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プロのテクニックを直伝!! スポーツ写真家・竹見脩吾さんの撮影術&ワークフローを学ぶセミナー
ちょっと変わった一脚の使い方とは? 現場で愛用するノートPCについても紹介
2022年12月23日 07:00
弊社インプレスの写真サイト「GANREF」は、スポーツ写真家の竹見脩吾さんを講師に招いて「プロのテクニックを直伝!! スポーツ写真家竹見脩吾の撮影術&ワークフローを学ぶセミナー」を12月8日にインテル東京オフィスで開催した。
セミナーではプロならではの撮影テクニックや機材選択、現場のエピソードなどが披露されたほか、参加者が提出した作品の講評などが行われた。
参加したのはスポーツ撮影を行うプロおよびアマチュアで、応募者100名以上の中から選ばれた10名だ。
今回、インテル株式会社の協力で「インテル® Evo ノートブック PC」が体験できるコーナーが用意された。竹見さんも同規格に準拠した「VAIO SX14」を愛用している。
同社は「インテル Blue Carpet Project」を3月に発表し、第一線のクリエイターを支援する取り組みを行っている。このセミナーもその一環で、トップクリエイターのノウハウをアマチュアやプロに還元する事を目的としている。竹見さんは同プロジェクトの参加クリエイターの一人だ。
「インテル® Evo ノートブック PC」とは?
インテルが策定した「Evoプラットフォーム」を採用し、同社の認証を経たノートPCが「インテル® Evo ノートブック PC」だ。Intel Iris Xeグラフィックス搭載の第11世代Core i5以上のプロセッサーを搭載といった、スペック的な最低条件も規定されているが、重要な点は、ユーザーがPCを使った際に体感するバッテリー駆動時間、ACアダプターが接続されていない状態での実アプリケーション性能、通信性能などを事前に検証し、合格した製品だけが認証される点となっている。
今回のセミナーでも実機展示が行われていたが、セミナー参加者からは「スペックの割に軽くてコンパクト」「現場やロケに持ち出して使いたい」「インターフェイスも豊富で使いやすそう」などの声があがっていた。
スポーツ写真は撮影位置が重要
まず竹見さんが話したのは撮影ポジションの話だ。「メディアだからということもありますが、正直言えば皆さんも一番良い場所で撮れば良い写真が撮れます。機材も良くなり、シャッターを押せばピントもちゃんと合います」という。
良い写真を撮りたいと思ったら、撮影制限の緩い競技にチャレンジして欲しいとのこと。お勧めはトライアスロンだそうで、2023年5月13日・14日に横浜で大きな競技会(2023ワールドトライアスロン・パラトライアスロンシリーズ横浜大会)が開催される。
「水泳などは近づきづらいですが、走ったり、バイクのシーンは選手が目の前なので、メディアとほとんど同じ場所で撮れます。野球やサッカーはなかなかメディアポジションに入りづらいですが、今まで撮ったことのないスポーツで新しい撮影にチャレンジして欲しいと思います」
撮影位置の違いで写真がどう変わるかを肌感覚として体験しておくことが重要とのことだった。
ミラーレスへの切り替えを検討中
竹見さんはキヤノンの機材を使用しており、メインは「EOS-1D X Mark II」(1台)。そして「EOS 5D Mark IV」(2台)という3台体制で撮影に臨んでいる。
レンズは「EF16-35mm F2.8L III USM」、「EF24-70mm F2.8L II USM」、「EF70-200mm F2.8L IS III USM」、「EF400mm F2.8L IS III USM」をメインにしつつ、被写体が遠い場合はエクステンダーを付けたり、トライアスロンのように選手に近づける場合は「EF8-15mm F4L フィッシュアイ USM」を使って、いつもと違った絵作りを心がけているそうだ。
