知識ゼロでもわかる“PCパーツの基礎”

第4回:BTOの「マザーボード」と「PCケース」に選択肢がないのはなぜ?

インテリア的なニーズで白いPCケースも人気がある(画像はNZXTの「H9 Flow」

「BTO PCのスペック表の意味がわかる」ことを目標に定めた当連載、第4回のテーマは「マザーボードとケース」です。

マザーボードはPCの中核をなすパーツであり、ここにCPUやメモリ、ストレージなどを装着/接続することでPCとして機能します。PCケースはすべてのPCパーツを収納し、主にパーツの収納保護とシステム冷却の役割を担うパーツです。

どちらも、高いスペックが要求されるクリエイター向けPCを安定動作させるうえで必要なパーツですが、BTO PCを購入する限りにおいては選択の余地はほぼありません。その理由は、パッケージとしてのPCを販売するうえで、わかりやすく性能をアピールする要素が「CPU」や「GPU」だからです。

BTO PCにおいて選択肢がない以上は価格とサイズ、重量くらいしか見るところがないので、今回はもう少し詳しく知りたい方向け、自作PC寄りの話になります。

ECサイトでも見出しに一番大きくCPUの名前が挙がっている(画像はアプライドネットの例)

マザーボードは「チップセット+追加機能」のパッケージ

PCのマザーボードには「チップセット」という集積回路が搭載されており、CPUと各パーツの通信、拡張スロットや外部接続したデバイスとの入出力管理などを担っています。ざっくりといえば、マザーボードはチップセットを中心に、オーディオや無線LANなどのチップ、USBなどの追加拡張ポートといった様々な機能、部品を追加したものです。

チップセットごとに装着できるCPUやメモリが決まっており、CPUの場合は「ソケット」(Socket)と呼ばれる接続端子の形状によって使えるCPUが決定します。メモリについても同様に、スロットの形状を変えることで非対応のメモリは物理的に挿せなくなっています。国内で流通しているマザーボード向けチップセットの主要な供給元はIntelとAMDです。

ほとんどのマザーボードはその名称にチップセットの名前が入っており、どのチップセットを搭載しているかが一目でわかるようになっています。例えば現行のIntel製チップセットであれば「Z790」や「B760」、AMDならば「X670」や「B650」のような表記です。

先述の通り、マザーボードは「チップセット+追加機能」の集合体のようなもので、各メーカーとも入出力ポートを増やしたり、熱設計に力を入れたりして付加価値を高めています。高級路線のモデルではプリント基板やトランジスタ1つにいたるまでこだわった製品も出ており、これらの積み重ねがマザーボードの性能や価格差に反映されているのです。

各メーカーとも様々な工夫を凝らしてマザーボードに付加価値を出している(画像はMSIのMEG Z690 GODLIKE

BTO PCにおいて搭載するCPUが先に決まっている場合、マザーボードはそのCPUが使えるチップセットの搭載製品から選ばれることになります。特にクリエイター向けのBTO PCでは、安定稼働のために高性能なマザーボードを使う必要があるので、購入時にマザーボードが選択できる例は少ないでしょう。

ショップによってはBTO PCにマザーボードの型番を掲載している場合があるので、もし拡張性や詳細な仕様に興味がある場合は、型番からメーカーのサイトで調べてみても面白いかもしれません。

購入時のカスタマイズ画面。マザーボードは固定となっている(画像はTSUKUMOの例)

PCケースはただの「ガワ」ではない

PCケースの主な役割は内部に組み込んだPCパーツを固定収納することですが、冷却性能も注目したいポイント。特にクリエイター向けPCでは安定した性能を出すにあたり、冷却性能の確保は重要です。

CPUやGPU、メモリやSSDなどは高速な演算処理、データ転送を行なうにあたり発熱しますが、これを冷やすために巨大なヒートシンクや冷却ファンを設置し、ケース外へ熱を逃がします。

一般的なPCケースはこの熱移動をスムーズに行なうために、吸気用と排気用のPCファンを装備しています。熱がうまく逃がせないとケース内の温度が上昇して、PC本来の性能が出せなくなります。PCケースの紹介文に「エアフロー」という単語がよく使われるのは、エアフローがそれだけ重要だからです。

BTO PCの場合、PCケースを選択する機会はほぼないでしょう。ほとんどが自社ブランドかパーツメーカーの無難なタワーケースにまとまっているはずです。

BTO PCではメーカーコラボなどでもない限り、ケースは無難なデザインが主流(画像はFRONRIERの例)

メインの付加価値は「拡張性」

マザーボードとPCパーツに共通する付加価値の1つは「拡張性」です。どちらも用途やニーズによって様々な仕様があります。例えば現行のマザーボードであればPCIeスロットやM.2ソケット、USBポートの数、PCケースの場合はドライブベイ(SSDやHDDを取り付けられるスペース)の数や冷却ファンの設置可能数などが挙げられます。特にUSBポートについては、とりあえず使えるポートがたくさんあったらうれしいと思います。

拡張性はマザーボードの付加価値を上げる重要な要素のひとつ(画像はASUSのクリエイター向けマザーボード「画像はProArt Z690-CREATOR WIFI」)

置き場所の観点から考えれば「PCの物理的なサイズ」も付加価値と捉えられるでしょう。PCの中には「ミニタワー」や「ミニPC」など小型省スペースを売りにした製品も見かけます。マザーボードには「ATX」や「Mini-ITX」など様々なサイズの規格があり、これにパーツを組み込んだ状態で収めるケースであれば、PCケースの形状は自由です。

ただし、サイズが小さくなればそれだけ機能や拡張性は限定的になります。もっと極端な話をすれば、ケース自体はPCの動作に必須ではありません。

長尾製作所のPCケース「オープンフレーム ver.ATX」組み込み例
米AZZAの四角錐PCケース「PYRAMID L」

いささか話が逸れましたが、PCに求められる付加価値は多様であり、様々な需要や観点から検討する余地があります。「求める性能が出ていればあとは自由」と考えれば、後々のことを考慮して拡張性のある構成を選ぶのが無難でしょうし、拡張性を捨ててでも場所を取らないPCの選択肢もありでしょう。

BTOで購入したPCでも必要であれば後からパーツを追加できますし、元のケースから自分好みのケースに“移植”することもできます(面倒ですが)。そういった自由度の高さも“パソコン”の魅力なのです。

関根慎一