写真展

江成常夫写真展「多摩川 Tama River 1970-1974」

(ニコンサロン)

戦後の日本は経済を至上価値としてきたことから、奇跡と呼ばれるほど復興、発展を遂げてきた。しかし、その一方で水俣病に象徴されるように海を汚染し、列島改造のもと自然を破壊してきた。そうしたなか、東京の空が光化学スモッグに覆われ、都民の〝水瓶〟としての多摩川が砂利採取や生活排水によって〝死の川〟となるのは、東京オリンピックや大阪万博が世界の耳目を集めた1960年代後半から70年代にかけてである。

堰堤を滑り降ちる汚水から妖魔のような泡が湧きあがり、風に乗って舞いあがる。それは川の精霊が怒り狂って叫んでいるように思えたりする。

上流では鶯や山女が自然を謳歌する反面、岸辺を下るごと鯉や鮒、ウグイやオイカワが酸欠死し、そこはまぎれもなく〝死の川〟である。そこが首都の川であれば、この国の自然に対する無知狼藉ぶりが見てとれる。

人間は古来、過去の過ちを未来の教訓としながら、その間違いを忘れることを生の糧とする指摘がある。事実、半世紀前の一河川の汚染が、どれだけ記憶されているかは、心もとないところである。しかし命の源泉である川が、死に瀕したとあれば、人間の生死に通じる、時を超えた重大事である。

すでに半世紀が過ぎた今、生活排水の泡が川面を埋め、魚の死骸が浮かぶ首都の川を、あえて写真展として纏めたのは、未来は過去の罪の反省によって築かれる、と考えるからである。折しも今年は水俣病が公式に確認されて60年に当たる。戦後の経済至上の価値観がもたらした、首都の多摩川を死に追い込んだ記憶が、未来の人間と自然との共生を占ううえの縁(よすが)になれば仕合せである。  (江成常夫)

モノクロ約50点。

大阪ニコンサロン 2016年9月 - 写真展 - ニコンサロン|ニコンイメージング

会場・スケジュールなど

  • ・会場:大阪ニコンサロン
  • ・住所:大阪市北区梅田2-2-2ヒルトンプラザウエスト・オフィスタワー13階
  • ・会期:2016年9月29日(木)~10月12日(水)
  • ・時間:10時30分~18時30分(最終日は15時まで)
  • ・休館:会期中無休
  • ・入場:無料

フォトセミナー

2016年9月29日(木)18時30分~20時

予約不要、参加無料。

作者プロフィール

1936年神奈川県相模原市生まれ。62年東京経済大学経済学部卒業。同年毎日新聞東京本社に入社。74年同社を退社しフリーとなる。74年から75年、ニューヨークに滞在。敗戦後、米兵と結婚し渡米した日本人「戦争花嫁」と出会い、再度渡米。カリフォルニアに滞在し、花嫁と家族を撮影取材。以後、一貫して、昭和の15年戦争の発端となった「満洲国」(中国東北部)をはじめ東南アジア、オセアニア諸島を巡り、大戦のもとで翻弄された声を持たない人たちの声を写真で代弁し、戦後日本人の現代史に対する精神性を問い続ける。88年からニッコールクラブ幹事、98年から07年まで同クラブ会長を務める。九州産業大学名誉教授。主な写真集・著作に、1976年『ニューヨークの百家族』(平凡社)、81年『花嫁のアメリカ』(講談社)、84年『シャオハイの満洲』(集英社)、同年『花嫁のアメリカ』(講談社)、86年『花嫁のニッポン』(講談社)、88年『シャオハイの満洲』(新潮社)、89年『ニューヨーク日記』(平凡社)、95年『まぼろし国・満洲』(新潮社)、同年『記憶の光景・十人のヒロシマ』(新潮社)、2OO2年 『ヒロシマ―万象 : Sleeping souls of Hiroshima』 (新潮社)、O5年『レンズに映った昭和』(集英社)、同年『記憶の光景・十人のヒロシマ』 (小学館)、06年『生と死の時』(平凡社)、11年『鬼哭の島』(朝日新聞出版)がある。 受賞歴に、1977年「第27回日本写真協会新人賞」、81年「第6回木村伊兵衛賞」、85年「第4回土門拳賞」、同年「第52回毎日広告デザイン賞 (公共福祉部門)」、95年「第37回毎日芸術賞」、2001年「2001年度日本写真協会年度賞」、同年「第50回神奈川文化賞」、同年「2001年度相模原市民文化彰」、02年「紫綬褒章」、10年「旭日小綬章」、15年「酒田市特別功労表彰」がある。