「GPSデジカメ」を試す(2012年版)

〜8社の現行モデルでトレンドチェック
Reported by 甲斐祐樹

 ここ数年でデジタルカメラへの搭載が進んだGPS機能。2010年、2011年に続き、各社が現在発売しているGPS搭載コンパクトデジタルカメラを集め、それぞれの特徴を紹介する。

 今回GPS機能を比較するために集めたデジタルカメラは8機種。2011年版「GPSデジカメ」の傾向と対策では7社を取り上げたが、今年は新たにニコンが加わった。

 2012年の各社GPS対応モデルに見られる共通の特徴としては、GPS計測の速度向上だろう。8機種中4機種がアシストGPSに対応するほか、ホットスタートの状態であればどの機種も10秒あれば位置を取得できた。位置情報の取得時間が長ければ肝心の写真撮影にも負担がかかってしまうだけに、こうした速度向上への取り組みはユーザーにとっても嬉しいところだ。

 GPSロガー機能も8機種中7機種が対応しており、GPS対応モデルではほぼ標準的な機能になりつつある。また、カメラ本体内に地図データを内蔵したモデルはカシオの「EXILIM EX-H20G」が唯一だったが、2012年はパナソニックの「LUMIX DMC-TZ30」、ニコンの「COOLPIX AW100」など対応機種が増えている。


オリンパスTough TG-1

 12m防水、2m耐落下、-10度耐低温、100kgf耐荷重の性能を有するタフネスモデル。光学4倍ズームレンズを搭載し、スーパーマクロ時はレンズ前1cmの接写が可能。同梱の専用ケーブルでUSB充電にも対応する。

Tough TG-1本体上部中央にGPS

 GPS機能は緯度・経度に加えてランドマーク情報の表示にも対応。撮影時や再生時に撮影場所の位置情報を地名・ランドマーク名で表示できる。アシストGPSやGPSロガーにも対応しており、アシストデータは14日間まで利用可能。GPSロガーはLOG形式で保存され、1分、30秒、10秒単位での計測または本体のオート設定による記録が可能だ。

GPS設定画面GPSロガーの取得間隔を細かく設定できる

 GPSの取得状況は画面下のアイコンで確認。位置情報の取得中はアイコンが点滅、取得完了すると点灯するが、同じアイコンのままなので取得状況が少々わかりにくい。位置情報を最新に更新したい場合はMENUボタンの長押しから可能。位置情報取得時には周囲のランドマーク情報もあわせて確認できる。

GPSの取得状況は画面下のアイコンで確認再生時は詳細画面から位置情報を確認
MENUボタン長押しで最新の位置情報を取得。同時に周囲のランドマーク情報も表示できる

 取得時間はばらつきがあり、コールドスタート時で速ければ30秒、時間がかかる場合は3分程度かかることもあった。ホットスタートの場合は10秒かからずに位置情報を取得できた。

Google Earthで移動ルートを表示Picasa Webアルバムで位置情報を表示

 アシストGPSやGPSロガーなど一通りの機能を備えており、ランドマーク情報の表示やボタン操作による現在位置情報の更新など使いやすい。本機の大きな特徴はToughシリーズならではのタフネス性能や広角端F2のレンズではあるものの、GPS機能も十分なものを備えていると感じた。


カシオEXILIM EX-H20G

 2011年にも取り上げたモデルだが、地図データを本体に内蔵した初のモデルという意欲作であり、2012年においても充実したGPS機能を誇る。カメラ機能は光学10倍ズームを搭載し、HD動画撮影にも対応する。

EXILIM EX-H20G本体上部中央にGPS

 GPSは緯度・経度・方位を記録可能。本体上部に地図ボタンと現在位置ボタンを専用に配しており、撮影した画像の情報を地図上に表示できる。ランドマーク名表示にも対応しており、位置情報取得時や再生時には緯度・経度だけでなくランドマーク名での表示が可能だ。

撮影時に位置情報を取得すると地名を表示再生時にも地名を表示する
設定画面

 地図は非常にシンプルだが道路の形もわかりやすく、付近の建物名も表示されるため簡易的な地図としても使えるレベル。GPSロガーにも対応し、KML形式での出力が可能。地図機能が非常に充実したカメラだ。

内蔵の地図データは非常にシンプルだがわかりやすい地図上に撮影した写真を表示できる
Picaca Web アルバムで位置情報を表示

 位置情報取得には、GPSに加えてモーションセンサーの動き検出を組み合わせることで、GPSデータを受信できない場所でも自律測位を可能とする「ハイブリッドGPS」を搭載。ハイブリッドGPSの詳細についてはカシオEXILIM EX-H20Gの「ハイブリッドGPS」を試すおよびカシオが語る「超発想」デジカメの作り方(後編)を参照してほしい。

