【お正月特別企画】山田久美夫に聞く「2012年のデジカメ業界」


 デジタルカメラの新製品発表会に行くと、ほぼ間違いなく顔をお見かけするのが、写真家・山田久美夫氏だ。アサヒカメラ、カメラマンといった月刊誌でのカメラ評論でも知られており、小誌でも母体であるPC Watch時代から現在に至るまで、デジタルカメラのレビュー記事などを寄稿いただいている。また、2011年4月にはヨドバシカメラのギャラリー「INSTANCE」において、「東北地方太平洋沖地震被災者支援チャリティー写真展」の事務局を務めるなど、業界での活躍の幅は広い。

 自身で運営する老舗の情報サイトDigital Camera.jpに加え、最近ではコンパクトデジタルカメラの画質評価を中心としたいいカメラ.jpをプレオープンするなど、精力的に活動されている山田氏に、メーカー各社の2011年の印象と、2012年への提言を語ってもらった。

 なお、内容はあくまでもインタビュー執筆時点における同氏の予想であり、もちろんメーカー公式発表の確定情報でないことは留意いただきたい。


業界始まって以来の大波乱の年。影響はまだ続くか

――2011年は、デジタルカメラ業界にとってどういう年だったのでしょうか。

 まず、3月に起きた東日本大震災では、ニコン、富士フイルム、シグマといったメーカーの工場が被災しました。「FUJIFILM X100」の品不足もその頃です。同時に、部品メーカーが被災したことで各メーカーに調達不足が広がりました。

 それをくぐり抜けたと思ったら、秋にタイの洪水被害です。大きなところではニコンやソニーの現地生産工場が被災し、代替生産でしのいでいる状態です。シャッターメーカー、コパルの現地工場が被災したのも大きい。コンパクトデジタルカメラのシャッターのうち、キヤノン製品以外のコンパクト機はほぼコパル製といって良いでしょう。

 いま(12月末)も某量販店の売場に行ってきましたけど、本来人気の中心になる一眼レフやミラーレス系の新製品は在庫がないものが多く、本来は年末で混み合う店頭も、お客さんが例年よりかなり少ない状態でした。みんなが欲しいというものが入手できないので。11月20日施行の改正電気用品安全法の猶予期間も2011年秋で切れました。そのタイミングで新製品を入れ替える計画だったメーカーもありましたが、それも適わなかった。それもメーカーにとっては大打撃だったはずです。

 各社とも数十万台レベル、全体では数百万大規模の減産になるようで、その影響は2012年前半まで続くでしょう。当初、カメラ業界がここまで影響を受けるとは思っている人は少なかったようです。デジタルカメラ始まって以来の大波乱の年でしたね。


2011年と2012年、各社の動向

――では、各社ごとに2011年で印象に残った新製品、そして2012年の予想をお願いします。


・オリンパス

 

 オリンパスは2011年は大変な年になりましたね。もちろん、製品が悪くて問題になっているわけではなく、それが救いでもあります。

 この秋冬の製品の第三世代PENシリーズは、ややインパクトが足りなくて地味な印象を受けました。発表時期が早かったことに加えて、前世代から、画質面での特徴的なアップデートが少ないのはさみしい。同じマイクロフォーサーズのパナソニックはセンサーを1,600万画素クラスにアップデートしてますし、高感度画質も向上しました。4/3型センサーは、1,600万画素クラスで世代が変わって、ポテンシャルが大きく向上しています。あれを使えないのはもったいない。新しい世代のPENはAF速度を打ち出しましたが、他メーカーのミラーレスもAFを高速化してきたので、圧倒的な優位さではなくなってしまいましたね。

第三世代PENのフラッグシップとして登場したOLYMPUS PEN E-P3

 レンズは大口径広角レンズの「M.ZUIKO DIGITAL ED 12mm F2」の前評判が高かったし、とてもいいレンズでした。でも、販売が始まってみたら、もう一本の「M.ZUIKO DIGITAL 45mm F1.8」の性能がものすごく良かった(笑)。シャープで、ボケも素直だし、安い。まさに単焦点レンズの魅力が凝縮された、おすすめのレンズです。

