トピック
人気の“ゲーミングモニター”は写真編集でどこまで使える?
出荷時にキャリブレーション済みのMSI「MPG 321URX QD-OLED」を試す
- 提供:
- MSI
2024年4月1日 00:00
プロアマ問わず写真家にとってモニターは表現の場所であると同時にカラーを感じ取るための目そのものである。
すなわち、表現の場所であるためには色域が広い方がより現実世界の複製物である写真表現の範囲が広がるということだ。
もうひとつ、カラーを感じ取る目であるということは表現結果を他者と共有するために必要なことであり、共通のカラー基準を使うということである。
写真ユーザーはこれまで上述2つの目的のためにカラーマネージメント対応モニターや適度なモニターをソフトウェアキャリブレーションを行うことで対応してきた。
「ゲーミングモニター」に注目すべき?
そんな中、昨今注目のモニターは「ゲーミングモニター」だ。主に3Dオブジェクトを表示することを目的としているため、色域の広さと輝度・リフレッシュレートの高さが特徴だ。しかも性能の割に価格も安いときている。
ここで紹介するMSIの「MPG 321URX QD-OLED」はそれらの特徴に加え、 出荷時にメーカーによってハードウェアキャリブレーションが行われている。 つまり、正しい色再現ができるモニターであるのだ。
キャリブレーション済みで出荷されているということはPCに繋ぐだけで正しい色再現が得られるということであり、写真家の目足るべきという写真ユーザーの目的を達している。
表現の場所という点では Adobe RGBを包括する色域 に加え、 HDRに対応する輝度の高さ も優位な点だ。ことに輝度の高さは今後表示装置全般で主流になっていくであろうHDR(High Dinamic Range)に対応していることは表現の幅を広げてゆくものだ。HDRに対応していれば現実世界の明暗比をより広く表現できるからだ。
さらに本機にはもう1つ利点がある。それは 最大240Hzというリフレッシュレートの高さ だ。
ゲーミングモニターに注目することの理由の大きな1つであるのだが、リフレッシュレートはモニター表示の更新頻度のきめ細やかさである。FPSゲームなどにおいて重要な指標となっているリフレッシュレートだが、これは動画視聴や動画編集時にも重要な意味を持つ。時間的解像度の高さでもあるのだ。
写真ユーザーのための設定例
ここからは写真ユーザー目線でMPG 321URX QD-OLEDの使いこなしをお話ししよう。
PCとの接続はHDMI、Display Port、USB Type-Cがサポートされる。
ことにUSB Type-Cでの接続は最大90Wもの電力が供給されるので、ノートPCとの相性が抜群だ。 充電と映像表示が1本のケーブルで済んでしまう。 デスク周りをすっきりさせてくれる良い選択だ。
設定を行うためのOSDは、モニター背面にあるファンクションボタンから起動する。手の届きやすい位置にあり、OSD自体の表示も大きいので大変使いやすい。
次に色の管理だが、初回設定時にはゲームモードで立ち上がるはずだ。この時は色乗りがよく美しい色合いが再現される。ゲームやPC作業全般、動画視聴などではそのままで良いだろう。
しかし、写真ユーザーとして写真を編集、つまりRAW現像やレタッチを行うためには、念のためカラーモードを変更したい。「プロフェッショナル」→「プロモード」からカラープロファイルを選ぼう。選択肢はsRGB、Adobe RGB、Display P3の3つである。
使い分けとしては、モニターでの写真鑑賞および写真編集時にはAdobe RGB、写真プリントなど印刷物を目的とする場合はsRGB、動画編集をする場合はDisplay P3もしくはAdobe RGBを選択すると良い。もちろん例外もあるので、比較対象を見ながらプロファイルを選ぶことも必要だ。
HDRを使うためにはPCのカラー設定を変更する必要があるが、その際に影響する設定がここだ。
TrueBlack400では引き締まった黒を視聴したい場合、ダイナミックレンジを最大にしたい場合はピーク1000ニットを選ぶ。
ちなみに有機ELパネルということで、画面の焼き付きを心配している読者もいるかもしれない。最新のモニターである本機は、ピクセルシフト、パネルプロテクト、ロゴ検出といった各要素で 画面の焼き付きを軽減する 「MSI OLED CARE 2.0」が備わっている。一昔前のように気に病む必要はないだろう。
「色域」「HDR」「リフレッシュレート」を検証
色域
まず正しい色の表示がなされているかを検証した。カラーモードはAdobe RGB。下に写っているのはキャリブレーション済みモニター、その上がMPG 321URX QD-OLEDだ。
双方の色と階調がよく一致しているのがわかる。画面右下には別ウインドウでカラーチャートを表示しているがこれもよく一致しており、本機が写真編集に向いたモニターであることがわかる。
