メーカー直撃インタビュー:伊達淳一の技術のフカボリ!

SIGMA dp2 Quattroの新Foveonセンサーはカメラの解像力の概念を変えるのか

 高級コンパクトカメラの元祖といえるシグマのDPシリーズは3層構造のFoveon X3センサーが大きな特徴だが、その構造を全面的に見直して、高解像度化と画素数の抑制を両立させたという。なかなか分かりにくいこの注目技術をひも解くべく開発者に話を伺った。(聞き手:伊達淳一、本文中敬称略)

SIGMA dp2 Quattro

SIGMA dp2 Quattroって何?

1つの画素でRGBすべての色を取得できる垂直色分離方式のFoveonセンサーを搭載したレンズ一体型カメラで、色情報を補間する必要がなく、極めて高い解像が得られるのが特徴。トップ層の4ピクセルに対し、ミドル、ボトム層を1ピクセルにした「1:1:4」の3層構造を採用した新世代のQuattroセンサーを初めて採用し、データ量を抑えつつ、高画素化を実現している。

 伊達淳一 的dp2 Quattroの気になるポイント
  • ・「1:1:4」の3層構造でデータ量を低減しつつ高解像度を実現
  • ・ピクセル等倍鑑賞でもまったく甘さのない約1,960万画素出力
  • ・画像処理エンジンTRUE IIIによるクリアでヌケの良い絵作り
  • ・思わず注視してしまう存在感抜群の個性的なフォルム
本インタビューは「デジタルカメラマガジン10月号」(9月20日発売、税別1,000円、インプレス刊)に掲載されたものに、誌面の都合で掲載できなかった内容を加筆して収録したものです。

輝度情報の層を高密度化して解像性能が約3,900万画素のベイヤーセンサーに匹敵

――dp2 Quattroの開発コンセプトを教えてください。従来のDPx、Merrillシリーズと比べ、カメラとしての立ち位置やターゲット層に違いがあるのでしょうか?

桑山:今でこそ各社から大型イメージセンサーを搭載した本格的なコンパクトカメラが発売されていますが、初代DP1を発売した2008年当時には、このようなコンパクトカメラはまだ存在していませんでした。“本格的な写真表現の機会をより日常的なものにしよう”というのが、DPシリーズのコンセプトでした。

 一眼レフと同じイメージセンサーを搭載したコンパクトカメラがあれば、一眼レフと同等の画質をいつでもどこでも持ち歩くことができます。それが、DPシリーズ開発の原点であり、そのコンセプトはMerrillにもQuattroにも継承されています。今回のQuattroはイメージセンサーや画像処理エンジンを一新し、作品を撮るカメラとしての方向性をより先鋭化しているほか、さらに画質のみならず処理の高速化も図っています。

 また、これまではRAWで撮影してSIGMA Photo Pro(SPP)でじっくりと現像されるというお客さまが多く、やや敷居が高かったようですが、今回のdp2 Quattroはカメラで生成するJPEGの画質が大幅に向上していますので、より気軽に撮影していただけるカメラに仕上がっていると思います。

桑山輝明氏
株式会社シグマ マーケティング部 マーケティング第2課 課長
「本格的な写真表現の機会をより日常的なものにしようという初代DP1からの思想をさらに押し進めました」

――従来のMerrillセンサーとQuattroセンサーの違いを教えてください。こうした方向に進化を遂げた理由とは?

村上:Merrillの次の世代のセンサーを作るにあたって、画質の向上を図る、それも解像度を高めるという話が出ました。その場合、単純に画素数を増やすということが考えられますが、弊社のFoveonセンサーは3層で光を受け止めており、画素を増やすと3層分のデータが必要になります。

 つまり、一般的なベイヤー型のカラーフィルター配列(CFA)のセンサーに比べ、1つのピクセルロケーションあたり3倍のデータ量になってしまいます。画素数が大幅に増えると、バッファメモリーの使用容量や画像処理時間の増加により、撮影レスポンスが低下してしまいますし、センサーの消費電力が増えることで発熱の問題が発生してきます。

