特別企画
アイソン彗星撮影講座【ステップアップ編】
さらに深く楽しみたい! ポータブル赤道儀での追尾撮影も
Reported by 飯島裕(2013/11/15 13:55)
前回の「基礎編」では、アイソン彗星に関する基礎的な情報と観察の方法、三脚を使用しての撮影について紹介しました。
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ステップアップ編では、さらにうまく彗星の撮影をする方法、より印象的に彗星の写真を仕上げる方法について説明しましょう。
明るくなるか? アイソン彗星
さて、肝心のアイソン彗星ですが、どうも当初の予想のように明るくなってきていないようです。11月7日現在、アイソン彗星の光度は8.0等。当初の予想より3等級も暗い状態で、このままだとすると明け方の空に見える光度は3等級止まりとの予想もされています。仮にそのままだとしても3等級なら肉眼で楽に見える明るさですし、双眼鏡で十分に楽しむこともできるでしょう。最初の話のように「世紀の大彗星」になって欲しいものですが……
しかし「1965年の大彗星」と言われる池谷・関彗星や、予想外に長い尾を伸ばしてくれた2011年のラブジョイ彗星のように、太陽に大接近する彗星は長大な尾を伸ばすことが多く、まだまだガッカリする訳にはいきません。ほんとうにその時になってみないとわからないのが彗星です。
(一方で1974年のコホーテク彗星のように「大きな話題になったら期待はずれ」というジンクス?もあるようですが……)
ともあれ、予想どおりになるかならないか、はたまた予想以上の事態となるかもしれないわけで、そのようなハラハラドキドキも含めて楽しむのが、予想の難しい天体ショーとの正しい? つきあい方です。アイソン彗星がどう転んでもいいように、我々は準備だけは怠りなく整えておくとしましょう。
明るくなってくれて長い尾を見せてくれれば天文ファン・写真ファンとしていうことありませんが、予想通りにならなかったとしたら、それは何故なのか? という謎を考える新たな楽しみが生まれたということにもなるわけです。
ちなみに、実際に見ることの難しい太陽最接近時のようすは、ほぼリアルタイムの太陽観測衛星画像をインターネットで見ることができます。
「SOHO」(Solar & Heliospheric Observatory)は、欧州宇宙機関ESAとアメリカ航空宇宙局NASAが1995年に打ち上げた太陽観測衛星で、これまでたくさんの彗星が太陽に接近したようすをとらえてきました。近日点の通過でアイソン彗星がどうなるか、11月29日前後の数日はSOHOのサイトで変化を確かめてみたいですね。
アイソン彗星を追尾撮影
基礎編では、カメラを三脚に載せて星空の撮影をする「固定撮影」を説明しました。それは夜景を撮ることと同じようなものです。違いはカメラの向きが地上か星空かというところだけで、機材をセットしてすぐに撮影できる簡単なところが魅力です。
しかし星の日周運動は思ったより速く、30秒程度の露出時間なら星が一見点像のようにも見えますが、それでも画像を拡大するとわずかに伸びているのがわかります。これは、言ってみれば動体撮影の被写体ブレのようなもの。アイソン彗星の見える方向は真東に近いので日周運動が最も速い方向にあたり、広角レンズでも星を点像に写し止めることは難しいことになります。
走る人や車のような直線運動をする被写体を撮るときに、その動きに合わせてカメラを振って被写体がブレないように撮影する方法を「流し撮り」といいます。これがうまくいけば被写体はシャープで背景が流れるように写り、スピード感のある写真になりますね。このような流し撮りが星でもできればいいのですが、人間の手で動きを合わせるにはスピードが遅すぎます。そこでメカの助けを借りることにしましょう。
星を点像に撮影するため、日周運動の動きに同期して回転する軸を備えた装置を「赤道儀(せきどうぎ)」といいます。本来の赤道儀とは、赤緯(天球の南北方向)赤経(天球の東西方向)の2軸を備え赤経軸(極軸)を駆動させて日周運動を追尾する架台とそれに搭載された望遠鏡の一式、あるいは架台そのもののことです。
