【新製品レビュー】ソニーα65
タイの洪水により発売日が未定となったAマウント採用のレンズ交換式デジタルカメラ「α65」。いつ発売されるのか待ち遠しいところではあるが、一足先に発売前のレビューを行なってみた。この場を借りて、タイで洪水の被害に遭われた方々に心よりお見舞い申し上げる。
α65は、カメラ内部に透過ミラーを配し、TTL位相差方式のAFセンサーを使用するレンズ交換式デジタルカメラ。ソニー独自の「トランスルーセントミラー・テクノロジー」により、従来の一眼レフカメラと同様の位相差AFを可能としているのが特徴だ。ボディサイズや形状をみると一眼レフカメラのようにも見えるが、ミラーが駆動せず光学ファインダーを持たないことから、どちらかというといわゆる“ミラーレス”に近いカメラになるだろうか。
このカメラを手にした第一印象は「この大きさなら一眼レフカメラでいいのかな」というものだった。光学ファインダーにこだわらなければ、α65のファインダーはとても見やすく使いやすいものといえる。235万ドットの有機ELは現存するEVFのなかではもっとも高精細だし、発色、コントラストともに良好。3型92万ドットの背面液晶モニターと交互に見ても、ほとんど見え具合に差異は感じない。純粋に撮影スタイルで使い分けをすればよいという印象だ。
ちなみに、EVFのファインダー倍率は約1.09倍(50mmレンズ無限遠、-1m-1時)と、APS-C一眼レフカメラのファインダー像よりも格段に広く大きく見える。もちろん、視野率は100%だ。デフォルト設定ではファインダーとEVFがアイセンサーで自動的に切り替わる。切り替えボタンも用意されているが、通常はアイセンサーによる自動切り替えを使用していればよいだろう。
■兄貴分α77との違い
背面の液晶モニターは、縦方向に約180度、横方向に約270度まで回転可能なバリアングル式を採用する。ただし、ヒンジが液晶モニター下部にあるため、操作するには一旦液晶モニターをカメラの下方向に動かしてから回転しなければならない。いちおう縦位置撮影にも対応はできるが、構造としていまひとつという感は否めない。特に三脚使用時は、雲台部にヒンジが引っかかってしまい上手く動かせないことになるからだ。上位モデル「α77」のように、こちらも3軸チルト式を採用してほしかったという気がする。
α65の可動モニター部 | (参考)兄貴分のα77は3軸チルト式を採用している |
話が前後してしまうが、α65はα77と同時発表の弟分のような存在。目につく仕様の差としては、α77のほうが幅、高さ、厚みともに若干大きく、重さもα65の約622gに対し732g。ボディ外装もα65のプラスチックと異なり一部にマグネシウム合金を採用している。
そして、機能上の大きな違いとしてAFセンサーの数と性能がある。α65が15点AF(うち3点がクロスセンサー)なのに対し、α77は19点AF(うち11点がクロスセンサー)となる。全体のレイアウトに大きな違いは見られないが、斜め方向のAFエリアが充実しているα77のほうは、より構図の自由度が高いといえるだろう。高速連写をおこなうための「連続撮影優先AE」モードも、α65が最高約10コマ/秒、α77は最高約12コマ/秒となっている。どちらもAFが追従するため、ピントが1コマ目で固定されてしまうNEX-7やNEX-5Nに比べ実用レベルの高い連写モードといえる。
より細かな違いをいえば、α65のクリエイティブスタイルにはニュートラルやセピアなどいくつかの設定が省略されていたり、露出ブラケットの設定が3枚ばらしのみで、範囲も1/3EVと2/3EVだけだったりという部分もある。
ちょっと気になったのはISOオート時の感度設定で、α65ではISO100〜1600までの範囲を自動で決定するのだが、α77ではISO100〜12800の範囲で上限・下限を設定できるようになっている。ISO感度は撮影者によって許容範囲が変わってくるので、できればα77と同様に上限、下限の設定もできるようにしてほしかった。
