「FinePix X100」を“メガネ付きファインダー”仕様に改造

Reported by糸崎公朗

レンズにリコー製ワイドコンバージョンレンズ「DW-6」を装着し、その画角に合わせた「メガネ付きファインダー」仕様となった富士フイルムFinePix X100。ライカM3用レンズ「メガネ付きズマロン」にヒントを得た、温故知新のアイデアを試してみた

温故知新のメガネ付き広角レンズ

 ぼくはどうも、単焦点レンズを見るとついワイコンを付けたくなる癖がある。富士フイルム「FinePix X100」もその1つで、ライカ判換算35mm相当の明るく高性能の単焦点レンズを装備している。

 そこで手持ちのワイコンでいろいろテストしてみたところ、リコー製ワイコン「DW-6」がFinePix X100のレンズと最も相性が良いことが判明した。DW-6はリコー「Caplio GX100」、「GX200」、「GXR S10ユニット」に共用のワイコンで、倍率は0.79倍だ。FinePix X100のレンズと組み合わせるとライカ判換算27.65mm相当の広角レンズになる。

 イマドキ28mm相当のレンズを搭載したデジカメはいくらでもあるから、わざわざFinePix X100にワイコンを装着する必然はないかも知れない。しかしこういう無駄に面白いことをするのが“趣味の世界”なのである。

 とは言え、FinePix X100にただワイコンを装着するだけではどうも物足りない気がする。というのも、FinePix X100の特徴はなんと言っても高性能でユニークな光学ファインダーにあり、これを活さなければ改造の面白さも半減してしまうのだ。

 FinePix X100のファインダーは1954年発売のライカM3が採用した「採光式ブライトフレームファインダー」の機構をもとに、最新の液晶技術などを加えた“温故知新”の技術である。と、ここで思い出されるのがライカM3と同時期に発売された、通称「メガネ付き」と言われる広角レンズ「ズマロン35mm F3.5」だ。

 ライカM3のファインダーは50mm、90mm、135mm用のブライトフレームを内蔵しているが、35mm広角レンズには対応していない。そこで当時のライツ社は、ライカM3のファインダーを広角に変換する「メガネ付き」35mmレンズを発売したのだ(後に「ズマロン35mm F2.8」や「ズミクロン35mm F2.0」の「メガネ付き」も発売された)。

 「メガネ付き」広角レンズは今となっては大袈裟なアクセサリーかも知れないが、ユニークでマニアックな魅力がある。ということで温故知新のついでに、この機構をFinePix X100に応用したくなってしまったのだ。とはいえ本物の「メガネ付き」ライカレンズを改造用にばらすのは勿体ないし、第一ぼくは持っていないのだ。

 そこで代用品を探すことにしたのだが、要するにライカの「メガネ付き」とは、光学ファインダーに装着するワイコンである。と思いながら物色していたところ、リサイクルショップでソニー製「ワイドエンドコンバージョンレンズVCL-DE07TB」を発見した。

 このワイコンは本来「サイバーショットTシリーズ」専用で、倍率0.77倍。1枚構成レンズで、カメラ本体をマクロモードにして使用する。外見上は小型でしかも角形で、FinePix X100の光学ファインダー前面に装着できるかも知れない。ということで今回も、いろいろ頭を使いながら改造してみた。

