シグマ「SD1」スペシャルギャラリー~北海道・積丹半島から十勝

Reported by 礒村浩一

独特な地形が印象的な積丹半島。40kmあまり続く複雑な海岸線の道路は岩盤をくり抜いた無数のトンネルにより繋がる。近年の道路開通までは、その急峻な地形により交通は船に頼るのみだったという。SD1 / 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM / 約9.5MB / 4,704×3,136 / 1/200秒 / F8 / 0EV / ISO100/ 絞り優先AE / WB:晴れ / 50mm

 私が北海道での撮影を始めたのは10年程前からだ。北海道に暮す友人を訪ねた際にたまたま目にした深紅の夕空に心奪われてしまったのがきっかけだった。以来、四季折々に北海道を訪れ作品撮影を続けている。一度の撮影旅では短くても10日間、長いときには1カ月間以上をかけて北海道を車中泊を続けながらまわる。

 行き先を事前に決めずに移動する事が多く、その日の天候や気分任せのまさに放浪旅のスタイルをとっている。その日そのときの偶然の出会いを大切にしたいという想いからだ。

 私は作品制作の撮影で使用するカメラにはいくつか条件を求めている。北海道の豊かな自然のなかで溢れるように存在する草木や、荘厳な山々の稜線などをしっかりと解像してくれる高い解像力。燃えるような赤い夕空やむせるほど濃い草木の緑をしっかりと再現してくれる色再現性などだ。撮影はカメラを選ぶところから始まっている、といってもよい。

 今回の北海道撮影では、まさに旅発つその日に発売されたシグマ「SD1」を持って行くことにした。その目的はただ1つ。“SD1は作品制作のカメラとなり得るか”を検証するためだ。

 実はこのSD1と同じくX3ダイレクトイメージセンサーを採用しているシグマ「SD15」を私はすでに常用しており、その画質の高さに驚かされた経緯がある。また、1つの画素でRGB全ての色を感じ取ることができるというX3ダイレクトイメージセンサーの色再現力にも期待するところが多い。あとは実際の撮影フィールドでの実戦投入による検証次第となっていた。

 この旅で訪れた主な撮影フィールドは、大きく分けて“荒々しい断崖が続く日本海に面した海岸線”、“いまでも自然の森が深く残る山間地域”の2つのエリアとなった。同じ北海道でありながら、それぞれのエリアでは全く異なる表情で魅せてくれるのも北の大地の魅力である。それだけに、カメラの持つ得手不得手がはっきりと浮き上がる被写体となる。

  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
  • 作例はRAWで撮影し、「SIGMA Photo Pro 5」(SPP)で現像しています。


・複雑で荒々しい海岸線と深い藍色に染まる海

 北海道西部に位置する積丹半島は、日本列島を貫く巨大な火山帯によって形成された半島。日本海に面した海岸線は海と山が近接した断崖が続く複雑な地形となっている。本州はもとより北海道の中でも独特な地形の光景が、深い藍色の海とともに訪れる者の目を釘付けにする。

半島から海に突き出す神威岬(かむいみさき)。アイヌ語で神という名を持つ岬はかつては女人禁制の地であった。傾いた太陽の斜光が尾根の起伏をより浮き立たせる。強烈な逆光撮影だがSD1と解像力に優れるレンズの組み合わせにより岩礁の岩や枝葉の1枚までしっかりと描写されている。SD1 / 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM / 約14.7MB / 3,136×4,704 / 1/60秒 / F8 / +0.7EV / ISO100/ 絞り優先AE / WB:晴れ / 50mm


夕日に照らされるワクシリ岬。積丹半島にある岬の先端には多くの奇岩が立ちその多くに伝承が伝えられている。断崖の根本に掘られたトンネルは、かつて神威岬に建つ灯台に向かうための道として手堀りされたものだ。SD1 / 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM / 約18.4MB / 4,704×3,136 / 1/100秒 / F8 / +0.3EV / ISO200/ 絞り優先AE / WB:晴れ / 50mm


一夜明け、快晴の神威岬よりワクシリ岬を望む。“シャコタンブルー”と呼ばれるマリンブルーの海が目に眩しい。岸壁に繁る黄色くかわいらしい花はエゾカンゾウ。SD1 / 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM / 約12.8MB / 4,704×3,136 / 1/200秒 / F6.3 / 0EV / ISO100/ マニュアル露出 / WB:晴れ / 21mm


神威岬の突端に立つ。どこまでも広がる青い空と濃い藍色に染まる海。まさに地の果てを彷彿とさせる光景だ。撮影に使用した「8-16mm F4.5-5.6 DC HSM」は歪曲もよく抑えられえている。周辺部に若干流れが見られるも、現時点においてはSD1の解像力を活かしてくれる貴重な超広角レンズだ。SD1 / 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM / 約10.1MB / 4,704×3,136 / 1/250秒 / F8 / 0EV / ISO100/ マニュアル露出 / WB:晴れ / 8mm


