写真展

新正卓写真展「HORIZON OROgraphy」

(ニコンサロン)

新正卓の「HORIZON」は、1990年代後半から撮影行が始まり、2006年に催された新正の回顧展「黙示」(於・武蔵野美術大学)でその一部が公開された後も、写真家自身の当初のプランを大きくはみ出し、変容の過程を経てきたシリーズである。2012年の東京パブリッシングハウス(横田茂ギャラリー)、2014年ロンドンのAnnely Juda Fine Artでの発表に続き、いよいよ2016年ニコンサロンでの個展において、プロジェクトは一つの頂へ至り、「HORIZON」全貌が明らかにされようとしている。

本作において新正卓は、列島各地の海ぎわに切り立つ崖上にカメラ・ポジションを探し、日本と呼びならわされた圏域を輪郭づけている(だが、確然と見えるはずもない)境界が横たわる彼方へ、まなざしを遠投していく。ここでの身ぶりは、もはやドキュメンタリーという枠組みに収まるものとは言えず、あたかも夢や忘我状態の時に魂がさまよう場所を眺めているかに思えてくる。これらの画面に向き合っていると招魂または魂鎮めの気配めいたものが寄せ来て、スケールの大きな視界を静かに満たしだすようだ。

「HORIZON」シリーズは3つのパートから構成されている。「境界」、「植生」、及びピンホール・カメラで撮影された「可視の変容」の各パートで、世界の遠近を抱握するべく近年新正が実験をかさねてきた“OROgraphy”の方法(1900年前後のアメリカの写真家エドワード・カーティスが手掛けた金泥を用いるガラス・プレート陽画の写真術にヒントを得て、デジタル技術をまじえ新正が独自に生み出した黄金印画術)が導入されている。画像の組成に金という物質を加味することで、眺めは奥行きを深め、翳りを積層し、此方と彼方を溶け合わせるような光の効果が現出している。(大日方欣一)

※本文は、大日方欣一氏(写真史家・フォトアーキビスト)より本展に対して寄せられた一文から抜粋したものです。

銀座ニコンサロン 2016年7月 - 写真展 - ニコンサロン

会場・スケジュールなど

  • ・会場:銀座ニコンサロン
  • ・住所:東京都中央区銀座7-10-1STRATA GINZA(ストラータ ギンザ)1・2階
  • ・会期:2016年7月6日(水)~7月19日(火)
  • ・時間:10時30分~18時30分(最終日は15時まで)
  • ・休館:会期中無休
  • ・入場:無料

  • ・会場:大阪ニコンサロン
  • ・住所:大阪市北区梅田2-2-2ヒルトンプラザウエスト・オフィスタワー13階
  • ・会期:2016年9月8日(木)~9月14日(水)
  • ・時間:10時30分~18時30分(最終日は15時まで)
  • ・休館:会期中無休
  • ・入場:無料

作者プロフィール

1936年旧東京府東京市豊島区生まれ。40年中国・旧満州へ渡る。47年山形県に帰国。57年旧武蔵野美術学校入学。61年同学卒業。62年(株)アルファーG設立。70年新正卓 写真事務所を開設、写真家として活動開始。73年文化出版局特派員としてパリで活動。76年パリから帰国、新正卓 写真事務所に復帰。93年武蔵野美術大学教授就任。2007年同学退任。主な写真展(個展)に、87年「南米移民一世の肖像・遥かなる祖国(土門賞受賞記念)」(銀座ニコンサロン、大阪ニコンサロン、土門記念館、広島)、90年「双・家族(銀座ニコンサロン、大阪ニコンサロン)、92年「私は誰ですか・親探し行動展」(広島市/福岡市)、94年「酋長の系譜 portraits of Native America」(有楽町アートフォーラム/東京)、95年「沈黙の大地/シベリア」(新宿パークタワー/東京)、00年「約束の大地/アメリカ」(ミツムラアートプラザ/東京)、01年「私は誰ですか」(ポラロイドギャラリー/東京)、05年「ARAMASA SAKURA(Stephen Wirtz Gallery/サンフランシスコ)、06年「黙示-ARAMASA Taku Photographs-」(武蔵野美術大学美術館/東京)、08年「ARAMASA SAKURA」(銀座ニコンサロン、大阪ニコンサロン)、12年「ARAMASA Taku Photographs -HORIZON-」(東京パブリッシングハウス、横田茂ギャラリー/東京)、14年「ARAMASA Taku OROgraphy -HORIZON-」(Anneli Juda Fine Art/ロンドン)がある。写真集など著書多数。