―注意―

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リコー製ワイコン「DW-6」(右)をFinePix X100に装着するには、まずレンズ先端の化粧リングを外して専用のアダプターリング(左)を取り付ける。そして49→43mmのステップダウンリング(中)を介してDW-6を取り付けるFinePix X100にDW-6を装着した状態。ライカ判換算約28mm相当の画角が得られる。ついでにリコー製光学ファインダー「GV-2」(画角28mm相当)も装着してみたが、シルバーボディーにブラックのパーツが意外に似合っている。しかしこのアレンジはいまひとつ“芸がない”
そこで思い付いたのが、FinePix X100の「光学ファインダー」にもワイコンを装着する方法だ。素材となるのはソニー製の「ワイドエンドコンバージョンレンズVCL-DE07TB」。小型で角形なので、FinePix X100の光学ファインダー前面に装着するにはちょうど良い。倍率は0.77倍で、DW-6の0.79倍とそれほど違わないまずはソニー製ワイコンを、ご覧のよう分解してみる
FinePix X100の光学ファインダー前面に、分解したソニー製ワイコンのレンズを当ててみる。しかしワイコンの角とFinePix X100のレンズ鏡筒が干渉し、真っ直ぐ装着できないことが判明したそこで、ソニー製ワイコンの角を、中のレンズごと斜めにカットすることにした。もちろん普通ののこぎりでは切れないので、ホームセンターでガラスカット用の「カーボンのこぎり」というのを買ってみた。初めて使う道具だが、水を付けてガリゴリと動かすと、ヤスリのような効果でガラスがカットできる
ソニー製ワイコンの角をカットしたところ。慣れない道具なので切り口がちょっと曲がってしまったが、これくらいなら何とか修正できそうだワイコンのレンズを抜き、枠のカットした部分に2mm厚のABS板を接着する。この後、ワイコンの枠をカッターや耐水紙ヤスリで整形する
ABS板をカットし、その他のパーツを製作する。ちなみに手前左と中は、カメラのアクセサリーシューに差し込むためのパーツ。このような設計は図面を書かず、現物合わせしながら頭の中で考えながら行なう各パーツを両面テープで仮組みしたところ。このような状態でテスト撮影しながら、ファインダー視野を微調整する。しかしこの「メガネユニット」はカメラ背面からアクセサリーシューに差し込み、前面からワイコンを被せてあるので、構造上取り外しができない
そこでいろいろ考えた結果、工具箱にあった使い古しの「Pカッター」を使うことにしたPカッターの先端部を金づちとポンチを使って割り、埋め込まれたボルトと止めネジを取り出す
カメラのアクセサリーシューに差し込むためのパーツを再制作する。2ピース式にして、1つはPカッターから取り出したボルトの頭に合わせ、中心部を六角形にカットする右のパーツを接着すると、ABS板にボルトを埋め込んだようなパーツができあがる
先のパーツをFinePix X100のアクセサリーシューに差し込んでみる。このネジ部分を利用して、「メガネユニット」を取り外しする、という設計だ設計方針も決まったので、各パーツを組み立てて、シルバーの缶スプレーで塗装する
塗装したパーツを組み立てると「メガネユニット」が完成する。アクセサリーシュー取り付け部は、別ピースになっている。「メガネユニット」を裏から見たところ。アクセサリーシューに当たる部分には、ネジを通す穴を空けている
FinePix X100に「ワイコン&メガネユニット」を装着するとこんな感じになる。ちなみにファインダーの視度は、ソニー製ワイコンのレンズに合わせ+に補正する必要がある。また、絞りリングの突起に「メガネ」が干渉するため、F16とAにはセットできないが、実用性に問題はないだろうFinePix X100本体から外した「ワイコン&メガネユニット」を並べてみたが、なかなかマニアックな雰囲気だ

・作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。

ファインダー視野とテスト撮影

 完成した「ワイコン&メガネユニット」をFinePix X100に装着し、光学ファインダーの視野の確認と、テスト撮影を行なった。被写体はいつもの「金網チャート」で、歪曲収差や前ボケなどが同時に確認できる。

「ワイコン&メガネユニット」を装着したFinePix X100の光学ファインダーは、歪曲収差があるもののフレームと撮影範囲はおおむね一致しており実用性はある。また素材のワイコンの特性上、ファインダー像とブライトフレームの視度がちょっとずれるが、これも実用上は気にならない。さらに右下部がワイコンで大きくケラれるが、これも“ご愛敬”だと思えば楽しく使うことができる(笑)。

 テスト撮影は絞りを開放のF2からF11まで1段ずつ変えながら行なった。ワイコンDW-6を装着したFinePix X100は、絞り開放でソフトフォーカスになり、さらに画面周辺で像が崩れる。しかしF8まで絞ると画面のごく周辺を除いてシャープな画像になり、十分に実用的だ。

「ワイコン&メガネユニット」を装着した光学ファインダー視野(約28mm相当)
F2 / FinePix X100 / 約3.9MB / 4,288×2,848 / 1/1,000sec / F2 / 0EV / ISO200/ 絞り優先AE / WB:オート / 23mmF2.8 / FinePix X100 / 約3.9MB / 4,288×2,848 / 1/750sec / F2.8 / 0EV / ISO200/ 絞り優先AE / WB:オート / 23mm
F4 / FinePix X100 / 約4.1MB / 4,288×2,848 / 1/340sec / F4 / 0EV / ISO200/ 絞り優先AE / WB:オート / 23mmF5.6 / FinePix X100 / 約4.3MB / 4,288×2,848 / 1/180sec / F5.6 / 0EV / ISO200/ 絞り優先AE / WB:オート / 23mm
F8 / FinePix X100 / 約4.3MB / 4,288×2,848 / 1/90sec / F8 / 0EV / ISO200/ 絞り優先AE / WB:オート / 23mmF11 / FinePix X100 / 約4.3MB / 4,288×2,848 / 1/45sec / F11 / 0EV / ISO200/ 絞り優先AE / WB:オート / 23mm