「ファミリーポートレートレンズ」が謳い文句だったM.ZUIKO DIGITAL 45mm F1.8。ファミリー以外のマニアも大注目のレンズに

 コンパクト系デジタルカメラでは、「SZ-30MR」が印象に残っています。すごく頑張っているんだけど、その頑張りが、一般ユーザーのメリットとして伝わってこない。画像処理エンジンを2つ搭載するという着眼点はとてもユニークなのに、とてももったいないですよね。この技術をハイズーム機に入れるのはいいのですが、むしろ、中堅クラスに投入して、その魅力を色んな人にもっとわかりやすくし、たくさんの人に触れてもらえればと思います。

画像処理エンジン「TruePic III+」をダブルで搭載したSZ-30MR。動画と静止画の同時記録などの「マルチレコーディング」が可能だった

 2012年は、ミラーレスでの高級機を投入して欲しいです。現在のフラッグシップ「OLYMPUS PEN E-P3」は高品位でいいカメラですが、突き抜けたスペックがない。センサーをアップグレードしたりEVFを内蔵したりして、ソニーの「NEX-7」のようなポジションの上位機種の登場に期待したいですね。


・カシオ

 

 カシオはとても頑張っていると思います。画質はいまでもややクセがありますが、軽快感の見せ方は他のメーカーよりワンランク上。それは撮影後に自動再生しないからですが、撮っているときはサクサク撮れるのは気持ちいいし、AFも速い。とくに「EX-ZR200」は最近のカシオの集大成といえます。

現時点でのカシオの集大成ともいえるEXILIM EX-ZR200

 発売がずれ込んで結局2011年に発売された「EX-TR100」は、とても個性が強くて独創性のある、カシオらしい製品ですね。画質はもう一息という感じでしたけど、液晶のユーザーインターフェースも良くできていて、存在価値は高い。カシオはカメラ以外にも、Webサービスの「イメージグスクエア」を本格展開したり、実は立体的な展開をしているのが印象的でした。

独創的なコンセプトのEXILIM EX-TR100

 でも機種数が多すぎるので、今後は「これがカシオだ」という差別化された機種を中心に、ラインナップを整理しないと。それに、カシオはレンズ交換式を出さないという宣言をしています。今の時代、コンパクトで個性を出すのは難しく、ミラーレスでシステムカメラを出した方が楽です。かといって、レンズ固定式でセンサーを大きくすれば良いというわけでもない。相当狭い道を歩くことになるので、その中でカシオは自分の存在感をどう出すかでしょう。


・キヤノン

 

 レンズ交換式カメラは「EOS Kiss X5」と「X50」だけですね。「EOS Kiss X5」はいいカメラですけど、発売当初、実売価格が高かった。今はかなり下がって買いやすくなっていますね。華はないけど、「趣味で使うならここまでは」というレベルをきちんとクリアしているカメラです。

バリアングル液晶モニターを搭載。優等生的なエントリーモデルEOS Kiss X5

 キヤノンのコンパクト機では、やはり「PowerShot S100」の発売がトピックでしょう。ちょっと前まで、高級コンパクトというと機能満載のぽっちゃりしたタイプで、「アナログ操作万歳」みたいなイメージがありました。例えばPowerShot Gシリーズはこれまでの高級コンパクトの王道だけど、今の日本市場にマッチしているとはいえない。

 以前から「日本市場にあった小さな高級コンパクトがあるのでは」とメーカーの人にも言ってきましたが、それが「PowerShot S90」なのだろうと思います。そして「S90」の不満を解消したのが「PowerShot S95」。そしていよいよ本格的にキヤノンが取り組んだのが「Powershot S100」でしょう。「S90」「S95」「S100」の進化を見ると、開発者が実際に使っているのがわかります。まさに“等身大の高級コンパクト”だと思います。

3代に渡り完成度を高めたPowerShot S100

 IXYは2011年、薄型の3桁系が豊作でした。「IXY 600F」「IXY 410F」あたりですね。コンパクトで画質も安定していて、値段も手頃だし、安心感がありますね。キヤノンのホワイトバランスは2011年の夏からやや方針転換していますし。キヤノンの新しい技術は、コンパクトから導入されることが多いので、今後も注目したいですね。

