新製品レビュー
ソニーα99
高画質と高速性能を両立。待望のαフラッグシップ
(2012/12/13 00:00)
通常の一眼レフカメラとは異なり、透過ミラーを採用した「トランスルーセントミラー・テクノロジー(以下TMT)」を搭載するソニー独自のAマウント機は、一眼レフ然とした姿ながら、光学式ファインダーでなく電子式の有機ELビューファインダーを備えるのが大きな特徴。
10月26日に発売された「α99」はそうしたTMTのラインナップにあって、初めて有効約2,430万画素の35mmフルサイズセンサーを搭載したシリーズ最高峰のフラッグシップカメラだ。
執筆時点での大手量販店の実勢価格は27万8,000円前後。これはボディ単体での価格であり、レンズキットなどは特に設定されていない。
操作性に優れたインターフェイス
ボディ外観は、同じくTMT採用の下位機種「α77」と同様、流線形を主としながらも緊張感のあるシャープなデザインで、ペンタ部を頂点に外に向かってなだらかな曲面が形成されている。
APS-Cフォーマットのα77と比べると大きさが一回り大きくなるが、奥行きはα77の80.9mmに対して78.4mmと若干薄い。ただしこれは、内蔵ストロボをもたないα99のペンタ部が前に出っ張っていないためであり、実際に手にしたボリュームはα99の方が上。各部の要素が統一されたバランスのよいプロポーションは高級機に相応しい完成度で仕上がっている。
質量は本体のみで約733gと比較的大柄なボディの割りに軽い。ペンタプリズムなどのファインダー光学系をもたないことが主な理由と思われるが、既に生産完了となっている同社製のフルサイズデジタル一眼レフカメラ「α900」の質量が約850gだったので、実に100g以上の軽量化だ。
操作性の面で目新しいのが「クイックナビプロ」の新搭載。設定項目が一覧表示されているだけでなく、露出や電子水準器、ヒストグラムといったパラメーターも同時に表示されているので、現在のカメラの設定状況を一目で把握してダイレクトに設定変更が可能。操作に迷った時にはとりあえずここを確認すればほとんどのことは解決できる。
従来フォーカスモードダイヤルがあった場所に新設されたのが「サイレントマルチコントローラー」だ。本来は動画撮影中にスムースに設定変更を行なう目的で設置されたものだが、静止画撮影でも、AFエリア、AFモード、フォーカスエリア選択など多彩な設定をコントローラーのボタンとダイヤルで変更することができる。
以上、操作性に関しては総じて良好な感触であるが、一部には不満を感じる点もある。
α77の発売当初、操作入力に対して反応が遅いというソフト面の問題があったのを覚えている人もいると思うが、残念ながらα99でも操作系の反応がモッサリした印象は完全に払拭できていない。試用期間中も急に応答が2、3テンポ遅れてくる現象が何度かあり困ることがあった。
瞬発力を要求される撮影シーンでは致命傷にもなりかねないので、可能な限り早期にファームウェアのアップデートなどで対策して欲しいところである。
バッテリーの持ちとカードスロットについて
静止画撮影可能枚数はCIPA規格準拠でファインダー使用時が約410枚、液晶モニター使用時が約500枚となっている。
実際に今回、ファインダーと液晶モニターを併用した状態で概ね500枚前後でバッテリーの充電がなくなった。常にライブビューを行なっているので仕方がないとはいえ、やはりバッテリーの持ちはよい方でないので予備のバッテリーは忘れず用意するようにしたい。
バッテリー残量を心配せずに撮影するための方法として、縦位置グリップ「VG-C99AM」を使うという手もある。本体に1個バッテリーを装填したまま取付けることができるので、グリップ側に装填可能な2個を合わせ、計3個のバッテリーを使用可能だ。
当然その分大きさと質量は増すので相応の覚悟が必要となるが、グリップ側にも本体と同様の操作系を装備し縦位置撮影でも快適な操作が可能となるなど、バッテリー以外での利点も多い。α99本体と同時に購入を検討したいアクセサリーのひとつである。
カードスロットはダブルで搭載され、スロット1とスロット2の両方にSDXC/SDHC/SDメモリーカードを使用できる他、スロット1にはメモリースティックPROデュオ/メモリースティックPRO-HGデュオを使用することもできる。2枚のメディア間ではバックアップ用同時記録やRAW/JPEG・静止画/動画の振り分け記録、メディア間コピーなどが可能だ。
間違いなく「α史上最高画質」
搭載されるイメージセンサーは自社新開発の有効約2,430万画素、35mmフルサイズCMOSセンサー「Exmor」。これに高集光プロセス技術、ワイドフォトダイオード設計技術、多点分離光学ローパスフィルターなど、多くの新技術を投入して高画質を目指している。