 ワイコンを装着した状態がFinePix X100の実力と誤解されても申し訳ないので、比較のためにワイコン無しのテスト画像も掲載する。ファインダー像はフレームがクッキリとして見やすく、レンズの描写も開放F2から極めてシャープで、絞っても被写界深度以外変わらない印象だ

FinePix X100の光学ファインダー視野(35mm相当)
F2 / FinePix X100 / 約4.3MB / 4,288×2,848 / 1/1,000sec / F2 / 0EV / ISO200/ 絞り優先AE / WB:オート / 23mmF2.8 / FinePix X100 / 約4.2MB / 4,288×2,848 / 1/750sec / F2.8 / 0EV / ISO200/ 絞り優先AE / WB:オート / 23mm
F4 / FinePix X100 / 約4.4MB / 4,288×2,848 / 1/400sec / F4 / 0EV / ISO200/ 絞り優先AE / WB:オート / 23mmF5.6 / FinePix X100 / 約4.3MB / 4,288×2,848 / 1/200sec / F5.6 / 0EV / ISO200/ 絞り優先AE / WB:オート / 23mm
F8 / FinePix X100 / 約4.3MB / 4,288×2,848 / 1/100sec / F8 / 0EV / ISO200/ 絞り優先AE / WB:オート / 23mmF11 / FinePix X100 / 約4.3MB / 4,288×2,848 / 1/50sec / F11 / 0EV / ISO200/ 絞り優先AE / WB:オート / 23mm

実写作品

 我ながら楽しそうなカメラができあがったが、これで何を撮ろう考えていたところ、新潟県の柏崎市立博物館で開催される写真展トンボ日記「水辺の詩」~田中博の世界~の鑑賞ツアーに参加することになった。

 そこでついでに現地で撮影することにしたのだが、宿泊した柏崎駅前のホテルの窓を見ると、遠くに柏崎刈羽原発の煙突が見えるではないか。そこで「ワイコン&メガネユニット」を装着したFinePix X100を片手に、そこまでテクテク歩いていくことにした。

 柏崎市はごく平凡な地方都市だが、ぼくにとって「路上」はどこであっても楽しい。さらに自作の「メガネ付き」ファインダーを覗けば、楽しさは倍増する。もちろん、FinePix X100に内蔵のEVFを使えばより正確なフレーミングができるだろう。だがいかに「メガネ付き」とはいえ、光学ファインダーは像が格段にクリアで見やすいのだ。それに正確なフレーミングができずに自分の意図と少しずれた写真が撮れてしまうのも、光学ファインダーを使いこなす面白さだ。

 FinePix X100は光学ファインダー以外の操作性も“伝統的”で、絞りもシャッター速度も露出補正もすべてダイヤル式だ。今回の撮影では基本的に絞り優先モードでF8に固定し、適宜露出補正を行なったが、ダイヤルの質感も高く小気味よく操作できる。

 感度はメニュー画面で変更する方式で、基本的に1SO200で固定しながら使ったが、これもダイヤル式だったらより面白かったかも知れない。ホワイトバランスはオートにしたつもりが、いつの間にか「WB登録モード」になっていた。途中で気づいたが太陽光と同じ色彩だったので問題はないだろう。

 画質設定は、ちょっと迷ったが“富士フイルムらしい”ということでフィルムシミュレーションの「ベルビア」を選んでみた。ちょっと癖のある色合いで人によっては敬遠するかも知れないが、それゆえに“作風”を統一できると考えることもできる。

 などと撮影しながら街を抜けると、海岸の向こうに柏崎刈羽原発の煙突が見えてくる。しかし施設の全貌を見渡せるロケーションは存在しないようで、陸側からは森に囲まれて煙突すら見えず、まさに隠れるようにひっそりと建っている。まぁ、そんな環境であるのが分かっただけでも、自分としては満足だ。その後さらに刈羽村の刈羽駅まで歩いたが、山間のひっそりとした村といった感じで、カラスがたくさんいたのが印象的だった。