IXYシリーズも進化。写真のIXY 600Fなど薄型モデルの評価が高かった

 ミラーレスカメラは早くても2012年の秋以降、フォトキナ2012で見せるかどうかでしょうか。でも無理に早く出さなくていいと思います。細部に時間をかければ良いものができますし、「EOS Kiss X5」をベースにミラーを省いてEVFをつけるだけでもいいレベルなら、すでに出来てるといえば出来てますし。それに勝る魅力を出せるかどうか、それをどう考えるかでしょうね。むしろ、一眼レフカメラならではの良さを、もっと出す方向も忘れないで欲しい。でないと「いつミラーレスを出すの?」とばかりいわれ続けるでしょう。

 そして、やっぱり注目したいのは、2008年冬発売で足掛け4年目を迎えた「EOS 5D Mark II」の後継機ですね。そろそろ、そのライバル機が登場してもいい時期ですから、それを圧倒するようなモデルになって欲しいですね、価格は据え置きで。といっても、現行の「EOS 5D Mark II」も使っていて、風景撮影メインなら、別段、不満を感じることもありませんし、それだけの完成度を持っているので、きっとさらにいいカメラに仕上がるでしょうね。

2011年10月にはフラッグシップモデルのEOS-1D Xを発表。ただし発売は2012年3月を予定いまだに高い人気を誇るEOS 5D Mark II。リニューアルはあるのか?

 別の意味での注目は「C300」の発表。キヤノンが本気で動画をやるという宣言をしたのは大きい。4K動画が撮れるデジタル一眼レフカメラ(2012年発売予定)の発売も楽しみです。4Kは記録媒体がネックでしたが、XQDの実用化でクリアされます。4Kはいってみれば高精細な“動く静止画”で、すごく立体感があります。コンシューマーの表示環境もそのうち整うと思いますし、ハマる人は出ると思いますよ。自分でも、“風景写真”ならぬ“風景動画”用として、早く使ってみたいと思っています。

キヤノンが開発を発表した4K動画対応のデジタル一眼レフカメラ

・シグマ

 

 「SD1」は、値段を含めて挑戦しがいのあるカメラです。当たったときはスゴイ。でも、本来のポテンシャルを発揮するのが難しく、なかなかベストなピントが合わないとか、苦手な色もあって、カラーバランスがいまひとつなところもあります。ダイナミックレンジも測定すると広いけど、実写するとそんなに広く感じられない部分もあります。もちろん、解像感は「SD15」より圧倒的に良くなりましたが、そのせいでレンズはかなり選ぶ(笑)。また、一眼レフファインダーの見え味は感心しないレベル。AEもクセがある。それでも使ってみたいし、「このカメラでしか撮れない世界がある」という魅力を感じさせるのは、さすがですね。

約70万円という実売価格が話題になったSD1。その後、高い実力と使い手を選ぶキャラクターが口コミで広まる

 そして、「SD1」の良さをいかすには、やはりライブビュー搭載機が欲しいところ。ライブビューなら、安心してピントのピークが掴めるので、それが搭載されれば、プロでもいっぱい欲しい人はいますし。もちろん、いまのAFを進化させるのも良いですが、今後はスタジオで使えるようなライブビュー機があればと思います。

 あと、「SD1」の価格を考えると、なかなか手が出ないので、「SD15」の後継も出て欲しいですね。「DPシリーズ」も新しいセンサーに変える必要があるでしょうね。レンズ交換式にして、ミラーレス参入という手もありますし。


・ソニー

 

 まずAPS-Cサイズの撮像素子に、2,400万画素クラスが出たのは2011年のトピックです。「α77」「α65」「NEX-7」ですね。

 時系列でゆくと、まず「NEX-C3」は、第1世代と第2世代との橋渡しみたいな感じで「こういうスタンスもあるよね」という面を見せてくれた製品。

2011年6月に登場したNEX-3(写真は9月に追加で発売されたホワイトモデル)。この頃、まだタイ洪水の影響はなかった

 次に登場した「NEX-5N」はとてもいいカメラです。バランスでいったら「NEX-7」より「NEX-5N」のほうが上ですね。画像に余裕があるし、高感度性能も上々。画素数が16メガと抑えめなので、動作も軽快でキビキビ感があります。ただ「NEX-7」と一緒に発表されたので、その陰に隠れてしまったのが、実に残念です。

NEX-5N。大ヒットしたNEX-5と同じコンセプトを踏襲

 「NEX-7」ですが、これはミラーレスの概念を変えるモデルになった感じがします。いままで「ミラーレス=エントリー系」という認識がありましたけど、それを一気に本格的な作画に耐えるレベルの「中堅ミラーレス機」へのチャレンジをしてきた。

