スライドビューワーで作る「コンツールファインダー」
Reported by糸崎公朗
自作「コンツールファインダー」を装着し、さらに異形の姿に変身したリコーGXR A16ユニット。コンツールファインダーは光学ファインダーの一種で、両目を開けて見ると正確なフレーミングが可能になる。今回はこのアクセサリーを、35mmスライドビューワーを改造して製作してみた |
■35mmフィルムビューワーをリサイクルしたファインダー
35mmのスライドフィルムを覗くためのスライドビューワーは、デジカメが主流の現在では無用の長物と化しているが、ふとこれを利用して「コンツールファインダー」をつくる、というアイデアが突然閃いてしまった。
カメラの歴史は、ファインダーの歴史でもある。現在よく使われる「デジタル一眼レフ」とか「ミラーレス一眼」という言葉も、要は写真の構図を決めるためのファインダー形式を表している、と言うことができる。
一眼レフが主流になる以前のフィルムカメラは、「ビューファインダー」と言われる方式が一般的だった。これは要するに構図を決めるための覗き窓で、視野の輪郭がぼやけて正確な構図を決めることが困難だった。
ところが1954年に発売された「ライカM3」は、画期的な「ブライトフレームファインダー」を装備していた。基本構造はビューファインダーだが、視野周辺に輝くような白いフレームがクッキリ浮かび、これまでのカメラに比べ格段に正確な構図が決められるようになった。
このファインダーは当時のあらゆるカメラメーカーに影響を与えたが、構造が複雑で製造困難なため、同様な効果を生むいくつかの簡易方式が考案された。
その中で、これ以上シンプルにしようがないという構造をしているのが、今回紹介するコンツールファインダーである。コンツールファインダーはドイツの名門フォクトレンダーが製造した外付け式が有名で、他には二眼レフのリコーフレックスにもアイレベルファインダーとして内蔵されていた。
コンツールファインダーは、普通に片目で覗くと真っ暗な視野の周辺にフレームが見えるだけである。ところが右目でファインダーを覗き、左目で実景を見ると、視野の中に白いフレームがクッキリ浮かんで見える。左右の眼の映像が脳内で合成され、ファインダー視野が形成されるのだ。
と言うようなコンツールファインダーを今回自作してみたのだが、脳機能を利用したファインダーなだけに、科学実験としてもなかなか面白い。以下、製作手順を紹介しよう。
―注意―
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素材となったハクバ製35mmスライドビューワー。本体もレンズもプラスティックで、確か1,000円でお釣りが来る値段で売られていた。今回、工作のために購入しようとしたのだが、すでに在庫無し。自分のストックを使用することにした | まずはフレームスクリーンを製作する。35mmスライドマウントに、透明フィルムに黒ケント紙(35mmフィルムの画面より一回り小さくカット)を貼ったパーツを挟み込む |
でき上がったフレームスクリーン。35mmフィルム画面を黒ケントで覆い、周辺部だけを通過させる構造になっている | スライドビューワー本体には、カメラ装着シューを取り付ける工作を行なう。ご覧のようにABS板をカットし、ドリルでねじ穴を開け、4つのパーツを製作した |
すべてのパーツを本体裏側にネジ止めすると、コンツールファインダーの本体が完成する | コンツールファインダーにスクリーンを差し込むんだところ。折りたたみ式のスライドストッパーは、元のビューワーに装備された機構だ |
そこで、黒ケント紙をL字に折った遮光パーツを製作し、スクリーン上部に両面テープで貼り付けた | 光漏れ対策をしてようやく完成。もとのA16ユニットのスタイルと相まって、なかなかマニアックで凄みのあるカメラに仕上がった(笑)。このコンツールファインダーの画角はライカ判換算50mm相当で、A16ユニットのレンズも「ステップズーム」機能でそのレンジにセットし、使用することにする |
■コンツールファインダーとA16ユニットの使用感
自作したコンツールファインダーは画角を計算して製作したわけではないので、ズームレンズを装備したA16ユニットに装着し、ファインダーとの画角を微調整し使用するつもりでいた。しかしテストの結果、その画角はおおよそライカ判換算50mm相当の画角に一致していた。そこでレンズをステップズーム機能により50mm相当に固定して使うことにした。
このA16ユニットを装着したGXRは、カメラとして非常にユニークな存在で、かなりぼく好みだと言える。まずコンパクトなボディに巨大なレンズを装備したアンバランスさに惹かれる。このレンズはピントリングはおろかズームリングも装備されていない土管のようなデザインで、シンプル極まりない。さらにレンズ先端に大型の自動開閉キャップを装備すると、ミサイルか何かの発射口のようで迫力満点だ。実際、電源オンでキャップが開きレンズがせり出してくる様は、まさにSFメカである。