新開発のQuattroセンサーは「1:1:4」という新たな3層構造で高解像度化を実現

 また、画素数が増えることで画素ピッチも狭くなり、センサー内部の配線構造がより複雑になり、製造面でも難易度が上がります。このような状況で、高解像度化を図りつつ、何とかこのような問題を解決できないかと考えていった結果、青の感度が高く、輝度情報を取得するトップ層は4画素、緑の感度が高いミドル層と赤の感度が高いボトム層は1画素とした1:1:4という新たな3層構造にたどり着きました。

Foveonセンサーの構造
波長の長い光ほど浸透性が高いことを利用し、異なる深さに設置したフォトダイオードで色分解。1つの画素でRGBすべてを取り込める
一般的なベイヤー式センサーの構造
RGBのカラーフィルターをモザイク状に配置し色分解を行う。1つの画素で取り込めるのはRGBのどれか1色の情報のみ

 Quattroセンサーのトップ層は1,960万画素、ミドルとボトム層はそれぞれ490万画素で、トップ層に比べると、ミドル層とボトム層は画素数が1/4となりますので、トータルの画素数は約2,940万画素です。もし、Merrillセンサーの形式で同様の高画素化を図った場合、1,960万画素×3層となりますので、トータルの画素数は5,880万画素にもなってしまい、データ量はQuattroセンサーの約2倍近くにも膨れ上がってしまいます。

 また、Quattroセンサーは、微細化したトップ層で高解像化を図りつつ、トップ層で得た輝度情報を元にミドル層やボトム層で得た色情報を加えて演算処理することで、従来どおり、すべての画素で輝度と色情報を得ることができるので、従来よりも画素数を抑えつつ、高解像度を実現できるのが特徴です。

――一般的なベイヤーセンサーと比較して、どのくらいの画質に相当するのですか?

村上:人間の目は、緑色の波長領域に最も感度が高く、次に赤、青の順に感度を持っています。そのため、一般的なベイヤーセンサーはグリーンの画素から輝度情報を取得していますが、グリーンに感じる画素は全画素の50%しかありません。

 一方、今回のQuattroセンサーを含む当社のFoveonセンサーはすべての光を深さ方向でとらえられるので、すべての画素が輝度と色情報を持っています。そのため、ピクセルロケーションの数が同じであれば、Foveon X3センサーは、ベイヤーセンサーの2倍の解像度がある計算になります。

 従って、dp2 Quattroは、トップ層の1,960万画素の2倍に当たる約3,900万画素相当のベイヤーセンサーで撮影したものとほぼ匹敵する解像性能があるわけです。

村上雄祐氏
株式会社シグマ 開発部 開発第1ユニット 第3課
「高解像度化と画素数の抑制を両立できる画期的な技術がQuattroセンサーの1:1:4の3層構造です」

――Quattroセンサーが輝度情報を取得しているのはトップ層で、これはブルーに感じる層ですよね。このブルーに感じる層から輝度情報を取得した場合、人間の視感度特性にマッチしていないような気がします。といって、緑に感じるミドル層の画素数は490万画素しかありませんが、これで本当に3,900万画素相当の解像が得られるのでしょうか?

村上:一般的なベイヤーセンサーに設けられているカラーフィルターは、赤なら赤、青なら青と、ある特定の波長の光だけを通し、それ以外の波長の光はシャープカットされてしまいます。これに対して、Foveonセンサーは各層の分光感度が非常に幅広い波長に広がっていて、例えば、トップ層は確かに青の光に対する感度が最も高いのですが、緑から赤の波長域にも感度を持ちます。

 そのため、トップ層で緑の情報もしっかり取得できます。また、ベイヤーセンサーのカラーフィルターは限定した波長の光のみを通し、それ以外の波長の光の情報を捨ててしまっているのですが、Foveonセンサーはカラーフィルターのように特定の光をシャープカットせず、ミドル層やボトム層でも光の情報を受け止められる構造になっている為、一般的なカラーセンサーの2倍に相当する輝度情報はしっかり得られています。

――分光特性が緩やかで特定波長以外シャープカットされていないということは、色の分離が悪いというか、正しい色再現を得るのが非常に難しくなりませんか?

