ソニーのNEX-5を使っていてその操作性が気に掛かることはままある。初心者ユーザーをターゲットにしているのは分かるのだが、「初心者向けのUI」と「操作に手間がかかるUI」というのは違うものだと思う。
NEXシリーズは、そのターゲットとは異なり、小ささに惹かれた筆者のようなユーザーや、マウントアダプター経由でMFレンズを使うようなユーザーの購入も多く、こうした操作性に関する声が大きくなってきたのだろう。ソニーはついにNEXのUIを改善するファームウェアのアップグレードの提供を開始した。このファームウェアを適用することで、NEXの操作性はどのように変わるのだろうか。
■操作性を向上させるカスタマイズ機能
NEX-5の操作性では、iAUTOに設定しているときはオートで撮影し、コントロールホイールの中央ボタンを押して絞りを設定する「背景ぼかしコントロール」でボケを調整して撮影する。初心者の場合は、特にメニュー画面に触れなくてもきれいな写真が撮れる、というのが狙いだろう。
とはいえ、もちろんメニューから撮影モードを切り替えればP/A/S/Mでのデジタル一眼レフカメラのように高度な撮影もできる。その場合、撮影設定を変更するにはメニュー画面から各機能を設定しなければならない。
グラフィカルなUIでアイコン表示された第1階層のメニュー画面から項目を選択し、「カメラ」、「画像サイズ」、「明るさ・色あい」、「セットアップ」といった分類から目的の機能を選んでいくわけだが、このメニューの下にある第2階層は、下にずらっと選択項目が並ぶタイプで、タブ分けやページ送りもなく、一番下に設定項目がある場合、ひたすらカーソルを下まで送り続ける必要があった。ページの一番上から一番下にカーソルが逆順にループすることもできないし、いったん設定を変えて撮影して、またメニューに戻るとカーソル位置がリセットされて先頭に戻ってしまうので、設定を変えながら撮影したい場合には不便だった。
今回のファームウェアでは、こうしたUIに対して改善を行なっており、操作性が向上している、というのが特徴だ。
具体的な改善内容は6項目で、以下の通り。
- ソフトキーのカスタマイズ機能
- 「メニュー呼び出し先」設定の追加
- メニュー選択の操作性向上
- MFアシストの操作性改善
- 動画の絞り値保持機能追加
- Aマウントレンズ装着時のオートフォーカス機能の対応
- レンズなしレリーズ許可設定時の拡大表示対応
1.は、NEX-5の背面ボタンのうち、下側にあるソフトキーBとコントロールホイール中央のソフトキーCにカスタマイズ機能を追加するというものだ。
ソフトキーBは、もともと「撮影アドバイス」機能が割り当てられており、どのモードでも常にアドバイスが表示される状態だった。iAUTO撮影時はともかく、P/A/S/Mモードでカメラに慣れた人が使う場合も常時表示されていたため、使っていないユーザーも多いのではないだろうか。仮に初心者であっても、いつかはカメラに慣れて不要になるわけで、それをカスタマイズで変更できるのはあるべき姿だと思う。
カスタマイズ機能では、ここに撮影モード、撮影アドバイス、プレシジョンデジタルズーム、ISO感度、ホワイトバランス、測光モード、調光補正、DRO/オートHDR、クリエイティブスタイル、MFアシストという10の機能が割り当てられるようになった。撮影中は、ソフトキーBを押すことでダイレクトに設定が呼び出せるので、頻繁に使う機能を割り当てると良さそうだ。
ソフトキーのカスタマイズ設定。ソフトキーBに1つ、Cには3つの機能を割り当てられる | ソフトキーBには撮影で使う設定を割り当てられる |
ソフトキーCは、これまでiAUTO時は背景ぼかしコントロールの呼び出し、それ以外では撮影モードの呼び出しを行なうボタンだった。新ファームウェアを適用してカスタマイズを設定した場合、ソフトキーCを押してカーソルキーを左右に押すと、設定した3つの機能が呼び出せるようになる。といっても4方向キーの役割を変更するのではなく、あくまでショートカットキーを呼び出すもの、と考えた方がいいだろう。
