写真展レポート

衝撃も希望も伝える写真の力 改めて見直したい作品の数々「ロバート・キャパ 戦争」

東京都写真美術館で開催中

ロバート・キャパ(1913 - 1954)
パリ、フランス、1951年 © Ruth Orkin1951

報道写真家という存在を世界に知らしめた1人がロバート・キャパだ。5つの戦争を取材し、最期はインドシナ戦争の従軍中、地雷に触れて亡くなった。

「戦場写真家の1番の望みは失業することだ」とは彼の名言の1つだが、第2次世界大戦が終わり80年経った今もその願いはかなえられそうもない。

東京都写真美術館では「ロバート・キャパ 戦争」が開催中だ。戦争を捉えた約140点が展示されている。

会場に入ると、キャパの名を一躍知らしめた1枚「崩れ落ちる共和国側の兵士」が置かれている。スペイン戦争で撮影したこの写真はフランスの写真週刊誌『ヴュ』(1936年9月発行)で掲載され、翌年、アメリカのグラフ誌『ライフ』に転載された。

崩れ落ちる共和国側の兵士
エスぺポ近郊、コルドバ前線、スペイン、1936年 東京富士美術館所蔵

キャパが無名時代、パリで暮らしていた時、数多くの日本人と交流があった。その1人、画家の清野恒氏は同じ安ホテルに暮らしていた。

ホテルの廊下の隅にあった掃除道具置場を暗室にして、撮影から帰ると夜通しプリント作業をしていた思い出を語っている。

「崩れ落ちる共和国側の兵士」を初めて日本で紹介した月刊誌『セルパン』(1937年7月号)なども展示。この誌面では撮影者の名前は記載されていない。

キャパがインドシナ戦争へ向かう直前、毎日新聞社の招きで来日したのは、この時の交友関係があったからだ。

第2次世界大戦ではノルマンディー上陸作戦をはじめ、戦時下のイギリスやイタリア、パリ解放などを取材している。

「撮影時には危険な場所でもためらいなく飛び込むので、命知らずと言われていたそうです。それ以外の時間は兵士たちと酒を飲み、ギャンブルを楽しんでいました」と、本展監修の多田亜生氏。

フランス解放のため計画されたノルマンディ上陸作戦で、キャパは第1陣の突撃部隊に従軍した。

その時撮影されたフィルムは2本。ライフ誌ロンドン支局で現像した際、現像ミスで大半のカットが失われ、プリントできたのは11枚のみだったのは有名な話だ。

「Dデー作戦」でオマハ・ビーチに上陸する米軍
ノルマンディー、フランス、1944年 東京富士美術館所蔵

ドイツ軍に包囲された米軍空挺師団を救援する部隊に同行した時は、兵士たちと一緒に落下傘での降下も試みた。

中央が米落下傘兵を撮ったもの。ドイツ、1945年3月24日。

第2次世界大戦で従軍取材できるジャーナリストは、軍からの許可が必要で、撮影した写真は全て軍が管理した。

「従軍中に許可された期間が切れましたが、キャパは自分の判断でそのまま撮影を続行したこともあったようです」

悲惨で過酷な戦場を巡りながらも、キャパはそこでも希望を持って生きる人々の姿を捉えた。最前線にあっても兵士たちの素顔を見つめ、市民たちの日常の暮らしぶりを写した。計算し尽くしたかのような瞬間の構図と、美しい光が印象的だ。

パリ解放を祝う人びと
パリ、フランス、1944年 東京富士美術館所蔵

「キャパは使うカメラにこだわりは持っていませんでしたし、撮影技術に長けていたわけでもないと思います。ただ、卓越した感覚があったから、良い瞬間を逃さなかったのでしょう」

インドシナ戦争で最後に手にしていたカメラは「ニコンS」だ。

キャパは父親がユダヤ系であったことから、1948年から1950年にかけて、イスラエルを3度旅した。イスラエル建国により中東戦争が起き、今、また戦闘状態になっているイスラエル・パレスチナ紛争につながる。

キャパは自らの命が消えゆく時、何を思っていたのか。彼が最後に写した1枚は、その後、起きる現実を全く予感させないし、どこかのどかさすら漂わせていないだろうか。

キャパが地雷を踏んで死去する直前に撮影した
1枚 仏領インドシナ(現ベトナム)、1954年 東京富士美術館所蔵

会場

東京都写真美術館

開催期間

2025年3月15日(土)〜2025年5月11日(日)

開催時間

10時00分〜18時00分(木・金曜日は20時まで、図書室を除く。入館は閉館時間の30分前まで)

休館

毎週月曜日(5月5日は開館、5月7日は休館)

入場料

一般1,200(960)円/学生・65歳以上1,000(800)円/高校生800(640)円
※( )は東京都写真美術館の映画観賞券提示者、各種カード会員割引料金。

トークイベント

4月26日(土)14時00分〜(約90分)、1階ホールで開催。登壇者は報道写真家の宮嶋茂樹氏。参加無料。定員190名。

(いちいやすのぶ)1963年、東京生まれ。コロナ禍でギャラリー巡りはなかなかしづらかったが、少し明るい兆しが見えてきた。そんな中でも新しいギャラリーはいくつも誕生している。東京フォトギャラリーガイドでギャラリー情報の確認を。写真展の開催情報もお気軽にお寄せください。