山崎:基本的な処理は他方式とさほど変わりませんが、カラーフィルターを入れていないぶん、特定の波長の色がズレやすいということがあるので、そこは多少工夫しています。画像処理エンジンも最新のTRUE IIIになり、従来に比べればJPEG撮影での色再現もかなり良くなっています。

 ただ、色分離を良くするための処理をいろいろと加えていきますとノイズが結構出てきてしまいますので、高感度で色が悪いという課題はまだ残されています。

画像処理エンジン TRUE III
Quattroセンサーのために開発された画像処理エンジン。AEやAWBの精度も向上にも貢献

――波長の長い赤い光ほどシリコンの深いところまで浸透するという特性を利用して、深度方向で色情報をとらえるというFoveonセンサーの概念は分かるのですが、センサーに入射した光は各層のフォトダイオードを突き抜けていくのでしょうか? それとも各層のフォトダイオードは重ならないようにオフセットされて配置されているのでしょうか?

村上:シリコン基板の内部に光を電気信号に変換できる層を深さ方向に3層配置しています。波長の短い青い光は一番上にある受光層で大きく吸収されますが、波長の長い赤い光はトップやミドルの受光層を突き抜けて最下層まで到達します。

Quattroセンサーの仕組みと画像処理の流れ

1)画像の解像力を決める輝度情報を最も画素数の多い約1,960万画素のトップ層から取得。一方、色情報はトップ、ミドル、ボトムの各層から取得する
2)トップ層で得られた輝度情報は、画像処理エンジン TRUE IIIによってミドル層、ボトム層の色情報に反映される
3)各層約1,960万画素の解像情報を持った色情報が得られる

――光が受光層を突き抜けていった場合には、電気信号は発生しないのですか?

村上:発生しません。光が受光層で吸収されてはじめて光のエネルギーが電気信号に変わります。

入射光を絞って減らし露出を抑える白飛び軽減用の画素をセンサー上に配置

――白飛び軽減用画素とはどのようなものですか? その層に配置されているのでしょうか?

村上:センサー内部に金属材料で入射する光を絞った画素を設け、その画素をセンサー上にまばらに配置しています。入射する光を絞るということは、それだけ感度が低くなっているので、ほかの画素よりも白飛びしにくくなります。白飛び軽減用画素の部分は少し露出不足気味になりますが、そこは画像処理で露出レベルを整えています。

――なるほど。1つのマイクロレンズに通常撮影用の画素と白飛び軽減用画素があるわけではなく、像面位相差画素と同じように、全画素の何%かが白飛び軽減用画素としてまばらに配置されていて、画像処理でレベルを整えているというわけですね。ちなみに、JPEG撮影でも有効なのですか?

山崎:撮影メニューで「白飛び軽減」を「入」に設定すれば、白飛び軽減用画素を利用して白飛びを軽減する処理が行われますが、カメラ内でできる調節は限られているため、RAWで撮影してSPPで処理した方がより白飛び軽減効果が期待できます。

――dp2 QuattroとDP2 Merrillでは、画質面ではどんな進化がありますか? 画素数が増えたぶん、解像性能が向上しているのは明らかですが、それ以外の部分、例えば、ダイナミックレンジや色再現、高感度画質、JPEGとRAWの差など、どのくらい良くなっているのでしょうか?

山崎:Quattroセンサーはミドルやボトム層の画素(各490万画素)が大きくなり、画像処理エンジンがTRUE IIIになって画像処理が最適化されたこともあり、従来のMerrillよりも約1段程度、高感度耐性が上がっています。

 一般的なセンサーに比べるとまだまだ高感度に強いとまでは言えないのですが、中間ISOくらいまでは普通に使えるレベルまで引き上げられたと考えています。それだけではなく、AEやオートホワイトバランス(AWB)などの処理も徹底的に見直し、これらの精度も向上しています。

 また、TRUE IIIの採用により、カメラ内JPEGと、SPPでRAW現像した場合の画質の違いが小さくなり、特に低感度では、カメラ内JPEGでもそのまま使っていただける画質になっていると思います。

山崎滋巳氏
株式会社シグマ 開発部 開発第1ユニット 第3課 係長
「画像処理エンジンが最新のTRUE IIIになり、従来よりJPEG撮影での色再現がかなり向上しています」

――DP2 Merrillは赤がやや朱色方向に転びやすかった気がしますが、そのあたりも改善されていますか?

山崎:はい。赤だけではなく、これまで肌色の再現が良くないとのご指摘をいただいていましたので、色再現性やAWBの精度を見直し、改善を図っています。

――それはQuattroセンサーの色再現特性が良くなったということですか? それともTURE IIIやSPPの画像処理が向上したということですか?