ミラーレスに新しい価値観を持ち込んだNEX-7

 最近、「NEX-7」の試用機を気に入って使っていますが、描写は予想以上によく、独特の操作系も慣れれば、とても使いやすいですね。最初は試用機のダイヤルの操作性やEVFの色とか、気になるところはありましたが、なんだかんだいってお気に入りです(笑)。EVFの位置もライカに近いので、意外に違和感はありません。発売がかなり延期されましたが、ホントに発売が楽しみなモデルですね。

 NEXシステム全体の不満は、ちょうど良いレンズがないこと。コンパクト機をよく使うので、最近は5倍ズームぐらいの感覚が体に染み付いています。そのため、3倍程度の標準ズームの3倍だと物足りない。しかも、純正の高倍率ズームレンズは大きすぎます。

 なので、最近はタムロンの「18-200mm F3.5-6.3 Di III VC」をつけています。それでも普段持ち歩くには大きいですね。試用機を使っての感想ですが、2,400万画素の解像感は、さすがに良いですね。APSでこの画素数ですから、F8を過ぎると、回折現象で解像度が落ちますが。超高感度ももう一息かな?という感じです。

 ただ、やっぱり、APS-Cセンサーだけに、全体にレンズは大きいですよね。その意味で、「NEX-7」は、APSの良さと悪さを両方兼ね備えているカメラです。「NEX-5N」には軽快感がありますが、「NEX-7」は重厚感と高級感がありますね。

 「α77」は、ファームウェアが上がって、良くなりましたね。でもまだ操作レスポンスに不満はあります。「NEX-7」では実現できているので、もっと頑張って欲しいです。

 「α65」も良いカメラです。あの大きさで「α77」と大きな機能の差がなくて、値段も安い。しかも、気軽に持ち歩けるのもいいですね。試作機を使った感じでは、収差補正機能が新搭載されたこともあってか、キットレンズでも十分に高い解像感が得られました。この価格帯で、この実力は、エントリー機の新たな基準になりそうですね。

エントリーに続き、ミドルクラスをトランスルーセントに。2011年はソニーαの方向性が見えた年だった。左がα77、右がα65

 α系は2011年、方向性をトランスルーセントミラーにはっきり絞ったように見えます。位相差AFが使えるのが特徴で、その高速性を大きな魅力ですが、将来的にはコントラストAFも使えるハイブリッドAFになってほしいですね。AFポイントを自由に選べて、タッチパネルで指定したり、大口径レンズを開放で安心して使えるなど、コントラストAFの良さは取り入れて欲しいですね。

 ソニーは、2011年に新機軸を出してしまったので、2012年はどうするのか。まずは「α900」の後継ですが、いまでもフルサイズのレンズはラインナップにたくさんあるので、出せる状態にはなっている。「α900」後継は出すべきだと思います。フルサイズで3500万画素くらいのモデルなら、APSの2,400万画素機より、画質面でも余裕がでてくるので、魅力的なカメラに仕上がると思うのですが。

 NEXは、「NEX-9」が出るかどうかに期待したいです。「NEX-7」に不満はありませんが、NEXを一本立ちさせるなら、「ミラーレスのハイエンドとはこういうものだ」というのを見てみたいです。ただ、Eマウントレンズですから、35mm判フルサイズではなく、APS機になりますね。

 ただ、レンズは圧倒的に足りない。まず、高性能な標準ズームレンズがないのは残念です。2012年に登場が予定されている「Gシリーズ高性能標準ズーム」は、ぜひ、NEXボディーにバランスするサイズで実現して欲しいですけど、モックを見る限り、全長がかなり長そうですね。また、今後予定されている広角ズームや中望遠レンズも大いに期待したいところ。まだ、パンケーキズームや小型望遠レンズ、大口径広角レンズや超広角レンズなども欲しいところですね。

 また、2012年は、「α55」の後継機種が楽しみです。さっき中古カメラ店で「EOS Kiss N」を見て、あらためて「こんなに小さかったのか」と再発見しました。ペンタックスの「*ist」シリーズも小さかったですね。そう考えると、エントリークラスの一眼レフカメラは、いつの間にか大きくなってしまっています。そのなかで「α55」は魅力的な存在です。トランスルーセントミラーの特徴を活かして、小型軽量なモデルとして後継機を見せて欲しいですね。