 本機はアシストGPSには非対応ながら、位置情報の取得はコールドスタート時でも1分〜1分半程度。ホットスタート時であれば数秒での取得が可能だった。

 地図を本体に内蔵した初のモデルということもあって、GPS周りの機能は充実。アシストGPSこそ対応していないが取得スピードも速く、地図も見やすくわかりやすい。画面インターフェイスも地名表示などがわかりやすく、ハイブリッドGPSによって位置情報の精度も高められている。GPS機能の充実度は今回取り上げた機種の中でもトップクラスと感じた。


キヤノンPowerShot S100

 高級コンパクト機として高い人気を得た「PowerShot S95」(2010年8月)の後継機種で、シリーズで初めてGPSを搭載。レンズ鏡胴部のコントローラーリングなどシリーズ独自の機能を引き継ぎつつ、光学ズームが3.8倍から5倍になり、フルHD動画の撮影に対応するなど細かな点でスペックアップが図られている。

PowerShot S100本体上部にGPSセンサー

 GPS機能は写真に緯度・経度・標高を記録でき、付属ソフト「Map Utility」で写真に埋め込まれた位置情報を確認できる。GPSロガーにも対応し、LOG形式で保存されたデータをMap Utilityで読み込むことで、移動ルートを表示することが可能だ。

 GPS機能を利用する場合は設定画面からGPSのオンオフ、GPSロガーのオンオフを設定。GPSロガーは電源オフ時にも自動で保存し続ける。

設定はGPSとGPSロガーのオンオフのみとシンプル

 撮影時のGPSステータスは撮影画面のアイコンで確認できるが、アイコンが単色かつ点滅のみのため取得状況はややわかりにくい。また、再生モードでも位置情報は詳細表示に切り替えて確認する必要があるので少々手間がかかる印象。

GPSの取得が完了するとアイコンが点灯再生時は詳細画面で位置情報を確認できる

 コールドスタート時の位置情報取得は2分から3分程度かかるが、GPSロガーがオンの状態からのホットスタートであれば10秒程度で計測が可能。ただし、他の機種に比べてバッテリー消費が大きいようで、GPSロガー機能をオンにして一切写真を撮影せず持ち歩いただけでも半日でバッテリーが空になった。長時間の移動時はGPSロガーをオンにするかどうかを考慮した方がよさそうだ。

Map Utilityで位置と移動ルートを表示。地図データはGoogle マップベース

 使える機能は全体的にシンプル。前述の通りGPSロガーはバッテリー消費も高いため、基本的には位置情報の記録をメインに利用することになりそうだ。


ソニーサイバーショットDSC-HX30V

 光学20倍ズームレンズや無線LANによるスマートフォンへの転送機能、TransferJetなどを搭載したハイスペックモデル。USB充電にも対応し、microUSBケーブルでPCから充電できる。

サイバーショットDSC-HX30V本体上部

 GPSは緯度・経度のほか、電子コンパスで方位も取得できる。GPSロガー機能の利用で付属ソフト「PlayMemories Home」を用いた移動ルートの確認も可能だ。同社GPSデジカメはアシストGPSにいち早く対応しており、今回のモデルでも本体とPCを接続することでアシストデータを記録メディアに書き込める。アシストデータは最大30日まで利用可能だ。

 撮影時には方位磁針のマークに加え、GPSの取得状況が3段階で表示されるためわかりやすい。また、メニューには現在位置取得のショートカットが用意されているので手軽に位置情報を更新できる。再生時には詳細表示に切り替えるとGPSアイコンが表示され、位置情報を取得した画像かどうかを確認可能だ。

撮影時はGPSの取得状況を3段階で表示再生時にはGPSアイコンで位置情報の有無を確認できる
位置情報の更新も手軽

 GPSログデータは最大24時間の記録が可能で、こちらも撮影画面のショートカットから開始と終了が設定できるので手軽。ログは電源オフ時でも常に記録される仕組みだ。ファイルはLOG形式で保存される。

メニューから数ステップでGPSログの機能を開始GPSログは最大24時間記録できる

 コールドスタートからの測位はアシストGPSデータ利用時で30秒から1分半程度。ホットスタート時は10秒程度で測位できる。

 アシストGPS、GPSロガー、電子コンパスなどGPS周りの機能は一通り揃っており、画面のインターフェイスも見やすく使いやすい。GPSロガーや位置情報の更新もメニューのショートカットに用意されているのですぐにアクセスできる。地図データこそ内蔵しないが、そのほかの機能は充実かつ使いやすい1台だ。

PlayMemories Homeで現在位置を表示。地図データはGoogleマップを使用PlayMemories Homeで移動ルートを表示

ニコンCOOLPIX AW100

 同社初のタフネス性能を備えたコンパクトデジタルカメラで、水深約10mまでの防水性能、約1.5mからの耐落下性能、約-10度までの耐寒性能を搭載。カメラ本体を振ることで割り当てられた機能を利用できる「アクション操作」機能も備えており、グローブなどをはめたままでも操作ができるという。