山崎:後者ですね。センサーの感度はシリコンの厚みで決まるので、従来のMerrillセンサーと分光感度の違いはほとんどありません。アルゴリズムを改善して色の出し方を変えています。

分光特性チャート
Foveonセンサーの分光特性。フィルター方式に比べ、ほかの波長にも広く感度があるのが特徴だ

――ということは、DP Merrillシリーズで撮影したRAWをSPP6で現像すれば、Quattro相当の色が出せるんでしょうか?

山崎:いいえ。先ほどお話ししたとおり、今回アルゴリズムの改善を行っております。この改善はTRUE IIIとSPPの間に密接なつながりがあり、TRUE IIIを搭載するQuattroでパフォーマンスを発揮するように設計されています。

 そのため、従来のMerrillシリーズではRAWをSPP6で現像しても、従来のSPPと差はありません。

――以前、dp2 QuattroとDP2 Merrillで同じシーンを撮り比べてみたのですが、dp2 Quattroの方がハイライトが際立つというか、少し硬めの絵作りになっているような気がしますが、これは意図的なものでしょうか?

山崎:画像のトーンに関する処理は、MerrillもQuattroも基本的には同じです。なぜ、そのような違いを感じるかといえば、先ほどご説明したように、今回、AEの見直しを行っております。従来は画像全体を見て露出のバランスをとっていたのですが、それだと逆光などのシーンで撮りたい被写体がかなり露出アンダーになってしまいやすいということがございました。

 そこで、画像全体を見つつも、主要被写体を適切な明るさに再現するようAEをチューニングしていますので、シーンによってはdp2 Quattroの方が明るく写ります。加えて、AWBの精度も向上していますので、色かぶりが少なくなり、ハイライトのヌケが良くなったと感じるのだと思います。

――なるほど。DP2 Merrillだと、SPPのX3 Fill Lightで暗部を持ち上げるというのが僕のRAW現像の基本パターンだったんですけど(笑)。

山崎:カメラ内のJPEGでも良い画像を提供する、ということを目標に開発を進めてきました。AEやAWBの精度を高め、できるだけ調整なしで完成度の高い写真が撮れるようにチューニングしています。

――高感度画質が向上しているそうですが、確かにMerrillはISO 400を超えるといきなり彩度が喪失して写真的に厳しくなってきますが、QuattroはISO 800あたりまで色が保たれています。ただ、低感度ではQuattroの方が細かいノイズが全体に浮くのがちょっと気になります。決して画質を損なうものではないのですが、高感度に強くなっているはずなのになぜ? と不思議に思います。

山崎:画像処理のチューニング次第ではMerrillのようにノイズを抑え、ツルッとした描写にもできますが、今回のdp2 Quattroでは低感度ではディテールを重視した結果、従来よりもザラザラ感が残っています。もちろんこれが最適な解ではなく、チューニングを煮詰めきれていない部分も残っていますので、もっと改善できないかと現在検討中です。

――dp2 Quattroで撮影した画像をピクセル等倍で表示すると、信じられないほどの高解像描写に驚かされますが、解像に甘さがないぶん、アンチエイリアスがかかっていない文字のように斜線のギザギザが目立つのが気になります。

桑山:色々な考え方があると思いますが、dp2 Quattroは、ピクセル等倍でもきっちりディテールを出すということを重視したチューニングをしています。そのためシーンによっては、目立つ場合がございます。

――SPPの2倍出力だとさすがに甘さを感じますが、39メガピクセル出力のS-HIモードはベイヤー相当の解像度ということもあって、ピクセル等倍表示でも解像感を保っていて、十分使える画質だと思います。ただ、惜しむらくは、画質モードが「RAW」あるいは「RAW+JPEG」のときはS-HIで撮影できず、JPEG出力専用という点です。

 RAWをSPP6で処理すれば、S-HI出力も選べるとはいえ、お手軽なJPEGで撮影したいけれども一応保険のためにRAWでも記録しておきたい、といったときに不便です。

桑山:S-HIは、RAW現像しなくても大型サイズのプリント用に高解像度データをカメラ内のJPEGで手に入るという意図で入れたモードですので、RAW+JPEGでは採用しませんでした。

――dp2 Quattroを使っていて気になったのが、シャッターボタンを押した際、カシャッとすぐにシャッターが切れるときと、カッシャンと少しシャッターが閉じるのが遅くなるときがあるのですが、これはどうしてですか?

