“もっと撮りたくなる 写真の便利帳”より

「かたち」をモチーフに撮る

直感を大切に、発見を楽しむ

被写体の意味を忘れて「かたち」に注目すると、先入観にとらわれない撮り方ができます。(編集部)

喫茶店に観葉植物があり、ハートのかたちをした葉っぱが目に入った。背景をシンプルにして、かたちを強調した。
・着眼点:ハートのかたち
・撮り頃:かたちを見つけた瞬間
・イメージ:温かさと幸福感
・撮影テクニック:ピントをしっかり
・ひと工夫:ハート以外のものを入れない
90mm相当 / プログラムオート / F2 / 1/1,600秒 / ISO100 / WB:太陽光

心を自由にして かたちだけを見る

何かを撮影しようと思ったときに、そのものの意味や名前に引っ張られて、撮り方が限定されることがあります。

例えば葉っぱを撮るときに「これは葉っぱだから」という意識を強く持ちすぎると、自由な心で撮れなくなります。

葉っぱという言葉を一旦忘れて、オブジェクトのかたちに注目してみてください。ハートに見えたり、顔に見えたり、意外なかたちが見えることがあります。かたちという視点を持つことで、今まで見ていた世界から、別の表情が現れてくるのです。

かたちを見つけるコツは、目の前の景色やオブジェクトを、線や面など、造形の最小単位で捉えること。オブジェクトへの先入観から、自由になることができます。

直感を大切に、かたちの発見を楽しんでください。

具体的なかたちと抽象的なかたち

かたちには、「具体的なかたち」と「抽象的なかたち」がある。具体的なかたちは、例えば「ハート」「音符」といった、すぐにかたちを思い浮かべることができるもの。

抽象的なかたちとは、そうした具体的な言葉には置き換えられないかたちのこと。取り組みやすいのは前者だが、後者を撮れるようになると、さらにおもしろい。

かたちを見つけるコツは、固有名詞や先入観を捨てて、かたちだけに注目すること。景色からかたちを見つけたときの快感は、クセになる。

かたちの撮影は、その撮影を目的にして出かけるというものでもない。日頃から、かたちを発見するための「写真の目」を養っておこう。

目のつけどころ:「○○みたい」と声に出してみる

オブジェクトの意味に引きずられることなく、かたちを探し出すための、魔法の言葉があります。それは、「○○みたい」です。

それを口にすることで、ぼんやりと眺めているよりも、かたちが見えてくるはずです。これが得意なのは、子どもたち。彼らは発見の名人なのです。

月みたい
六本木ヒルズにあった丸い照明。手前の植え込みの草との組み合わせで「月とススキ」に見立てた。
ミニチュアみたい
タワーから結婚式場が見えた。「ミニチュアみたい」と感じたので、カメラをミニチュアモードに切り換えて撮影。
ト音記号みたい
街中のベンチに手すりの影が落ちている。木目が五線譜に、影がト音記号に見えた。
足跡みたい
駐車場のトタンのペンキがポロポロとはげかけており、それが小動物の足跡のようだった。猫が歩き回ったイメージで。
顔みたい
葉っぱを見ると3ヶ所の虫食いがあり、それが顔のように見えた。目線が合ったので、顔として表現した。

記号や文字が持つ完成された美しさ

日常で接する、音符などの記号やアルファベットなどの文字には、完成された美しさがある。

例えば、「♪」という音符、「A」という文字は、デザインとして完成されているので、写真に撮っても絵になりやすい。

景色を観察するときは、どこかに記号や文字が隠れていないか探してみよう。

道路を上から眺めると、そこに「A」の文字が見えてきた。

デザイン:かたちが伝わるデザインに

かたちに注目して写真を撮るのであれば、かたちが伝わるように写真をデザインすることが大事です。

かたちがより浮き上がるように、アングルを工夫しましょう。かたちがもっとも目立つ角度や位置があるはずです。

いちばん重要なのは、背景をよく見ることです。背景がゴチャゴチャしていると、それに邪魔されて、大事なかたちが見えてきません。なるべくシンプルな背景を選びましょう。排除すべきものは排除します。