・ニコン

 

 「Nikon 1」ですが、正直いって、世間的にはやや不評みたいですね(笑)。でも、これは一眼レフとかミラーレスカメラと同じ土俵で語ってはいけない製品です。ニコン自身も「ミラーレスと読んでくれるな、アドバンストカメラだ」といってますが、その通りだと思います。要するに、「コンパクトカメラで撮れなかったものが撮れるシステムカメラ」。写真を趣味としないホビーユーザー向けで、コンセプトはまっとうだと感じます。ただ、旧来のニコンファンが「Nikon 1」というか、ニコンのミラーレス機に期待していたものと違っただけですね。

ついに登場したニコンのミラーレス「Nikon 1」。左がNikon 1 V1、右がNikon 1 J1。一挙に2台を投入

 1インチセンサーという選択肢は、個人的に大賛成で、長期的に見て、十二分にありだと思います。今のところボディを小さくできるというメリットを使い切っているとは思えませんが、画質、高感度性能、ボケ、コストを含めて考えると、ポテンシャルは十分に高いし、すごくバランスがいい。

 コンパクト機の欠点である、AFの遅さと動体撮影性能の弱さ。それを覆すために、最新の撮像素子による位相差AFを採用したのはさすがだと思います。まさに、ニコンの真面目さがしっかり出ていると感じました。

 2012年は、いよいよ「D4」や「D800」と呼ばれている新モデルが出てくるでしょう。さて、「石橋をたたいて、そっと渡る」超堅実路線なのか、「期待を超えて、期待に応える」革新路線なのか、ほんとうに興味深いところですね。

 これらハイエンド機を見ると、今後のラインナップ下位モデルのトレンドもわかるので、どういった方で出てくるのか楽しみです。あと、「Nikon 1」とは別に、APS-Cのミラーレスカメラを出すべきだと思います。ニコンなら2系列を持てて、それぞれ支持を受けると感じます。


・パナソニック

 

 2011年は主力機種が第三世代に入れ替わりました。まず、エントリー系の「LUMIX DMC-GF3」。とてもコンパクトなこともあって、市場ではミラーレスにしてはずいぶん思い切って機能を省いたエントリー機として受け取られていますね。けれど、クラス唯一のストロボ内蔵機ですし、機能面でも省かれた部分はありません。タッチパネルをはじめ、操作性がよく整理されているため、そう感じられるんですが、結構な実力派だと思います。

これまでより一気に小型になったLUMIX DMC-GF3。10月からはPZ 14-42mmをセットにした電動ズームキットも発売中

 さらに、Xレンズの標準ズーム(LUMIX G X VARIO PZ 14-42mm F3.5-5.6 ASPH. POWER O.I.S.)をつけても、コンパクト機の「LUMIX DMC-LX5」で使っているベルトケースに入る。そう、ベルトに吊るせる初のミラーレスカメラじゃないかな。私自身、このスタイルで持ち歩くこともあります。

 「LUMIX DMC-G3」も良いカメラなんですけど、地味ですね(笑)。画質は大きく向上しているし、動作も軽快で、不満はないのですが、コストを削りすぎている感はあります。とくに、EVFとLCDの自動切替をなくした点は実に残念ですね。

内蔵EVF、タッチパネル式バリアングル液晶モニターなどを装備。LUMIX Gシリーズの王道を行くLUMIX DMC-G3。

 「LUMIX DMC-GX1」は地味だといわれますが、個人的には2011年に出たカメラのうちトップ3に入ります。大きさもちょうど良いし、「G3」よりさらに高感度が良くなっている。ISO6400くらいで撮ることもあって、ノイズは乗るけど、解像感は十分にあるし、色もしっかりしている。きちんと絵として使える高感度性能です。オプションのEVFの出来もいい。数値ではソニーの有機ELに負けるけど、覗きやすさや周辺画質はこちらのほうが上。パナソニックは外付けEVFの高画素化で出遅れましたが、その分、着々と良くなっているのがわかります。この機種もちょっと地味ですけど、真面目な会社だなあと(笑)