これを小型カメラによる天体撮影のために特化し、日周運動を追尾する1軸だけを備えたコンパクトな装置を「ポータブル赤道儀」と呼ぶようになりました。これを利用して星空の撮影をすると、星はシャープな点像に写り地上風景が流れることになります。これはまさに星空の流し撮りです。
ビクセンのポータブル赤道儀「ポラリエ」はカメラバッグのポケットに入るほどコンパクト。三脚のカメラ雲台とカメラの間にセットして使うため、ビクセンでは「星空雲台」と名付けています。電源内蔵のコンパクトなボディですが、35mmフルサイズの一眼レフでも追尾が可能です。
駆動モードは星を点像にする「星追尾モード」のほか、星よりやや遅い太陽や月の追尾モード、星の1/2の速度で駆動する「星景撮影モード」があります。星景撮影モードは、地上風景のブレもできるだけ少なくしたいときに使用する追尾モードです。
ポラリエの駆動軸と地軸を平行にする作業を「極軸合わせ」と言いますが、これには北極星を利用します。本体の右肩部にあるのぞき穴の中心に北極星が見えるようにするだけで、広角レンズで数分露出しても大丈夫な据え付け精度が得られます。望遠レンズを使用するときや長時間露出をするときは、オプションの「極軸望遠鏡」を使用して精度の高い据え付けを行ないましょう。望遠レンズを使用すれば、肉眼では見えない時期の彗星でもハッキリと写し出すことができるようになります。
望遠レンズといえば、天体写真で望遠鏡に一眼レフやミラーレスのボディを直接装着して撮影する方法があります。天体望遠鏡の焦点像を直接撮影するので「直焦点撮影」といいます。つまり、望遠鏡を望遠レンズとして使用するわけですが、シンプルな望遠鏡の光学系で、たいへん解像度の高い写真を撮ることができるのが特長です。そのため、野鳥撮影に天体望遠鏡やカメラ接続のできるスポッティングスコープを使用する人がたいへん増えています。
「プロミナー(PROMINAR)」はコーワの高性能スポッティングスコープや双眼鏡のブランドですが、「PROMINAR 500mm F5.6 FL」はフローライトクリスタルや特殊低分散XDレンズを使用した高性能な超望遠レンズ/スコープです。
このPROMINAR 500mm F5.6 FLにマウントアダプターを接続すれば、複数のマウントで使用できるマニュアルフォーカスの超望遠レンズ、プリズムユニットと接眼レンズを接続すればスポッティングスコープとして使用できる、観察/撮影両用のユニークな望遠鏡です。
超望遠レンズとしては500mm F5.6が基本スペックですが、オプションのマウントアダプター「TX07」使用で350mm F4、「TX17」で850mm F9.6の超望遠レンズになります。350mm、500mm、850mmのいずれも画面周辺まで収差がほとんど見られないシャープな像で、星雲や星団、月など、天体の撮影にも適した性能があります。同クラスの一眼レフ用超望遠レンズに比べて軽量で安価ながら、それらを上回る画質が得られることもあるのが魅力です。また、天体望遠鏡と違い、クイック・ファインの2段階の使いやすいフォーカスリングや、可変する絞りを備えているところも見逃せません。
彗星を350mmで撮影してみたくなりますが、さすがにこの焦点距離はポータブル赤道儀には荷が重く、もう少し本格的な天体望遠鏡用の赤道儀が必要になります。しかし、野鳥などの観察や撮影にも最適なので、アイソン彗星を機会に、観察/撮影両用望遠鏡の候補として一考する価値はあるでしょう。
ソフトフィルターで星に表情を
肉眼では明るい星から暗い星までの明るさの違いがよくわかりますが、階調の再現幅に限界のある写真では、星像の大きさで明るさの違いを表現するしかありません。フィルムでは明るさに応じて感光剤中に光がにじみ、明るい星ほど大きく写りました。しかし、デジタルカメラでは星がたくさん写るのですが、イメージセンサー内で光が拡がることがほとんど無いので、明るい星と暗い星の差があまり出ません。天の川がよく写っているのに、星座の形がよくわからないという状態になってしまうのです。
そこで明るい星の光をにじませて星像を大きくするために、星景写真では拡散系のソフトフィルターがよく使われています。光が拡がるので白トビすることも少なくなり、星の色の違いもよくわかるようになります。しかしそのぶん暗い星の写りが若干悪くなることと、地上風景もにじんで写ってしまうので、表現の意図によっては使わない方がいい場合もあります。