Adobe RGBの基準は6,500Kであるが、プリント物と比較する際には5000Kである。その場合はPCのカラー設定に項目があれば色温度を下げるかソフトウェアキャリブレーションをする。しかしながらそこまで厳密に管理しなくても十分だろう。
次にMPG 321URX QD-OLEDのカラー設定を変更してみた。
Adobe RGBでは赤の彩度が高く、かつディテールが良い。対してsRGBではよくディテールは出ているものの色がくすんだ印象になる。写真はハイビスカスだが、チューリップやバラなど赤い花全般で同じような違いが出る。
同様に南国の海の写真で比較した。
Adobe RGBでは空の色合いが深く、海の色は輝くようなエメラルド色だ。対してsRGBでは空も海も彩度が低く魅力的ではない。いわゆる記憶色とは違っている。
実際の色合いは空はsRGBの色に近く、海の色はAdobe RGBにやや近い。いずれにせよ、こうした色を魅力的に表現できるのはAdobe RGBならではだ。
HDR
次の比較はHDRだ。ここまでの比較もカラー設定はHDRのままになっているが、コンテンツ、つまり表示する写真や動画がHDR対応のものでなければ違いが生まれてこない。そこで Adobe Camera RAWのHDRモードで比較する。
HDRコンテンツの場合、カラープロファイルはDisplay P3の拡張であるHDR P3系統になるので本機のカラーモードもDisplay P3を選択する。
CameraRAWの画面ではHDRオン/オフの比較画面にしてある。その状態でMPG 321URX QD-OLEDのカラー設定をHDRとSDRに変更して比較した。
HDRは入道雲がはっきりと表現され、空も青くいかにも夏らしい日差しを再現している。対してSDRでは同じ画像をMPG 321URX QD-OLEDのSDRモードで視聴している状態だ。この状態ではHDR画像は白トビしてしまい正しい表示が得られない。
今後増えてくるHDRコンテンツや自分自身がHDRデバイス向けに作品を作るに当たっても、HDR表示対応は必須の機能になっていくことがわかる。
リフレッシュレート
最後にリフレッシュレートだ。画面は動画作品を「DaVinci Resolve」で編集中のものだ。
画面中心付近に流星が飛んでいる。動画作品の冒頭でキャッチな部分であるので、この流星をしっかり表現したいのだが、リフレッシュレートが低いモニターで表示すると、素早く動いて一瞬で消える流星が目立たないのだ。速い動きや一瞬の出来事も、撮影時の設定のみならず視聴モニターのリフレッシュレートが高いほど有利であることを示す一例である。
編集画面でのリフレッシュレートは120Hzとしていたが、書き出したものを本機の最大リフレッシュレートである240Hzで確認した。
やはり流星の見やすさ、目立ち度がさらに良くなる。リフレッシュレートはPCに搭載されているグラフィックカードの仕様に依存するので、速いリフレッシュレートを実現するにはグラフィックカードの交換が必要な場合もある。
240Hzの設定に使用したグラフィックカードはNVIDIA Geforce RTX4090。このカードなら240Hzを扱えるため、MPG 321URX QD-OLEDの能力を最大に引き出すことができる。
macOSの場合も本機をつないだ状態で、「システム環境設定」→「ディスプレイ」からリフレッシュレ ートとHDRを選択できる。筆者の環境では最大120Hzであった。
Macの場合はグラフィックカードの選択肢が少ないこともあり、リフレッシュレートの面でMPG 321URX QD-OLEDの実力発揮させたいなら、Windowsの方が有利であろう。
まとめ
Windows、macOSとも色についてはどちらにも不安はなく、本機がほぼ正しい色を鑑賞できるモニターであることを実感できた。印刷物のシミュレーション、動画、静止画の編集のそれぞれにおいて、目的に合わせてカラー設定を変更することで、より正確性が増す。
しかしながら、便利になると人間ものぐさになるもので、設定の切り替えをせずに使いたいなら、Display P3とHDRにしておくことがおすすめだ。Display P3はAdobe RGBほど大きな色域は持たないものの、動画との親和性も良く、またHDR設定ではSDRコンテンツを表示しても大きく違和感のある表示とならないからだ。
MPG 321URX QD-OLEDはゲーミングモニターというジャンルでありながら、写真編集、動画編集ともに満足いく実力といえる。31.5インチという大きさも、作業性を大きくアップしてくれる要素だ。 31.5インチ4Kで有機EL、それでいて20万円台前半の価格も魅力的 。もし近いうちにモニターの買い換え・買い増しをを検討しているなら推しの1台である。
人物・製品撮影:曽根原昇