高級ボディと新EVFを採用したLUMIX DMC-GX1

 レンズは「Xレンズ」が注目です。標準ズーム、望遠ズームも。とくに、標準ズームは、あそこまで小さくできるとは思っていませんでしたし、マイクロフォーサーズシステムの良さが生きています。パワーズームは、夜景で露光間ズームをしてみても、像が揺れないしピントのずれもない。パワーズームレンズは、露光間ズームでがたつきを見ましょう(笑)。ただ、縦位置のときの操作がちょっと……。できれば、フォーカス用レバーでもズームできるように設定できればうれしいんですが。

 レンズといえば、「LEICA DG SUMMILUX 25mm F1.4 ASPH.」。良いレンズですね。開放からコントラストも高くてシャープ。ボケも素直で、立体感のある描写が楽しめます。ライカブランドですけど、価格的にも意外にリーズナブルですし。コントラストAFは大口径レンズでも、正確なピントが、ピンポイントで得られるので、ミラーレスというシステムにあっていますね。

LEICA DG SUMMILUX 25mm F1.4 ASPH.

 コンパクト系だと、「LUMIX DMC-FZ150」の出来がいいですね。Web取材用カメラを「LUMIX DMC-GH2」から変えたほどですから。先代の「DMC-FZ100」よりも画質は格段に良くなっています。MOSに切り替わった頃の画質の悪さはもうありません。それに、秒5コマの連写のとき、コントラストAFの追随が結構すごい。駅に入ってくる電車を望遠側で連写して撮ったのですが、運転席の窓がいっぱいになる距離まで追随しました。

LUMIX DMC-FZ150。FZ系も改良を重ね続けている息の長いシリーズだ

 あと、高級コンパクトの「DMC-LX5」のファームウェアアップデートが印象的でした。最新のノイズリダクションが入り、高感度が強くなっています。1.5世代進んだ感じです。

 パナソニックは2011年、出し尽くした感じがありますね。あとは「DMC-GH2」なのですが、「GX1」にあわせてファームウェアアップグレードがあり、高感度性能が上がりました。しばらく、新型はないのではと感じます。もし出すなら、「GX1」を超える高級機であって欲しい。それこそ金属ボディを採用するとか、防塵防滴とか、そういう路線も期待しています。


・富士フイルム

 

 2011年は「FUJIFILM X100」の発売で、ブランド全体のイメージが変わりました。その「X100」ですが、性能面やクラシカルな方向に振ったコンセプトは評価できます。写りも十二分に良い。でも値段を考えると、銀塩時代の高級機ほどの質感の高さはなく、満足度という点ではもう一息なのが残念です。

色々な面で話題を呼んだFUJIFILM X100。発売当初はFinePix X100という製品だった

 その点、「FUJIFILM X10」はあまり背伸びしてなくて、無難にまとめてきたなという感じはします。光学ファインダーをアピールし過ぎなのは気になりましたが(笑)、2/3型のEXR CMOSセンサーの画質はさすがに良いです。DR補正を使ったときのハイライトの伸び方もスゴイ。ちょっと大きめですけど、良いカメラですね。

久しぶりの2/3型センサーを搭載したFUJIFILM X10。クラシカルな外観も人気に

 「FinePix F600EXR」など、1/2型EXR CMOSセンサーの搭載機種も頑張っています。レンズ性能はもう一息ですが、全体としてのまとまりはとても良いです。「FinePix Z950EXR」もいいんですが、できれば、ごく普通の沈胴式8倍ズーム機くらいでEXR機が出て欲しいですね。あと、夜景と人物をスローシンクロで撮るときれい撮れたり、基本はしっかりしています。夜景でのスローシンクロでは、抜きんでているかもしれませんね。

薄型ボディに24mmからの15倍ズームレンズを搭載したFinePix F600EXR

 2012年はミラーレスをどう出してくるかですね。今のXシリーズの戦略からするとクラシカルなものになることが予想できます。それはそれでファンはつかむのでしょうが、それでいいのかなという気はします。彼らはコンシューマー向けのシステムカメラを作った経験があまりないので、今回のミラーレス機は、ぜひ長期的な視野に立ったボディーとレンズシステムを構築して欲しいですね。ファインダーはズームレンズを考えると「X100」のハイブリッドではなく、EVFになるでしょう。楽しみはマウントでしょうか。独自じゃない可能性があるなら、それはそれで楽しみです。


・ペンタックス

 

