コーワPROMINARレンズ リレーレビュー
建築写真編:新築物件の室内を精緻に撮る
ビシッと真っ直ぐな線が気持ち良い
(2015/11/20 08:00)
この4月から8月にかけ、中村文夫さんのレポートでその魅力をお伝えしてきたコーワのPROMINARレンズ。
今月からは趣向を変え、その道のプロが撮影ジャンルごとにPROMINARを試し、作品とインプレッションを公開していくことにする。3本のPROMINARレンズから、果たしてどんな作品が生まれるのか期待してほしい。さらに後半には、知る人ぞ知る「あの」高画質超望遠レンズも参戦する予定だ。
今回は写真家の桃井一至さんに、新築物件の紹介写真を主にKOWA PROMINAR 8.5mm F2.8で撮影してもらった。その結果やいかに。(編集部)
コーワPROMINARレンズ(マイクロフォーサーズ用)とは……
古いカメラファンなら名前を聞いたことがある「コーワPROMINARレンズ」が、マイクロフォーサーズ用の単焦点MFレンズで復活。往年のPROMINARの流れをくむ興和光学株式会社が設計・製造するだけあり、オールドファンも納得の見た目と描写力が、レンズマニアの間で話題となっている。
ラインナップは、KOWA PROMINAR 8.5mm F2.8、KOWA PROMINAR 12mm F1.8、KOWA PROMINAR 25mm F1.8の3製品。いずれもブラック、シルバー、グリーンをラインナップする。
詳細はこちらのページで。
驚くべき歪曲収差の少なさ。室内の美しさを余すことなく伝える実力
現場では担当者の意向を打ち合わせの後、撮影を進める。
通常は超広角ズームレンズやシフトレンズをフルサイズ一眼レフで利用しているが、ファインダー視野率や可動式モニターでないことなどから、構図決定に手間取ることも多かった。しかし今回はミラーレス機(OLYMPUS OM-D E-M1)と歪曲収差の少なさで定評のあるPROMINAR 8.5mm F2.8との組み合わせだ。
予想通り、構図決定や再生時には昔の苦労がウソのように、水平垂直が画面端までピシッと合った気持ちのいい画像がモニターに浮かぶ。
シンプルな構造のゆえにオートフォーカス(AF)は非搭載だが、三脚を立てて、部分拡大機能を使い、マニュアルフォーカス(MF)で正確なピントを必要とするために、まったく不都合は感じない。むしろしっとり廻るMF独特のフォーカスリングが心地良い。
絞りはF8までを使用。このあたりをピークに徐々に回折現象が見られるようだ。もともと被写界深度は深いので、極端な絞込みは避けるのが良さそうだ。
一般的に広角レンズは樽型の歪曲収差が目立つが、画面右の柱を見ればわかるようにフレーム枠とほぼ平行になっている。ボディ内で収差補正ができるカメラも一部あるが、元画像の歪みは少ないに越したことはない。
同じ位置から縦位置で。
撮影当日は快晴で正面と右上の窓から、強い外光が入る。画面内の強い光はフードを使ってカットもできず、レンズ性能に頼るしかないが、特に難なくこなしてくれている。なお画像が明るめなのは、そのほうが部屋の印象がよく見えるためだ。
こちらは12mm F1.8を使用したカット。見下ろし気味のため、E-M1の機能の一つ「デジタルシフト」を使用している。シフトレンズをデジタル処理で代用する機能だ。
シフトレンズの写りは魅力だが大きく高価。それが良質なレンズとデジタル加工の組み合わせで、グッと身近になってくる。もちろん、描写に不満はない。
25mm F1.8も使ってみた。Webサイトなどでは、ちょっとしたイメージカットを求められることもある。ここでは陽のあたる階段とグリーンとを組み合わせた。F1.8で得られた適度なボケと立体感は、見る側の想像を膨らませてくれる。
建築撮影の世界を変えるかもしれないポテンシャル
建築撮影では、レンズにとって思いの外、厳しいハードルが課せられる。というのも、室内は基本的に直線基調で構成されていて、レンズの歪みはないのが理想。また室内では大きな窓から入る外光や近年はLED照明の強い光が画面に入ることも多く、フレアーやゴースト対策も重要だ。解像についても、展示会などでパネル大へのプリントもあるために良質な描写が求められる。
これらから従来は4×5(シノゴ)と呼ばれる、ハガキ大のフィルムを使う大判カメラで撮影する機会もあったが、近年は高性能な超広角レンズを使い、機動性重視の35mm判レンズ交換式カメラの利用がポピュラーになっている。
PROMINARシリーズは、マイクロフォーサーズ用というのもあって、機動力抜群。軽量化や小型化はスマートな上に、写真のような広い部屋だけでなく、体が壁との間に入らない浴室などでは特に重宝する。
ボディ内でシフト加工までできるカメラまで登場し、PROMINARのように良質なレンズが登場してくれば、建築撮影で4×5が廃れたのと同様、ひょっとすると建築撮影の図式すら変わっていくかもしれない。
制作協力:興和光学株式会社
撮影協力:株式会社テラジマアーキテクツ