リコー「CX6」に簡易型レンズフード装着する

Reported by糸崎公朗

リコー「CX6」に装着できる望遠撮影専用のレンズフードを製作。だが検証の結果、CX6のレンズはそのままでも十分に逆光に強いことが判明。このフードも“アイデア倒れ”なのだが(笑)それも含めた“思考の過程”を見ていただければと思う

望遠撮影に特化した、簡易型レンズフード

 ぼくは最近、出かけるときは必ずリコーCX6を携行し、道すがら見かけた鳥を撮ることを試みている。昆虫が専門のぼくにとって、鳥はどこにいるのか分からず、神出鬼没の生物だ。だから一眼レフカメラに望遠ズームを装着した重い機材を持ちながら、鳥だけを探し歩くという撮影は、どうにも大変だ。

 しかし鳥のことを少しでも気に掛けながら街を歩くと、ふと鳥の声が聞こえたり、思わぬ鳥との出会いがあったりする。そのような瞬間をすかさず撮影するには、CX6のような、超望遠撮影が可能なポケットサイズのカメラが実に重宝する。

 ただちょっと気になるのは、CX6のレンズにはフードが装着できない点だ。一眼レフカメラ用の望遠ズームには、有害光による内面反射を防ぐための、レンズフードが必需品になっている。だからCX6のレンズにもフードを装着すれば、画質がアップする可能性がある。

 そこで今回はCX6の望遠撮影に特化した、簡易レンズフードを考えてみたのだが……。

―注意―

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リコーCX6の28~300mm相当のズームレンズを、望遠端まで伸ばしたところ。しかしこのレンズには、フードが装着できないところがちょっと不安。一眼レフカメラの場合、望遠ズームには有害光をカットするフードの装着が不可欠だと言われているからだそこで、CX6の簡便性と携行性を損なわない形態の、レンズフードを考えてみた。まず用意するのは、100円ショップで購入したクリアホルダー。このポリプロピレン製シートの表紙が、素材になる
ポリプロピレンのシートは150×60mmにカットし、さらにカッターで軽く切れ込みを入れる。切れ込みの位置は左から40mm、70mm、110mm、140mm。シートの右端10mmはのりしろになる。カッターで切れ目を入れた部分は曲げても折れないヒンジになる。これはポリプロピレン素材の特徴で、色んな工作に応用できるだろうシートを折り曲げ、のりしろ部分を両面テープで接着すると、角形フードになる
キリで穴を開け、手芸用のストラップを通して完成。普段は折りたたんだ状態で、カメラにぶら下げて携行する撮影時にはレンズ先端にすっぽりとはめ込む。また、電源オフでレンズが引っ込むと、フードは自然に外れる。このフードは望遠専用で、105mm相当以上でないとケラレてしまう

テスト撮影

 テスト撮影はカメラを三脚で固定し、フードのある/なしで比較を行なった。またCX6は「ステップズーム」に設定し、望遠端300mmから各ステップの焦点距離で撮影した。ステップズームはリコーのデジタルカメラに共通の機能で、ズームの焦点距離を段階的に固定できる、非常に便利な機能だ。

 感度はISO100に固定したが、プログラムオートで撮影したため、カットによって露出に多少のバラツキがある。

※共通設定:CX6 / 3,648×2,736 / +0.7EV / ISO100 / WB:オート

レンズフードあり
レンズフードなし
300mm相当
200mm相当
135mm相当
105mm相当
85mm
50mm相当
 35mm相当
 28mm相当

 さて、結果を見て驚いたのは、フードのあり/なしでほとんど結果に差がないことだった(笑)。つまり今回の実験は“失敗”だったのだが、そのアイデアは他に活かせるかも知れないし、ぼくの思考過程の一環として見ていただければと思う。

 逆に見れば今回の“実験”によって、CX6のレンズコーティング技術が優秀で、逆光に強いことが証明されたと言えるだろう。しかし改めてテスト画像を検証すると、「レンズフードなし」の35mm相当と28mm相当では逆光によるフレアが発生している。つまり50~300mm相当の間でのみ、フレアが抑えられているのだ。

 これはなぜなのか? を考えると、レンズの構造に関係がありそうだ。CX6のレンズを観察すると、ズームが望遠になるごとにレンズ「前群」は前にせり出すが、鏡筒内部の「後群」は逆に奥に引っ込む動きをする。

 つまり広角から望遠になるに従い、レンズの「前群」と「後群の間にスペースができる。レンズ鏡筒内部にスペースができれば、迷光の乱反射が抑えられフレア発生も抑えられるだろう。別の言い方をすれば、鏡筒内部のスペースが、レンズフードのような働きをしている。実に巧妙な設計だが、それが判明したのも今回の怪我の功名と言えるかもしれない。

広角端28mm相当でのCX6のレンズ。レンズ前群を透かして、絞りやシャッターを備えたレンズ後群が見える望遠端300mm相当にズームすると、レンズ後群は奥に引っ込んで見えなくなる。この鏡筒内のスペースがレンズフードの役目をして、逆光時のフレアなどを抑えると考えられる

実写作品と使用感

 さて、レンズフードの実験は失敗だったが、「コンパクトデジカメで都会の鳥を撮る」と言うぼくのプロジェクト自体は、着実に進行しつつある。

 コンパクトデジカメは望遠撮影でも深い被写界深度が得られる。この特性を利用すれば、鳥のいる環境を含めた表現が可能になる。それはつまり、都会の虫を撮る「路上ネイチャー」のコンセプトを拡張した表現なのである。

 ぼくのCX6は「鳥専用モード」とも言えるカスタム設定を、モードダイヤルの「MY2」に登録している。電源ONで自動的に望遠端300mm相当にセットされるのが特徴で、画像表示を「アシストモード」にしている。リコーCXシリーズは初心者向けのカメラだが、豊富なカスタムメニューを活用すれば、マニアックなカメラに変身させることもできるのだ。