山崎:内部処理の都合により、遅くなることがございますが、これは仕様につきご了承いただければと思います。

――スナップ撮影にはちょっと困りますね。DP2 Merrillでは、こんなことなかったですよね?

山崎:Merrillでも同様の動作になります。

――それは気づかなかったです。ところで、DP2 Merrillは画像の書き込みに約12秒かかっていたのに対し、dp2 Quattroは約5秒と高速化しているそうですが、これは1:1:4構造のQuattroセンサーの効果が大きいのか、それとも画像処理エンジンTURE IIIの処理スピードの速さが効いているのでしょうか?

山崎:それは両方です。Quattroセンサーはトータルの画素数がMerrillよりも減少したため、処理を高速化できたということもありますが、その一方で複雑な処理が必要となりました。それについてはTRUE IIIの処理スピードの速さが効いています。

――レンズはDP2 Merrillと同じ光学系を採用しているんですか?

幸野:dp2 Quattroとdp3 Quattroは、Merrillと同じ光学系を採用しています。DP2 Merrillの開発時には、本当にこのイメージセンサーの持つ描写力を最大限に引き出せるのか、心配しながら設計したのですが、実際に製品化され、あらためて性能をチェックしてみるとまだまだいけるということが確認できましたし、幸い、Merrillでレンズ性能に関して悪い評判はなかったので、そのままQuattroにも同じ光学系を採用することにしました。

 ちなみに、dp1 Quattroは、DP1 Merrillとは光学系を変えていますが、基本的な光学性能についてはほぼ同じです。ただ、センサーに対する入射角を弱めたり、スポット的に生じるゴーストで目立つものがあったので、そういった細かな部分をせっかく新しく作り直すのならということで改善を行っています。

レンズ構成図
光学系はDP2 Merrillと同じ。レンズ一体型の特徴を生かし、ショートバックフォーカスで小型化と高性能を両立

――DP2 Merrillと比べると、dp2 Quattroのレンズ鏡筒はかなり太めですが、なぜこんなに径が太くなっているのでしょうか?

川端:Merrillはレンズを動かす駆動ユニットがカメラボディ側に入っていたのですが、Quattroはレンズ側に駆動系を入れているので径が太くなっています。

――それはなぜですか?

森行:いろいろパーツのレイアウトパターンを検討した中で、この構成が最もまとまりが良かったということです。

波動光学的MTF
幾何光学的MTF

光の回折も考慮した実際の性能に近い波動光学的MTFの方が幾何光学的MTFよりも低い値になるが、それでも極めて高い解像力を維持している
(赤:10本/mm、緑:30本/mm、実線:サジタル、点線:メリジオナル)

――DP2 MerrillはAF動作時にジジッというギア音がやや耳障りでしたが、dp2 Quattroはこのあたりの動作音が静かになっていますね。レンズ駆動のアクチュエーターを近くに配置したことが効いているのですか?

川端:レンズ駆動の位置自体はMerrillからほぼ変わっていません。モーターの最適化や、制御方法の改善が大きく効いております。また、メカ機構の改善も要因の1つになります。

川端顕吾氏
株式会社シグマ 開発部 開発第1ユニット 第1課
「モーターやその制御方法、メカ機構を見直すことでAF作動時の静音化につながりました」

桑山:AFアルゴリズムの最適化により、AFのスピードもMerrillに比べ約1.4倍速くなっています。ただ、さらに高解像になったことで、より高いピント精度が求められるため、暗いシーンではレンズの動きを遅くしてピント精度を確保しています。撮影条件によって最適なAFスピードに変化させているので、AFが速くなったと単純にアピールしにくい面もありますが、合焦精度はさらに向上しています。

――dp Quattroシリーズは、デザインもかなり凝っていますね。これまでのカメラにはなかった横に長いフォルムですが、なぜこのような形にしたのでしょうか?

