映像のバリエーションが簡単に増やせる。
これは、カメラとレンズが離れた位置にあるという形状が一役買っていて、長い指示棒で「ココ」「ココ」と示す感覚で撮影できるといえば伝わるだろうか。
撮影ポイント(レンズ先端)とカメラ本体が離れているメリットはほかにもある。
カメラ本体はレンズ端から約50cmの位置にあるので、撮られる側が圧迫感を感じにくく、作業の邪魔にもなりにくいという点だ。
撮る側にとっても、相手にカメラ本体をグッと近付けるより、細長いレンズの先端を近づけるほうが撮りやすい。というか、気まずさがない。
要するに、初対面の相手でも距離感のバグった撮影がしやすいということ。人物相手の取材の場合、あと一歩の距離を詰めることにためらいを感じることもあるが、今回の撮影ではそれを感じなかった。
そのおかげで、普段は踏み込みにくい距離まで接近した映像も撮影できたというわけだ。
手軽に真下が撮れる魅惑のAstrHori Pro
どうしても含めたかった映像が、真上からの俯瞰映像と、調理中の手元を奥から撮影した映像。
しかしながら、前者はカメラを水平・下向きにセットしなければならず大掛かりなシステムが必要だし、後者は調理台が壁際のためカメラを置くスペースがない。
ほしい映像だけれど、どちらも撮ることが難しい映像なわけだ。
このようなシーンを撮るために用意したのが、AstrHori Pro。(頑張れば)手持ちで真上からの映像が撮れるし、引きのない場所でも壁際にレンズを寄せて撮ることができる。
とくに今回の取材では、俯瞰映像の撮影にAstrHori Proが活躍した。
正直なところ、俯瞰撮影のためだけにAstrHori Proを用意してもよいのではと思えるほど、その手軽さは魅力的だ。
俯瞰撮影ができるということは、そのままカメラを動かせばスライドする俯瞰映像も撮れるということ。
今回はスマートフォンの撮影で使っている手のひらサイズのスライダードリーを用いたが、カメラスライダーやドリーがなくても大丈夫。滑りやすい紙にカメラを乗せて引っ張れば、簡単に俯瞰のスライド映像が撮れる。こすれる音が気になるのなら、紙の代わりにフェルトや布など使ってもよいだろう。
俯瞰のスライド映像は目を引くシーンでもあるので、料理を撮るならぜひとも取り入れたい。
調理の映像で状況を伝えやすいのが、料理人に向かって手元を撮る構図。手元を含めた周囲が見渡せるため、「なにをしているのか」が説明しやすい映像になる。
本来なら、この手の映像はアイランドキッチンのようなオープンなキッチンでしか撮れないのだが、AstrHori Proならレンズを横向きに回転すれば簡単に壁際に寄せられる。
アングルの自由度はAstrHori 28mmを上回るので、使いこなせればこれ1本でも撮影できるだろう。
ただし、AstrHori Proは扱いが難しい……。
光軸が90°曲がっている上、カメラのモニターには鏡像として映るため、どちらに動かせば意図する構図になるのか判断しにくいためだ。
慣れの問題ではあるが、カメラを向けている方向とは異なる真横や真下を鏡像で見るという行為は、想像以上に難解な状況と考えたほうがいい。
もちろん記録される映像も鏡像になるため、通常の映像に戻すには編集ソフトで水平を反転する必要がある。
AstrHori Proに興味のある方は、この辺りの特性も判断材料にしてもらえればと思う。
自由度の高さと難しさがせめぎ合う、個性あふれるレンズだ。
レンズの長さから生じるブレに注意
AstrHori 28mmとAstrHori Proで撮影していて、予想どおりに苦労したのはMFという点。
エッジが明確な被写体ならカメラのフォーカスピーキング機能で対応できるが、フォーカスピーキングが反応しない状況になると、即応することは難しい。
もっとも、これはAstrHori 28mmのデメリットというよりも、MFレンズ全般のデメリットなので、特筆すべき点ではないが。
想定外に苦労した点がブレだ。
事前のテスト撮影は三脚を使っていたので気付かなかったのだが、ミニ三脚や手持ち撮影の多い今回の取材では、ブレが抑えきれない場面も出てしまった。