画素数自体がα900やα77とほぼ同じであるためかセンセーショナルな話題を聞かないが、実は画質の進化こそがデジタルスチルカメラとしての重要なトピック。α99は間違いなくソニーが謳うところの「α史上最高画質」であると断言したい。
試写した結果はどの画像も非常にクリアでシャープ。解像感には画素数だけでは語れない緻密さがあり細かな部分の分離能力は大変に素晴らしい。ダイナミックレンジの幅や色の再現性も優秀で、あらゆる条件で安定した画像を提供してくれた。高感度におけるノイズ処理も従来のAマウント機とは比べるのが酷なほど向上しており、特に高感度が苦手とされたα900のユーザーは「あの苦労はなんだったのか」と思うほど隔世の感を覚えるのではないかと思う。
目的に応じて使い分けるAF追従連写機能
クロスセンサーを11点配置した合計19点の従来式位相差AFセンサーに加え、イメージセンサー上に埋め込まれた102点の像面位相差AFセンサーを併用した、「デュアルAF」システムもα99の重要なウリのひとつ。奥行き方向の動きに強い従来式位相差AFセンサーを、面方向の動きに強い像面位相差AFセンサーがカバーする「AF-D」モードが新たにAFモードに加わり3次元で被写体を補足しつづける。
ただしα99の連写速度は最高で6コマ/秒。約2,430万画素フルサイズセンサーの処理能力を考えれば速いほうではあるが、このままでは高速連写というほどではない。また最大連続撮影枚数もJPEGエクストラファインで15枚、JPEGファインで24枚、RAWで15枚、RAW+JPEGで12枚までという制限がある(ただしこの設定でα77の連続撮影枚数は上回っている)。
そこで用意されているのがモードダイヤルに設置された「テレコン連続撮影優先AE」である。このモードには、画面中央部を約1.5倍にクロップして高速連写をする「T8」と、もしくは約2.3倍にクロップしながら高速連写をする「T10」が用意されている。
「T8」は約1,000万画素で連写速度は最高8コマ/秒、最大連続撮影枚数はJPEGエクストラファインで20枚、JPEGファインで28枚、RAWで19枚、RAW+JPEGで18枚まで。
「T10」は約460万画素で連写速度は最高10コマ/秒、最大連続撮影枚数はJPEGエクストラファインで20枚、JPEGファインで26枚、RAWは不可となる。もちろん「テレコン連続撮影優先AE」で撮影中も「デュアルAF」は有効だ。露出は基本的に全自動となるがISO感度と露出補正は設定変更が可能である。
実際に使ってみると、フルサイズの通常の連写ではAFエリアが中央寄りであることと連写速度が6コマ秒であることから、動く被写体を中央付近に捉え続けるのはなかなか難しい。画面がクロップされることでAFエリアがほぼ画面全面に広がる「テレコン連続撮影優先AE」の方が連写速度が高速であることもあって被写体を補足しやすかった。画素数が減少するので絶対的にどれがよいとは言えないが、画像の出力要求によっては目的に応じて連続撮影のモードを切り替えるという方法がよいだろう。
動体撮影をする時に意外に効果的だったのが新設の「AFレンジコントロール」だ。合焦範囲を限定することで被写体の前後の障害物に合焦してしまうことを防ぐことができるため、動く被写体を追いかけている最中でもAFの迷いが減少する。もちろん「AFレンジコントロール」は動体撮影だけでなく、AFポイントを自動選択にするあらゆる状況で有効である。
下の写真は実際に「AFレンジコントロール」を活用した例。ワイドAFエリアでもワオキツネザルの手前の葉に影響されず合焦できた。
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
また、「デュアルAF」を利用しない通常のAF方式でも、合焦精度は従来より格段に速く正確であった。α99は響きの華々しいAFポイント点数や動態追従性だけでなく、基本的なAF性能そのものが向上していることを付記しておきたい。
まとめ
数日間α99を試用させてもらった感想を率直にいうと、カメラとしての基本性能が高いレベルでまとまったαフラッグシップに相応しいデジタルカメラ、ということになる。革新性を打ち出して新技術をふんだんに投入しているにも関わらず、それぞれの完成度を高いレベルで完成させた真面目な設計には感心するしかない。
操作入力に対する応答の鈍さという問題は早い段階で解決して欲しいところだが、それを除けば同クラスのライバル機と比べても十分肩を並べることのできるだけのポテンシャルをもっていると感じた。カール・ツァイスやGレンズといった高性能レンズの描写力を、遺憾なく発揮できるボディが登場したのである。
EVFの性能も像面位相差AFの精度も今後ますます発展していくに違いない。ソニー独自の技術で作られた「デジタルカメラ」が、これからどれほど世に受け入れられていくのか楽しみな一台である。