 2011年はKシリーズが発売されず、レンズ交換式は「PENTAX Q」だけです。写りはあのクラスの撮像素子(1/2.3型)としてかなり良い。ただ、あれを使う人はなかなかの人というイメージですね。そうとうマニアック。「Nikon 1」より明らかにマニアックというか、本来は正反対のカメラだと思いますが。「真面目に遊ぶ」ペンタックスらしさが出た製品だと感じます。

カメラ好きに抗し難い魅力を放つPENTAX Q。あまりにもペンタックスらしい製品

 「PENTAX Q」と一緒にラインナップされたユニークレンズシリーズですが、崩したつもりでまだ真面目すぎる(笑)。「収差を残した」という話ですが、「どこに?」という感じ。Qの世界らしい着眼点なので、もう少し遊んでも良いのではないでしょうか。レンズで遊ぶというところまで、まだ踏み込めていない印象を受けます。ペンタックスらしい真面目なところではありますが。

 2012年はK-5とK-rのモデルチェンジがあるのかどうかが焦点でしょう。K-5が2400万画素になって「K-3」になるとか。ただ、リコーと一緒になったことで、現在のラインナップが正直どうなるのかわからないところはあります。

 あと、この間の皆既月食でアストロトレーサーを使ってみましたが、これが良く撮れました。こういう他のメーカーにないペンタックスらならではなマニアックな企画は大歓迎です。これからもそこを突き詰めて行けば、ブランドとしてもっと存在感が高まると思います。


・リコー

 

 2011年はGR DIGITALが「IV」になったのですが、今回も正常進化という印象です。いまや、美術系の学生は、ライカを選ぶか「GR DIGITAL」を選ぶか、という世界にまでブランド力が強いシリーズですからね。確かにいつも持ち歩く気になり、使っていて気持ちよく撮れるカメラこそ、良い写真を撮ることにつながるのはわかります。ただ、色再現性やAWBなどの面では、今後の画質の進化にも期待したいですね。

手ブレ補正機構やパッシブAFで強化されたGR DIGITAL IV。初の限定ホワイトボディの投入も話題になった

 「GXR MOUNT A12」ですが、あれを「GXR」の売りにするのはどうかという感じはします。写真を楽しむという意味では十分ありだと思いますが……。2012年は「GXR」のボディをどうするかでしょう。もう1世代新しいものを出さないと次に行けない。

 個人的には「GR DIGITAL」をベースにして、Qマウントのレンズ交換式ボディが出て欲しい気がします。ペンタックスを吸収したとき、リコーはレンズ交換式のビジネスについて触れていますが、それは今のペンタックスのラインナップ、Kシリーズだけとは限りません。Qマウントは径が大きいので、1/1.7型センサーもいけるのではないかと。ただ、「GR DIGITAL」の名前で行くのかは微妙ですね。「GRQ」でもいいんですが。


コンパクトデジカメ批評の火を消さない「いいカメラ.jp」

――最後に「いいカメラ.jp」についてですが、基本的にコンパクトデジカメの画質評価を行なうサイトですか?

 できれば各機種ごとに魅力や特徴を紹介していきたいところですが、そこまでは無理。なので、仕様など細かいことより、安心して買えるように、実写とチャートと簡単な使用感ぐらいを載せようかと思っています。チャートは全部自宅で撮ってます(笑)。

いいカメラ.jpのコンテンツの例。現在はまだβ版の状態

 メインはコンパクト機なんですが、スマートフォンのカメラ機能も扱う予定です。特にカメラブランドのスマートフォン、「LUMIX Phone」や「Exilimケータイ」「Cyber-shotケータイ」はちゃんとカバーしたいですね。それとコンパクトデジカメからステップアップする機種、例えば「EOS Kiss X5」や「D3100」、「α65」ぐらいまでは掲載を考えいています。

 近年、カメラ専門誌でもコンパクト系モデルの記事が少なくなりました。また、普通の人がコンパクトカメラを買うときの指標があまりないんですね。でも良い製品はあるし、それが埋もれてしまうのはもったいない。なので、誰かが紹介した方が良いと思って始めてみました。

 なにしろ、コンパクト機は、一眼レフやミラーレスより、圧倒的にユーザーが多いわけですから。

――確かに小誌でもコンパクトデジカメの記事はめっきり少なくなっています(汗)。他力本願ですみませんが、更新を期待しています。



デジカメWatch編集部

2012/1/5 00:00