FinePix X100 / 約4.2MB / 4,288×2,848 / 1/85sec / F8 / 0EV / ISO200/ 絞り優先AE / WB:オート / 23mmFinePix X100 / 約3.7MB / 4,288×2,848 / 1/85sec / F8 / 0EV / ISO200/ 絞り優先AE / WB:オート / 23mm
FinePix X100 / 約4.1MB / 4,288×2,848 / 1/160sec / F8 / 0EV / ISO200/ 絞り優先AE / WB:カスタム1 / 23mmFinePix X100 / 約4.3MB / 4,288×2,848 / 1/340sec / F8 / 0EV / ISO200/ 絞り優先AE / WB:カスタム1 / 23mm
FinePix X100 / 約4.4MB / 4,288×2,848 / 1/640sec / F8 / 0EV / ISO200/ 絞り優先AE / WB:カスタム1 / 23mmFinePix X100 / 約4.3MB / 4,288×2,848 / 1/600sec / F8 / 0EV / ISO200/ 絞り優先AE / WB:カスタム1 / 23mm
FinePix X100 / 約4.2MB / 4,288×2,848 / 1/1,500sec / F5.6 / 0EV / ISO200/ 絞り優先AE / WB:カスタム1 / 23mmFinePix X100 / 約4.1MB / 4,288×2,848 / 1/480sec / F8 / 0EV / ISO200/ 絞り優先AE / WB:カスタム1 / 23mm
FinePix X100 / 約4.3MB / 4,288×2,848 / 1/220sec / F8 / 0EV / ISO200/ 絞り優先AE / WB:カスタム1 / 23mmFinePix X100 / 約4.1MB / 4,288×2,848 / 1/5sec / F5.6 / -0.3EV / ISO800/ 絞り優先AE / WB:オート / 23mm
FinePix X100 / 約4.5MB / 4,288×2,848 / 1/60sec / F5.6 / -0.7EV / ISO200/ 絞り優先AE / WB:オート / 23mmFinePix X100 / 約4.1MB / 4,288×2,848 / 1/100sec / F8 / 0EV / ISO200/ 絞り優先AE / WB:オート / 23mm

おまけ(双眼鏡によるデジスコ撮影)

 柏崎刈羽原発のそばには東京電力のサービスホールがあり、原発の外観や内部構造などの模型が展示してある。その最上階に双眼鏡が設置してあり、窓の向こうに並ぶ原発の煙突が見えるようになっている。そこでふと思いつき、双眼鏡の接眼部にFinePix X100のレンズを当て“デジスコ撮影”してみたのだが、意外にきれいに撮れたので紹介してみる。

柏崎刈羽原発サービスホールに設置されたニコン製の双眼鏡。その接眼部にFinePix X100のレンズを当てながら撮影してみたなかなかきれいに写ったので感心したが、ニコン製双眼鏡の性能との相乗効果なのかも知れない。周囲が丸くケラれてるのも双眼鏡の視野らしくて良い。FinePix X100 / 約3.9MB / 4,288×2,848 / 1/125sec / F8 / 0EV / ISO200/ マニュアル露出 / WB:カスタム1 / 23mm
ワイコンを装着したFinePix X100で撮るとこんな感じ。サービスホールの窓越しの風景だ。FinePix X100 / 約3.7MB / 4,288×2,848 / 1/210sec / F8 / 0EV / ISO200/ 絞り優先AE / WB:カスタム1 / 23mm

告知

 リコーフォトギャラリーRING CUBEで開催される写真展「GRist34」に、糸崎公朗氏の作品2点が展示されます。

  • 名称:GRist34
  • 会場:RING CUBE
  • 住所:東京都中央区銀座5-7-2三愛ドリームセンター8・9階(受付9階)
  • 開催日:2011年9月7日~9月18日
  • 時間:11時~20時(最終日は17時まで)
  • 休館:火曜
  • 入場料:無料



糸崎公朗
1965年生まれ。東京造形大学卒業。美術家・写真家。「非人称芸術」というコンセプトのもと、独自の写真技法により作品制作する。主な受賞にキリンアートアワード1999優秀賞、2000年度コニカ ミノルタフォト・プレミオ大賞、第19回東川賞新人作家賞など。主な著作に「フォトモの街角」「東京昆虫デジワイド」(共にアートン)など。ホームページはhttp://itozaki.fc2web.com/Twitterはhttp://twitter.com/#!/itozaki

2011/8/22 00:00