このような押しの強い外観に似合わず、持った感じが意外に軽いので驚いてしまう。レンズ鏡筒にプラスティック素材が多用されているためだろうが、単なる安物ではなく、“チープな良さ”が滲み出た作りで大変に好ましい。ズームは電動式で、ボディのズームレバーにより操作するが、リコーお得意のステップズーム機能で24/28/35/50/70/85mm相当の各焦点距離に固定することもできる。
A16ユニットは端的に表現すれば、APS-Cサイズセンサーを搭載しながら、その操作系はデジタル一眼レフのそれではなく、コンパクトデジカメを継承している。このように、様々にアンバランスな要素を含みながら、カメラとしての“基本”がキチンと押さえられているのが、このカメラの魅力だと言える。
さて、コンツールファインダーの使用感だが、目の前の風景に四角いフレームが浮かんで見える光景は、写真撮影はまさに“風景を切り取る”と言われている通りである。その意味で合理性があり実用的なファインダーだと言えるだろう。
とは言え、自作のファインダーフレームはイトマキ収差が生じてしまったし、撮影画面と多少のずれがあるのはやむを得ない。しかしそのズレを含めて表現に活かすのも、デジタルカメラと光学ファインダーをあえて組みあわせることの意義なのだ。
■今月の作品「反-反写真」について
相変わらず「反-反写真」のコンセプトのもと、“普通のモノクロ写真”を撮影したのだが、実のところこのシリーズは自分の中ではもう行き詰まっている。
もともとぼくは、いわゆる普通の“写真”を否定した“反写真”的な表現をするアーティストで、11月28日までさいたま市大宮盆栽美術館で個展開催中の作品「盆栽ツギラマ」もその1つである。
しかしぼくはふと、自分が“写真”をよく知らずに“反写真”的な表現をしていることに気付き、あらためて“反写真”をさらに反転した“反-反写真”のコンセプトによって、普通の“写真”を撮り始めたのだ。
その経緯はこの連載記事でもたびたび報告し、作品も掲載してきた。そしてついにこの4月に清澄白河のTAP Galleryで個展「反-反写真」を開催し、カメラ雑誌の巻頭グラビアに作品掲載もされた。
ところがである。そのように言わば“目的”が達成されてしまうと、その満足と共に写真に対する情熱も徐々に失われてゆくことが、自分に対して観察できるのである。
有り体に言えば飽きてしまったのだが、当初はあれほど情熱を持ち、一時は毎日のように撮影していた反-反写真だが、個展を開催し「糸崎さんはモノクロ写真も上手いですね」などと褒められると飽きてしまう、というのは我ながら現金な話だ。
実際、今回のコンツールファインダーを使った撮影も、楽しいと思うのは確かだが、一方ではどうしようもない行き詰まりを感じてしまうのだ。
実は最近、デスモンド・モリス「美術の生物学-類人猿の画かき行動」(法政大学出版局)という古い本を読んだのだが、チンパンジーなどのサルに絵を描かせる実験の報告がされていた。
野生の類人猿はもちろん絵は描かないが、紙と画材を与えてやり方を教えてやれば、自ら進んで絵を描くようになる。それは抽象的な殴り描きに過ぎないが、興味深いのはサルが人から褒美をもらわなくとも絵を描くことである。
サルたちは、自分の絵に満足を見出す「自褒行為」によって絵を描く。だから褒美をあげて絵を描かせようとすると、かえって絵がおざなりになり、終いには描かなくなってしまう。
これは人間的行為としてのアートにとっても本質的な問題で、例えば、写真のコンペで賞をもらった新人写真家の大半は、その成果を頂点として消えてしまうのである。しかし、褒められることが励みになってアートが続けられるのも事実であり、人間の事情はなかなか複雑である。
“人から褒められると制作ができなくなる”問題は、今回の反-反写真に限らない自分自身の問題でもある。実際ぼくはこれまで賞をもらったり、個展をしたり、作品集を出版したりする度に、行き詰まりを感じ挫けそうになってきた。
だから人間がサルを超えてアーティストを続けるのは大変なことで(笑)だからぼく自身の“写真”についての取り組みも、生きず真理を観察しながらそれを超えて展開する必要があると言えるのだ。
■告知
・糸崎公朗作品展「盆栽×写真vol.2」(大宮盆栽美術館)
盆栽をモチーフとする写真作品展。期間は10月5日~11月28日。会場で作品集「Kimio Itozaki Bonsai_PHOTO_WORKS 糸崎公朗 作品集」(発行:モデルノ、発売:エイアールディー)を先行販売する。詳細はこちら。
2012/11/26 00:00