さて、話をα65の使用感に戻そう。フランジバックの関係もありミラーレスカメラとして見ればやや大柄なボディだが、グリップ部がしっかりと作られていることもあってか非常に持ちやすい。特に右手中指の部分に凹みがあって、しっかりとホールドできるのだ。ボタン類の配置も上手くまとめられており、右手の親指を置く場所もちゃんと確保されている。持ち歩きには少し大きくても、写真を撮るという行為にはこれくらいのサイズが扱いやすいと感じる。
しっかり握れるグリップ部 | 親指を置くスペースも確保されている |
■2,430万画素で活きるスマートテレコンバーター。エフェクトも多彩
気になる画質だが、APS-Cサイズとしては初の2,430万画素CMOSセンサーが搭載されており、もはやこれほどの解像度となるとレンズの性能がもろに出てしまう印象だ。撮影に使用したレンズはキットレンズの「DT 18-55mm F3.5-5.6 SAM」だったが、ハッキリいってこのレンズではα65の実力を発揮するのは難しい気がした。
もちろん、近景や中景くらいまでならば2,430万画素らしい高解像力を堪能できるのだが、遠景となると期待していたほどの解像力は感じられなかった。シャープネスの設定を上げれば解像感は高まったように見えるが、若干不自然なシャープ感になってしまう。35mmフルサイズセンサーやそれ以上の大きさを持つセンサーから得られる出力とはやはり違うのだなあ、というのが正直な感想だ。ただ、2,430万画素になったことによる弊害は特には感じないので、カメラの進化の方向として容認できるのではないだろうか。
α65には画像の一部を拡大(トリミング)して記録できる「スマートテレコンバーター」機能が装備されている。1.4倍拡大時では約1,200万画素、2倍拡大時では約600万画素の記録となる。元々の画素数が2,430万画素と多いだけに、このようなトリミング機能を使っても十分な画素数が得られるというのはありがたい。
右上のボタンでスマートテレコンバーターを呼び出す |
発色に関しては偏りも少なく、ホワイトバランスもオートのままで十分に満足できる仕上がりとなってくれた。最近のソニー機は写真としての発色を目指しているようで、それが年々良くなっているという印象だ。数年前まではビデオの延長線上のような発色に感じられたものだが、近年のものはAWBの設定も含め、すっかりと写真的な発色となっている。これは非常に好感が持てるポイントだ。
また、α65には気軽にアート風写真が楽しめる「ピクチャーエフェクト」機能も搭載されている。トイカメラやソフトフォーカス、ポップカラーなど全15種類なのだが、一部の機能は弱、中、強などといった微調整ができるようになっているため、かなり豊富なエフェクト機能を楽しめる。ただし、使用できるのはJPEG撮影時のみで、RAW記録やRAW+JPEG記録時には使用できない。RAW+JPEGでJPEGにエフェクトをかけてくれればいつでもRAWからノーマルな画像を得ることができるのにと感じる。面白くて多用してしまいたくなるだけに残念だ。
これを運用上解決する方法として、ボタンのカスタマイズ機能を使うのがよいかもしれない。カスタムメニューでは、AELボタンやISOボタンに好きな機能を割り当てておくことができる。私の場合、ISOボタンは比較的頻繁に使うが、AELボタンを活用することはあまりないため、AELボタンに「画質」を割り当ててみた。そうすることで、素早くJPEG記録とRAW+JPEG記録を行き来できるようになる。デフォルト設定だと画質変更はメニュー画面からしか行なえないので、このあたりの設定を確認しておくと便利かもしれない。
AELボタンに特定の機能を割り当てることができる。ここに「画質」を割り当てておくと、JPEGのみとRAW+JPEGなどを行き来しやすい | AELボタンに画質を割り当てて、AELボタンを押したところ |
同様に、マニュアルフォーカスを頻繁に利用する人は、「スマートテレコンバーター」ボタンに「ピント拡大」を割り当ておくとよいだろう。α65にはMF時の補助機能として、ピントのあった部分に色を付けて表示してくれる「ピーキング機能」が装備されており、MFも実に快適に行なえるようになっているのである。
スマートテレコンバーターボタンの機能は「スマートテレコンバーター」と「ピント拡大」の2つから選べる。ここをピント拡大にしておくとMFがグッとやりやすくなる | MF時にピントのあったところを色づけしてくれるピーキング機能の設定もしておきたい |
