ニコンD7000【第3回】

高機能になったカメラ内RAW現像

Reported by 吉森信哉


 本連載の主役であるD7000もそうだが、デジタル一眼レフカメラには、カメラ内RAW現像を機能を搭載した機種がいくつかある。……実はいま「最近のカメラには」という常套句を使いそうになったが、考えてみれば、カメラ内RAW現像を搭載したカメラは、割と前から存在していた。たとえば、2006年11月に発売されたペンタックスK10Dとか、2008年2月発売のニコンD60など。これまでカメラ内RAW現像に積極的でなかったキヤノンも、今秋発売のEOS 60Dで搭載している。

 つい最近、デジカメWatchの週刊アンケートで「カメラ内RAW現像を活用している?」というお題があったけど、集計結果では「使っている」という人は20%強と少数派だった。ただし、所有しているカメラにカメラ内RAW現像機能がないという人もけっこう多いだろうし、そもそも「JPEG派なのでRAWモードでは撮らない」という人もいるだろう。だから“カメラ内RAW現像のあるカメラを所有していて、日常的にRAWモードで撮影する”という人に限定してアンケートを取れば、もっと「使っている」率が高くなるに違いない。ええ、ボク自身も、けっこうカメラ内RAW現像使ってますから。もちろん、基本スタイルは“PCでRAW現像ソフトを使用”だけど、カメラで簡単にRAW現像できれば、撮影後に人に渡す場合とかに便利なのだ。

 ただし、どんなに手軽で便利なカメラ内RAW現像機能も、調整できる内容が貧弱だと一気に萎えてしまう。実は、これまで使用してきたD5000も含め、多くのニコン機がコレにあたる。調整可能な項目は、画質モード、画像サイズ、ホワイトバランス、露出補正、ピクチャーコントロールの計5項目。このうち、画質モードと画像サイズは、基本的に絵作りには関係ないので、実質「3項目」となる。まあ、D90が発売された時には「D60と違って調整の最中に効果が確認できて便利!!」と、そういう点に感心してたからねぇ。とはいえ使用頻度がまったくないというわけではなく、当時、地方取材でD90のRAW現像機能を使用して、同行した担当編集者に現像データを渡したこともある。

RAW現像時の画面表示(D7000)RAW現像時の画面(D5000)

 でも、最近のニコン機では、少しづつ調整できる項目が増えている。D300Sでは、高感度ノイズ低減と色空間が追加された。フルサイズ機らしくD3Sでは、さらにヴィネットコントール(レンズ特性による周辺光量低下を低減する機能)も追加された。なお、これまでの多くの機種も、RAW現像の前(撮影時ではない)に設定しておけば、ノイズ低減と色空間が選択できた。

 そしてD7000ではD-ライティングも調整できるようになった。画像の暗い部分を明るく補正する機能である。ただし、これは撮影時に使用するアクティブD-ライティングとは違う。では、どう違うかというと……作例写真と照らし合わせて説明してみよう。

  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、別ウィンドウで800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
撮影画像(JPEG)
WB:晴天 / ピクチャーコントール:ビビッド(彩度+1) / ±0EV / アクティブD-ライティング:標準
現像画像(JPEG)その1
WB:晴天 / ピクチャーコントール:ビビッド(彩度+1)  / ±0EV / D-ライティング:標準
現像画像(JPEG)その2
WB:晴天 / ピクチャーコントール:ビビッド(彩度+1) /  ±0EV / D-ライティング:しない

 まず、撮影画像(RAW同時記録のJPEGデータ)と同様の設定でRAW現像してみたところ、現像画像(JPEG)その1の方が、日陰部分が明るい。これが撮影時のアクティブD-ライティングとD-ライティング」の効果の違いだろうか。説明書によると、アクティブD-ライティングは「ハイライト部の白トビを抑え、暗部の黒ツブレを軽減する効果があります」とあり、D-ライティングの説明は「画像の暗い部分を明るく補正できます」になっている。ハイライトの扱いなどで、両者が微妙に別物であるのはわかったが、暗部に限定して比較してみても、どうも違う感じがする。

 そこで、ほかの項目はそのままに、D-ライティングだけを「しない」に設定して現像してみた。それが現像画像(JPEG)その2だ。すると、撮影画像とほとんど同じ仕上がりになった! ということは、RAW現像時のD-ライティングは、RAW現像での露出補正と同じように、撮影時の設定に上乗せされるのかも!?

