写真展レポート

“素の彼女”に出会える場所——「May J.×Fujisato Ichiro 写真展:Side by Side」

Nine Gallery(東京・青山)にて8月29日まで

付き合いの長い二人は、お互いに“メイちゃん”“一郎ちゃん”と呼びあう仲だ

写真家の藤里一郎さんと、アーティストのMay J.さんによる写真展「Side by Side」が開催中だ。会場は東京・青山のNine Gallery。会期は8月17日~8月29日。

会場では、May J.さんを長年撮り続けている藤里さんの撮り下ろし作品43枚が展示されている。ちょうどMay J.さんがデビュー15周年、藤里さんが同じく25周年になることから持ち上がった展示会という。

今回は「歌手May J. としての華やかで輝かしい姿とはまた違う喜び、怒り、苦しみ、もがきながらも人間らしく生きている彼女の内面」(写真展情報から)を切り取ったそうだ。素顔のMay J.さんを見られる展示となっている。

ここでは、作品に対する思いをお二人に聞いた。

「本当の私を見て欲しい」――May J.

――最近は歌手以外にも多彩に活動されていますね。

そうですね。最近で言うと、「May J.のはしもっちゃんねる」というYouTubeチャンネルを始めました。お寿司を握ったり釣りに行ったりしています。釣りは行きたくなかったのですが(笑)、釣り好きのマネージャーに連れて行かれました。YouTubeはずっと続けていきたくて、今後はバク転を教えてもらいに行く予定です。

――デビュー15周年の意気込みを教えてください。

今までよりも肩の力を抜いて、自分らしく活動して行けたら良いなと思いますね。若い頃は「こうじゃなきゃいけない」という固い思いを持っていたのですが、いろんなジャンルに挑戦していろんな自分を見つけつつあります。いまはすごくフラットな状態にいる感じですね。なんにでも変身できるというか……。

――今回の写真で見せたい部分は?

例えばCDのジャケット写真なんかだと、自分のある一角しか見せられないんですね。その曲に合った一面というか。でも一郎ちゃんといる時の自分は素の部分がたくさん出ます。だからこの写真展では、ある意味May J.じゃない「はしもっちゃんの顔」を見せられたら良いなと思います。

はしもっちゃんというのは「悪戯好き」「何か企んでいる」「何をし出すかわからない」「どこに行くかわからない」といったMay J.ではないもう一人の自分。May J.とはしもっちゃんという二面性を見て欲しいというのもありますね。私の中に2人の自分がいるなと感じているので。

二面性の対比も見所

――自分の中のコンセプトはありましたか?

一郎ちゃんにはライブの写真だけじゃ無くて、オフの日も含めて8年くらい撮ってもらっています。撮りながら思ったのが、隣り合わせで寄り添いながら一緒に過ごしているということ。それってずっと一緒に歩み続けてきたファンの皆さんの時間とも重なったんですね。それで「Side by Side」というタイトルがすごくしっくりきました。15周年にぴったりなタイトルだと思っています。

――一番お気に入りの写真を教えてください。

最近お花がすごい好きなんです。もともと綺麗だと思っていましたが、そこに儚さなんかを感じるようになりました。それで最初、花と撮りたいといったのですが、一郎ちゃんはあまりお花が好きじゃないというんですね(笑)。洋服とか物とかよりも被写体をメインにしたいという方だから、そこはすごくリスペクトしています。でもどうしても花と撮りたいというわがままを叶えてもらいました。

でも一郎ちゃんは、撮った後に「あ、花も良いね」と言っていて、やってみたら美しかったそうです(笑)。

――藤里さんの撮影はどんな感じでしたか?

撮影しているという感じでは無いです。顔を作っていないときにシャッターを切るのが多いので。私が「いま決まっているぜ!」というときにはあまり撮らない。それよりも何気ない時に撮ってくれるんです。

一郎ちゃんは、そうした普段の表情をアーティスティックに撮ってくれるので、それを出すことにためらいがなくなりました。素の自分を出した方が素敵に撮ってくれるという安心感があるので、はしゃいだりしても怖くないですね。それが本当の自分だから(笑)。

――撮影の時に心がけていたことは?

無邪気な表情だけじゃなくて、大人っぽさや女性らしさといった部分はどこかに残したいと思っていて、そこは意識していました。

――新しい発見はありましたか?

新発見というよりも、いままでの答え合わせができたという感じでしょうか。「そうだよね!」という(笑)。今までの時間がより確かなものになったと思います。

――またこうした写真展をやりたいですか?

もちろんです!

(藤里さん)May J. 30周年とか?

30周年! そうですね。歳を重ねていきながらも、素敵に撮って頂けたらと思います。

――最後に読者へのひと言をお願いします。

ファンの方はもちろん、May J.のことを知らない方でも何か新しい発見が必ずあると思うので、ぜひ楽しんで頂けたらと思います!

「ファンの見たい写真を届ける代弁者」――藤里一郎

――今回の作品撮影のきっかけを教えてください。

2人でキリが良いタイミングになると気がついたのは5年前。その時にはメイちゃんが10周年で僕が20周年。ちょうど写ルンですが30周年というタイミングで、写ルンですで撮影した写真展をしました。その頃から今回のタイミングを意識して、「5年後には大きいことをしたいね」と話をしていました。

そして今回、「写真展はどうしてもやりたい。それもクラウドファンディングで資金を集めてみようか」というのが直接の発端でした。クラウドファンディングが好評で、会場代やプリントの費用などで70万円を目標にしましたが、結局760万円程が集まりました。すごいなと思いつつ、会期を当初の1週間から2週間に延ばしたりしました。

――今回の作品のコンセプトは?