他に気がついた点だが、「フォーカスエリア」をローカルに設定すると、十字ボタン中央のAFボタンでAFエリアが選べるようになる。だが、「被写体追尾」がオンになっているとAFボタンが追尾フォーカスの被写体設定ボタンとなってしまう。このため、この状態でAFエリアを選択する場合には、再度「フォーカスエリア」選択から「ローカル」を選ばなければならない。自分でAFエリアを選択する「ローカル」を使う場合には、「被写体追尾」の設定をオフにしておくとよいだろう。
また、被写体追尾と顔検出AFのどちらも、シャッター半押し前は画面上のどこでも□マークが被写体を追いかけてくれるが、シャッターボタンを半押しにしたときにピントがあうのは、15点あるAFエリア上のどこかに限定される。□マークとAFエリアが一致していればそのままピントが合うのだが、一致していないと思わぬところでピント合わせが行なわれることとなる。この辺の使い勝手には注意が必要だ。
■動画記録やGPS機能も搭載
ムービーの記録方式はAVCHDとMP4の2種類。AVCHDでは1,920×1,080ピクセルで60p、60i、24pという豊富なフレームレートがチョイスできるが、MP4に関しては1,440×1,080ピクセル/30pのハイビジョン動画にとなる。動画の記録はモードダイヤルの設定に関わらずボディ背面上部のMOVIEボタンでスタート/ストップが可能だが、モードダイヤルを動画モードにすることで絞り優先オートやマニュアル露出でのムービー撮影も可能となる。
気軽な撮影ならば静止画撮影時にそのままMOVIEボタンを押せばよいのだが、実はこの方法だと動画記録がスタートするまでに1秒以上の空白が生じてしまう。一方、モードダイヤルが動画モードにセットしてある場合は、ほぼタイムラグなしに記録が始まる。こだわりの動画撮影を行ないたい場合は、面倒でも動画モードに設定してから撮影を開始したほうがよいように感じた。
また、α65にはGPS機能も搭載されている。近年、各社からGPS搭載のコンパクトデジカメが発売されているが、レンズ交換式カメラでGPSを内蔵しているのはソニーだけだ。携帯電話のように基地局の位置情報を利用できないため測位にそれなりの時間は掛かるものの、広い屋外で使っている分にはそれほど遅いとは感じなかった。体感的には10秒くらいあれば位置情報をキャッチしているような印象であった。カメラの初期設定では位置情報の記録はオフになっているが、知らない場所での撮影ならGPSをオンにして、後から撮影地を調べるというのも楽しい使い方かもしれない。
α77と同様、GPSを内蔵する |
撮影後のチェックといえば、最近のソニー機は静止画と動画を別フォルダに記録する仕様のため、カメラでの再生時にそれぞれを時系列で見ていくことができない。静止画を見るときには静止画のフォルダを、AVCHD動画を見るときにはAVCHDのフォルダを、という具合にフォルダを移動しなければ再生できないのである。これはなんだかとても使いにくいと感じた。
動画撮影時の記録モード。AVCHD方式では多彩なフルHD動画の設定ができる | 再生時に静止画や動画を見るためには、この表示から見たいフォルダをしていしなければならない。これがちょっと面倒 |
■まとめ
何日間か使ってみての総評だが、やはりライブビュー専用機という点から「ミラーレスカメラ」と見てしまうとかなり大きく重たいので、気軽さと言う意味ではちょっと不満を感じる。
逆に、一眼レフカメラを持ち歩く心づもりがあれば、このカメラの印象は大きく変わる。有機ELのEVFはとても見やすいし、電子先幕シャッターによる撮影フィーリングも良好だ。光学ファインダーがEVFに変わった一眼レフカメラだと思えば、操作性、画質、機能にも満足できる。手ブレ補正機構がボディ側に内蔵されている点も心強い。改めて“光学ファインダーってどうなんだろう”と考えさせられる1台として、とても楽しい撮影が行なえた。
■実写サンプル
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
・ISO感度