 逆にアクティブD-ライティングを撮影時に適用してしまうと、持ち上げた暗部をより暗くすることはできない、ということになる。RAW現像時にD-ライティングを「しない」に設定しても、撮影時のアクティブD-ライティングの効果を打ち消すことはできないからだ。

 でも、ピクチャーコントロールを変更することで、コントラストを変更することは可能だ。下の写真はアクティブD-ライティングを「標準」にして撮影したモノだけど、後で見たら「暗い部分をより暗くして、明るい部分とのメリハリをつけたい!!」と思った……とする。そこでピクチャーコントロールを「スタンダード」から「風景」に変更。色鮮やかさが増すと同時にコントラストも高めになって、明るい部分と暗い部分とのメリハリがつくようになる。

撮影画像(JPEG)
WB:オート1 / ピクチャーコントール:スタンダード / -0.7EV / アクティブD-ライティング:標準
現像画像(JPEG)
WB:晴天 / ピクチャーコントール:風景(コントラスト+2) / D-ライティング:しない

 また、ここではピクチャーコントロール調整(マルチセレクターの右側を押すことで調整画面に入る)で、コントラストを+2に設定して、さらにメリハリを強めた。まあ、ピクチャーコントロールの種類を変えずに、そのまま調整画面に入ってもイイんだけど、この被写体だと「スタンダード」より「風景」の方が適してるかな、と。

 風景を撮影する際のホワイトバランスは晴天が基本だけど、周囲の状況によっては、日陰などで色カブリが生じて気になることもある。普通は緑色カブリが多いんだけど、ここでは黄色カブリが生じた。日陰が青っぽくなるのはイヤだけど、この色も不自然でイヤだなぁ。ということで、RAW現像時にホワイトバランスをオートにしたら、この場面ではイイ感じの色調に調整できたヨ。ついでに、D-ライティングを[弱め]に設定して、少し柔らかい雰囲気に仕上げてみました。

撮影画像(JPEG)
WB:晴天 / ピクチャーコントール:ビビッド / -0.7EV / アクティブD-ライティング:弱め
現像画像(JPEG)
WB:オート / ピクチャーコントール:ビビッド / D-ライティング:弱め

 背景の明るい黄葉をぼかして、ほのかに色づいた紅葉をクローズアップ撮影。すると、明るい背景の影響で、狙った紅葉がかなり暗めに写ってしまった。そこで、D-ライティングを標準に設定して明暗差を改善しつつ、さらに露出補正を+0.7にして、全体的に明るくて爽やかな画面にした。また、ホワイトバランスを[晴天]に設定し、ピクチャーコントールをビビッドにすることで、色鮮やかさも強調した。

撮影画像(JPEG)
WB:オート1 / ピクチャーコントール:スタンダード / ±0EV / アクティブD-ライティング:しない
現像画像(JPEG)
WB:晴天 / ピクチャーコントール:ビビッド / +0.7EV / D-ライティング[標準]

 RAWモードで撮影する場合、パソコンでRAW現像するのが前提なら、ホワイトバランスやピクチャーコントロールなどは、現場で設定や調整をする必要がない。でも、そういった絵作りに大きな影響を与える部分(調整項目)がノータッチというのは、どうしても抵抗があるんだよねぇ……。ボクも含め、多くのRAW派の人は「RAW+F」や「RAW+L」などのJPEG同時記録で撮影していると思うけど、撮影時にホワイトバランスやピクチャーコントロールがノータッチということは、極端な話、そのJPEG画像は単なる確認用という扱いになる。こんな撮り方に慣れきってしまったら、多くのコンパクトデジカメ(JPEG記録のみ)は使えなくなるわな(苦笑)。

 パソコンでのRAW現像が基本だと思うけど、ボク自身は撮影現場での画質調整にも力を入れたいと思っている。撮影現場で仕上がりを確認して調整する……これが“デジタルカメラの醍醐味”のような気がするから。もちろん、被写体や撮影状況によっては、撮影時に細かい調整ができない、あるいはしきれないこともある。でも、D7000のカメラ内RAW現像は、かなりイイ線まで追い込めるので、撮影を終えた後のちょっとした空き時間とかに、カメラ内で表現を固めたり昇華させたりできるんだよね。ということで、今後もカメラ内RAW現像機能は、積極的に活用していきたいと思う。

D7000のカメラ内RAW現像機能。今後も使っていきたいと思う


吉森信哉
(よしもりしんや)1962年広島県庄原市出身。東京写真専門学校を卒業後、フリー。1990年からカメラ誌を中心に撮影&執筆を開始。得意ジャンルは花や旅。1970年代はカラーネガ、1980年代はモノクロ、1990年代はリバーサル、そして2000年代はデジタル。…と、ほぼ10年周期で記録媒体が変化。でも、これから先はデジタル一直線!? 自他とも認める“無類のコンデジ好き”

2010/11/24 15:57