COOLPIX AW100本体上部中央にGPS
左側面にアクション操作ボタン。GPSはここから設定する

 GPSは緯度・経度・方位・標高に加えて方位も取得可能。GPSアイコンは取得できない時は赤く表示され、取得時は強度をゲージで表示するためわかりやすい。GPSアシストデータもニコンのサイトからダウンロードして利用可能。アシストデータは7日間まで利用できる。ロガー機能も搭載しており、GPS関連の機能が充実している。

位置情報の取得状況はゲージで表示

 また、カメラ内に地図データを搭載しており、撮影した場所をカメラ単体で表示できるほか、GPSロガーによる移動ルートもカメラ内で表示できる。GPSログの記録は6時間、12時間、24時間、72時間の単位で設定でき、バッテリー残量次第では3日間の長期にわたって計測可能。ログはLOG形式で保存される。

設定画面GPS設定画面
GPSログは最大72時間まで取得できる
本体に地図データを内蔵。標準で世界地図に対応する移動ルートを本体で表示できる
「ViewNX 2」で地図上に写真を表示。地図データはGoogle マップ「ViewNX 2」で移動ルートを表示

 位置情報の取得スピードは優秀で、コールドスタートからも20秒程度で測位が可能。今回テストした機種でも一番速かった。本体での地図表示やログ記録など機能も十分だ。


パナソニックLUMIX DMC-TZ30

 高倍率ズームレンズを搭載した定番シリーズの最新モデル。「LUMIX DMC-TZ20」(16倍ズーム、2011年2月発売)の後継モデルで、ズーム比は20倍になった。1080/60pのAVCHD progressiveでの動画撮影に対応したほか、GPS機能周りでは新たに本体での地図表示が可能になっている。同梱の専用ケーブルを用いたUSB充電にも対応する。

LUMIX DMC-TZ30本体上部左側にGPSセンサー

 GPS機能は、緯度・経度に加えてカメラ内に持っているランドマーク名も画像に付加できるほか、同梱のDVDから地図データをSDカードに保存することで、カメラ単体で地図上に撮影位置を表示できる。アシストGPSにも対応しており、本体とPCをUSB接続するか、SDカードにデータを保存することでアシストGPSを設定できる。

設定画面GPS設定画面

 GPSアイコンは3段階のメーター表示かつカラーため、位置情報の取得状況が非常にわかりやすい。また、前回のGPS取得時間を表示する機能や、画面をタッチするだけで現在位置を再取得する機能など、撮影時のGPS情報を常に最新にするための機能が充実している。再生時にも位置情報を書き込んだ画像には「GPS」と表示されるためわかりやすい。

GPS取得状況はカラー表示。前回の取得時間も表示され、タッチで最新の情報に更新できる

 地図機能は付属PCソフトの「LUMIX Map Tool」で、好きな地域ごとに地図情報をインストールできる。全世界のデータは5GB超とかなりの容量になるが、日本全国ならば容量は392MB程度なので、海外旅行などの予定がなければ日本のデータのみで十分だろう。地図自体は非常にシンプルで、拡大・縮小の操作は非常に快適なものの、道路は1本線で描かれているだけ。ナビ的に使うというよりも、現在の位置を把握する程度で使うのが良いだろう。

地図データは非常にシンプル
同梱の「PHOTOfunSTUDIO 8.1 PE」は位置情報で分類できる

 コールドスタートについてはアシストGPSがあるもののあまり早い結果は得られず、数分ほどかかってやっと取得できるというケースもあった。ホットスタートについては高性能で、10秒も経たずに取得が可能できる。位置情報の取得は取得場所の状況にも左右されるが、アシストGPSの割には他の機種に比べても取得に時間がかかるよう感じられた。

 アシストGPSや本体での地図表示などGPS周りの機能は充実。アイコン表示やタッチ操作での位置情報更新などインターフェイスもわかりやすい。GPSロガー機能は搭載されていないが、位置情報のみを利用するのであれば非常に使いやすい機種だ。


富士フイルムFinePix F770EXR

 2011年8月発売の「FinePix F600EXR」からズーム倍率を強化し、FinePix F600EXRの15倍と比べて20倍ズームが可能になった。GPS機能はFinePix F600EXRよりも高感度になっており、測位時間の短縮や低消費電力化が図られているという。

FinePix F770EXR本体上部にGPS

 GPSは緯度・経度、方位に加えてランドマーク名も記録。再生時にもランドマーク名が画面に表示される。撮影時にはGPSのオンオフ状況を示すアイコンとは別に、GPS強度を示すアイコンも表示されわかりやすい。GPSロガー機能も搭載しており、設定画面からのオンオフが可能。ログはLOG形式で保存される。