「Side by Side」というメイちゃんの曲があるのですが、いつも寄り添ってますという視線ですよね。僕は要するにファンの代弁者で、ファンが見たいと思うMay J.を近くで撮って届ける。これが僕の使命と思っています。

そこで、ファンの方がMay J.と個々にデートをしているように感じてもらえたらというコンセプトで撮影しています。何よりも僕が楽しんでいるんですが(笑)、その先にはファンがいることは忘れていません。

彼女が「一郎ちゃんにしかしない顔がある」といってくれるんですが、自分ではそれがどれなのかがわかりません。だから、ファンの方には今まで見たことがないMay J.を発見してもらいたいですね。

今回はアニバーサリーイヤーということで、僕の作品では珍しくストロボでライティングをしてかっちりと撮った作品もありますし、一方でいつもの距離感で撮影した写真もあります。単焦点レンズで寄っているのも多いですが、なかなかここまで寄れないと思いますよ。これも雰囲気で彼女の気持ちがわかるくらいでないと難しいと思います。

――藤里さんから見たMay J.さんとは?

努力家ですね。たぶん表にはそれを見せないけれど。もの凄くストイックにやっていて、自分が最高のパフォーマンスを発揮できるようにしながらも、周りへの気遣いも忘れないというプロフェッショナル根性がありますね。

――華やかで輝かしい姿とはまた違う面を敢えて捉えたのはなぜですか?

だってみんな見たいでしょ。その辺が見え隠れしてもいい年齢になったというのもある。以前から彼女の内面に迫りたいと思っていて、そういう作品も撮ってはいたのですが、いままで発表には至りませんでした。

それが今回発表できることになり、僕が見ている彼女らしさというか、May J.ではない橋本芽生(本名)が写ってきたかなと思います。今までだとOKの出ない写真もいくつかあって、どこまで出せるのかという挑戦も今回ありました。

――May J.さんという同じ被写体を撮り続ける理由は?

好きだからですね。そして会うたび会うたび、「かわいい」とか「すごい」と思わせる気持ちを上書きしていくんです。「あのとき良かったよね」じゃなくて今日が一番良いねという。それがすごいなと。進化していて同じではない。だから撮りたいと思わせるんです。自分の写真も昨日より今日の方が良いと思いたい。そういう部分が一緒かなと思いますね。

彼女のファンの間でも僕はよく知られていて、ライブ会場に撮影に行くと皆が手を振ってくれたりします。そういうところも7年、8年と撮り続けてきた宝物かなと思っています。May J.だけでなく、ファンとも関係を築くことで一カメラマンではなくなるというか、ファミリーになれるんですね。非常に暖かい環境にいると思います。

そういうところも今回の大きな支援に繋がったと思っています。コロナ禍でやりたいことがなかなかできない時代に、僕に託された気がしました。

――今回、新しいチャレンジは?

無いです。通常営業(笑)。意識したことがあるとすると、かっちりした写真とそうでない写真では物理的、心理的な距離感を変えるようにしています。かっちりした写真では敢えて「May J.さん」とかしこまって呼んだりしています。女の子は呼び方で表情が変わりますからね。

圧倒的に魅せなければならないアーティストとしての部分と、橋本芽生としてそばにいてくれることは違うということですね。そこを描きたかった。

――一番お気に入りの写真を教えてください。

それは難しい質問ですよね……。横顔のアップの作品があるのですが、すごく好きです。あの距離にいられる人はかなり限られていて、マネージャーさんも入れないと思います。となると、世の中で僕1人じゃないかと。お父さんだって入らないんじゃないかな。

この写真はピアスを褒めたんだけど、ちょっとふくれているように見えるという(笑)。でも完全にふくれてはいない。そんな、僕と彼女のやり取りが聞こえてくる作品かなと思っています。

――撮影機材を教えてください。

基本的には、富士フイルムのX-E4とXF35mmF1.4 Rだけです。ときどきXF23mmF2 R WRを付けましたが、それだけですね。そのほか、一部は小型のストロボを使ったのもありますが、レフで起こすこともほとんどしていません。

どんな機材で撮っているかというのはさほど重要ではないと思っていますが、強いてこだわりをいえば、小型のカメラを選んでいるということでしょう。モデルさんに意識させないのが大切なので、大きなカメラは選択肢にありません。如何にカメラの存在を消せるかということです。加えて、自分の目や手の延長線上にある使いやすいものであるというのが基準です。

――読者にひと言お願いします。

画像とデータで終わらせないで欲しいですね。写真はプリントしないとダメだと思います。ディスプレイの上で見るのは写真ではなく画像だということです。だから、必ず写真にして見て楽しんで欲しいですね。

それと、今回の展示は僕の写真家25周年というのもあるので、集大成の意味もあります。でもこれだけで僕を語りきれないので、10月にも第2弾となる夏目響さんを撮った写真展の開催が決まっています。今回の展示とは対照的なものになるのでぜひセットで見てもらえたらと思います。

写真展概要

会場

Nine Gallery
東京都港区北青山 2-10-22 谷・荒井ビル1階

開催期間

2021年8月17日(火)~8月29日(日)

開催時間

10時00分~19時00分(最終日は17時00分まで)

休廊日

8月20日(金)、8月24日(火)

ツアー情報(引用)

May J. 15th Anniversary Tour 2021 - Euphoria -

デビュー15周年を迎え、さらなる進化と成長を遂げたMay J.
彼女の歌声そして音楽で全てを忘れ最高の時を共に。
2年ぶりとなる全国ツアー開催!!
チケット発売中!

https://mayj15th.nwp.co.jp/10tour

1981年生まれ。2006年からインプレスのニュースサイト「デジカメ Watch」の編集者として、カメラ・写真業界の取材や機材レビューの執筆などを行う。2018年からフリー。