 テスト撮影で逆光に強いことが証明されたCX6のレンズだが、しかし特に望遠時の描写については、ものすごくシャープだとは言いかねる。また画質についても、ノイズを画像処理で潰したような不自然さがある点が、ちょっと気になる。

 しかしそれは、同クラスの「高倍率ズームレンズ付きコンパクトデジカメ」に共通の欠点で、むしろCX6は1,000万画素に抑えられているだけ“良心的”と言えるかもしれない。

 だがぼくとしては、例えば高性能な100~400mm相当の望遠ズームレンズを装備し、「GR DIGITAL IV」と同一のCCDを搭載した「GR DIGITAL 400」みたいな、望遠専用コンパクトデジカメが欲しくなってしまう。このカメラに「望遠マクロ機能」を付加したらそれなりに広い需要が見込めるような気がするのだが、みなさんどうでしょう?(笑)。

国分寺市で撮影した、熟れた柿の実をついばむスズメ。枝が入り組んだ条件だったが、上手くスズメにピントが合ってくれた。しかしこのように鳥を地上から見上げて撮影すると、たいてい背景は青空と電線になり「路上ネイチャー」写真としては面白味に欠けてしまう。CX6 / 約3.7MB / 3,648×2,736 / 1/310秒 / F5.6 / 0EV / ISO109 / WB:オート / 52.5mmワークショップの撮影で訪れた、三宮駅前にいたスズメ。植え込みのヒメツルソバの実をついばんでいたのかも知れない。背景に人の足が写り込んで、理想的な「路上ネイチャー」写真になったと言える。CX6 / 約3.5MB / 3,648×2,736 / 1/310秒 / F5.6 / 0EV / ISO351 / WB:オート / 52.5mm
ナンキンハゼの実をついばむ瞬間のスズメ。名古屋市内での撮影だが、背景にビルの窓が確認できるので、都会の雰囲気は出ている。単純な日の丸構図だが、シャッターチャンスを優先するため、AFポイントの移動を省いたのだった。CX6 / 約3.5MB / 3,648×2,736 / 1/189秒 / F5.6 / 0EV / ISO200 / WB:オート / 52.5mm新鎌ヶ谷駅のホームにいたハクセキレイ。CX6のAFポイントを画面下部に移動させ、ピント合わせした。ピクセル等倍にして気付いたのだが、このハクセキレイは右足の指がない。何か事故にあったのかも知れないが、差して不便も無さそうに、普通にチョコマカと走っていた。CX6 / 約3.5MB / 3,648×2,736 / 1/203秒 / F5.6 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 52.5mm
ハクセキレイまで2mくらいまで大接近できたのに、感度設定をISO100に固定していたためブレてしまった。しかしこれはこれで、躍動感があって面白いかも知れない。近所のコンビニの駐車場だが、たびたびハクセキレイがやってくるのだ。CX6 / 約3.5MB / 3,648×2,736 / 1/34秒 / F5.6 / -0.3EV / ISO100 / WB:オート / 52.5mm奈良市の奈良公園にいたハクセキレイ。観光客がシカに与える「鹿せんべい」のおこぼれを狙っているのかも知れない。シカと一緒のフレームに収めるため、ずいぶん苦労してしまった。遠くには人影も写っている。CX6 / 約3.6MB / 2,736×3,648 / 1/440秒 / F5.2 / 0EV / ISO200 / WB:オート / 44.5mm
近所を歩いていたら、ふと目の前にメジロがいたのですかさず撮影。どうということもない写真だが、枝に巻き付けられたイルミネーションのコードが、いかにも都会らしいと言える。CX6 / 約3.7MB / 3,648×2,736 / 1/310秒 / F5.6 / +0.3EV / ISO383 / WB:オート / 52.5mm長野市の実家で撮影したヒヨドリ。室内から窓越しの撮影なのでこれだけ接近できる。降りしきる雪も描写できたが、建物が傾てしまった。撮り直そうと思ったら飛び立ってしまい、やはり鳥の撮影は難しい(笑)。CX6 / 約3.5MB / 3,648×2,736 / 1/310秒 / F5.6 / 0EV / ISO125 / WB:オート / 52.5mm
同じく実家の室内から撮影。庭のナンテンの実をついばむヒヨドリを撮影したら、直後に飛び立った。ブレボケがありながらも、ヒヨドリが赤い実を加えていることが確認できる。CX6 / 約3.5MB / 3,648×2,736 / 1/310秒 / F5.6 / 0EV / ISO703 / WB:オート / 52.5mm鳥ではないけれど、2011年12月11日深夜に撮影した月蝕。出張中の三宮駅前だが、月の手前に建物が写るシチュエーションを探した。三脚を使わず、止めてあった自転車のサドルにカメラを押しつけながら、手持ちで撮影。撮影モードは「ダイナミックレンジ拡大」をセレクトしてみた。CX6 / 約3.6MB / 3,648×2,736 / 1/15秒 / F5.6 / -1EV / ISO1600 / WB:オート / 52.5mm






糸崎公朗
1965年生まれ。東京造形大学卒業。美術家・写真家。主な受賞にキリンアートアワード1999優秀賞、2000年度コニカ フォト・プレミオ大賞、第19回東川賞新人作家賞など。主な著作に「フォトモの街角」「東京昆虫デジワイド」(共にアートン)など。毎週土曜日、新宿三丁目の竹林閣にて「糸崎公朗主宰:非人称芸術博士課程」の講師を務める。メインブログはhttp://kimioitosaki.hatenablog.com/Twitterは@itozaki

2012/1/13 11:50