位置情報を取得すると右下にアイコンが表示されるランドマーク情報も表示
再生時にもランドマーク情報を表示
設定画面GPS設定画面

 GPSを活用した特徴的な機能として「ARランドマークナビ」機能を搭載。カメラを向けた方向にあるランドマークを画面に表示できるというものだ。正確な地図を表示するわけではないため実用度が高いとはいえないが、旅行中に遊び感覚で使うには楽しそうな機能だ。

ARランドマークナビ。周囲のランドマーク情報をカメラに表示できる

 コールドスタートはアシストGPS機能を搭載しないながらも1分以内で取得が可能。ホットスタート時は10秒かからずに取得できた。

付属の「MyFinePix Studio」で取り込んだ写真を表示。位置情報がある写真は衛星マークが表示される位置情報とルートを表示。地図データはGoogle マップ

 ARランドマークナビというユニークな機能がFinePix F770EXR最大の特徴だが、GPSロガー機能も備え、測位スピードもコールドスタートで1分かからない程度と十分な速度。ランドマーク名が表示されるのもわかりやすい。


ペンタックスOptio WG-2 GPS

 水深12mで撮影可能な防水タフネスモデルで、2011年3月に発売した「Optio WG-1 GPS」の後継モデル。耐水深性能に加えてGPSモジュールも新型を搭載したことで測位時間の短縮やログデータ記録時のバッテリー消費低減が図られている。

Optio WG-2 GPS本体上部左側にGPS

 GPS機能は緯度・経度・高度を取得でき、GPSロガーにも対応。撮影時はGPS強度表示に加え、GPSロガー機能がオンになっている場合は「LOG」と表示されるのでわかりやすい。再生時は画面を表示を切り替えることで緯度と経度を画面に表示できる。

撮影時は右上にGPS状況を表示。GPSロガーをオンにしている場合は「LOG」と表示されるためわかりやすい再生時は緯度・経度情報を詳細画面で表示
GPS設定画面

 ログデータはKML形式で、記録時間は1時間から24時間の間で設定可能。設定画面から取得を開始することでGPSロガーをオンにできる。

GPSロガー設定記録したGPSログは手動で保存
保存したデータをGoogle Earthで表示
同梱の「MediaImpression 3.5 for PENTAX」で地図上に写真を表示。地図データはGoogle マップ

 アシストGPSに非対応ながら、コールドスタートは30秒から1分程度と速い。ホットスタートであれば10秒かからずに位置情報を取得できた。

 機能はシンプルながら、画面表示もわかりやすい。ログデータの記録形式は他の機種がLOGであるのに対してKML形式と異なるが、Google Earthなどの無料ソフトで簡単に表示できる。GPSのオンオフがメニュー階層の深いところにあるなど、細かい点では使いにくさも感じるが、実用十分な機種だ。


カメラならではの発展に期待

 8機種をすべて使って感じたのは、GPSの機能がデジタルカメラにとって「当たり前」の存在になりつつあるということだ。以前までは位置情報の取得に時間がかかることで「好きな時に写真を撮れない」、「撮った写真にきちんと位置情報が記録されていない」という不満を感じることもあったが、今回試用した機種はいずれもGPS測位時間の短縮が図られており、ホットスタートの状態であれば、ほぼ普通にカメラを使うのと変わらない感覚で利用できる。コールドスタートについても機種によっては数十秒で取得が完了するものもあり、この点は今後も機能向上が図られるだろう。

 こうしたGPSの基本的な機能向上の先に各社が取り組んでいるのが、「位置情報を記録する」以外の使い方だ。地図データを内蔵してカメラ単体で位置を確認できる機能や、周囲のランドマーク情報を表示する機能など、GPSを活かしたナビゲーション的な機能をいくつものメーカーが搭載し始めている。現時点ではお楽しみ感覚に近く実用度は高いとは言えないものの、こうした機能が今後どのように進化していくかは注目だ。

 GPS機能がほぼ標準的に搭載されているスマートフォンでは、GPSが単なる位置情報を取得する機能としてだけでなく、今いる場所を投稿したり、チャットで現在地を伝えたりと、コミュニケーション促進の役割も果たしている。GPS機能が標準化しつつあるデジタルカメラにも、単なる位置情報の取得を超えた「カメラならでは」の活用提案に期待したい。






甲斐祐樹
電機メーカー営業を経てWebニュースサイトを運営する「Impress Watch」の記者としてネットワーク関連やブログ・SNSなどネット系のジャンルを取材。その後アジャイルメディア・ネットワークでソーシャルマーケティングに携わり、現在はフリーランスで活動中

2012/6/28 00:00