知識ゼロでもわかる“PCパーツの基礎”

第5回:PCを長く使うなら“良い電源”を選ぼう

BTO PC購入時に出力やメーカーごとの選択肢が用意されている(画像はパソコンSHOPアークの例)

「BTO PCのスペック表の意味がわかる」ことを目標に定めた当連載、第5回のテーマは「電源」です。

PCパーツとしての電源ユニットはその名の通り、PC全体に電力を供給する装置です。Power Supply Unitの略称として「PSU」と表記されることもあります。主な役割は「安定した電力の供給」と「交流電流から直流電流への変換」。BTO PCにおいてはメーカーや出力容量ごとにいくつかの選択肢を用意していることも多いです。

よくわからなければ大容量電源を選んでおけば問題はない

電源ユニットの定格出力は、製品名に「750W」や「1000W」のような形で含まれていることがほとんどです。BTO PCを標準構成のまま購入する場合は標準から変更しなくても問題ありませんが、将来的にアップグレードでパーツの入れ替えなどを検討する可能性がある場合は、より大容量の電源ユニットに変更する必要があるかもしれません。

電源ユニットの出力が不足すると、PCが前触れもなく突然落ちたり、再起動を繰り返したり、そもそも起動しなかったりなどの致命的な不調が生じます。その意味では、はじめから出力に余裕のある大容量電源を搭載しておくことも選択肢のひとつといえるでしょう。大容量の電源ユニットを選ぶメリットとしてはこのほか、低負荷の稼働となることから電源ユニット自体の劣化が緩やかに抑えられることも挙げられます。

なお、電源ユニットは常時最大出力で稼働しているわけではありません。PCの消費電力は負荷のかかり具合によって大きく変動するので、電源ユニットはその時々で必要とされた電力を安定して供給するのがその役割です。

例えば何もアプリを立ち上げていないときと動画のエンコードをしているときとでは、後者の方が消費電力は大きくなるはずですし、USBポートに接続している機器によっても消費電力は変動します。繰り返しになりますが、最初に大容量電源ユニットを選ぶことは、長くPCと付き合う上で「後々少し楽ができる」選択肢なのです。

2,050W出力の大容量電源(画像はSilverStoneの「HELA 2050R Platinum」)

おおよその消費電力を計算してみる

とはいえ、電源ユニットをアップグレードすると数千~数万円の追加投資になりますし、決して安い買い物でもありません。現在のPCパーツ構成で必要とされる消費電力について正確な数値ではないにしても、見当くらいはつけておきたいものです。

一般的なクリエイター向けPCで特に消費電力の大きなパーツはCPUとGPUなので、構成に含める予定のCPU/GPUメーカーサイトで仕様表を確認すると、大体の必要電源出力が把握できるでしょう。

また、一部のPCパーツメーカーやショップではWeb上で簡易的な消費電力計算機を公開しています。こうしたサイトでは必要となる消費電力の値を基準に、2倍の出力容量を持つ電源ユニットを選ぶのがよいとされ、その理由としては先に述べた「アップグレードへの備え」と「劣化の抑制」に加えて、「電源ユニットは負荷率50%付近で最も(交流から直流への)変換効率が高くなるよう設計されている」からと説明されています。

例えば消費電力の目安が350Wの場合は、700Wの電源ユニットを選ぶことで、他の電源よりも電気代がちょっとお得になるといった具合です。

これは次に言及する「80 PLUS認証」にも関連しており、電源ユニットの性能を評価するにあたって無視できない数値ですので、ひとつの基準として頭に入れておくといいかと思います。

仕様表に電源ユニットの推奨定格出力値を記載している(画像はASUS「ProArt GeForce RTX 4070 OC edition 12GB GDDR6X」の例)
システム構成を入力すると簡易的に消費電力を計算してくれるサイト(画像はドスパラの「電源容量計算機」

電源変換効率認証プログラム「80 PLUS」

交流→直流への電源変換効率については、多くの電源ユニットが「80 PLUS認証」を取得しています。80 PLUS認証は電源ユニットの負荷率が20/50/100%のときに、それぞれ80%以上の変換効率を達成した製品が適合する省電力化プログラムです。

「80% PLUS」(スタンダード)をベースラインとして「BRONZE」「SILVER」「GOLD」「PLATINUM」「TITANIUM」の6段階が存在しており、高い変換効率を達成するほど上位の認証が受けられます。高い変換効率の主なメリットは、「消費電力」、「発熱(ロス)」、「稼働中の騒音」がそれぞれ低く抑えられることです。

クリエイター向けBTO PCにおいては、GOLDもしくはPLATINUMの電源ユニットが選択肢になっているケースが多くみられます。このクラスのPCであれば80 PLUS認証を受けていない電源の選択肢はあまりないと思うので、BTO PCを購入する限り意識する必要はありませんが、どのような場合でもできるだけ電源は良いものを選んだほうが無難でしょう。

異様に安価な電源はコストカットのために粗悪な部品を使っている場合があり、カタログスペック上は問題なさそうでも、どこかにしわ寄せがいっているものです。故障のリスクも高くなります。電源の故障は結果的に異常な電流がパーツに流れるということなので、電源ユニットだけでなく、ほかのパーツにも被害が及ぶ可能性があります。80 PLUS認証を取得しているということは、相応に高性能(≒高品質)な部品が使われていることをある程度保障していると捉えていいでしょう。

80 PLUSの認定評価表。AC 115Vと230Vに基準が定められている

PCの買い替えは5年が目安

電源ユニットの耐用年数はおよそ3~5年と言われており、メーカーの保証期間も1~5年程度がほとんどです。高耐久性を謳う製品であれば10年以上の保証を設定しているものもあります。

電源ユニット自体は可動部品の多いパーツではないので耐用年数を過ぎても普通に使えることはありますが、特にクリエイター向けPCの場合は日常的に重い処理を走らせているはずなので、5年はパーツもそれなりに傷んでくる頃合い。故障のリスクを考慮するならば5年が買い替え時期の目安です。

ただ、PCは昨今の経済情勢もあって以前にもまして大きな買い物になってきており、できるだけ長く使いたい向きもあるかと思います。保証切れ上等でPCを長く使うつもりならば、設置環境を工夫して熱対策をしたり、定期的にPC内部の清掃を行なうなどのひと手間をかけるようにしましょう。

高耐久性を売りにしている電源には10年保証の製品もある(画像はTharmaltake「TOUGHPOWER GF A3 Gold 850W - TT Premium Edition」
関根慎一