カメラの手ブレ補正機能をオンにしていても、レンズが長いためか、わずかな揺れが先端では増幅し、抑えきれないブレとなって出てしまうようだ。
もっとも、ペリスコープレンズはカメラを三脚やスライダーに固定し、適切なライティングを作って撮影するスタイルのレンズなので、今回のように手持ちに近い撮影はイレギュラーなのだろう。
しかしながら、その冒険を侵してもなお魅力的な映像が撮れるレンズで、だからこそ取材の現場でも使ってみたくなったわけだ。
意外に感じたのが、特殊なレンズでありながらオールマイティーに撮影できる点。
当初は、調理シーンをAstrHoriの2本で撮影し、店内などは普通のズームレンズを使う予定だったが、結果的にすべてのシーンをAstrHoriで撮っている。
その大きな理由が、味わい深い描写だ。
撮り方によってはオールドレンズ的な描写が出せるので、個人的にかなり気に入ってしまった。モノコートレンズのテイストが好みなら、AstrHori 28mmは気に入るはず。
たとえば、絞りを開放気味にして画面内に光源を入れれば、光がやわらかく滲む映像が撮れる。そのアンニュイな画は、現代のレンズでは得難い魅力だ。
今回の取材でも、この効果を狙って撮ったシーンがいくつか存在する。
反対に、引き締まった描写にしたければ画面内に強い光源を入れず、絞り込めばよい。
ペリスコープレンズとしてのレビューからは外れてしまうけれど、味わいのある描写が得られる点もまた、両レンズの魅力としてお伝えしておきたい。
スナップ動画も撮りたくなるレンズ
ペリスコープレンズ、いわゆる虫の目レンズというと、昆虫を接写したり、テーブルに小物を並べてギミック的な動画を撮ったりと、ある意味「定番の撮り方」をするレンズだと思う。
しかしながら、今回のように取材に使ったり、スナップやネイチャーシーンで使っても面白いレンズだ。
筆者自身、お店の紹介動画をペリスコープレンズだけで撮るなど考えてもいなかったが、いざ実行してみると、案外行ける。
とはいうものの、全編ペリスコープレンズという今回の取材動画は極端な例だ。
やはり、適材適所でレンズを使い分けるのがベターだし、撮影に負担を感じずに済むだろう。
AstrHori 28mmとAstrHori Proの両方を使ってみて、面白さや映像表現の可能性を強く感じたのはAstrHori Proのほう。
俯瞰や壁際からの撮影のほか、レンズを根元から回したり、カメラをスライドしたり三脚に乗せて回転したりと、簡単な動作でユニークな動画が撮れる。次はどんな撮り方をしてみようかなと、想像力を掻き立てるレンズだ。
とはいうものの、AstrHori 28mmとAstrHori Proはセットで購入することをおススメしたい。
AstrHori 28mmを使っていると、さらなるアングルの自由度を求めてAstrHori Proが必要になるし、逆の場合は即応力のあるAstrHori 28mmを揃えたくなるだろう。
同じようなレンズであるけれど、使い勝手はまったく異なるため、両方を揃えることであらゆるシーンに対応できるようになる。
また、両レンズはさまざまなマウントが用意されているけれど、特性を活かすためにもフルサイズ機で撮影しよう。
このレンズの持ち味は「極端に寄れる広角(28mm)レンズ」という点で、この特性がダイナミックな描写の源となっている。
しかしながら、APS-C機に装着すると42mm相当となってしまい、狭い範囲しか写すことができない。つまり、単なる標準マクロレンズになってしまうわけだ。実にもったいない。
APS-C機で使うのなら、AstrHori 18mm F8.0 Macro 2:1を選択するといい。
こちらはAPS-C専用で、18mm(35mm判換算27mm)になるので被写界深度も深く、なおかつ開放F値がF8と少し明るいので、暗めのシーンでも撮りやすくなる。
今回は、久しぶりに魅力的なレンズに出会えたと思う。
他人とは異なる映像表現を望むのなら、個性の塊であるAstrHori 28mmとAstrHori Proが力になってくれるに違いない。
撮影協力:七草