特に、見せたいかたちの周辺は重点的にチェックしましょう。余分なものが写りやすい写真の四隅にも気をつけます。

背景をシンプルにするにはいくつか方法があります。手軽にできるのは、少し下がってズームレンズを望遠側にすることです。写る範囲がギュッと狭くなるので、余分なものが写真から排除されやすくなります。

シンプルな背景
猫のアートが展示されている路地。撮影位置は限られたが、なるべくすっきりした背景を選び、猫のかたちが見えやすいデザインに。
背景が目立つ
白色の壁や、銀色の置物など、背景に余分なものが写り込み、表現したいかたちが見えてこない。特に白色は印象が強いので注意。

設定:かたちに合わせて縦横比を変える

デジタルカメラには、写真のアスペクト比(縦横比)を自由に変えられるという特性がある。

オブジェクトのかたちに合いそうなアスペクト比を選んで撮影してみよう。無駄な空間をカットすることで、よりかたちが伝わりやすくなる。

住宅街の石壁。長さを出すために、16対9のハイビジョン比率で撮影。
モスクの天井。丸いかたちを伝えるために1対1の比率で撮影した。

テクニック:自分が動けばかたちも変わる

オブジェクトのかたちは、アングル、すなわち撮影する高さや角度によって変化します。例えば、コップひとつを例にとっても、上から見たとき、正面から見たとき、斜めから見たときは、それぞれかたちが違って見えます。

そのことを理解したうえで、みずからが動き回り、かたちがより強調されるアングルを探すことが大事です。かたちは、見つけるものでもあるのです。

斜めから見るとコップは立体的
コップを斜めから撮影すると、立体的に見える。
上から見るとコップは○
コップを真上から撮影すると、平面的な円のかたちが見える。
正面から見るとコップは□
コップを正面から撮影すると、平面的な四角のかたちが見える。

機材:かたちの抽出には高倍率ズームレンズ

かたちを探して抽出するとき、立ち位置やアングルを変えるとかたちが変わります。同様に、レンズの焦点距離を長くすると、小さくて見えなかったかたちが現れることがあります。

レンズの焦点距離を、簡単に長くしたいときは、「高倍率ズームレンズ」があると便利です。レンズ交換することなく、いろいろな焦点距離で撮影できるので、1本あるととても便利です。

ヒント:多くの人が気持ち良いと感じる黄金比と白銀比

自然物や人工物のかたちの中には、人が見て気持ち良いと感じる「比率」が潜んでいることがあります。

例えば黄金比。1対1.618という比率のことです。自然界の多くのものが、この比率になっていると言われています。代表的なものには、葉っぱの生え方、ひまわりの模様などが挙げられます。西洋絵画では、この黄金比がふんだんに使われています。また、建築物や企業のロゴマークにも黄金比は多用されています。

もうひとつ代表的な比率に、白銀比があります。日本人が美しいと感じる比率で、大和比とも言います。比率は、1対1.414。日本画や神社仏閣、城郭などに多用されています。また、A4やB4といった紙のサイズがありますが、A判、B判ともに、縦横の比率は白銀比になっています。

これらにとらわれる必要はありませんが、かたちと同じように、目の前の景色から何かを見つけるときの参考になるはずです。

東京スカイツリーは、全長と第二展望台までの高さが、ちょうど白銀比(1.414)の関係

この連載は、MdN刊「もっと撮りたくなる 写真の便利帳」(谷口泉 著/ナイスク 編)から抜粋・再構成しています。

カメラの使い方は理解しても、写真そのものが上手くなったと実感できなかったり、よい写真とは何かわからなくなった方々に向け、写真を楽しむためのテーマとして「モチーフ」を集めた1冊です。撮影のヒントやアイデア、具体的な機材情報も盛り込まれています。

「もっと撮りたくなる 写真の便利帳」(MdN刊、税別2,000円)

谷口泉