森行:デザイン先行のフォルムにどうしても見られてしまうのですが、我々が目標としているdpシリーズの性能を実現するために、Foveonセンサーをはじめ、その周辺回路など、他社とは大きく異なる回路基板等で構成されおり、それらを最も効率よく、画質面でも有利に働くようなレイアウトを考えていった結果、この形になりました。

 当然ですが、大きくしたくて大きくしたわけではありません。Quattroセンサーという素晴らしいセンサーの能力を発揮させるにはやはりこれだけの周辺回路が必要で、パーツの大きさや配置にさまざまな制約がある中で、カメラとしてより良い形を模索した結果、このような形にまとまりました。

森行浩人氏
株式会社シグマ 商品企画部 デザイン課 係長
「大きさをネガティブにとらえすぎないようにして、オーソドックスな形ではできない部品の配置を重視しました」

――従来のMerrill並の大きさにはできなかったのでしょうか?

森行:中身が異なるので、同じ大きさにはできません。DP Merrillシリーズでも、中に入っている回路基板はほかのカメラよりもかなり大きく、それでもカメラとしてオーソドックスなフォルムにまとめようとした結果、コンパクトカメラとしては厚みのあるボディになりました。ただ、今回のdp Quattroシリーズに関しては、その点にこだわりすぎずに設計されています。

小型化にとらわれすぎず、熱源の処理、グリップ等の最良を求めた攻めのレイアウト

――dp Quattroシリーズをデザインする上で重視した点はなんですか?

森行:カメラとしてのバランスです。大きさをネガティブにとらえすぎないことで、熱源をセンサーから離したり、バッテリーの持ちを良くするため大容量バッテリーを採用するならグリップももっと握りやすい形にしてみようなど、オーソドックスな形にとらわれていてはできないレイアウトにたどり着くことができました。

――どうやって構えることを想定していますか?

森行:それほど構え方に悩むカメラではないと思っているんですけど(笑)、特に構え方を限定しないデザインにはなっていて、右手親指を背面の突起部分にかけてもかけなくてもいいですし、縦位置で構えた際もシャッターボタンが上でも下でも構いません。ただ、両手で構えることは意識しています。わずかなブレも目立ちやすいカメラですから……。

――カメラのグリップは前方に突出しているのが一般的ですが、dp Quattroシリーズは後方にグリップが突出しています。前にグリップが突出していた方が、カメラバッグ等への収納性では有利だと思うのですが……。

森行:グリップが後方に突出しているのは、先ほどご説明したような細かな制約の中で、さまざまな観点から検証し、バランスをとっていった結果です。

ユニークなデザイン
デザイン主導ではなく、最も効率的で画質を重視したレイアウトの結果、ほかにはない個性的なフィルムに仕上がったという

――レンズとグリップの重量バランスがうまく取れていて、首からストラップで吊した際、カメラがお辞儀をせず、真正面を向くのは良いですね。

森行:全体の中ではそれも考慮していますが、特別そのためにグリップの突出を後ろ側にしたわけではありません。

――老眼の洗礼を受けて、液晶モニターを見るのが辛くなってきたのですが、外付けEVFへの対応は難しいのでしょうか?

桑山:dp Quattroシリーズにはライブビューの出力端子がないため、外付けEVFへの対応はできません。もちろん、開発段階でEVFの検討はしましたが、今回はセンサーも画像処理エンジンも新しくなっているのに加えてEVFへの対応を図るとなると、さらに開発に時間がかかってしまいます。そういった時間的制約からEVFは見送りました。

――将来的には複数のメーカーでホットシューへの拡張端子の規格を策定して、汎用のEVFが取り付けられるようになるのが僕の理想なんですけど。

 ちなみに、DP1とDP2とそれぞれ専用の光学ファインダーとフードが別売で用意されていますが、これを付けるとさらにデザインが際立ちますね。ただ、光学ファインダーはdp1 Quattroとdp2 Quattroの画角を表す枠を表示して、2機種共通にできなかったのでしょうか?