選択できる感度はISO100〜16000まで。ISO800とISO1600の間の変化が若干大きく、そこからは順当にノイジーになっていく印象。ISO6400はかなりノイズが目立つという感じだ。被写体にもよるが、ISO1600くらいまではあまりノイズのことを気にする必要もないと感じる。
ISO100 | ISO200 |
ISO400 | ISO800 |
ISO1600 | ISO3200 |
ISO6400 | ISO12800 |
ISO16000 |
ISO100 | ISO200 |
ISO400 | ISO800 |
ISO1600 | ISO3200 |
ISO6400 | ISO12800 |
ISO16000 |
・Dレンジオプティマイザー
オフとオートの差は十分に感じる。マニュアル操作でLEVELを上げていくほどにシャドーは持ち上がっていくが、通常の使用であれば、オフかオートの使い分けをすればよいだろう。
Dレンジオプティマイザー:オフ | Dレンジオプティマイザー:オート |
Dレンジオプティマイザー:レベル1 | Dレンジオプティマイザー:レベル2 |
Dレンジオプティマイザー:レベル3 | Dレンジオプティマイザー:レベル4 |
Dレンジオプティマイザー:レベル5 |
・クリエイティブスタイル
スタンダード、ビビッド、ポートレート、風景、夕景、白黒の6種類。加えて、α77にはニュートラル、クリア、ディープ、ライト、夜景、紅葉、セピアの各モードがある。
スタンダード | ビビッド |
ポートレート | 風景 |
夕景 | 白黒 |
・ピクチャーエフェクト
大きく15種類のジャンルに分けられており、絵画調HDRやソフトフォーカス、トイカメラなどは詳細な設定が行なえるようになっている。ピクチャーエフェクトを変えるだけでかなり大きな仕上がりの変化が楽しめる。JPEG記録時のみに限定されるのが残念。
・スマートテレコンバーター
ボタンを押すごとに、1.4倍、2倍と画面中央部を拡大してくれる。望遠レンズの焦点距離が不足したときに使うと便利だ。ただし、画像記録サイズも1.4倍で4,240×2,832ピクセル、2倍で3,008×2,000ピクセルとなってしまう。つまり、事実上は後からパソコンでトリミングするのと同じ結果と言うことだ。
※使用レンズはDT 18-55mm F3.5-5.6 SAM。
スマートテレコンバーター:オフ(18mm) | スマートテレコンバーター:オフ(55mm) |
スマートテレコンバーター:1.4倍(55mm) | スマートテレコンバーター:2倍(55mm) |
・連写
10コマ/秒の高速連写で、AF・AEも追従する。画質モードをL/ファインにセットしたときの連続撮影枚数は17枚と、十分な連写枚数といえるだろう。
・動画
AFも追従するが、キットレンズではAFの駆動音もわりと大きく入ってしまった。AVCHD記録をするか、MP4記録をするかが悩みどころ。その後の使用目的にもよるが、今のところパソコンでの鑑賞がしやすいのはMP4形式だ。
※再生方法についてのお問い合わせは受けかねます。ご了承ください。
約74.9MB / 1,920×1,080 / AVCHD(mts) |
約31.2MB / 1,920×1,080 / AVCHD(mts) |
約32.5MB / 1,920×1,080 / H.264 / MP4 |
約27.2MB / 1,920×1,080 / H.264 / MP4 |
・シャープネス
設定をプラスにするともっと解像力の高い写真になるのだろうかと思い、シャープネスの設定をばらして撮ってみた。確かに細かな部分がシャープに見えてくるが、やりすぎは禁物なのだと再確認。
シャープネス:-3(F5.6) | シャープネス:±0(F5.6) | シャープネス:+3(F5.6) |
シャープネス:-3(F7.1) | シャープネス:±0(F7.1) | シャープネス:+3(F7.1) |
・作例
α65 / DT 18-55mm F3.5-5.6 SAM / 約7.8MB / 8,192×1,856 / 1/160秒 / F8 / 0EV / ISO100 / 40mm / スイングパノラマ |
2011/11/18 00:00