ソフトキーCは、撮影モードを割り当てるか、カスタム機能を割り当てるかが選択できる | 設定できる項目はソフトキーBとほぼ同じだが、撮影モードの変更は設定できない |
ソフトキーCに割り当てられるのは、オートフォーカスエリア、ISO感度、ホワイトバランス、測光モード、調光補正、DRO/オートHDR、クリエイティブスタイルの7種類。その内3つまでを割り当てられる。
実際の設定画面では、ソフトキーCを押すと最後に設定した項目が呼び出され、カーソルキー左右で項目を変更する。このやり方だと3種類以上の項目設定も可能という気もするが、今回は3種類だけ。増えすぎると冗長になるのでこのくらいで良さそう | ちなみにオートフォーカスエリアで「フレキシブルスポット」を選ぶと、ソフトキーBはフォーカス設定に切り替わる |
このソフトキーCのカスタマイズは、撮影モード変更との排他利用になるので、カスタマイズした場合は、撮影モードを変更するにはメニューにアクセスする必要がある。従来のiAUTOモードの時と同じ操作になるわけだ。撮影モードを頻繁に行なうけどカスタマイズもしたい、という場合は、ソフトキーBに撮影モードを割り当て、ソフトキーCをカスタマイズすると良さそうだ。
このカスタマイズのメリットは個人的に大きく、簡単に撮影機能にアクセスできるので、積極的に設定を変更したくなる。「初心者はISO感度やホワイトバランスなどの難しいことは考えずに撮影できるように、機能はなるべく隠す」のではなく、「簡単にアクセスできないと使わないので、なるべく分かりやすくする」というUIの方が、個人的にはいいと思う。今回のNEX-5は、従来のUIを維持しながらカスタマイズ機能を追加した形だが、これによって各種機能にアクセスしやすくなったのは確かだ。
もっとも、自分でよく使う機能を選択することが必要なので、ある程度撮影に慣れた人でないと設定しにくいかもしれないが、いずれにしても個人的にはありがたい機能追加だ。
ちなみに、コントロールホイールの4方向ボタンの設定自体は変わっていない。NEX-5には内蔵ストロボがないが、十字キーの右方向にはストロボが割り当てられていて、ストロボ非装着時にはエラー表示が出る。将来的に、ストロボの装着状態に合わせて機能が変わると面白そうだ。
ストロボ非装着時にコントロールホイールの右を押したところ |
現時点では、ソフトキーBにISO感度、ソフトキーCにはオートフォーカスエリア、ホワイトバランス、DRO/オートHDRの設定を割り当てているが、この辺りは使い込んでいくうちに変化しそうだし、撮影する状況に応じて変更しても良さそう。この辺りがソフトウェア的に設定を変更できることの強みだ。
なお、カスタマイズできるのは撮影モードがP/A/S/Mの時だけ。それ以外は、iAUTOモードを除いてソフトキーBに撮影アドバイス、ソフトキーCに撮影モードという割り当ては変わらない。
2.と3.も、操作性を向上させる機能追加だ。「メニュー呼び出し先」はメニューのセットアップ内の設定から変更し、「先頭」または「前回位置」から選択できる。
メニューの「セットアップ」にある「メニュー呼び出し先」から選択する。「先頭」は従来通りの動作になる |
NEXの場合、一度メニューで設定を変更し、メニュー画面から離れたあと、再びメニューボタンを押すと、その直前まで操作していたメニューの項目にカーソルがある状態になる。たとえば「明るさ・色あい」でISO感度を変更したあと、撮影して再びメニュー画面になると、カーソルは「明るさ・色あい」のところにあるので、そのまま中央ボタンを押せば設定ができる。これは今までと変わらないのだが、従来は必ず画面の先頭にカーソルがあったので、再びISO感度を変更したい場合はISO感度までカーソルを移動させなければならなかった。