幸野:ファインダー像は大きく見やすい方が良いと考え、それぞれの専用品を作りました。他社の外付け光学ファインダーと比べると前玉など大きめに見えるかもしれませんが、これはわざと狙って大きくしていまして、ファインダーの存在感をしっかり出そうと考えました。

 それとレンズ鏡筒が太いので、視野が蹴られないよう少し背も高くしています。普通ですと少しでもコンパクトに設計するところですが、dp Quattroシリーズのボディに負けないインパクトを出すため、大きめな光学ファインダーにしています。

幸野朋来氏
株式会社シグマ 開発部 開発第2ユニット ユニット副部長
「Quattroのレンズは基本的にMerrillで十分な実績を残した光学性能を継承しています」

――初代DP、Merrill、Quattroと世代が上がるにつれ画質も向上していますが、それに伴い、ボディサイズもずいぶん大きくなってきました。Merrillシリーズを3台コンプリートされた方もいらっしゃるとは聞きますが、さすがにQuattroを3台同時に持ち歩くのは、いくら画質が良くても厳しいと思います。

 そういった意味では、DP1、DP2、DP3の3本のレンズに限定しても構わないので、このボディをベースにしたレンズシャッター式のレンズ交換式システムがあればと思うのですが、なんとか実現できないものでしょうか?

幸野:技術的には可能であると思いますが、レンズ一体型の場合、レンズとセンサーがきちんと正対するようベストな状態に1台1台調整して出荷していますので、開放絞りでも周辺までしっかり設計どおりの解像が得られます。

 しかし、レンズ交換式となると、どうしてもマウント部分に遊びや誤差が生じるため、レンズ一体型に比べるとレンズの性能を完全には引き出せず、レンズ一体型よりも画質が低下してしまう恐れがあります。

 こうした課題をクリアするためには、かなりコストがかかってしまうと思われますから、もし、実現できたとしても、3台コンプリートするのと価格的にはさほど変わらなくなってしまうと思います。そういった意味では、レンズ固定式だからこそ、一眼レフを超える圧倒的な解像、精鋭な高精細描写を実現できているといえます。

――現在のDPシリーズよりもほんのちょっとだけ画質面で不利になったとしても、レンズ交換式があればなぁと思うのですが、そのほんのちょっとだけがDPシリーズでは決して許されないんですよね。個人的には、DPシリーズとは違う形で構わないので、Foveonセンサーの画質が楽しめるEVF搭載のミラーレスカメラシステムも首を長くしてお待ちしています(笑)。

 ◇           ◇

―取材を終えて― 画素数が少ない2層の解像力を高める演算処理に興味を覚える

ローパスフィルターレスにして解像感を高めると、その副作用として偽色やモアレが発生するリスクは高まる。しかし、シグマのFoveonセンサーは、波長の長い光ほど浸透性が高いという特性を利用し、シリコンの異なる深さにフォトダイオードを設置することで、1つの画素でRGBすべての色情報を取得できるので、色情報の補間が不要だ。そのため、ローパスフィルターがなくても偽色の心配がなく、高い解像感が得られる。

ただ、1つの画素でRGBすべての光を取り込めるということは情報量も3倍あるため、画素数が増えるにつれて扱うデータ量は飛躍的に増大してしまう。その問題に対処すべく、トップ層の4ピクセルに対し、ミドル、ボトム層を1ピクセルにした「1:1:4」の3層構造を採用したのが、dp2 Quattroの新センサーだ。

従来のDP2 Merrillは約4,600万画素なのに対し、dp2 Quattroは約2,940万画素と有効画素数は少ないが、輝度情報を取得するトップ層の画素数は、DP2 Merrill の約1,530万画素に対し、dp2 Quattroは約1,960万画素と多く、新開発の画像処理エンジンTRUE IIIによる処理と相まって、DP2 Merrillよりも高解像でキレの良い描写を実現している。

画素数が1/4しかないミドル層やボトム層から、どうやってトップ層と同じ解像度の情報が得られるのかが謎だが、どうやらFoveonセンサーの各層の分光感度特性が緩やかで、ほかの色情報をシャープカットしていないため、各層で得た情報をうまく演算処理することで、色の分離を良くしつつ、トップ層の解像情報も反映できるらしい。

現状のカメラ内処理でQuattroセンサーの性能を十分に引き出せないシーンがある(※注)が、開発陣もその問題を認識しておりdp2 Quattroおよびdpシリーズのさらなるブラッシュアップを期待したい。(伊達淳一)

(※注)シグマによると、2014年9月3日に公開されたファームウェアVer.1.02とSIGMA Photo Pro 6.0.6で一部改善されているという。

伊達淳一

(だてじゅんいち):1962年広島県生まれ。千葉大学工学部画像工学科卒。写真誌などでカメラマンとして活動する一方、専門知識を活かしてライターとしても活躍。黎明期からデジカメに強く、カメラマンよりライター業が多くなる。