ミラーレスカメラについては、「ゴルフの撮影でシャッター音を出さずにボールを打つ前から撮れるなどメリットを生かした撮影ができるのがいいと思っていて、スポーツの現場でも増えている印象です」とのことで、自身もミラーレスカメラへの切り替えを検討中という。とはいえ撮影に際しては「各自が好きなカメラを使うのが一番いいのでは」ということだった。
スローシャッターをすぐ使える設定に
カメラの設定だが、基本はマニュアル露出。ただし、フィールドで光と影が混在している場合は絞り優先AEも使う。屋外では天気が変わることもあるのでホワイトバランスはオートにし、室内は照明が変わらないため色温度で指定しているとのこと。
感度は競技によって様々だがISO 12800までは使うことがあるそう。感度選択のポイントは、シャッタースピードが1/1,000秒をなるべく切らないように調整することだという。
AFのモードはAIサーボAFにしておき、AIサーボAFからワンショットAFにワンボタンで切り換えられるよう設定している。フレーミングを少し変える際などにAFモードを切り換えるそうだ。
またEOS-1D X Mark IIでは、マルチファンクションボタン(M-Fn)を押すことで、記録させていた撮影設定を読み出して切り換えられるようにしており、普段は高速シャッターで撮影しながら、マルチファンクションボタンを押すと1/30秒などの低速シャッターですぐに流し撮りができるようにしているそうだ。
「スポーツは報道的な写真を撮りがちですが、光を考えて撮ると絵になることも多いんです。順光もよいのですが、逆光だと光と影を意識した写真が撮れるので逆光のポジションは多用しています」
竹見さんがもう一つ勧めるのが雨天時の撮影。普段撮っている写真がつまらないと感じたら雨の時を狙うと格好良い写真が撮れるとのこと。シャッタースピードは速いと雨が止まってしまうので、1/250秒以下で雨粒を流すのがポイント。選手の手足はブレるが、「それもまた効果的。雨が降ったら大チャンスと思って欲しい」と説明した。
良い作品のための大切な脇役
ハイアマチュアになるとカメラやレンズはプロと変わらない感もあるが、撮影アクセサリーについてはプロならではのチョイスもある。
カメラバッグはシンクタンクフォトのローリングタイプ。長玉とボディ2台、標準と望遠のズームも収納できる。
そして、竹見さんが特にお勧めしていたのが一脚の活用だ。大きな一脚と小さな一脚の2つを用意しており大きなタイプは超望遠レンズを支えるのに使い、小さなタイプは標準レンズを付けたボディに装着して上に持ち上げ、ハイポジションに構えるのに使用する。
「普段の目線の写真は見慣れているので新鮮さは少ないんです。その点で地面すれすれのローポジションとハイポジションは効果的といえます。一脚を使うと脚立を使えない場所でも高い位置から撮影可能です」
次に紹介されたのが折り畳み式の小さなイス。体重70kgの竹見さんが5年ほど問題無く使えているそうだ。
「ベタ座りで撮影しなければならない時にそのままだと瞬時に動きずらいんですね。このようなイスがあるだけで、正座とほぼ同じ高さで撮れますし、例えばバスケで選手が近くまで来たときにすぐに逃げられます。また、別の位置で撮りたいときも瞬発的動けます」
折りたたむとフラットになるので、持ち運びも苦にならないとのこと。
そしてGoWingのレンズホルダーも雨の時の愛用品だそう。これはレンズを装着して携行するためのシステムだ。
「雨天時はボディ1台で撮ることがあります。でもレンズはたくさん持ち運びたいというときに、簡単にレンズを付けて持ち運べるんです。これはレンズ2本ですが、3本付けられるタイプもあります。体一つで撮影ができるので便利です」
そのほか、市販品やプロサービスで配布されたレインカバー、指を出すことができる手袋、雨用のポンチョ(中に機材を忍ばせられる)などが便利で活用しているとのことだ。
記録メディアについてはJPEG撮影のみなので、さほど高速なタイプではなく、SDカードがサンディスクの128GB(95MB/秒)、CFが東芝の64GBでトラブルはこれまで無いという。
高速セレクトができる「Photo Mechanic」を愛用