神威岬突端の海中に立つ神威岩。波や風雨により長い年月の間に浸食された姿を今に残す。伝承では、悲恋の末に岬より身を投げた娘の化身と伝わる。SD1の驚く程に高い解像力で、岩礁の岩肌と白波の動きが立体的に伝わってくる。SD1 / APO 50-500mm F4.5-6.3 DG OS HSM / 約13.6MB / 3,136×4,704 / 1/320秒 / F6.3 / 0EV / ISO100/ マニュアル露出 / WB:晴れ / 63mm


岬から急激に海へと落ち込む断崖に咲くセリ科の花。北海道の海岸沿いに広く分布しており、太い茎についた小さな白い花々が海の青さに浮かび上がる。合焦点が鮮明に描写されたことで、背景へのボケが一層活かされる。SD1 / 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM / 約6.6MB / 4,704×3,136 / 1/640秒 / F4 / 0EV / ISO100/ マニュアル露出 / WB:晴れ / 50mm


午後の太陽に輝く海面と岩礁のシルエット。西へと傾く日の光が海の表面を果てしなく続く銀板状へと変える。波による細かい起伏が表面を覆うテクスチャーのよう。一面に広がる輝きとシルエットと化した岩礁の質感をSD1は余すところ無く表現してくれた。SD1 / 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM / 約24.8MB / 3,136×4,704 / 1/1,000秒 / F8 / 0EV / ISO100/ 絞り優先AE / WB:晴れ / 50mm


日本海に沈みゆく夕日。日が陰るにつれ沸き出した薄もやによってベール掛けされた夕日が紅色に染まる。この日の日中は汗ばむほどの気温だったが、夕方になり急激に冷え込み夜半は初夏にも関わらず1桁の気温となった。太陽と対峙する度その偉大さに気づかされる。SD1 / APO 50-500mm F4.5-6.3 DG OS HSM / 約5.6MB / 3,136×4,704 / 1/320秒 / F6.3 / 0EV / ISO400/ 絞り優先AE / WB:晴れ / 500mm

 SD1について結論から言わせてもらえば、作品撮影において十分にその力を発揮してくれた。構造上、ローパスフィルターを必要としない撮像素子の解像力は、細かい樹々の枝葉や樹皮の皺、厳しい北国の風雨に削られ続ける岩礁の荒々しさ等を余すところ無く描写してくれる。

 また雨水に濡れ、麗しくも強い生命力を感じさせる濃緑の森の葉や、どこまでも広く青い空をその身に映し込む藍色の海といった深い色までをも再現する色感力は、そこに写るものの立体感を強調してくれる。輝度差の激しい被写体に対しても、撮影した画像のRAWファイルをシグマのRAW現像ソフト「SIGMA Photo Pro」で調整することで、十分にそのディテールを引き出すことができた。私は作品制作において、必ずRAWデータを現像しているのでこの点でも安心できる。


・自然のまま広がる山間の森と輝く湖沼

 北海道では人々が暮す里と山間部が隣接しており、少しクルマで走るだけでも自然が深く残る山の中へと入ることができる。そこにはさまざまな生き物を宿す生命の森が広がり、そこでは人間さえもその一部でしかない。

一歩森の中に踏み込めばそこは土と緑の世界。朽ちた木の根には細やかな苔がびっしりと生え、早朝に降った雨水をその身に蓄える。薄暗い森のなかでも大切な光をそっとすくい揚げるように集めることで、X3ダイレクトイメージセンサーが得意とする濃厚なグラデーションを得ることができる。SD1 / 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM / 約12.6MB / 3,136×4,704 / 1/20秒 / F2.8 / -1.7EV / ISO200/ 絞り優先AE / WB:晴れ / 50mm


森の中に佇む樹々は同じく森に棲む様々な生物達と共栄し、ときには敵対しながら共存する。熾烈なせめぎ合いのなかで輝く生命の緑。SD1 / APO MACRO 150mm F2.8 EX DG OS HSM / 約8.3MB / 3,136×4,704 / 1/20秒 / F2.8 / -1EV / ISO200/ 絞り優先AE / WB:晴れ / 150mm


冬期に降り積もった山頂の雪が夏を迎えたことで漸く雪解け水として渓谷へと流れ落ちてくる。その膨大な水量こそが広大な北海道の潤った大地の源となる。SD1 / APO 50-500mm F4.5-6.3 DG OS HSM / 約17.7MB / 3,136×4,704 / 1/100秒 / F5.6 / +0.7EV / ISO100/ 絞り優先AE / WB:晴れ / 138mm


