デジカメカスタムビルダーの新旗手H・L・C倶楽部から、新たなGR DIGITALカスタムモデルが登場した。「GR III PS-1」は、マグネシウム合金ボディの地金を手磨きで仕上げ、カーボン製グリップを組み合わせたコンプリートカスタムモデルだ。ボディは鏡面仕上げとマット仕上げが選べ、カーボングリップもクリアとマットが選択できる。計4パターンの組み合わせから、任意のスタイルをオーダーするシステムだ。価格は24万7,800円で、12月8日から限定30台の初回注文を受け付けている。
GR DIGITALというカメラは、ユーザーによるクラカメ風ドレスアップが盛んだ。加えてリコー自らも特別モデルをいくつか発売してきた。しかし、H・L・C倶楽部の「GR III PS-1」は、どのスタイルとも一線を画し、唯一無二の存在感がある。今回は、この「GR III PS-1」の製作秘話をお送りしよう。
鏡面ボディとクリアカーボングリップの組み合わせ。フラッシュカバーは樹脂製なので、磨き処理はしていない(画像提供:H・L・C倶楽部) | 背面も鏡面仕上げになっている。クリアカーボングリップの静かな輝きが美しい(画像提供:H・L・C倶楽部) |
マットボディとマットカーボングリップの組み合わせ。H・L・C倶楽部のカスタムレンズリングを合わせても良さそうだ(画像提供:H・L・C倶楽部) | カーボングリップは高精度成形されているため、ボディにジャストフィットしている(画像提供:H・L・C倶楽部) |
「GR III PS-1」の誕生は、2010年10月に行われたGR DIGITALシリーズ発売5周年記念イベント「GR PARTY」がひとつの契機になっている。リコーからH・L・C倶楽部に出展の打診があり、せっかく出展するのであればと、ニュースバリューのあるスペシャルアイテムを用意することにしたという。
「リコーから初代GR DIGITALの塗装前のボディを借り受け、これがGR III PS-1の大きなヒントになりました。GR DIGITALのボディはマグネシウム合金でできています。このマグネシウム合金は、磨き上げると美しい光沢を放ちます。メッキや塗装ではなく、金属そのものの質感を強調することで、GR DIGITALの魅力をより引き出すことができると感じました」(H・L・C倶楽部 染川光示氏)
しかし、ひと口にボディを磨くといっても容易なことではない。マグネシウム合金は火や酸化に弱く、取り扱いが難しいのだ。加えてカメラボディは細かい凹凸が多いため、機械で一気に磨き上げるわけにもいかない。こうした難題にあえて挑んだのが、工業デザインやクレイモデル製作を得意とするアールディエスという会社だ。
「カメラボディの加工ははじめての経験でしたが、技術的な部分はクリアできると直感しました。問題はやはり非常に手間がかかるという点です。機械で磨けないため、いわゆる手磨きでボディを仕上げていきます。1台磨き上げるのに、ひとりの職人が7〜8時間つきっきりで作業します。その後プライマー(コーティング)を施して完成となりますが、1台仕上げるのに最短で2日、通常は3〜4日ほどかけています。正直なところ、A級B級程度の仕上げなら、もっと手間を省くことができます。しかし、スペシャルアイテムという位置づけの製品ですので、S級仕上げでクオリティには徹底的にこだわっています」(アールディエス 杉原行里氏)
H・L・C倶楽部プラニング・ディレクター、染川光示氏。独自の切り口で、GR DIGITALカスタマイズサービスを提供する | 株式会社アールディエス取締役、杉原行里氏。工業デザイン、カーボン成形、クレイモデルを得意とする会社だ |
磨き工程を終えた鏡面仕上げのボディ。メッキや塗装と異なり、金属本来の美しさが伝わってくる(画像提供:H・L・C倶楽部) | 磨き工程を終えたマット仕上げのボディ。鏡面よりも上品で控えめな光沢感だ(画像提供:H・L・C倶楽部) |
鏡面仕上げした背面ボディ。細かい凹凸に至るまで、ていねいに磨き上げられている(画像提供:H・L・C倶楽部) | 磨き工程直後(プライマー前)のサンプルは、酸化に配慮して袋入りのまま撮影した |
こうしたこだわりは、カーボン製グリップにも反映されている。カーボンという素材は、大抵の人が「軽くて丈夫」という印象を抱いているだろう。しかし、その品質はかなり幅があるという。たしかにカーボン製品は高価というイメージがある一方で、カーボン製と謳っていても思いのほか安い製品が少なくない。カーボンにこだわるとは、どういうことなのだろう。
「炭素繊維を常温で成形したものをウェットカーボンといい、比較的成形がしやすいものとなっています。製品の樹脂量と繊維含有量のバランスが安定しないため、強度はあまり期待できません。一方、ドライカーボンという種類があります。ドライカーボンは非常に高価な製品です。これは炭素繊維に樹脂を含浸させたプリプレグを型に張り込み、オートクレーブ成形で作ったもので、宇宙開発、軍事、F1など、最高度の強度が求められるシーンで用いるカーボンです。オートクレーブとは高温高圧真空の窯のようなもので、高熱で樹脂を焼くと考えてもらうとわかりやすいでしょう。これにより、軽量化され、錆びない、最強度のカーボンが生まれます。GR III PS-1のグリップは、このオートクレーブ成形のドライカーボンを用いています。強度と耐久性という点に関して、妥協のない仕上がりだと自負しています」(杉原氏)
左がクリア、右がマット仕上げのカーボングリップだ。ともに軽量かつ強固に成形されている | リングキャップやストラップは、H・L・C倶楽部の豊富なオリジナル商品からも選択できる |
一般にカスタムという行為は、オリジナリティと安定性がトレードオフになることが多い。その点H・L・C倶楽部のカスタムモデルは、必要な情報はメーカーから提供してもらい、製品品質を損なわないように最大限の配慮をしている。
「まずお客様より、マップカメラ(新宿2号店3階)、西武池袋本店(5階紳士雑貨売り場「ガレージ」コーナー)、弊社Webサイトなどから注文を入れていただきます。ボディパーツはアールディエスで磨き上げ。磨き終わったボディパーツはカメラとして組み立てられます。その後弊社でアールディエスで製作されたカーボングリップを取り付け、最終調整、検品を行ないます。カスタムモデルは純正品ではありませんが、パーフェクトなクオリティで製品を送り出せるように最善の方法で行なっています」(染川氏)
クルマやバイクの例を引き合いに出すまでもなく、これまでのカスタムは常に自己責任という言葉がついてまわった。H・L・C倶楽部のカスタムモデルは、ここに一石を投じる存在だ。外観の美しさや耐久性の追求は言うまでもなく、メーカーとのコミュニケーションを重要視し、製品としての安全性をキープした状態でカスタマイズサービスを提供している。「GR III PS-1」はボディ改造という究極のカスタム形態だが、純正品を買うような安心感が大きな魅力だ。デジタルカメラのカスタムビルダーとして、H・L・C倶楽部の今後の展開が楽しみだ。
2010/12/8 00:00