竹見さんは写真のセレクトと編集を別々のソフトで行っており、セレクトにはCamera Bitsの「Photo Mechanic」を使用している。
スポーツフォトグラファーにはよく使われるソフトだそうで、数字のキーでカラーラベルを付けられるため、すぐに出したい写真は1にして、後でゆっくり見たい写真は3にするといったことができる。また、カメラで設定したレーティングをそのまま取り込めるので、レーティングに応じた写真のみを見ることもできるそうだ。
Photo Mechanicの軽さと竹見さんが使っているEvo ノートブック PC「VAIO SX14」の処理能力の高さにより、写真を連続して表示させても止まることなく切り替わるという。
「Core i7の入ったVAIOを使うとノンストレスで作業ができるので、このPCが手放せません。とにかく軽量で、画面は屋外でも明るくてはっきり見えます」
一括画像処理はPhotoshopのアクションで
画像処理に関しては「Adobe Photoshop CC」を使用しているが、納品までのスピードが求められるということでPhotoshopのアクション機能を活用しているそうだ。
「あるバスケットボールの試合では、試合終了の5分後にセレクトした写真を全部欲しいというケースがありました。その上、写真全てにクレジットを入れなければならないというものでした。1枚1枚にクレジットを入れるのは大変なのでアクション機能を使っています」
アクションとは、一度行った作業を記録しておいて、後から全ての写真に実行できる機能のこと。Photoshopの自動処理→バッチから作ったアクションを選び、セレクトした写真のあるフォルダを指定して実行すると処理が適用される。
「この時、PCの処理能力によって処理時間が大きく変わります。速いPCだと1枚を1秒くらいで処理できます。その理由でこのVAIOを使っています。クレジットのほかにも全部の写真のコントラストを上げたい、明るくしたい、シャープにしたいという処理もできるので、活用すると時間の短縮になると思います」
アクションは事前に作って用意しておくこともあれば、当日の撮影環境によってその場で作ることもあるそうだ。例えば、色被りなどはその場でアクションを作って対応しているとのことだ。
レベルの高い参加者の作品が続出
セミナーでは事前に参加者の写真を提出してもらい、会場で竹見さんの講評を受けられる趣向になっていた。写真の提出は任意だったが、全員が提出しており参加者の真剣さが伝わってきた。その中から、ここでは2名の写真を紹介する。
今川大将さんの作品と講評
今川さん:写真は観客席からα9とFE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSで撮影したものです。私もスポーツ撮影を仕事にしているので、ほかのスポーツカメラマンのワークフローとの違いが興味深かったです。また、実際に使用しているソフトの話も聞けたのが面白かった。納品までの速さなども参考になりました。
竹見さん:まさにプロのレベルですね。雨が躍動感を増していると思います。後ろの文字が良いときもありますが、今回は選手がフィールドにいるだけにした方が良いですね。私だったら、背後の文字を切っておしまいです。直すところは本当にそれくらいですね。
國分唯斗さんの作品と講評
國分さん:中央の選手をもう少し目立たせつつ、周りの選手の存在感も引き立たせるにはどれくらいトリミングすれば良いかを質問しました。機材はEOS R6とRF24-70mm F2.8 L IS USMです。竹見さんの撮影方法やどのように編集をしているのかを知ることができ勉強になりました。セレクトに時間がかかってしまうのが課題だったので、Photo Mechanicを知ることができたのが収穫でした。
竹見さん:ゴール下のメディアポジションなので観客席とは違うアングルの写真になっています。最初に見たときに真ん中の選手にパッと目線が落ちたので、このままで問題ないと思います。アドバイスがあるとすれば、このように広角の場合はグランドに対して傾いていると気になる人がいますので、傾きがないようにするくらいですね。
制作協力:インテル株式会社