ソフト効果の強度も何種類かありますが、焦点距離が長いレンズほど光のにじみ方が大きくなるので、レンズに適した強度のものを選択しましょう。望遠レンズでアイソン彗星の細部までクッキリと写したいという場合には、ソフトフィルターは使用しない方がいいでしょう。
より個性的な彗星写真を
明るい彗星が浮かぶ星空は非常にめずらしい光景です。このような光景を撮るチャンスは、そうそうあるものではありません。となると、写真好きとしては、できるだけすばらしい風景として捉えてみたくなるというものです。
メインの相手は宇宙空間に浮かぶ彗星ですから、必然、前景をどうするか? という問題になります。海、山岳、木立、名所、建築物、人物などなど、いろいろな組み合わせが考えられるでしょう。どう作品にするかはそれぞれ撮影者のセンスがモノをいうところですが、いずれにしろ重要になるのはロケハンです。狙っている風景の中のどこに彗星が見えるのか? その位置を事前に確かめ撮影の構想を練ることは、星景写真で作品を作る上でとても重要なことです。
アイソン彗星は明け方の東の空に見えますが、その詳しい位置は前回「基礎編」で図に示しておきました。特定のポイントで作品を狙いたい方は、ロケハンのときに、方位角の測れるコンパスで正確に彗星の見える位置を確認しておきましょう。
決め手はRAW現像の画像調整
さて、アイソン彗星は立派な尾を伸ばしてくれ、見事な大彗星になってくれました。天候にも恵まれ、首尾よくねらい通りの場所でイメージ通りの写真を撮ることができました(だといいですね)。
ところが、どうもいまひとつ彗星の姿がシャッキリと見えません。そうなんです。天体は、普通の風景に比べてとてもコントラストが低いのです。見栄えのする画像に仕上げるには、どうしても画像編集が必要になります。ですから、やはり星空の撮影は、現像処理で大幅な調整が効くRAWファイルで記録しておく方がいいですね。
細かなノイズ処理などは別にして、必ず必要になるのが色温度設定と、コントラスト調整のふたつです。撮影時の色温度設定はオートで大丈夫ですが、必ずしも希望通りの色になってくれるとは限らないので、RAW現像時に手動で色温度を変えてみましょう。一般的に星空の写真は3500Kから4500Kくらいの、青みがかった発色が好まれるようです。
また、カメラにもよりますが、人工光の影響があるところでは緑がかった色になることもあります。逆に人工光の無い非常に条件のいい空では、大気自体の発光で赤みがかった空になることもあるので、そのようなときは、好みの色になるようにカラーバランスの調整をしましょう。
コントラストは、コントラスト調整のスライダーで調節してもいいですが、彗星の尾や天の川のような、狙った部分のコントラストを自在にコントロールできるトーンカーブで調整するのがいいでしょう。星空の写真では、一般的な風景写真ではあり得ないくらいの強力な補正をかけることが普通です。ちょっと難しいかもしれませんが、納得いくまでじっくり腰を据えて一期一会の彗星写真を仕上げてみましょう。
まとめ
アイソン彗星が期待通りの大彗星になってくれるかどうかはわかりませんが、今も着実に太陽に近づきつつあって、だんだん明るくなってきています。もう、普通の望遠レンズでも、彗星らしい姿を写せるようになってきました。すくなくとも肉眼で尾が伸びている姿が見えるようになることは間違いないと思いますが、このように大きくなる彗星は、一生の間に何個も見られるものではありません。いやが上にも期待が高まるというものです。
星空の写真撮影は、基本さえきちんとすれば、誰でも確実に撮ることができます。それは、なんでも自動で撮影できるようになった現在、写真の基礎を学ぶのにとても勉強になる世界です。この彗星を機会に、星空の撮影を楽しんでくれる人が増えてくれれば、これほどうれしいことはありません。それは、私たちの視野や世界観を広げてくれることだと思っているからです。
アイソン彗星が太陽に近づいてくるのは今回限り。この一期一会の出会いをしっかりと目に焼き付け、ぜひ、美しい写真に残してください。
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