メニュー呼び出し先を「前回位置」に変更すると、これがISO感度の位置まで覚えてくれるようになった。ISO感度を再び変更したい場合は、メニューボタン→中央ボタン×2で再びISO感度設定画面に移動できる、というわけだ。
さらに、これまでメニューの項目を選択する際、画面の一番上から一番下までカーソルがループしなかったが、これもループするようになった。今までは特に、メニュー画面から離れるとカーソルが先頭位置に戻っていたので、一番下の項目を設定変更するのがかなり面倒だったので、これでかなり手間が軽減される。
たとえば「セットアップ」の場合、選択項目が多いので、一番上から下まで移動するのは結構大変。今回からループするようになったので、一番上にカーソルがあったら、そのまま上ボタンを押すと一番下に移動するのは助かる |
■動画記録で絞り操作が可能に
撮影機能での変更点としては、5.の「動画の絞り値保持機能追加」が挙げられる。NEX-5では、AVCHDのフルHD動画が撮影できるのが特徴の1つだが、設定項目はほとんどなく、基本的にはフルオートの撮影になる。今回の機能追加で、これに絞り設定ができるようになっている。
絞り設定といっても、撮影中にリアルタイムに変更することはできないが、撮影直前に設定していた絞りをそのまま維持して撮影できるようになった。
この機能が威力を発揮するのは、iAUTOモード時と絞り優先モード時の時。iAUTO時に背景ぼかしコントロールを呼び出し、絞りを設定した上で動画ボタンを押して動画を開始すると、画面上に絞り値が表示された状態で撮影が行なわれる。Aモード時も同様で、絞りを変更して動画撮影を行なうと、絞りが画面上に表示される。
Aモードで絞りをF5.6にして撮影したところ。下部に「F5.6」と表示されている | こちらはF22まで絞りを絞ったところ。ピント位置は変えていないが、画面のボケが解消されているのが分かる |
これによって、ボケを生かした動画が撮影できるようになり、逆に被写界深度を深くした動画を撮る、といったことができるようになっている。NEX-5の動画は、基本的には絞りを開けた状態で撮影されているようだが、実際に任意の絞りを設定できるようになったのはうれしい。
動画撮影機能に関しては、キヤノンのEOS 5D Mark IIが少しずつ機能を追加して、映画業界で一目置かれる程のレベルにまで機能を充実させたが、こうした取り組みもNEX-5に期待したいところではある。ただ、そもそもの価格やターゲット層も違うし、NEX-VG10もあるし、と考えると、そこまでのサポートはさすがに難しいだろう。
いずれにしても、絞り設定ができるようになったことで、動画の表現力は向上したのは歓迎したい。
- 動画作例のサムネイルをクリックすると、未編集の撮影動画をダウンロードします。再生についてのお問い合わせは受けかねます。ご了承ください。
【動画】E 16mm F2.8の絞り開放で撮影した動画。背景が大きくボケている |
【動画】同じくE 16mm F2.8でF10まで絞った動画。AFのためピント位置が背景にいってしまっているが、ボケ量が大きく減っている |
ほかにも、4.「MFアシストの操作性改善」という機能も追加されている。これは、MF撮影時にピント位置を拡大表示するMFアシストで、拡大表示時間を設定する機能だ。標準の2秒に加え、5秒と無制限の3種類から選択できるようになっている。じっくりとMFを設定したい場合には、秒数を長くとるといいだろう。
MFアシストの設定画面。「切」にすると拡大表示をしなくなる |
このほか、AマウントアダプターでAFが可能になる6.も大きな改善内容といえるが、別記事で紹介する予定があるため、本稿ではとり上げない。
とにかく、今回のNEX-5のバージョンアップは内容が豊富で、しかも大きくNEX-5の使い勝手を向上させる機能が盛り込まれた。個人的には、このバージョンアップで、さらに人に勧めやすくなったといってもいい。あとは、ドイツで開催されたフォトキナにおいて出展されたレンズやストロボが早く登場して欲しいところだ。
2010/10/26 18:27