交換レンズレビュー
Otus 1.4/28
カールツァイス渾身の広角単焦点 圧倒的な描写力
Reported by 大浦タケシ(2016/3/2 08:00)
「Otus」と言えば、価格や携帯性などによる妥協を排除し、光学特性をひたすら追い求めたツァイスの35mmフルサイズ対応交換レンズシリーズである。
すでに「Otus 1.4/55」と「Otus 1.4/85」の2本がリリースされ、圧倒的な描写特性と、これまた圧倒的なプライスタグで注目を集めている。ちなみにOtusとは、フクロウ科のコノハズクのこと。闇夜でも優れた視力を持つことから、本レンズのシリーズ銘になったという。
今回、その第3弾として「Otus 1.4/28」がリリースされる。前玉の化粧リングに刻まれた「Apo-Distagon」が示す通りアポクロマート仕様のレトロフォーカスタイプとする光学系の描写をじっくり見てみることにしたい。
デザインと操作性
鏡筒のデザインはこれまでのOtusシリーズを踏襲する。焦点距離や開放F値を考慮してもなお巨大で重量級ともいえる鏡筒は圧巻。レンズの先端側がラッパ状に緩やかに広がる独特のシェイプもこれまでと同じだ。
ちなみに付属する金属製のレンズフードもデザイン的に鏡筒と一体化したものとしている。距離目盛りなどに記されたフォントの色は一般的な白色でなく黄色とするのも、この交換レンズが他と素性が異なることを象徴している。
キヤノンEFマウント用(ZE)とニコンFマウント用(ZF.2)をラインナップするが、どちらもフラッグシップモデルに装着してもカメラに負けない自己主張っぷりとなることだろう。なお、鏡筒のサイズは109×129.5mm、質量は1,340gとする(いずれもZEレンズ)。
MF専用とするOtusシリーズだが、本モデルも変更はない。フォーカスリングのトルク感は適度な重さのあるもので、その動きは極めてスムース。フォーカスリングの回転角は大きくないものの、操作により拡大したライブビューに合焦面が浮かび上がる様子は感動的に思えるほどである。
前述のようにマウントはキヤノン用とニコン用が選択できるが、それぞれの純正レンズに合わせたピントリングの回転方向なのも気の効いたところである。
遠景の描写は?
開放絞りでは描写の緩みがわずかに見受けられるものの、それ以外は不足をまったく感じさせない描写である。特に絞りF2.8あたりからの描写はエッジが極めて高く、画面周辺部まで文句のつけどころがない。Otusシリーズの本領が発揮されると述べてよい。
周辺減光の発生については開放絞りでは大きいものの、絞り込むに従い急激に改善され、絞りF4でほぼ解消される。広角レンズとなると歪曲収差が気なるが、それについても良好に補正されており全く気にならないレベルだ。
色のにじみは条件によって見受けられることがあったが、いずれも極小さいもので目障りに感じるようなものではない。
サードパーティ製の交換レンズはカメラやその純正の画像ソフトの補正機能に対応しない場合がほとんどだが、本レンズではそのことに関して不安視する必要は一切ないはずだ。
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
※共通設定:EOS 5Ds R / -0.3EV / ISO100 / 絞り優先AE / 28mm
ボケ味は?
当初、焦点距離的にさほど興味を抱くようなものではないだろうと思っていたボケ味だが、それは見事に裏切られる結果が得られた。
特に開放絞り付近のボケ味は上々で、撮影距離によっては被写体同士が濁りも無く柔らかく溶け合っていく。さらに合焦面からデフォーカスとなるまで滑らかにボケが大きくなっていき、乱れのようなものは一切感じないものである。
開放F1.4の明るさを活かし、バストアップ程度のポートレート撮影でも十分効果的なボケが得られるのも本レンズの魅力といえる。ちなみに最短撮影距離は0.3mだ。
逆光耐性は?
画面のなかに太陽が入る条件では、撮影した画像を見るかぎりゴーストが数点見受けられたものの、フレアは光源の周囲のみの発生のみとしまあまあの結果。ゴーストについては極小さいものなので、消せる可能性も高く、描写にさほど影響はないように思える。
太陽を画面の外に置いて撮影した場合では、ゴーストは数点見受けられ、フレアはやや広い範囲で発生している。僅かな角度の違いによっては発生しないこともあり明確な要因は分からないが、レンズの使用枚数が16枚と多いため内面反射が特定の条件では発生しやすいのかもしれない。
作品
絞りはこの交換レンズの描写のピークと思われるF8。キレおよびコントラストが高く、クリアな描写だ。画面左端の白い建物の部分に僅かな色ズレが見受けられる。
スッキリとしたヌケのよい描写である。絞りはF4。この絞り値になると周辺減光は大きく改善され、全く気にならないレベルとなる。ディストーションの発生も皆無だ。
フォーカスリングの無限遠側の突き当たりはオーバーインフとなるので、遠くの被写体の場合でもしっかりとピント合わせを行う必要がある。正確なピント合わせにはライブビューの拡大機能を使うのがオススメ。
被写体に寄るとその開放値から大きなボケが得られる。ボケ味は柔らかく、クセを感じさせないものだ。絞り開放でもコントラストは高く、像の乱れなどないのも本レンズの特筆すべき部分。
絞りは開放から1段絞ったF2で撮影。合焦面のシャープネスは高くキレのよい描写である。わずかに周辺減光が見受けられるが、さほど気になるようなレベルではないだろう。
開放絞りながらコントラストは上々。ピントの合っている部分のシャープネスも高い。MF専用とするため、ピント合わせには神経を使うが、その結果は極めて満足度の高いものだ。(モデル:三嶋瑠璃子)
まとめ
正直に話せば、ファインダーでのピントを合わせに関しては気難しい交換レンズである。この交換レンズの性能をフルに表現に活かしたいのであれば、ライブビューの拡大機能を使いピントを合わせるのがベストだろう。もちろんその場合はカメラを三脚にセットする必要もあるが。
とはいえ、ピントの合ったときの描写は圧倒的だ。詳細については既出のとおりであるが、筆者が何より驚いたのが、デジタル処理なしの光学系だけで諸収差をしっかり抑えていること。もちろんそれには光学特性の優れた品質の高い硝子材の使用や、十二分に吟味され余裕ある光学設計などが必要不可欠となるが、言うまでもなく本レンズはそれらの要素を満たす完全無欠の交換レンズといえるだろう。
裕福なツァイス愛好家のなかには先に発売されたOtus 1.4/55とOtus 1.4/85の2本に加え、本レンズでも撮影を楽しみたいと思う人も当然いるだろう。でも合計で3.5kgを超える質量は(ZEの場合)、経済的な余裕のほか、体力も必要とすることはいうまでもでない。