山から流れ落ちて来た雪解け水は湖へと辿り着く。南富良野にある「かなやま湖」は人の手により造られた人造湖だが、40余年を過ぎたいまではすっかり自然の風景となっている。近景と遠景とで大きな輝度差のある被写体だが、現像時の調整により空に浮かぶ雲の白さを引き出せた。SD1 / 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM / 約12.6MB / 3,136×4,704 / 1/125秒 / F7 / +0.3EV / ISO100/ 絞り優先AE / WB:晴れ / 17mm


深夜、大雪山の登山口まで林道をクルマで登る。そこに広がる光景はまさに星降る夜。SD1をモバイル赤道儀「TOAST Pro」に載せ、地球の自転とともに周回する星を追尾しながら長時間露光撮影。感度はISO100のままで120秒間露光した(拡張モードON)。SD1 / 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM / 約5.6MB / 3,136×4,704 / 120秒 / F2.8 / 0EV / ISO100/ マニュアル露出 / WB:晴れ / 17mm


夏の北海道の夜明けはとても早い。朝3時をまわった頃より薄明が始まる。それまで星へレンズを向けていたSD1を眼下の山並みに向けると、そこには雲海が広がっていた。街灯りも一切無く辺りは静寂に包まれた静謐な瞬間だ。SD1 / APO 50-500mm F4.5-6.3 DG OS HSM / 約3.5MB / 4,704×3,136 / 1/3秒 / F8 / 0EV / ISO100/ マニュアル露出 / WB:晴れ / 167mm


北海道十勝地方に位置する「糠平湖」(ぬかびらこ)は、山から流れてくる雪解け水の水量変化等により湖面の水位が季節により変わる人工湖。かつてこの地を走っていた旧国鉄士幌線の橋梁部のみが残るが水位の高い時期には湖に水没してしまう“幻の橋”となった。SD1 / 10mm F2.8 EX DC FISHEYE HSM / 約12MB / 4,704×3,136 / 1/25秒 / F11 / +1EV / ISO100/ 絞り優先AE / WB:晴れ / 10mm


夏から冬の間に水没してしまう湖岸。水位の下がる春から夏の短い期間のみ、湿地帯となった湖底に緑が映える。骨のように白化した木の根とは対照的に、生の謳歌が聴こえてくるように活き活きとした姿だ。SD1 / APO 50-500mm F4.5-6.3 DG OS HSM / 約11.8MB / 4,704×3,136 / 1/125秒 / F5.6 / +1EV / ISO100/ 絞り優先AE / WB:晴れ / 50mm


湖面へと続く林道はかつては線路が敷設されていた跡。湖の水位上昇の際に流されて来た流木は、次に水没するまでの虫達の棲み家となる。日中でも薄暗いこの道では、時折ヒグマが散歩しているらしい。SD1 / 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM / 約19.5MB / 3,136×4,704 / 1/4秒 / F11 / -0.3EV / ISO100/ 絞り優先AE / WB:晴れ / 8mm

 さらにこれは嬉しい誤算でもあるのだが、いままでのシグマSDシリーズと比較すると、SD1は予想以上によい仕上がりとなっており、シャッターボタンのフィーリングや各ボタンの操作感などは他社カメラと比べても遜色無いものとなっている。いままでのSDシリーズはカメラとしての出来はお世辞にも良い仕上がりとは言えなかっただけに、この点を見てもシグマの本気度を感じることができる。長期に渡る撮影旅においても大きなカメラトラブルがなかったことも実用的な合格ポイントだ。

 このようにSD1は、私が作品制作に用いるために必要とする条件を十分にクリアしてくれた。その画質は現時点においては中判タイプのデジタルカメラを除けば最高品位だと言える。もっとも、高品質な画像であるが故に画像のファイルサイズがRAWで1枚50MB前後と非常に大きく、メモリーカードへのデータ書き込みが終わるまではなかなか撮影画像を液晶モニターに表示することができないなど若干のストレスを感じてしまうこともある。

 ただSD1から生み出される画像のクオリティを考えると、それさえも作品制作の為の精神修養だと無理矢理納得させられてしまう不思議さがある。大方の予想を見事なまでに覆した価格も考えると、決して万人に勧められるカメラだとは言えないが、作品制作を行なう上でSD1という選択肢を得たことは、間違いなく幸せな事件だといえるだろう。






礒村浩一
(いそむらこういち)1967年福岡県生まれ。東京写真専門学校(現ビジュアルアーツ)卒。広告プロダクションを経たのちに独立。人物ポートレートから商品、建築、舞台、風景など幅広く撮影。撮影に関するセミナーやワークショップの講師としても全国に赴く。近著「マイクロフォーサーズレンズ完全ガイド(玄光社)」「今すぐ使えるかんたんmini オリンパスOM-D E-M10基本&応用撮影ガイド(技術評論社)」Webサイトはisopy.jp Twitter ID:k_isopy

2011/8/11 00:00